虚人との距離が再度縮まる。
葬を流した影響か、最初と比べて奴の動きは幾分緩やかで、目で捉えることができた。
だが、こちらはそれ以上に消耗している。
わずかな体力も無駄にすることはできない。
攻撃の予備動作を見逃さないよう、全意識を目の前の虚人に注ぐ。
瞬間、奴の動きがピタと止まる。
足元は土を抉り、跳ぶ力を溜めている。
これは少しまずいかもしれないな。
落雷のような轟音と共に大地が爆ぜる。
虚人の姿が視界から消える。
「祝先輩、右っす!」
みさきの声に反射して、逆方向に飛び退く。
虚人の蹴りが空を切ると、遅れて蹴りの衝撃が俺を襲った。
衝撃は服と皮膚を容易く裂き、肉を抉った。
激痛が走る。
追撃に備えなければ。
痛みをこらえ、受け身を取り、虚人を視界に収める。
すると、奴はこちらを追撃するわけでも、華燐たちを襲うわけでもなく、ただ、立ち尽くしていた。
どうやら、今の動きは奴にとっても負荷が大きいらしい。
奴の両足は内側から爆発したように、骨が折れ、折れた骨はいっそ何かの花のように、足の肉を貫き咲いていた。
足が再生していく。
俺もこの隙に抉れた腹に葬を流し治療する。
幸い、表面の肉を抉ったところで傷は止まっていた。
奴の足が再生する速度を見るに、完治まで十数秒か。
華燐とみさきの方に目だけを向ける。
華燐はみさきが設計図を描くのに専念できるよう、虚人との間に立ち構えている。
みさきの方は淀みなく設計図を描き進めているようだった。
あの調子ならあと二度か三度耐えしのげれば、
――設計図が完成する。
簡単ではないが、決して不可能でもない。
これなら、何とかなる。
そう思ったのがいけなかったのだろうか。
虚人の両足の再生が止まった。
直後、片足だけが再生を再開する。
再生を片足だけに集中させた影響か、両足を再生している時どころか、葬を流す前よりもなお速い。
こいつはどれだけ進化するんだ。
虚人の片足が完治し、先ほどと同じように、足に力を籠め、地面を抉る。
またしても大地が爆ぜる。
だが、来ることが分かっていれば、対処できないわけじゃない。
少し慣れた目で、奴の動きを追う。
互いの間合いに入ると、奴は俺の懐に潜り込み、手刀を繰り出す。
俺がさっき見せた動きだった。
学習速度は称賛に値する。
だが、青い。
虚人は手刀を振りぬき、俺の背後へ回る。
同時に俺の腹に浅く血の花が咲いた。
だが虚人の手刀は、肉を抉る前に止まっていた。
振りぬいた手刀に視線を向けると――手首より先がない事に気付いたようだった。
俺は虚人が手刀を振りぬく間際、軌道上にナイフを構えた。
振りぬかれた手刀は綺麗な放物線を描き、手首から俺のナイフに触れた。
結果は見ての通り、手首から先を失った。
チラと虚人のもう片方の足を見ると、再生を終えているようだった。
こいつは状況を理解すれば、すぐにでもさっきと同じ蹴りを放ってくる。
そうなる前に叩く。
その場でしゃがみ込み、振り向きざまに虚人の両足を深く切りつける。
骨で刃が止まり、切断には至らない。
もう一度……は無理そうだな。
視界の端で、虚人が腕を振り下ろすのが見えた。
虚人の足を払い、虚人の体勢を崩して攻撃を回避する。
後ろに下がり距離を取る。
どうやら、奴は他の何を置いても、足の再生を優先したようだ。
みるみるうちに足の傷が塞がっていく。
数秒もすればまた、攻撃を再開するだろう。
だが、一か所の再生を優先するということは、
「みすみす再生を許すとでも、お思いですか?」
他の傷は鎧に覆われてすらいない。
華燐の声と共に、虚人が業火に飲まれた。
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