ダリアが咲き誇るハクダンシティのトレーナーズスクール。
その入学式を終えたラックは、両親と手をつないで家に帰ってきた。
帰り着き、リビングで式典用に仕立てた洋服を脱ごうと、ボタンに手を掛けたラックを、母親が呼び止めた。
「ラック、今日はあなたの入学式だったでしょう?」
「うん、学校大きかった!」
スクールの入学式を終えてその規模を見たラックは、顔を綻ばせたが、直後に何かを思い出したように笑みを引っ込めて少しうつむいた。
今日の入学式では、当然ながらラック以外の子供も参加していた。
しかし、彼らとラックには明らかに違う点があった。
それは、ポケモンだった。
子供たちは親友とも言えるポケモンと共にこれからの生活に目を輝かせていた。
ハクダンシティの周辺地域では、子供が生まれると7番道路まで赴き、育て屋からタマゴを受取り子供と一緒に育てることが文化として根付いていた。
しかし、ラックの両親はラックが生まれてからと言うもの、忙しさでその文化を踏襲する暇もなかった。
その結果タマゴを受取り家庭内で孵化させるには、遅すぎる時期に差し掛かってしまった。
ポケモンは子供にとって両親の次に近くにいる存在であり、唯一無二の親友と言っても過言ではない。
ポケモンと戯れる子供たちを思い出したラックは、羨望で顔を曇らせ、口惜しさで拳を握っていたが、母親の言葉に顔を上げた。
「そんなあなたにプレゼントがあります」
その言葉がラックの耳に届くや否や、父親がラックのお腹の大きさほどのものを抱えて部屋から出てきた。
緑色の水玉模様が表面を覆うそれは、どこからどう見てもポケモンのタマゴであった。
「遅くなったけど、ラックのお友達だよ」
「ラック、入学おめでとう」
微笑んだ両親はラックへの祝いの言葉と共にタマゴを差し出した。
おずおずとタマゴに手を差し伸べたラックは、父親に支えてもらいながらタマゴを抱き締めると、ほのかに感じる温かさに瞳を濡らしながら「あり、がとう」と嗚咽交じりの礼を絞り出して、タマゴの表面をこの世の何よりも大切そうに撫でた。
タマゴをゆっくりと撫で続けるラックだったが、父親の腕のしびれによってその時間は終わりを告げた。
「ごめん、ラック……そろそろ腕が限界かも」
「……」
「あはは、もうちょっと待っててお父さん」
母親は父親を見て苦笑を浮かべながら部屋に入ると、中身が空になった孵化器を抱えて出てきた。
「そのままだと危ないから、この中に入れてあげようね」
「……うん」
渋々と言った様子であったが、ラックは撫で続けていたタマゴを父親と一緒に孵化器に入れた。
手を孵化器から離すと、自動でカプセルが閉まり、内部に仕組まれていた豆電球がジジっと音を立てて、光と微かな温もりを発した。
ラックは興味深そうに孵化器に張り付いて眺めていたが、このままだとずっと孵化器に張り付いてしまうと思った両親に引き剝がされて、着たままだった式典用の洋服を脱ぎだした。
ラックの手は洋服のボタンを動かしていたが、視線はずっと孵化器のタマゴを見つめていた。
公式とは違ったり、公式では出てこなかったりした設定などが含まれますが、寛大な心で見逃してください。お願いします。