「霧島、話は聞こえているだろう。そろそろ出てきたらどうだ」
俺は草むらに向かって声を掛ける。
「まあ、バレてるよな」
霧島が木の陰から姿を現し、気が進まない様子で、こちらへ歩いてくる。
そんな霧島を出迎えるように、華燐が一歩前へ出ると、真剣な面持ちで霧島の目を見据えた。
状況が呑み込めないのか、霧島は眉根を寄せると、こちらに視線を寄越す。
取り合う気はないと、俺は顔を逸らした。
「霧島さん」
「なんだよ……」
名前を呼ばれ、霧島は居心地が悪そうに返事をする。
華燐はそれを気にすることもなく、
「先ほどは助けていただき、ありがとうございます」
そう礼を言って、頭を下げた。
「……何のことかわからないな」
「さっき、私が殺されそうになった時、短刀を投げてくださったのは霧島さんですよね?」
しらを切ろうとする霧島と、それを許さない華燐。
二人の視線が交わる。
「……」
「……」
霧島の頬を汗が伝う。
「……ッ、ああそうだよ。俺が投げた。これで満足か?」
華燐の視線に耐え切れなくなった霧島が、投げやりに認める。
「ふふっ……ええ、もちろんです」
その様子に華燐は満足したようで、口元に手を当て微笑む。
強情さでは華燐の勝ちか。
……それはそうとして、
「霧島、お前はなんで戻ってきたんだ」
短い付き合いだが、わざわざ危険に首を突っ込むような奴でもない……はずだ。
「あ、それ私も聞きたかったっす」
「私もお聞きしたいです」
みさきと華燐も続く。
どうやら気になっていたのは同じらしい。
俺たちの視線に霧島が押し黙る。
しかし、さっきの華燐との問答もあってか、しばらくすると、霧島は諦めたように肩を落とし、首筋に手を当てた。
「短刀、借りたままだったから」
「……」
思ってもみなかった霧島の答えに、言葉が詰まる。
本人も無理があると、自覚しているのか所在なさげに視線を動かしていた。
素直じゃないのもここまで行けば、もはや芸術的だな。
自然と霧島を見る目が生暖かくなる。
霧島は俺の目を、いや、俺たちの目を見て、何か勘違いしたのだろう。
「燈守の武器を返さないまま、お前たちに死なれたら寝覚めが――」
聞いてもいない言い訳を念仏のように唱え始めた。
「アッハハハハ! ひ、ひぃ……っ、無理っす、お腹よじれてもう……!」
みさきがこらえきれずに噴き出した。
よほどおかしかったのか、腹を押さえて地面を転がっている。
「……ッ」
そこで霧島も限界が来たらしい。
「もういいだろ……俺は現場を保存してくる……」
そう言って、洞穴へ歩いていく。
そんな霧島の後ろ姿を見て、俺と華燐は顔を見合わせると、どちらともなく笑い合った。
その後、みさきに回収班の手配を任せ、俺は華燐と、虚人が納棺された棺の前に立つ。
「こいつのこと、どう思った?」
棺をコンと叩く。
「虚人としての能力だけなら、もっと強い方もいました。ですが、火に適応された上、あそこまで柔軟に戦う虚人は見たことがありません。恐らくですが、」
「ああ、魂の剥がし方が変わったんだろう」
もしくは単に腕を上げたのか。
どちらにせよ吐き気のする話だ。
「とにかく、このことはお前からも上に報告しておいてくれ」
「わかりました」
華燐は携帯を取り出し、少し離れた場所で話し出す。
独り残された俺は棺を見つめる。
俺たちの推測が当たっていれば、今後はこのレベルの虚人が増えてくる。
今回は華燐たちがいたから、どうにかなった。
だが、今後、俺一人で納棺しなければならない時……俺は人間のままでいられるのだろうか。
今回の更新をもって、本作はしばらく更新を休止します。
物語はまだ途中であり、続きを書く意思もありますが、しばらくは別の作品を書きながら、経験を積みたいと考えています。再開時期は未定となりますが、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。