魂の葬儀屋 ―Wisp Buriers―   作:ttr@

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十 設計図

 俺の言葉を待っていたかのように、虚人が俺たちを排除しようと、人の脚ではありえない速度で距離を詰める。

 

 怪我を治す時間はくれないようだ。

 

 華燐の瞳が、直進する虚人の姿を捉え、燃やす。

 

 やはり、大きなダメージにはならない。

 

 だが、虚人が熱で一瞬、怯む。

 

「熱は有効みたいだな」

 

 俺が動けるよう、華燐の火葬が一瞬だけ途切れる。

 

 瞬間、虚人の懐へ潜り込み、ナイフで横腹を切りつける。

 

 刃を食い込ませたまま、突進の勢いに合わせて体を横へ流し、背後に回る。

 

 突進の勢いと遠心力を乗せたナイフが、虚人の腹を深く裂いた。

 

 ここまでの傷は瞬時に再生できないらしい。

 

 上半身を支え切れず、重心が崩れた。

 

「すまないが、倒れてもらうのは困る」

 

 俺は刺さったナイフを上に引き上げ、虚人の体を支える。

 

 再び虚人が燃える。

 

 腹の裂傷まで火は広がり、さっきとは打って変わって、虚人が苦しみ、身を捩る。

 

 不思議なことに、火は背後まで回ってこなかった。

 

 俺が燃えないための配慮だろうか。

 

 器用な奴だ。

 

 燃える虚人を支え、葬を流し続ける。

 

 すると、ナイフに掛かる重みが軽くなっていくことに気付く。

 

 ナイフを見ると、傷口を覆うように、鎧が広がり始めていた。

 

 ナイフを動かし、傷を広げるが、鎧が広がっていく方が速い。

 

 あと数秒もすれば、傷を完全に覆い隠し、この拘束も振りほどかれるだろう。

 

 適応が早すぎる。

 

「華燐!」

 

「見えています! 祝さんは離れてください!」

 

 華燐の指示に従い、ナイフを抜き、距離を取る。

 

 俺の支えを失った虚人は、体勢を崩すが転倒には至らない。

 

 既に再生が火葬の炎を上回り、傷のほとんどが完治してしまっていた。

 

 炎が虚人の背まで燃え広がり、勢いが強まる。

 

 虚人が鎧を纏う速度が少し鈍る。

 

「腕、治ったみたいですね」

 

「ああ、そうみたいだな」

 

 指摘されて、初めて気付く。

 

 俺のそんな様子に、華燐は苦笑する。

 

「祝さん、この方を納棺するにはどれくらい掛かりますか」

 

 俺に問う華燐は、顔に汗を滲ませ、大きく肩を上下させていた。

 

 火葬を維持するため、相当な体力を奪われているようだった。

 

「……あれだけ魂が濁っていては、棺の設計もままならない。早くても十分は掛かる」

 

 華燐の喉がコクと動く。

 

「十分ですか……それはまた」

 

 華燐は何か言い掛けると、口を閉じて虚人を見据える。

 

 長いですねとでも言おうとしたのだろう。

 

 同時に、それを口にする体力も惜しいようだった。

 

 それに、俺が伝えた十分という時間も、さっきのペースで葬を流せた場合の話だ。

 

 火葬の全力使用が三分程で華燐のこの疲労度。

 

 現実的じゃない。

 

 かと言って、華燐を休ませ、俺一人でこいつを足止めし切れるとも思えない。

 

 このままでは、ジリジリと体力を削られて負ける。

 

 最終手段だが仕方ない。

 

「華燐、みさきに棺を設計させる。上手くいけば四分で、いや、三分で片がつく」

 

 みさきは俺と違い、視覚や聴覚、嗅覚から魂を知覚できる。

 

 あの状態の魂からでも棺の設計が可能。

 

 それは華燐も知るところだ。

 

「……気乗りはしませんが、そうするしかなさそうですね」

 

大方、同じようなことを考えていたのだろう。察しが早くて助かる。

 

ともかく、華燐の同意は取れた。

 

「みさき!――」

 

 そう、名前を呼ぼうとした瞬間。

 

「話は聞いてたっすよ!」

 

 いつ移動したのか、洞穴の陰からみさきが飛び出してくる。

 

 こんな状況だというのに、自分の実力を試せるのが嬉しいらしい。

 

 発表会前の子どものようだった。

 

「遠くから、ずっとその人のこと見て、設計図、描いてたっすよ」

 

「あとは、近くで観察して、修正すれば完成っす」

 

 そう言うみさきの手には、スクロールが握られており、大まかな棺の設計図が記入されているようだった。

 

 本当に間のいい奴だ……!

 

「俺と華燐でお前を援護する。一分で残りを描き上げろ」

 

「……!」

 

 みさきは目を見開いたと思うと、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「何言ってんすか、三十秒で完成させてみせるっすよ」

 

 相変わらず、調子のいい奴だ。

 

 だが、頼もしいのもまた事実か。

 

「ああ、任せたぞ」

 

「任されたっす!」

 

 燃え盛る虚人を背に、互いの手を叩く。

 

「盛り上がっている最中、申し訳ありません。そろそろ抑えきれません!」

 

 華燐の声に、意識が戦闘に引き戻される。

 

 深く裂いたはずの傷は、業火で身を焼かれながらも完治してしまったようだ。

 

 虚人は爪先に力を込め、今にも駆け出そうとしている。

 

「来ます!」

 

 華燐の声を合図にして、俺と虚人は互いに駆け出した。

 




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