不死の怪物を棺に納める葬儀屋 ―Wisp Buriers―   作:ttr@

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三 葬儀屋と棺

◇ 霧島

 

 喫茶店を出て、現場の近くへ戻った俺たちは、犬――清乃江を先頭にして、虚人を追うため街を捜索する。

 

 なんでも清乃江は嗅覚から魂を知覚でき、虚人のような死ねなかった魂というのは、一際強い匂いを発しているように感じるらしい。

 

 清乃江はふらふらと無軌道に進んでいるように見えるが、

 

「虚人の痕跡を辿るとそうなるっすよ」

 

 と本人は言っていた。

 

 それならお前の手に持っているアイスは何だと言いたかった。

 

 祝を見るが、諦めろと目で諭されてしまう。

 

 ――それよりも、だ。

 

「虚人ってこんな街中を歩いてるものなんですね……」

 

 この通りなんて、俺の家からすぐそこだぞ。

 

 もしかしたら、すれ違ってたりもするのかとゾッとしない想像が浮かんでくる。

 

「教科書に詳しく載せられない理由もわかるっすよね」

 

 こんなの知られたらパニックっすよ、パニック。

 

 アイスを咥えて軽い口調で言う清乃江に、本当にそう思ってるのか? と内心冷ややかな目で見る。

 

 納得はしたくないが、とにかく虚人が思ったより身近な存在であることは理解した。

 

 そうなると、次は――

 

「どうして、虚人はこんな街中を歩いていても騒ぎにならないんですか?」

 

 当然の疑問だ。

 

 虚人なんて常軌を逸した存在が何故街に溶け込めるのか。

 

 もっと被害が出ていて然るべきじゃないのか。

 

 祝は顎に手を当て少し考える。

 

「……霧島はイライラして物に当たった記憶はないか?」

 

「物にあたった記憶……ですか。人並みにはあると思いますが……」

 

 それに何の関係があるんだ。

 

「そうか、なら話は早い。虚人の殺しはお前のそれと似たようなものだと思ってくれ」

 

 あいつらの殺しに大した意味はない、祝はそう言った。

 

 冗談じゃない、そう言いたい気持ちをこらえ続く言葉に耳を傾ける。

 

「強いて言うならだが、痒くて苛立ったから殺したとかその程度だ」

 

「痒い……ですか?」

 

 思わず聞いてしまう。

 

「虚人は遺体と別の誰かの魂が混ざった存在と言ったな」

 

 先ほど聞いた内容と相違ないため、はいとだけ返事を返した。

 

「体と魂がマッチしてないんだ。当然、拒否反応が出る」

 

「……それが虚人にとっての痒みってことですか」

 

「恐らくな」

 

 祝はつまらなそうにそう呟く。

 

 嫌な話だ。

 

 単純にそう思った。

 

「あ、一旦ストップっす」

 

 すると、虚人を見つけたのだろうか、清乃江が手でこちらを制してくる。

 

 よく見ると、咥えていたアイスもなくなっていた。

 

「祝先輩、多分そこの路地にいるっすよ」

 

「どうするっすか?」

 

 と祝に確認する。

 

「どうするも何も行くしかないだろう」

 

 それはそうだ。

 

 ここまで来たのだからこの先へ進むしかないだろう。

 

 正直、帰りたいが。

 

「霧島、喫茶店での続きだ」

 

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、祝は俺に声を掛けてくる。

 

「俺たち葬儀屋は、虚人を殺すのではなく、葬るんだと」

 

「言いましたね」

 

 殺しと葬り、考えてはみたが、やはり言葉の違い以上のことはあまりわからなかった。

 

「死ねなかった魂を葬るためには何が必要だと思う?」

 

 それは――

 

「葬儀屋……じゃないんですか?」

 

 それ以外に思い当たるものもない。

 

「半分正解だ」

 

 俺の答えを聞いた祝は、そう言い小さく息を吐く。

 

「――葬儀屋と棺。この二つが揃って初めて虚人を葬ることができる」

 

 棺なんて持ってねぇじゃねぇか。

 

 そう思った。

 




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