不死の怪物を棺に納める葬儀屋 ―Wisp Buriers― 作:ttr@
◇ 霧島
喫茶店を出て、現場の近くへ戻った俺たちは、犬――清乃江を先頭にして、虚人を追うため街を捜索する。
なんでも清乃江は嗅覚から魂を知覚でき、虚人のような死ねなかった魂というのは、一際強い匂いを発しているように感じるらしい。
清乃江はふらふらと無軌道に進んでいるように見えるが、
「虚人の痕跡を辿るとそうなるっすよ」
と本人は言っていた。
それならお前の手に持っているアイスは何だと言いたかった。
祝を見るが、諦めろと目で諭されてしまう。
――それよりも、だ。
「虚人ってこんな街中を歩いてるものなんですね……」
この通りなんて、俺の家からすぐそこだぞ。
もしかしたら、すれ違ってたりもするのかとゾッとしない想像が浮かんでくる。
「教科書に詳しく載せられない理由もわかるっすよね」
こんなの知られたらパニックっすよ、パニック。
アイスを咥えて軽い口調で言う清乃江に、本当にそう思ってるのか? と内心冷ややかな目で見る。
納得はしたくないが、とにかく虚人が思ったより身近な存在であることは理解した。
そうなると、次は――
「どうして、虚人はこんな街中を歩いていても騒ぎにならないんですか?」
当然の疑問だ。
虚人なんて常軌を逸した存在が何故街に溶け込めるのか。
もっと被害が出ていて然るべきじゃないのか。
祝は顎に手を当て少し考える。
「……霧島はイライラして物に当たった記憶はないか?」
「物にあたった記憶……ですか。人並みにはあると思いますが……」
それに何の関係があるんだ。
「そうか、なら話は早い。虚人の殺しはお前のそれと似たようなものだと思ってくれ」
あいつらの殺しに大した意味はない、祝はそう言った。
冗談じゃない、そう言いたい気持ちをこらえ続く言葉に耳を傾ける。
「強いて言うならだが、痒くて苛立ったから殺したとかその程度だ」
「痒い……ですか?」
思わず聞いてしまう。
「虚人は遺体と別の誰かの魂が混ざった存在と言ったな」
先ほど聞いた内容と相違ないため、はいとだけ返事を返した。
「体と魂がマッチしてないんだ。当然、拒否反応が出る」
「……それが虚人にとっての痒みってことですか」
「恐らくな」
祝はつまらなそうにそう呟く。
嫌な話だ。
単純にそう思った。
「あ、一旦ストップっす」
すると、虚人を見つけたのだろうか、清乃江が手でこちらを制してくる。
よく見ると、咥えていたアイスもなくなっていた。
「祝先輩、多分そこの路地にいるっすよ」
「どうするっすか?」
と祝に確認する。
「どうするも何も行くしかないだろう」
それはそうだ。
ここまで来たのだからこの先へ進むしかないだろう。
正直、帰りたいが。
「霧島、喫茶店での続きだ」
そんな俺の内心を知ってか知らずか、祝は俺に声を掛けてくる。
「俺たち葬儀屋は、虚人を殺すのではなく、葬るんだと」
「言いましたね」
殺しと葬り、考えてはみたが、やはり言葉の違い以上のことはあまりわからなかった。
「死ねなかった魂を葬るためには何が必要だと思う?」
それは――
「葬儀屋……じゃないんですか?」
それ以外に思い当たるものもない。
「半分正解だ」
俺の答えを聞いた祝は、そう言い小さく息を吐く。
「――葬儀屋と棺。この二つが揃って初めて虚人を葬ることができる」
棺なんて持ってねぇじゃねぇか。
そう思った。
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