魂の葬儀屋 ―Wisp Buriers―   作:ttr@

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十二 鎮火

 露出した傷が再び火に侵され、痛みが虚人の自由を奪う。

 

 しかし、華燐も限界が近いのだろう。

 

 見た目以上に、能力の出力に疲労が表れていた。

 

 本来の華燐ならば、万全の再生力を上回る火力を出せていた。

 

 それでも今は、祝葬で大きく削がれた再生力と拮抗している。

 

 鎧や部分的な再生強化を考えると、これでもまだ時間が足りない。

 

「祝さん」

 

 華燐が俺を呼んだ。

 

「私が残りの時間を稼ぎます。清乃江さんを手伝ってあげてください」

 

「そうすればきっとすぐです」

 

 彼女はそう続けた。

 

 みさきは、虚人の濁りを考えれば、とてつもない速さで、棺の設計を進めている。

 

 だが、それでもあと四十秒は必要だ。

 

 その間に誰か一人でも倒れれば、一巻の終わり。

 

 ならば、俺がみさきを手伝い、設計図の完成を少しでも早める。

 

 誰がどう考えても華燐の提案が正解だ。

 

 だが、

 

「華燐、お前はその体で奴の攻撃を――」

 

 その続きを言い掛けて、やめる。

 

 華燐が、いつもの微笑みを浮かべていたから。

 

 信じてくれと伝えているのがわかってしまったから。

 

 俺はもう何も言えなかった。

 

 口を引き結び、奥歯を噛む。

 

 華燐にすべてを託し、目の前の虚人に背を向けて、みさきの方へ駆け寄る。

 

「みさき、俺も設計を手伝う。指示をくれ」

 

「設計自体はあと十秒もすれば完成っす。だから祝先輩は、荒い部分の修正を」

 

 指示に従い、設計図を端から修正していく。

 

 大きな粗はなく、線や要項を整えるだけで済みそうだった。

 

 これなら、みさきが設計図を描き上げるのとほぼ同時に、修正も終わるだろう。

 

 みさきが、こちらを一瞥すると、

 

「祝先輩、口の血、設計図に落とさないようにするっすよ」

 

 手を動かしたままそう指摘する。

 

 確かに鉄の味がした。

 

「すまない」

 

 口に付いた血を拭う。

 

 背後から感じていた熱が消える。

 

 華燐は火葬を解除したようだ。

 

「急ぐぞ」

 

「もうやってるっす」

 

 華燐が戦う音を背にして、俺とみさきはそれぞれ、目の前の設計図に全神経を注ぎ、描き進める。

 

 そして、

 

「設計図、完成したっす。祝先輩!」

 

 みさきが設計図を描き上げ、俺の修正を急かす。

 

「ああ、わかっている。……よし、修正も終わり、完成だ」

 

 そのまま、手に持った設計図に葬を流す。

 

 葬が流れた箇所から、設計図は光の粒子に変化し、設計した棺を形作っていく。

 

 棺の方は放っておいてもあと数秒で完成する。

 

 今は華燐を――。

 

 棺が意識から外れ、華燐の方を振り返る。

 

 目に映ったのは、火葬の炎を無視して、腕を振り下ろす虚人と、虚人を見つめ膝をつく華燐の姿だった。

 

 思考が駆け巡る。

 

 どうすればこの状況を打開できるのか、どうすれば華燐を助けられるのか。

 

 様々な思いや考えが湧いてきた。

 

 だが、そのすべてが間に合わない。

 

「華燐!」

 

「華燐さん!」

 

 俺たちは、華燐の名を呼ぶが、目の前の現実は揺らがない。

 

 瞬きをする間に、華燐の命の火は消えてしまうだろう。

 

 迫りくる現実を受け入れられず、手を伸ばす。

 

 空を裂く音が聞こえた。

 

 その音はこちらではない。

 

 華燐と虚人の間へ向かっていた。

 

 刹那、華燐の命を刈り取るはずだった虚人の腕が、見覚えのある短刀によって切断された。

 

 虚人の腕が宙を舞う。

 

 華燐がこの隙を見逃すはずがない。

 

 宙を舞う短刀を掴むと、正中線をなぞるようにして、渾身の一太刀を浴びせる。

 

 刃は鎧を切り裂き、中の肉を火葬の炎で焼き付ける。

 

 状況は把握しきれないが、華燐が危機を脱したのは確かだ。

 

 このチャンスをつかみ損ねるわけにはいかない。

 

「みさき、棺の準備は」

 

「棺、準備OKっす! いつでも納棺できるっす!」

 

 みさきが棺をこちらへ押し出す。

 

 俺はそれを担ぐようにして受け取り、華燐の元へ向かう。

 

 武器を得た華燐は、片腕を失った虚人と白兵戦を演じていた。

 

 奴が失った腕の方に回り込み、足を削ることで、何とか耐えしのいでいた。

 

 既に虚人の腕は半分生えてきており、この状況も長くは続かない。

 

 奴の腕が回復する前に納棺する。

 

「華燐!」

 

 華燐の名前を呼び、虚人を挟んで向かい合う。

 

 華燐は俺の動きと棺を見ると、意図を瞬時にくみ取ったようだ。

 

 虚人の攻撃を、生えてくる腕の方へ回り込み躱す。

 

 そして今度は、短刀で切りつけるのではなく、ただ力強く蹴りを叩き込んだ。

 

 良い蹴りだ。

 

 華燐に蹴りを叩き込まれた虚人が、こちらに向かって吹き飛ばされてくる。

 

 棺の蓋が開く。

 

「お前のために設えた棺だ。存分に眠れ、ウィスプ」

 

 棺を虚人目掛けて放り投げる。

 

 次の瞬間、虚人は棺に吸い込まれるようにして収まり、蓋が閉じる。

 

 中で虚人が暴れるが、それを見越して設計された棺だ。

 

 そう簡単には破れまい。

 

 その後、数十秒もの間、虚人は中で暴れたが次第に大人しくなっていき、遂には完全に沈黙した。

 

 みさきと華燐がこちらに駆け寄ってくる。

 

「納棺……できたっすよね?」

 

 みさきが不安げにそう聞いてくる。

 

「ああ、濁りが浄化されていくのが見えた。もう大丈夫だ」

 

 二人はどこかホッとしたように息を吐く。

 

「とりあえず華燐、全員で生きて帰れそうだが」

 

 何か言うことはないのか?

 

 言外にそう告げる。

 

 華燐はハッとしたように目を開くと、

 

「皆さん、大変お疲れさまでした」

 

 そう言って微笑んだ。

 




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