魂の葬儀屋 ―Wisp Buriers―   作:ttr@

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七 火種

宿を出た俺たちは、件の虚人と交戦したという現場へ向かった。

 

 道中、華燐が今回の件を簡単に説明してくれた。

 

 二日前の深夜、地元の高校に通う男子生徒三人が帰宅しなかった。

 

 翌朝、そのうちの一人だけが、高校の裏山で発見されたらしい。

 

 背中には、指先で抉られたような傷。

 

 意識も朦朧としていて、ただ「友人が死んで、化け物になった」と繰り返していたという。

 

 そこで虚人の可能性が出て、華燐たちが呼ばれた。

 

 残りの二人の捜索を警察から引き継ぐと、一人は遺体で、もう一人は虚人として発見された。

 

 華燐たちはその場で交戦し、何度も虚人を焼き払った。

 

 だが、棺屋が棺を設計しきる前に状況が崩れ、遺体の回収すらできないまま、撤退を余儀なくされた。

 

 俺たちが向かっているのは、その交戦現場だった。

 

 なるほど、話は大体わかったが、一つ大きな問題がある。

 

「交戦から丸一日以上経っているなら、みさきでも追跡は難しい。それはどうするつもりだ」

 

 これは華燐も理解しているはずだ。

 

 俺の言葉に、後ろでみさきも首をブンブンと縦に振っている。

 

 それは見なかったことにして、華燐の返答を待つ。

 

「はい、もちろん存じています」

 

 俺の質問は織り込み済みだったのだろう、華燐はよどみなくその先の言葉を紡ぐ。

 

「ですので、今回は虚人を追うのではなく、あちらから出てきていただくつもりです」

 

 ……そういうことか。

 

「それなら私要らなくないっすか?」

 

「右に同じ」

 

 みさきが疑問を口にすると、横にいる霧島も同じことを考えていたらしい。

 

 ここぞとばかりに、みさきに便乗していた。

 

「いえ、お二人にはしっかり活躍していただきます」

 

 華燐は懐から短刀を取り出し、鞘から抜いた。

 

 剥き身になった刃には、乾いた血がこびりついている。

 

「虚人と交戦した際、付いた血です。清乃江さんであれば、この血に混じった魂の匂いが分かるはずです」

 

 短刀に鼻を近づけたみさきは、しばらく難しい顔で唸っていた。

 

 あまり強く匂いが残っているわけではなさそうだ。

 

「うーん……薄いけど確かに匂いは残ってるっすね。ただ、この匂いだけじゃ、よっぽど近くにいないとどこにいるかわかんないっすよ?」

 

「十分です。嗅ぎ取った匂いが近づいてきたら知らせてください」

 

「あー……そういうことっすか」

 

 みさきも華燐が何をするか察したようだ。

 

 気の毒そうな目で霧島を見る。

 

 二人のやり取りを見て、霧島もこの後自分が何をさせられるのか理解したらしい。

 

 すべてを諦めた目で地面を見つめていた。

 

 判決を待つ囚人とはこういう顔をするのだろうか。

 

「そして、霧島さんには虚人を釣る餌……いえ、囮になってもらいます」

 

「言い換えた前と後で意味が変わってねえんだよ……」

 

「もちろん、私たちが全力でお守りします。……ですのでどうかお願いします」

 

 華燐も無茶を頼んでいるのは理解している。

 

 それでも霧島じゃないといけない理由があるようだ。

 

 華燐に回ってきている霧島の資料とやらが関係しているのだろう。

 

 庇ってやりたい気持ちを抑え、俺は黙って二人を見守る。

 

 霧島は片手で顔を覆い、しばらく黙り込んだ。

 

 奥歯を噛みしめる音が、ギリ、と小さく鳴る。

 

 やがて大きく息を吐くと、霧島は頭をがしがしと掻きむしった。

 

 整えられていた髪が、乱暴に崩れる。

 

 乱れた髪の奥で、霧島の目だけが据わっていた。

 

「……ッチ、わかった。囮でも何でもしてやる」

 

「ありがとうござ――」

 

「ただしだ」

 

「全力で守ると言ったからには、全力で守れ。俺も死なないために最善を尽くす」

 

「それでいいな?」

 

 有無を言わせない霧島の視線が、華燐の赤い瞳を射抜いた。

 

 華燐の頬を、一筋の汗が静かに伝う。

 

 それでも彼女は、少し笑った。

 

「ええ、もちろんです。この名に誓って、あなたを守り通しましょう」

 

 華燐の声に迷いはなかった。

 

 細い立ち姿に似合わない芯の強さに、霧島は少々面食らったようだ。

 

 だが、それが気に入ったらしい。

 

 今から囮になる人間とは思えない笑みを浮かべる。

 

 どうやら、話はまとまったようだな。

 

「それで華燐、霧島を囮にしてどう虚人が釣れるんだ?」

 

「ふふっ……それはですね」

 

 華燐は悪戯を思いついた子どものような顔をした。

 

「生き残った男子生徒が言うには、裏山にたまり場を作っていたそうです」

 

「男性はそういう、秘密基地? のようなものがお好きなんですか?」

 

 華燐の視線が俺と霧島を行き来する。

 

 そんなもの作ろうと思ったこともない。

 

 二人して苦い顔をする。

 

「……そうでもないみたいですね。失礼しました。話を続けます」

 

 真横で目をキラキラとさせている馬鹿には、気が付かないようだった。

 

 華燐はゴホンと咳払いをする。

 

「そして、そのたまり場は、以前私たちが虚人と交戦した場所のすぐ近くにあったそうです」

 

「自分たちの居場所を守ろうとしたといったところか」

 

「恐らくは」

 

 その大切な場所で何かがあって、虚人になったというのだから頭の痛い話だ。

 

 死者に対して不謹慎だが、そう思わずにはいられなかった。

 

「虚人になっても、魂の執着は残ります。ならば、その執着を利用します」

 

 華燐が霧島の方をチラと見る。

 

 その視線の意図を汲んだ霧島が口を開いた。

 

「あー……なんだ、俺はその……たまり場を荒らせばいいのか?」

 

 内容が内容なだけに、戸惑うように霧島が尋ねる。

 

「その認識で合っています。ただ、持ち主が分かるものや、遺品と思われるものには触れないようにしてください。刺激するのは、あくまで虚人の執着が残っている場所だけで結構です」

 

 そう言って、華燐は説明を締めくくった。

 

「……遺せるものは、できるだけ多く遺してあげたいですから」

 

 漏れ出たその言葉には、華燐の背負う重みが滲んでいるようだった。




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