魂の葬儀屋 ―Wisp Buriers―   作:ttr@

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三 封蝋の手紙

部屋の前で立ち話する理由もなく、霧島を連れてひとまず部屋に入る。

 

 部屋は、木や畳、障子を用いた和を感じさせる作りだった。畳のスレや障子の黄ばみなど、ところどころ歴史を感じられる。一方で、部屋全体は綺麗に清掃され、塵の一つも見当たらない。湯飲みやアメニティ類も整然と並べられ、清潔に保たれていた。

 

 華燐からの手紙を備え付けの机の上に置き、俺と霧島は互いに手指の消毒など、軽い雑事を済ませることにした。

 

「その華燐ってやつはわざわざ手紙なんて、何というか古風な奴なのか?」

 

 霧島は洗った手を、壁に掛けられたタオルで拭きながら尋ねる。

 

「そうだな。古風であることには違いない」

 

「ただ」と言って、俺は机の上に置いた封筒へ目を落とす。

 

「手紙なのはあいつの場合、単に機械に疎いだけだろうがな」

 

 以前会ったときも、誰かとやり取りをしたいらしく、携帯の画面と睨めっこしていた。終いには、

 

「祝さん……その、いんたーねっと?が壊れてしまったのか、動かないのですが……」

 

 などと、とんでもないことを言っていたか。

 

 こうして手紙を受付に預けている以上、あれから機械の扱いが上手くなった、なんてことはないのだろう。そう考えると、思わず笑みが零れる。

 

「お前がそうやって笑う辺り、よっぽど愉快な奴なんだろうな」

 

「愉快というよりは危なっかしいかもしれないが」

 

「そうか」

 

 霧島は興味があるのかないのか分からないような反応をして洗面所から出ていく。

 

 手を拭き終え、俺も洗面所を後にした。封蝋がよほど珍しいのか、霧島は座布団に座り、机の上の手紙を眺めていた。俺も机の向かい側に座る。

 

 そんな様子の霧島に「封蝋は初めてか?」と、声を掛ける。

 

「今のご時世、こんなもの見たことあるやつの方が珍しいだろう」

 

「見たとしても、ドラマの小道具だ」

 

 霧島にそう言われて納得する。思い返してみると、華燐からの手紙以外で封蝋は見たことがなかった。

 

「それよりも、今は中身だ。このタイミングで手紙を寄越すんだ。虚人の件だろう?」

 

 霧島が机の上の手紙を指でトントンと叩く。

 

 違いない。

 

 そう思った俺は手紙を手に取り、封蝋を割って、中の便箋を取り出す。手紙は二つ折りにされており、止めや払いがしっかりした、彼女らしい生真面目な文字が透けて見えていた。

 

 手紙を開くと、中にはこう書かれていた。

 

祝さんへ

 

突然のお手紙、失礼いたします。

 

今宵、午後十時を過ぎた頃、宿の外までお越しいただけないでしょうか。

 

虚人について、少しお話ししておきたいことがございます。

 

急を要するほどのことではないのですが、かといって、このまま胸の内にしまっておくのも落ち着かず……祝さんには、直接お伝えしておきたいと思いました。

 

できることなら、お一人で来ていただけますと幸いです。

 

夜分にお呼び立てしてしまい、申し訳ありません。

 

それでも、お会いできるのをお待ちしております。

 

燈守華燐《ともり かりん》

 

 俺は手紙を読み終え、霧島にも見えるよう机の上へ置いた。

 

 予想通り、虚人に関する内容……ではあった。ただ、肝心な部分は直接伝えたいのだろうか、一切書かれていなかった。それに、俺一人で来てほしいというのは何故だろうか。華燐のことだ、何か意図があってのことだろう。そう結論付けた。

 

「霧島、十時に華燐と宿の外で会ってくる」

 

「了解した。詳しい話を聞いてきてくれ」

 

「それよりも」と霧島が続ける。

 

 何か気になることがあったのだろうか。

 

「なあ祝、さっきこの封蝋に見覚えがあるようだったが、何度か手紙のやり取りをしてたりするのか?」

 

 何の質問だろうか。意図が全く見えないがまあいい。

 

「ああ、月に何度か手紙の交換をしている」

 

「月に何度かね……」

 

 霧島の眉間に皺が寄る。目を瞑り、皺をほぐすような仕草をすると、

 

「それで、連絡を取りたい人がいて、携帯を使えるようになりたいんだったな?」

 

 霧島にしては珍しく、要領を得ない質問に「そうだ」と答える。

 

 俺の答えに霧島が一層難しい顔をする。

 

「……それで、月に何度か文通してて……二人きりで会いたがってて……」

 

 何やら小さい声でぶつぶつと言っているが、あまりよく聞き取れない。

 

 整理がついたのだろう。霧島が「最後に一つ聞きたいんだが」と前置きする。

 

 俺が「なんだ?」と続きを促す。

 

「お前はその、燈守華燐だったか。その人のことをどう思ってるんだ?」

 

 霧島は願うような、何かに期待するような顔をして聞いてくる。

 

「どう思ってるも何も、ただの同僚だが?」

 

 素直にそう答える。

 

 霧島は、呆れたとでも言うように溜息を吐いたと思うと、何やら十字を切り始める。こいつは何に向けて十字を切っているんだろうか。

 

 聞きたいことは聞き終えたのか、霧島は「一旦やることもないし、風呂に入ってくる」と言って立ち上がる。

 

 こちらに背を向け、風呂場へ向かう。

 

 風呂場の方に曲がる直前、ふと立ち止まると、

 

「会ったこともないが、そいつに同情するよ」

 

 俺にそう言い残した。

 

 その言葉の意味がよくわからず、頭の中で何度か反芻するが、やはり意味が分からない。

 

「一体どういう意味なんだ……?」

 

 俺の問いは虚空に吸い込まれていった。

 




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