不死の怪物を棺に納める葬儀屋 ―Wisp Buriers― 作:ttr@
◇ 霧島
祝が虚人を棺に納め、祈りを捧げる。
横にいる清乃江も同じように祈るのを見て、俺もそれに倣う。
祈り終えた祝が携帯を取り出して、どこかへ連絡を入れる。
この後の手続きでもしているのだろうか。木村の決定とはいえ、俺もこうして同行している以上は、何か手続きが必要なのだろうか。
ふと、横を見ると清乃江がいない。
さっきまでそこにいたんだが。
辺りを見回すと、祝のすぐ近く、虚人を納めた棺の周りをちょろちょろしているのを見つける。
……あいつは一体何なんだ。
祝の方はまだ時間が掛かる雰囲気だ。
手持ち無沙汰の解消にはちょうどいいと清乃江に近づく。
途中、祝とすれ違う際、労いの意味を込めて会釈する。祝もチラとこちらを見ると、空いた方の手を上げて労いを受け入れる。
棺の近くまで来ると、清乃江に声を掛ける。
「……何してるんだお前」
「……? ……何って、祝先輩が作った棺を観察してるだけっすよ?」
「そういえばお前も葬儀屋だったか」
清乃江があー、と頬をポリポリと掻く。
「私の場合、厳密には葬儀屋じゃなくて棺屋っすね。まあ、外から見たら似たようなもんかもしれないっすけど」
「それよりも! 祝先輩の納棺を観た感想はどうだったっすか?」
説明が面倒なのか、明らかに話を逸らしてきたな。
俺も特段知りたいわけでもないからいいが。
先ほどの戦闘を思い返す。
「そうだな、葬るって言葉の意味が分かった……と思う。……虚人を救っている、そんな風に見えた」
我ながら似合わないことを言ったと、少しの羞恥が襲ってきた。
「……! そうっすね。そう……思ってくれたならよかったっす」
清乃江は一瞬だけ言葉を詰まらせると、照れくさそうに視線を逸らした。
それをごまかすように、今度はこちらを見上げる。
「それにしても霧島さん、素の話し方だとそんな感じなんすね」
「それに、なんか仲良くなれたって感じで嬉しいっす。……私が言うのもなんすけど……アハハ」
指摘されて初めて気づく。
口調もそうだが、命を預けたこともあってか、こいつらを妙に信頼してしまっている自分がいることに。
「……まあ、そうかもな」
清乃江の言葉を肯定する。
否定するのも面倒だしな。
一通り話し終えたと判断したのだろう。清乃江は棺の観察へ戻る。
すると、祝が手続きを終えたのか、携帯をしまいこちらへ歩いてくる。
「この後の手続きは終わった。回収班に場を引き渡したら、今回の件で俺たちの仕事は終わりだ」
祝の言葉を聞き、緊張が解けたからか疲労が襲ってきた。
いや、疲労に気づいたという方が正しいか。
ともかく、疲労に抗うため、体を伸ばし、深呼吸で酸素を体に行き渡らせる。
心なしか、クリアになった頭で、署に戻って、木村への報告が済んだら、帰ってすぐに寝よう。
などとこの後のことを考えていると、
「霧島、ちょっといいか」
祝が声を掛けてきた。
「何ですか? どうかしましたか?」
「大したことじゃないんだが、霧島は今、自分の口座番号か何か覚えているか? 今回の件で、上から報酬が出る」
霧島さえよければ、受け取れるよう手配するが。
と祝は言う。
おいおい、俺みたいな一般市民からすれば大したことだぞ。
だが、そんなものは急に聞かれても覚えていない。
どうしたものかと、依然として重たい頭を動かす。
が、一向に思い出せる気配がない。
「……後日また、木村さん経由でお伝えできますか?」
「構わない。そう急ぐものでもないからな」
祝の言葉にホッとする。
「それと霧島」
まだ何か伝達事項があるのかと思い、祝の言葉に意識を向ける。
「お前が楽なように話してくれていい」
あー……清乃江と話してるのを聞かれてたのか。
これ以上取り繕っていても仕方がない。
「分かった。こっちとしても助かる」
「その方が、次に何かあった時も動きやすい」
次とやらがないことを願う。
路地の外から聞き覚えのあるサイレンの音が聞こえてくる。
「どうやら回収班が来たようだな」
「回収班って警察なのかよ」
「葬儀屋は人手不足っすから。警察の皆さんにはいつもお世話になってるっす」
サイレンの音に釣られて来たのだろう。清乃江が説明する。
ほどなくして、回収班が到着する。
一見して普通の警察といった装いだが、よく見ると胸には、祝たちが首に下げている十字と同じマークが刻まれていた。
どうやら俺が思っていた以上に、葬儀屋と警察は近い関係にあるらしい。
「霧島、あとは俺たちで引き継ぎを済ませておくから先に帰ってくれていいぞ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「ああ、ゆっくり休め」
「お疲れ様っす」
祝たちに見送られ、俺は現場を後にした。
*
警察署に戻った俺は、今回の件の報告を済ませようと、重い体を引きずりながら木村を探す。
帰り際、何度か電話を掛けたが、無機質にコールする音が響くだけで、木村に繋がる気配はなかった。
勤務時間外は携帯の電源を切るような人だ。コール音が鳴っている以上、まだ署内にはいるはずなんだが。
「――なんで、あの子が――死――」
曲がり角の先で女の声が聞こえた。
内容は聞き取れなかったが、あまり気持ちのいい話をしているわけではなさそうだ。
曲がり角の先へ、少しだけ顔を出す。
そこには、先ほどの声の主だろう。床に崩れ落ち泣く中年の女性とそれを見守る木村がいた。
反射的に出していた顔を引っ込めた。
それからしばらくして、落ち着いたのだろう。
泣き止んだ女性は、
「すみませんでした。失礼します」
そう言い残して去っていく。
その後ろ姿は酷く弱々しく、いつ崩れてもおかしくないものに見えた。
「霧島、出てきていいぞ」
木村は俺に気づいていたようだ。
「すみません、私が割り込んでいっていい雰囲気ではなかったので」
「分かっている。お前が空気を読めるやつでよかった」
相当に参っているのか、木村に普段の軽さがない。
木村は人気のない非常階段へ出ると、タバコを取り出した。
「……タバコ、吸うのやめたんじゃなかったですか?」
「やめたはずなんだがな……こういう時だけは、な」
吸った煙が吐き出される。
「……あの人と何を話していたんですか?」
聞いてもよいものかと迷うが、そう尋ねる。
木村はしばらく迷うように黙ったあと、
「そうだな、お前にも関係のあることだしな」
そう言った。
このタイミングで俺に関係のあること……というと。
思い当たる節は一つしかない。
「もしかして……」
「察しがいいな。あの人は今回の件の被害者遺族でな、遺体の引き渡しについて話していたんだが……」
木村が続く言葉を飲み込む。
「いつまで経っても、この瞬間は慣れねえんだ」
「どうしてだろうな、死体を見ても、もう何も感じねえってのに」
それは……と、何か言おうとするが、かける言葉が見つからない。
「泣き言、言って悪かったな」
「祝から聞いてる。よくやった」
あんたの方がよっぽどだよ。
そう言いたい気持ちを抑え、
「ありがとうございます」
とだけ、返した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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第二葬も書き上げ次第、引き続き投稿していきます。
なお、カクヨムでは本作を先行して掲載しています。
今後ともよろしくお願いします。