不死の怪物を棺に納める葬儀屋 ―Wisp Buriers―   作:ttr@

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初めまして。
本作は、怪物を倒すのではなく、死ねなかった魂を棺に納める異能バトルです。

カクヨムにも掲載しています。
よろしくお願いします。



第一葬
一 葬儀屋


 死は誰にでも平等に訪れる。

 

 だがこの世界では、死に損ねた魂は他人の死体を器にする。

 

◇ 霧島

 

 夜明け前、街も人々も寝静まり、日が昇るのを待つ頃。街灯の小さな光だけがぼんやりと、街の通りを照らしている。普段、人々が行き交う様子を見ているからか、その景色はどこか現実感がない。

 

 ただ、それでも、俺の目の前に広がる光景よりはずっとまともだった。

 

「……酷い死に方だな」

 

 薄暗い路地で俺は思わず呟いた。

 

 目の前には、潰れて壁の染みになった遺体。

 

 辛うじて人の遺体だと理解できたのは、辺りを漂う血の匂いと、近くに落ちていた身分証の写真と一致する特徴が残っていたからだ。

 

 警察になってから、多くの遺体を見てきたが、ここまで酷いのは初めてだった。

 

 これを最初に発見した市民と……何よりも被害者が気の毒に思えて、柄にもなく胸の内で十字架を切る。

 

「……これって、虚人《うつろびと》の仕業……ですよね」

 

 先日、このチームに配属された若い部下は震えた声でそう零す。

 

 彼は、どんな現場でも無理に笑おうとする男だった。そんな彼でも今回に限っては気分が悪そうに、口元を押さえ、顔を青ざめさせていた。

 

 彼だけではない。

 

 ここにいる者のほとんどが彼と同じように赤く染まった壁と、対照的な顔色をしていた。かくいう俺も見ていて気分が良いわけではなかった。

 

「だろうな」

 

 そんな中、部下からの問いにこともなげにそう答えた男――木村は部下たちへ現場保存、周辺封鎖など慣れた様子で指示を出していく。

 

 具合の悪そうな者から順に、軽い指示を割り当てていく姿は歴の長さを感じさせた。

 

 俺以外の部下に一通り指示を出し終えると、こちらへ向かって歩いてきた。

 

 木村は俺を見て、耳の横を掻いた。

 

 しばらく考えるようにしてから、ようやく動きを止める。

 

 何か指示を思いついたのだろうか。

 

「霧島、俺は少し席を外す。俺が戻るまでここを任せたぞ」

 

 丸投げだった。

 

 ――この馬鹿はショックで足取りも覚束ないチームを俺一人で動かせと?

 

 そんなことを考えていると、言うべきことは言ったとばかりに、馬鹿――木村は背を向け、携帯を取り出しながら歩いていく。

 

 木村の背中に、俺は咎めるような視線を向け、声を掛ける。

 

「……木村さんはこの後どうするおつもりで?」

 

 木村は振り返りもせず、こちらに背を向けたまま片手をひらひらとさせ答える。

 

「葬儀屋を呼ぶんだよ」

 

 そう言って現場を後にした。

 

 

 あれから、他の奴らのケアをしつつ、なんとか現場保存と周辺封鎖を済ませた。

 

 ようやく、一息つける。

 

 路地の壁に背を預け、街の方を眺める。

 

 いつの間にか日が昇っていたようで、空気の読めない鳥共の鳴き声が、閑静な朝の街に響く。

 

 そろそろ人が起きてくる。

 

 趣味の悪い野次馬共が集ってくる前に撤収したいところなんだが。

 

 俺の気持ちを汲んでくれたのか、路地の外に木村の姿が見えた。

 

「戻ったぞ」

 

 そう言って戻ってきた木村の後ろには、二人の男女がいた。

 

 若い、まずそう思った。

 

 何かの制服なのだろうか、二人は神父服やシスター服に似た黒い装いをして、首には十字架の飾りを掛けている。

 

 髪の色も珍しかった。

 

 男は灰を溶かしたように美しく、男にしては長い銀髪。あまり手入れはしていないのだろう、少し野暮ったさがある。

 

 一方で、女は対照的に、濁りなく澄んだ金髪を後頭部で一つの束にしてまとめていた。髪のことなど詳しくないが、それなりに手入れされていることくらいは分かった。

 

 どちらも学生が髪を染めたような安っぽさはなく、気品を感じさせる色をしていた。

 

 今日は現実感のないものばかり見ている気がする。

 

 同時に、血なまぐさいこの場所にはそぐわない奴らだとも感じた。

 

 それで、この二人はどこの誰なんだ。

 

 すると、俺以外にも同じ疑問を持った奴がいたようだ。

 

「お疲れ様です。……それで木村さん、そちらの方達は一体……?」

 

 近くにいた部下の一人が恐る恐る疑問を口にする。

 

「ん? ああ、こいつらが葬儀屋だ」

 

 木村と葬儀屋と呼ばれた二人が封鎖用のテープをくぐる。

 

「この人達が葬儀屋……」

 

 二人の容姿とその肩書の不釣り合いさからか、部下が思わずそう呟いたのが聞こえる。

 

 部下は一拍置いて、

 

「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 と、続けた。

 

 そんな部下を見て、こっちが聞きたいことを全部聞いてくれるなぁなどと、場違いな感想が出てきてしまう。

 

 その質問に、木村が少し困ったような視線を二人に送る。二人は顔を見合わせると、男が先に口を開いた。

 

「葬儀屋の祝祈零《はふり きれい》だ。虚人が関わっていると聞いてきた。よろしく頼む」

 

 そう言うと、祝祈零は手順をなぞるように手を差し出す。

 

 それに続くようにして、

 

「同じく、葬儀屋の清乃江《すみのえ》みさきと言います。よろしくお願いしますね」

 

 と名乗り、育ちの良さを感じさせる所作と笑みを浮かべ、手を差し出していた。

 

 何故かはわからないが、その所作は祝と比べて、どこかぎこちなく見える。

 

 ……演じている?

 

 いや、まさかな。

 

 一瞬、脳裏をよぎった考えをすぐに否定する。

 

 手を差し出された部下は一度、手を取っていいものかと視線を木村に向ける。

 

 木村が頷いて見せると、

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 と二人の手を取った。

 

 一区切りついたな、とでも言うように、木村がパンッと手を叩いて空気を引き締める。

 

 何とも言えない空気だったので正直有難い。

 

「さて、仕事に戻るぞ」

 

「とりあえず、お前たち、今から現場を見に行くから着いてこい。あと霧島、お前も来い」

 

 木村は気安さを感じさせる物言いで、葬儀屋の二人――祝と清乃江に声を掛ける。

 

 ついでといった口調で俺を指名し現場へと向かう。

 

 何故俺まで、という思いと悪い予感を脇に置いて、俺は木村に続く。

 

 葬儀屋の二人は、

 

「それはいいが、何故あいつは毎回偉そうなんだ……」

 

 木村の気やすい物言いに、祝は納得がいかないのか、文句を言いつつも俺の後ろに続く。

 

「祝先輩、木村さんに会う度それ言ってますよ? 文句ばかり言ってないで行きますよ」

 

 そんな様子の祝を横目に、清乃江は祝と並んで付いてくる。

 

 会話を聞く限り、三人は知り合いみたいだ。

 

 ますます俺が一緒に行く理由がない、と心の中でボヤき、俺たちは現場に向かった。

 




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