不死の怪物を棺に納める葬儀屋 ―Wisp Buriers―   作:ttr@

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二 殺し屋ではない

◇ 祝祈零

 

 現場は整理と保存がしっかりされていて、確認はすぐに済んだ。

 

 その場で、木村に遺体処理班へ連絡を入れさせ、後のことを話し合うため警察署に向かった。

 

 警察署に着き、木村が事務室から会議室の鍵を取ってくる。

 

 そのまま会議室に通された俺は手近なパイプ椅子を引いて、そこに座る。

 

 全員が席に着いたのを確認し、

 

「間違いなく、虚人の仕業だな」

 

 と、今回の結論を述べる。

 

 実際、現場へ向かう途中、近づくほどに嫌な感覚が増していった。みさきが遺体を確認すると、案の定、すぐに虚人の魂特有の匂いを感じ取っていた。

 

 俺たちの言葉を聞き、

 

「碌に見てなかっただろう。何故そう言い切る?」

 

 訝しんだ様子を隠そうともしない木村にため息が漏れる。

 

「……お前もそう思ったから葬儀屋に話を回したんだろう。それに――」

 

 木村がハッとした顔をすると、

 

「ちょっと待った」

 

 と、俺の言葉を遮った。

 

「そうだったな。その続きは報告書に書ける内容じゃないだろ?」

 

 面倒くさそうな顔をして確認してくる木村に、首を縦に振る。

 

 それを見た木村は、

 

「それじゃ、この件は葬儀屋の管轄ってことでいいか?」

 

 と、確認する。

 

 木村の確認に、俺はもう一度首を縦に振った。

 

「あの、すみません」

 

 すると、後ろでみさきと話を聞いていた――霧島だったか? が声を掛けてきた。

 

「なんだ?」

 

 霧島は一瞬言葉を詰まらせる。

 

 心なしか、霧島の空気が張りついた。

 

 そんなことを思っていると、霧島の横から嫌な視線を感じた。

 

 そちらを向くと、みさきがジトっとした目で俺を見つめていた。

 

 ……俺は普通にしてるだけで機嫌が悪そうだから気を付けろ。だったか。

 

「……すまない。機嫌が悪いわけじゃないんだ。それで、……霧島? は何が聞きたかったんだ?」

 

 名前を確かめるようにして、改めてそう聞き返す。

 

「……っ、ふ……霧島で合ってますよ。覚えていてくださり、ありがとうございます」

 

 一瞬、霧島は驚いたような顔を見せると、何が面白かったのだろうか、笑いをこらえながら、返事をする。

 

「礼はいい、それで?」

 

 話の続きを促す。

 

「はい。その、先ほどの木村刑事と祝さんが会話を途中で切り上げたので、……その、あまり要点を掴めないのですが」

 

 続けて、霧島は何故この場にいるのかも分からないと言う。

 

 思い返すと、木村との会話は余りにも抽象的だった。要点を掴めないのは仕方がない。さっき挨拶を済ませたような関係で、あの会話を理解しろと言うのが無理だ。

 

 あとは、霧島がこの場にいる理由だが、それは俺も知らない。

 

 霧島に付いてくるよう指示を出した、木村以外に説明できる奴はいない。

 

 そう思い、木村に顔を向ける。

 

 こいつはいつも説明を後回しにするから嫌いなんだ。

 

「馬鹿、説明しろ」

 

「祝、心の声と口に出す方が逆だぞ」

 

「大丈夫だ。間違ってない」

 

 木村は心外だとでも言いたげな表情を浮かべ、息を吐く。

 

「霧島を同伴させているのは、単に人手不足だ。ここ最近、葬儀屋案件が多いのはお前たちも知ってるだろ? 警察としても、適性がありそうな奴をお前たちとの橋渡し役として育てようって話さ」

 

 その答えを聞いた霧島が一瞬、心底面倒くさそうに顔が歪んだ。

 

 あの現場を見た後にこの反応ができるなら、なるほど、確かに適性はありそうだな。

 

「理解はした。次からは先に説明しておいてくれ」

 

「善処する」

 

 全く反省してない木村と言い合うだけ無駄だと結論付け、席を立つ。

 

「木村、引き継ぎは任せたぞ。あとはこっちで虚人を追う。みさき、行くぞ」

 

 霧島も俺たちを見送るため、立ち上がる。

 

 そんな中、

 

「そうだ、祝」

 

 木村がいいことを思いついたと、喜色を滲ませた声で俺の名前を呼んだ。

 

 面倒なことになる予感しかしない。

 

「……なんだ」

 

「霧島も連れて行ってやってくれ、いい勉強になる」

 

 コイツは何を言って――

 

「木村さん?」

 

 みさきの声が会議室に響く。

 

 部屋の空気がピタリと止まり、室温が急激に下がっていくような錯覚を覚える。

 

「……どうしたんだ、みさき……さん?」

 

 木村も何かを察したのだろう。みさきの機嫌を伺う。

 

「……どうしたんだ、じゃないっすよ! なんであなたって人はいつもいつも急なんすか、だいたい――」

 

 だが、気付くのが少し遅かったようだ。木村の努力も虚しくみさきがキレた。

 

 いい気味だ。

 

 とりあえず、今すべきことは、

 

「霧島、ここから離れるぞ。巻き込まれるのはお前もごめんだろう」

 

 みさきの豹変ぶりに面食らったのか呆然とする霧島に声を掛ける。

 

「え、あ、はい」

 

 俺に気が付かない程、みさきの豹変は衝撃的だったらしい。急に声を掛けてきた俺に驚きつつも、返事をしてついてくる。

 

 部屋からそろりそろりと立ち去り、何度か角を曲がるとみさきの説教が聞こえなくなった。

 

 距離を取って、霧島は落ち着きを取り戻したのか、

 

「みさきさんって……」

 

 言葉を慎重に選んで何か聞こうとしている。

 

 十中八九みさきのことだろうと、当たりを付けて、

 

「見ての通りただの猫かぶりだ。素はさっきの口調だ」

 

 そう伝えた。

 

「やっぱりそうですよね。……怒らせないようにします」

 

 霧島は何か察していたのだろう、得心がいったようだ。

 

 案外、人のことを良くみているのかもしれないな。

 

「そうしておけ」

 

「だが、木村が説教されるのは見てて面白かったろう?」

 

 そう言って、俺はニヤリと笑って見せる。

 

 霧島はまたしても呆気にとられたような表情を浮かべ、

 

「……っ、ふ。そうですね、私もそう思います」

 

 今度は笑って、そう言った。

 

 

 警察署を後にし、俺と霧島はみさきを待つため、近くの喫茶店に場所を移す。

 

 外からこちらが見える、窓際の席に座る。

 

 みさきの携帯へ、喫茶店の場所と説教が終わり次第来るよう連絡を入れる。

 

 携帯をポケットにしまうと、店員が注文を取りに来る。

 

 霧島に「コーヒーでいいか」と尋ねると、問題ないらしく頷いた。そのまま注文をする。

 

「コーヒー二つに、ミックスジュース。……それと――」

 

 ……一応みさきの機嫌を取っておくか。

 

「今日のケーキも付けておいてくれ」

 

「祝さんケーキ好きなんですか?」

 

「みさき用だ、怒らせたままだと話にならないからな」

 

 俺の答えに納得したのか、霧島は「清乃江さんケーキ好きなんですね」と相槌を打つ。

 

 店員は注文を確認すると、かしこまりました、と厨房へ戻っていった。

 

 注文した品が来るのを待っていると、霧島が「すみません、祝さん」と声を掛けてくる。

 

 話を聞くと、霧島は、虚人の存在は知っているが、学校で習う以上の知識がない。

 

 だから、俺たちに同行する以上はある程度のことを知っておきたいらしい。

 

 律儀な奴だ。

 

「わかった、虚人と葬儀屋について話そう」

 

「ありがとうございます」

 

 とは言ったものの何から話すべきか。

 

「そうだな……まず霧島は虚人がどんな存在だと教えられた?」

 

「えっと、死んだ人間が蘇って、人を襲う……」

 

 霧島は記憶を掘り起こしながら言葉を続ける。

 

「あとは、……そうだ。常人では太刀打ちできない強さで、たとえ殺せたとしても体を再生して何度でも蘇ると聞いています」

 

「半分正解だな」

 

 その答えに霧島は半分ですか……と、微妙な反応をする。

 

 そうしていると、注文した品を店員が運んでくる。

 

 店員が霧島の前にコーヒーを置き、俺の前にはコーヒーとミックスジュース、それからケーキを並べていく。

 

 霧島はさっきの答えと、俺より先に口を付けるのはためらわれるのか、居心地が悪そうにしていた。

 

 内心ため息を吐きつつ、コーヒーのカップに手を伸ばす。

 

 カップを口へ運び、

 

「一般的な答えとしては百点だ」

 

 とだけフォローを入れる。

 

 苦いな……思わず眉間に皺を寄せる。

 

 そんな俺を見て霧島がクスリと笑う。

 

 ……霧島の緊張が解れたのならまあいい。

 

 続けて霧島もカップを口へ運ぶ。

 

 霧島がカップをテーブルに置いたのを見て、話を戻す。

 

「死んだ人間が蘇る。これは不正解だ」

 

「死んだ人間は蘇らない。……体を動かすのは、死ねなかった別の魂だ」

 

 端的にそう告げ、コーヒーに添えられていたミルクをコーヒーに落としていく。

 

 霧島の視線が、俺の手元で濁っていくコーヒーに落ちる。

 

 霧島は難しい顔をして、

 

「……スピリチュアルな話ではないんですよね?」

 

 霧島は俺の顔色を窺うように言葉を捻り出す。

 

 実際、オカルト染みているし、当然の反応だ。

 

「残念ながらな。……そうだな、虚人は死んだ人間ではない。……少なくとも、そこにいるのは遺体の持ち主じゃない別の誰か。言い方は悪いが混ざりものが人を襲っている。今はそう捉えてくれると助かる」

 

 コーヒーとミルクを混ぜながらそう説明する。

 

 霧島は少し整理できたのか、幾分ましな顔をすると、

 

「それで葬儀屋についてですが……」

 

 と、話の続きを促してくる。

 

「俺たち葬儀屋は、虚人を殺すのではなく葬るんだ」

 

「殺すじゃなく、葬る……ですか」

 

「ああ、そうだ。俺たちは葬儀屋だからな。殺し屋じゃない」

 

 分かるような分からないようなと唸る霧島に、

 

「それについては一度見れば分かる」

 

 そのために虚人をどう追うのかだが――

 

 入り口の方からカランカランと音がした。

 

 入り口を見ると、みさきが俺たちを探しているのだろう、キョロキョロと店内を見回していた。

 

 こいつは間がいいのか悪いのか分からないな。

 

 みさきと目が合うと、俺たちの座るテーブルへ歩いてくる。

 

 ――まだ少し機嫌が悪そうだな。

 

 テーブルに着くと、俺に奥の席へ移動しろと言うのだろう。こちらを無言で見つめてくる。

 

 仕方なしに、席を移動するとみさきが空いた席へ座る。

 

 同時に目の前のミックスジュースとケーキに気が付いたのだろう。こちらへ顔を向ける。

 

「これ、私のっすか?」

 

 と少しの期待と嬉しさを滲ませながら聞いてくる。

 

「ああ」

 

 とだけ返すと、

 

「さすが祝先輩っすー♪」

 

 調子のいいことを言って、添えられていたフォークを持ち、ケーキを食べ始める。

 

 心なしか、耳やしっぽが見える。

 

 こいつは犬か何かなのだろうか。

 

「霧島がいるのに素でいいのか」

 

「ん? あー、もういいっすよ。一回見せちゃってるんで」

 

 あ、このケーキ美味しいっすね。と、どうでもよさそうにケーキを口へ運ぶ。

 

 みさきは持っているフォークの先を俺と霧島に交互に行き来させたと思うと、

 

「それよりも……二人で何の話してたんすか? 私はそっちの方が気になるっす」

 

 そこで話を見守っていた霧島も、ようやく本題に戻ったかと、

 

「虚人とは、葬儀屋とは何なのかを聞いていました」

 

 あとは、この後どう虚人を追うのかも――

 

 チラリ、と霧島がこちらを見る。

 

「悪かった。話を戻そう」

 

 霧島が人のいい笑顔で、お気になさらずと返す。

 

 思ってたよりいい性格をしてそうだと、霧島への評価を改める。

 

 軽く咳ばらいをし、

 

「それで、虚人を追う方法だったな」

 

「いくつか追う方法はあるんだが、……そうだな、今回は犬を使う」

 

「犬? ……ですか」

 

 霧島は不思議そうに零す。

 

「ああ、そうだ。とびきり良い犬だ」

 

 そう言うと、ケーキを食べ終えたのだろう。ストローでミックスジュースをちゅるちゅると飲むみさきへ目をやった。

 

 釣られて霧島もみさきへ目をやると、俺たちの視線に気づいたのだろう。

 

 残り少ないミックスジュースをズズッと飲み干し、

 

「……えっと、……ごちそうさまでした?」

 

 みさきはわけもわからずそう呟いた。

 




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