ミッション:災厄「ルズローシヴ=レレイ」を消滅させよ 作:Moa
一人の男性がいます。
茶髪で、旅人のような服を着た人。
スレイさんです。
1周目の夢の中で、エオルミアちゃんを殺した人です。
あの時は、ルズローシヴ=レレイを消された直後でした。
世界の底が抜けたような目をしていました。
今回は、まだ消していません。
スレイさんも、あの時とは違います。
こちらを警戒してはいますが、剣は抜いていません。
普通に話せるかもしれません。
そして、ここで選択肢が出ました。
>災厄の名前を伝えますか?
>はい
>いいえ
出ました。
本人に近い人です。
半裸の男(友人に聞いたら、ザビーダさんというらしいです)は、名前を消せば本気で恨まれると言いました。
ライラさんは、その名を消すための火を貸せないと言いました。
スレイさんに伝えたら、何が起こるのでしょうか。
特別な会話があるかもしれません。
事前にセーブしました。
押します。
>はい
エオルミアちゃんが一歩前に出ます。
「私たちは、災厄ルズローシヴ=レレイを消滅させるために旅をしています」
最後まで言いました。
今回は、途中で遮られませんでした。
スレイさんは黙って聞いていました。
その表情から、何かが消えました。
怒ったのではありません。
驚いたのでもありません。
こちらを人として見る必要がなくなったような顔でした。
「……そうか」
短く言います。
そして剣を抜きました。
「なら、ここから先へは行かせない」
画面が暗くなります。
>BOSS BATTLE
>導師スレイ
やっぱり戦闘になるんですね。
でも今回は強くてニューゲームです。
装備もあります。
料理も食べました。
ザビーダさんも倒しました。
ライラさんの戦闘にも勝ちました。
何とかなるかもしれません。
戦闘開始。
スレイさんの秘奥義カットインが入りました。
え。
まだ動いていません。
戦闘が始まったばかりです。
光りました。
全員倒れました。
>GAME OVER
え……?
終わりました。
何もしていません。
グミを使う暇もありませんでした。
作戦を変更する暇もありませんでした。
簡易消滅術式は使うつもりがありませんでしたが、それ以前の問題です。
開幕秘奥義で全滅しました。
友人に聞きました。
「スレイさんに名前を伝えたら、一秒で全滅したんですが」
「開幕秘奥義だね」
「何ですか、それ」
「戦闘開始直後に秘奥義を使うこと」
「見れば分かります」
「じゃあ知ってるじゃん」
「対策を聞いています」
「耐える」
「対策になっていません」
理不尽です。
でも。
1周目を思い出しました。
ルズローシヴ=レレイを消滅させた後、スレイさんはエオルミアちゃんを殺しました。
あの時は、もう遅かった。
今回はまだ、ミクリオさんは消えていません。
だから、消される前にこちらを止める。
説明を聞いてから判断するのではない。
説得を試みるのでもない。
「ルズローシヴ=レレイを消滅させるために旅をしている」
それだけで、スレイさんにとっては十分だったんですね。
***
何度も挑戦しました。
防御力を上げました。
最大HPを上げました。
属性耐性も見直しました。
料理も食べました。
ようやく開幕秘奥義を耐えました。
耐えただけです。
そこから普通に戦闘が始まりました。
剣で斬ってきます。
術も使います。
回復もします。
こちらが距離を取ると追ってきます。
強いです。
本当に強いです。
戦闘中、エオルミアちゃんが言います。
「現在は、消滅を実行するつもりはありません」
スレイさんは答えます。
「今は、だろ」
信用がありません。
当然です。
私たちのミッション名は、
『災厄「ルズローシヴ=レレイ」を消滅させよ』
です。
現在は実行しない。
調査が終わった後なら実行するかもしれない。
スレイさんから見れば、そんな相手をミクリオさんのところへ通せるわけがないんですね。
差分を見るために選んだだけです。
こちらに本気で消すつもりはありません。
でも、スレイさんには関係ありません。
この人にとって、これはゲームの選択肢ではないので。
***
倒しました。
倒してしまいました。
スレイさんのHPがゼロになり、剣が地面に落ちました。
スレイさんは膝をつきます。
それでも、立ち上がろうとしていました。
まだ誰かを守ろうとしているように見えました。
この場にミクリオさんはいません。
でも、スレイさんが誰を守ろうとしていたのか、私は知っています。
天界の術式が起動しました。
>消滅阻害個体の無力化を確認。
>災厄ルズローシヴ=レレイの追跡を再開します。
待ってください。
私はスレイさんを倒したかったわけではありません。
戦闘差分を見たかっただけです。
違いがない気もしてきました。
スレイさんは顔を上げます。
「やめろ」
白い光が境界層の奥へ伸びていきます。
「そいつを、消すな」
声が届きます。
でも、エオルミアちゃんたちはスレイさんを倒しました。
立ち上がれません。
追いかけられません。
止められません。
画面が白くなりました。
***
天界の空が映りました。
濁りのない、真っ白な空です。
天界の天族たちが喜んでいます。
長く天界を苦しめていた災厄は消滅した。
地上からの脅威は退けられた。
天界には、再び永遠の平穏が訪れた。
そう説明されます。
エオルミアちゃんは、天界を救った英雄として迎えられました。
そしてリシェラちゃんも、エオルミアちゃんの伴侶として、例外的に天界で暮らすことを許可されます。
二人が手を繋いでいます。
白い庭を歩いています。
リシェラちゃんが笑っています。
エオルミアちゃんも、少しだけ笑っています。
百合です。
二人は離れませんでした。
リシェラちゃんはもう追われません。
出生義務を課されることもありません。
好きな人と一緒に暮らせます。
ハッピーエンドです。
ハッピーエンドに見えます。
大きな文字が表示されました。
>天界の祝福 END
祝福。
何を祝福しているんですか。
エオルミアちゃんは天界を救いました。
リシェラちゃんはエオルミアちゃんの伴侶として、特別に救われました。
特別に。
出生義務そのものがなくなったとは言われていません。
他の逃亡者が許されたとも言われていません。
リシェラちゃんだけが、天界を救った英雄の伴侶だから例外になりました。
二人は幸せです。
たぶん、本当に幸せです。
でも、スレイさんは映りません。
ミクリオさんも映りません。
スレイさんが守ろうとしていた人がどうなったのか、画面には出ません。
出す必要がないからでしょうか。
天界にとっては、災厄が消滅した。
それで終わりだから。
白い空。
白い庭。
祝福される二人。
綺麗です。
綺麗すぎます。
天界にとって都合の悪いものが、何も映っていません。
エオルミアちゃんとリシェラちゃんの関係だけを見れば、これはハッピーエンドです。
1周目の途中でこのエンディングを見ていたら、喜んでいたかもしれません。
二人が結ばれた。
リシェラちゃんが救われた。
天界も救われた。
よかった、と書いていたかもしれません。
でも今は知っています。
ルズローシヴ=レレイはミクリオさんです。
スレイさんは、その人を守ろうとしていました。
私たちはスレイさんを倒しました。
その後、ミクリオさんは画面に一度も出ませんでした。
天界の祝福。
誰かの命より大切なものを消した上に成り立つ祝福です。
ロードしました。
名前を伝える前まで戻りました。
今度は「いいえ」を選びます。
スレイさんとは戦いません。
エンディング一覧には、
>天界の祝福
が登録されました。
一見、良い名前です。
だから余計に怖いです。