現場に到着すると、虚人の姿はおろか、回収できなかった生徒の遺体もどこかに消えていた。
華燐と俺がみさきに目を向けると、彼女は首を横に振った。
感知範囲に虚人はいないらしい。
「そうですか」
緊張がないわけではないらしく、華燐が小さく息を吐く。
上位虚人と交戦する上に、霧島を守る必要がある。
それを考えれば、仕方のないことだ。
華燐は胸に手を当て、息を吸うと、
「行きましょう」
と言って、彼らがたまり場にしていたという場所に向かう。
位置は被害に遭った生徒から、確認が取れているらしく、草だらけで整備もされていない道を進む。
いつ虚人が襲ってきてもおかしくないが、前を歩く華燐の足取りには迷いがなかった。
みさきがいる以上、不意を突かれなければいいと判断したのだろう。
数分ほど歩き、洞穴が見えてくると、華燐の足が止まった。
たまり場とやらはこの洞穴なのだろう。
華燐の後ろから覗き込むように洞穴の様子を窺う。
入り口には、山から拾ってきたのか、通行止めのパイロンや標識が無造作に立てられていた。
本人たちの意図とは違う形だろうが、ここに立ち入ってはいけない。
状況も相まって、そう思わされるには十分だった。
後ろから肩を掴まれる。
振り向くと、霧島は諦めと愉快さの混じった形容しがたい笑みを浮かべていた。
「なあ……祝、俺は今からあんなおっかないところに入って、虚人を誘き出すらしいぞ?」
いつもの霧島なら、冷めた態度を取る場面だ。
覚悟を決めても参っているのは確かなようで、肩は地面に吸い寄せられるように落ち、背中も丸くなっていた。
その姿には生気が感じられなかった。
「……」
励ましや鼓舞を期待しているわけではないだろう。
そう考えると、掛ける言葉が見つからなかった。
霧島もただ気持ちを言葉にしたかっただけなのだろう。
俺からの答えがないと分かると、それで十分だと言うように、
「ありがとう」
とだけ言って、洞穴の奥を見つめ始めた。
「悪いな」
そう返すのが精一杯だった。
意識を目の前の洞穴と任務に戻す。
「みさきさん、洞穴の中に虚人はいますか?」
「感知できる範囲にはいないっすね。洞穴がどこまで続いてるか分からないと、それ以上は何とも言えないっす」
「承知しました」
今のやり取りの間にも、華燐とみさきは段取りについて話を進めていたようだ。
話はまとまったようで、静寂と共に、空気が張り詰める。
自然と華燐に視線が集まる。
華燐は目を瞑り、胸に手を当て、息を整える。
そして――
「今より、上位虚人の納棺を行います。全員で生きて帰りましょう」
作戦を開始した。
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