少しズレた刻を   作:続く(続かない)

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 負けた。

 有り金どころか、人権まで賭けた勝負に。

 

「クソッ!」

 

 悪態をつく。だが、それで事態が好転するワケじゃねえ。賭場のド真ん中で俺は、懐に忍ばせてたポケットナイフを振り回して兄弟分に叫んだ。

 

「xxxx! 行け!」

「おめぇはどうすんだ!」

「考えてねぇ! 早く行けや!」

 

 それは聞き入れられなかった。“xxxx”は俺の二倍はでけぇ図体を駆使して、俺たちを取り巻く黒服のカジノガードを薙ぎ払う。

 

 やっぱ俺らは兄弟だ。

 無数に駆けつけてくるガード共を前に、俺はニヤけが止まらなかった。一人の腹をブッ刺して、俺は短いながらも道を開く。

 

「突破すんぞ!」

「おう!」

 

 腹から血を流して脱力するガードをxxxxは持ち上げた。そのまま盾にするみてえに構えて突進すると、俺はそれに続いた。

 

 出口まで、もう少し。

 

 

 …だが、それは阻まれちまった。

 

「…ガードメカ!?」

「民間がMTに武装させんのは違法だろ!」

 

 俺らの目の前に立ち塞がるのは、細い鳥の足みてえな脚部のガードメカ。頭頂にライフル砲が設置された、標準仕様のやつだ。

 

 こういうガードメカを律する法律と言っても、それはこの惑星を牛耳るベイラム・インダストリーの定めるクソみてえな独裁法に過ぎねえが。

 

「貴様らのような暴漢相手には使えるからな。さあ大人しく来い!」

 

 リーダーと思しき男が言った。俺はxxxxに目配せして、こいつの懐に隠させた例のブツを、MTへ向けて投げさせた。

 

「死ねェ!」

 

 こないだギャンブルでボロ勝ちした時に買った、対装甲車両用の成形爆薬だ。

 投げた時の向きを固定しやすくするために、手投げすると近くの強い金属反応に向かって推進するように、武器屋のジジイに改良させた。

 

 で、その爆薬は上手く仕事をした。MTの脚を吹き飛ばして無力化。俺らはその隙間を潜り抜けて、カジノの敷地から抜け出そうとした。

 

 

「止まれ!」

 

 更に二機のガードメカ。

 xxxxと目配せする。

 こりゃ無理だ、なんて言いたそうな目だ。

 

「クソが…」

 

 何度目か分からねえ悪態をついた。

 

 それが、俺が覚えてる最後の記憶だ。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 麻酔?

 ただ眠たいワケじゃねえ。身体を床に引っ張られるような、嫌な眠気だ。誰かに殴られたって起きれねえ、そんな気がする。

 xxxxの馬鹿でけえ拳でも無理だろうな。

 

 

 

「…また来たのか、ハンドラー・ウォルター」

 

「新しい強化人間をくれ」

 

 老年の男の声と、初老の男の声。

 どっちもジジイだが、俺の隣で喋ってんのは確かだ。

 

「またか。620らはどうした?」

 

「御託はいい。起動しろ」

 

 初老の男の言葉と共に、俺の意識は覚醒していった。

 急に視界がハッキリしてくる。全身を好きに動かせるような感覚。だが、俺の体は動かねえ。

 

 ふざけんじゃねえぞ。

 これじゃ芋虫と変わらねえ。

 それが嫌で身体をどうにか動かそうと捩ったりしてみるが、なんも、どうにもならねえ。

 

「くそ…! 腕が…足も……」

 

 俺の言葉を聞いたジジイ共が、驚いたようなリアクションを取る。

 

「おお、珍しい。感情を持つタイプとは」

 

「…彼は貰っていくぞ」

 

 杖をついたジジイが、白衣のジジイへ幾らかの現金を手渡すと、俺を運ぶためなのか、カプセルの中に俺を閉じ込めた。

 機械のアームが俺の寝るベッドを掴み上げて、カプセルに無造作に突っ込みやがる。

 

 窮屈というわけでもねぇが、閉じ込められてるって感覚が俺にはムカついて仕方がねえ。

 

「お、い…! 出しやが…れ…!」

 

「静かにしていろ、6()2()2()。これからお前のやることになる仕事は、お前にとって悪い話ではない」

 

「な…んだァ…?」

 

 俺は何も出来ず、ワケも分かんねえままに、杖のジジイに連れられていく。

 カプセルを牽引する機械に運ばれているんだろう俺の身体は、さっきの快活な感覚とは裏腹に、指一本まともに動かねえ。

 

 それに、俺にはxxっつう自分で定めた名前があんだ。それをこのジジイ、622などと数字で呼びやがる。それがあんまりに腹が立つ。

 

 だが、イラついたところで身動ぎすら出来ねえこの身体じゃ、何をできるワケでもねぇ。

 大人しく、しとくしかねえ。

 

 

 

 …それから、AC輸送用のヘリに乗せられた俺は、ひとつの機体を宛てがわれた。

 

 確か、ルビコンとかいう事故で滅んだオンボロ惑星の探査用機だ。俺のやる仕事とかいうのも、何となく察しがつく。

 

「クソジジイ、テメェに何の意図があんのかは知らねえが…」

 

「俺だけの意思ではない。お前は自ら、そのACに乗って戦場に立つことを選ぶはずだ。何故ならそれがお前の…」

 

 ジジイは、いや。

 ハンドラーは少し言い淀みながら続けた。

 

「…人生を買い戻すための、やるべき事だからだ」

 

 俺の体を持ち上げたアームは、そのまま俺をシートに乗せ、ACのコクピットに押しやる。

 

 正直なところ何をすりゃいいかなんて、強化人間になってACを見せられた時点でわかってた。このジジイの気に入らねえ人間をぶっ潰しゃいい。そんだけの単純な仕事だろう。

 

 気を失ってる間に好き勝手に身体弄られて、いつの間にか強化人間にさせられてた俺だが、メリットはある。

 

 生身じゃあロクに動きもしねえガキ以下の肉体でも、ACに乗りゃあ普通の人間以上の操縦適性で、並のパイロットはボコボコに叩きのめせる力を得られる。

 

 つまるところ、俺は今()()を与えられてる。

 

 基本的に“ゴミ”だらけの傭兵の中で、“当たり”のタイプに選ばれる権利だ。

 このジジイの手足として動くことになるのは癪に障るが…そのストレスは、他のカスを相手に発散させてもらうとするか。

 

「早速だが、622。 仕事の時間だ」

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 ──ルビコンが近い。そいつを起こしてくれ。

 

 ──了解です。ハンドラー・ウォルター。

 

 

 

 

 

 

 頭が熱い。それと少しばかり痛え。

 たぶん、頭の中のコーラルが活性化し始めたんだろう。それで、その状態になった時が俺の“仕事”が始まる時間だと、ジジイは言ってた。

 

『622、カーゴが減速する。分解後、降着姿勢を取れ』

 

「いちいち指示すんじゃねえ。わかってる」

 

 俺は後頭部からACのコンソールに向かって四本も繋がってるケーブルを通して、手足のように自由に機体が動くのを確認するのまでは無理だが、少なくともマニピュレータだとかメインカメラなんかが自由に動かせることを確認する。

 

『分解する。落下体勢に入れ』

 

「だからいちいち───ぐおっ!」

 

 急速な減速に、身体が引っ張られる感覚が表れる。まるで…そう、絞首台から落ちるのを自分の力だけで抵抗するような、嫌な感じだ。

 

 今はそうなってねえが、このクソみてえな人生の中どっかでポカやらかしてそうなる可能性は十二分にあった。

 そう考えると、今は案外ラッキーなのかもしれねえ。

 

 …いや、こんなボロボロの体で誰かの小間使いやってる時点で、ラッキーとは程遠いか。

 

『622、メガストラクチャーの表層が近い。バーニアを使って速度を落とせ』

 

「うるせえな…やってんだろ!」

 

 機体全体に取り付けられた姿勢制御スラスターだとか、機体推力のメインを司るバーニアとかを、全力で下方向へ向けて噴射する。

 それでも大気圏からの自由落下の勢いを相殺できるほど、推力は強くなかった。

 

「クソッ…!」

 

 迫る地面を前に、俺は目を瞑った。

 

 

 

 

 ……《ISB2262、惑星ルビコンIIIに到着》

 

 コンピュータがそう言った。

 俺は生きてる。

 

『ふむ…グリッド135か。誤差はあるが許容範囲内だ。その先のカタパルトランチャーを使って、汚染市街方面へ迎え』

 

 まったくこのジジイは人が死にかけてやがるってのに、なんでもなかったようにしれっと言いやがる。

 もう言い返すのも面倒で、そのまま言う通りに構造物の内部を進む。パイプラインだのなんだのが目立つが、整備用の足場があることからして、人間の出入りする空間でもあるらしい。

 

 つまり、ここは敵の勢力圏内にあるってことだ。

 今の俺にとっての敵ってのはどいつかは分からねえが、もしベイラムの連中に出くわしたら、このACでボコボコに叩きのめしてやる。

 

 連中が自分の勢力下の星で好き勝手威張り散らしてやがるのが、本当に気に食わなかったんだ。

 

 大穴から向こう側へ行く。スキャナーがあることをジジイに教えられて、それを使ってみる。

 

 レーダー機器を兼ねた頭部センサーユニットから、電子・熱源・音源探知を複合したセンサーが放たれる…というのを追加で説明されたのと同時に、何機かの反応を捉えた。

 

「ジジイ、2か3くらいいるぞ。多分ザコだ」

 

『MTより低度のガードメカだろう。ACの相手ではない。排除して進め』

「わーったよ」

 

 右手のアサルトライフルを握る。馴染むようなACの感覚が、俺に実際に銃を握っているような実感を与えてくる。大穴の出口まで歩き、ガードメカに向けてライフルの引き金を引いた。

 

『…ぐっ!?』

 

『なんだ! …AC!?』

『応戦しろ! お前たちは逃げて応援を呼べ!』

 

「隠れてやがったか!」

『構うな、殲滅しろ。622』

 

 センサー影響外にあったらしく、この場に隠れていた何機かのMTが、一斉にこっちに向かってくる。その中の二機だけは逃げていくが、俺のやることは一つだけ。全員ぶっ潰すだけだ。

 

 ライフルの引き金を絞り続け、フルオートで何発もの弾丸がロックオンした通りの場所に吸い込まれていくのを見る。

 

 反撃とばかりに手持ちのロケットが俺の機体を狙うが、そんなのはACが機動兵器である以上はどうとでも避けれる。

 横に機動バーニアを噴かせれば、機体制御コンピュータが適切な姿勢を取りつつ、簡単に、かつ高速で回避出来るわけだ。

 

 

 ACは、どれだけ中古のオンボロだろうと、それを構成するパーツは全て一般人が一生を賭けても買える金額ではない。

 その理由は、どれもそれ相応の性能をしているからで、そこらのMTなぞ、どれを取っても屁でもない。

 

 FCSが次の機体に吸い付き、アサルトライフルの安価な鉄鋼砲弾が続けて撃ち込まれる。

 ACのサイズの火器ともなりゃあ、衝撃力はベイラムが使う暴徒鎮圧用の戦車を軽々と越える。

 

 そんなのが撃ち込まれりゃ、いくらMTとは言っても簡単に壊れちまうわけだ。

 

『クソ…!』

『独立傭兵か!? 強いぞ…!』

 

 MTが続けて弾け飛ぶ。

 弾薬が長くなったアサルトライフルの弾倉を認識して、ACが勝手にリロードに入った。

 その隙を潰すように、他の武装──肩部ミサイルユニットが火を噴いた。

 

 ミサイルの直撃をまともに浴びたMTは、姿勢を崩して膝を折る。そこを俺は、リロードの終わったライフルでとどめを刺す。

 それで全滅だ。

 

『金の亡者、め…!!』

 

 MTはそれっきり動かなくなる。

 最後の遺言がそれとは、報われねぇ野郎だ。

 

 俺はジジイから続けてポイントされた地点に向けて機体を走らせた。閉じたシャッターの近くに着地すると、左手を当てて、システムの脆弱部を探り当てると、ACにその部分からシステムをクラッキングさせる。

 

『よし、その先へ進め』

「ん」

 

 指示が入る。

 俺はその通りに外へ出る。

 

 …白い。光源惑星*1の明かりが白色に反射してカメラを直撃するが、すぐにカメラが光の入ってくる量を調節して、適切な明るさになる。

 

 それが雪だと理解すると、より一層、今俺が立つメガストラクチャーが異質に映った。月並みだが、自然を大事にする人間は多いらしい。こういうのの建造には反対の声もあったんじゃねえか。

 

 …なんて、馬鹿なことを考えて、すぐに現実で何があったかを思い出した。

 

 人の声ってのは、よりデカい組織の前では無力だ。

 それにルビコンは、半世紀前の事故で燃え尽きたはずの惑星。そこに人が生きているって事は、生きていく環境が必要だ。

 

 この巨大構造物も、人が生活するためのスペースってわけだろうな。俺がいた木星のコロニーでも、こういう生活圏が何層にも連なってたのを思い出した。

 

 …そう。そうだ。

 あのクソみてぇな鉄とコンクリートまみれの人工惑星。最低限の空気と娯楽。

 

 

 

 

 

 ──退廃的な狭い世界は、僅かに保たれているに過ぎない治安のために、あまりに多くの不幸な子供を産んだ。

 そうした子供達は、教育など受けられるはずもなく、喧嘩やスリ、盗み、そうした手段で生き、適応できない子供は慈悲なく死んでいった。

 

 木星からはぐれた衛星の一つ、S/2-351、通称メティスVIIを核に形成されたメガストラクチャーは、一つの巨大な惑星となった。

 

 木星には、メティスVIIを始めとする、生活用衛星と呼ばれる人工コロニーが多数製造されており、それらは木星権を分譲し合っているベイラム・インダストリーとファーロン・ダイナミクスの二社によって運営されている。

 

 xxも、彼の悪友xxxxも、その一つで生まれたストレートチルドレンだった。

 

 

 

 ……盗み、詐欺、殺し。

 …俺は、生きるために必要な事は、何でもやった。

 軍警を欺くために、そうしなけりゃならねえ。

 

 ベイラムの打ち立てた青少年健全育成プログラムとかってやつに連れてかれた仲間の中で、戻ってきた奴は一人もいなかったからだ。

 

 だのに、何で俺は───

 

 

 

 

『……2…』

 

『6……2…』

 

 

『622、どうした?』

 

 

 

 現実に引き戻される。

 俺は今、何かを考えてた。

 それが何か、もう思い出せなかった。

 

「…何でもねえよ。どうすりゃいい?」

 

『…まあいい。機体の損傷を修復したら、そのままカタパルトにアクセスしろ』

 

 忠告通りに機体ステータスを確認すりゃあ、確かに損傷箇所がある。ただ、それは関節部に集中してるみてえだ。

 ストラクチャー内部への硬着陸の時に負ったダメージだろう。リペアキットを消費して、損傷を修復する。

 

 ACには、全てのパーツの詳細カタログが記憶されたデータが存在しているそうだ。

 リペアキットってのは、機体損傷をただ単純に直すだけのものじゃねえらしい。

 

『見えるか。お前には、あの汚染市街に降下してもらう。カタパルトならこの距離を充分に航行可能だ』

「あいよ」

 

 カタパルトデッキのジョイントに脚部の足底部を嵌め込む。ACが自動で前傾姿勢を取ると、俺も身構えた。

 

《カタパルト、射出します》

 

 二度目の殺人的な重力に、俺は強化人間であることに少しばかり安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

「おいジジイ、こいつは?」

 

 ───モンキー・ゴード。ランク圏外。

 

『目当てのものではないな』

 

「チッ…こいつもゴミかよ」

 

 俺は、戦闘ドローンとかMTが転がる場所で、ぶっ潰れたACの残骸から、使えそうな傭兵ライセンスにアクセスしていた。

 ハンドラー・ウォルターのジジイが言うには、それがこのルビコンで仕事にありつくのに一番手っ取り早いんだと。

 

 死体漁りなんざ慣れたもんだ。そのサイズがAC級ともなると、機体のスクラップひとつとっても宝の山、宝庫なワケだが、生憎と今俺が欲しいのはライセンスであって、換金出来るボロボロのレアメタルじゃねえ。

 

『…待て、もう一つ反応がある。先程お前が通った場所に垂直カタパルトがあるのが見えるか?』

 

「おう」

 

『よし。そのカタパルトで向かった先に目的のものがある。マークしておく、そこを目指せ』

 

「わかったよ…アレだな」

 

 レーザー誘導ポインターが四基接続され、垂直方向に伸びていく、ランチャーらしい機械。リフトを勢いよく上に跳ね上げ、積載物を上空へ持ち上げる方式みてえだ。

 

 それに脚を乗っけて動かす。

 

「ぐ…」

 

 加速。

 三回目だが、まだまだ慣れねえ。

 ACが自前のバーニアでやるスピードの加速と違って、外部の電源に頼るこいつのパワーは、瞬間的な加速だけなら旧世代の戦闘機を優に超える瞬間速度を叩き出せるらしい。

 

 上へ上へ。

 スピードが落ちてきた頃、そこは見えた。

 

 何基かの変電施設に、真ん中にでけぇクレーター。その中心地から僅かに逸れるようにACが倒れてやがる。だいぶボロボロで、動きそうにもねえしレストアも出来なさそうだ。

 

「アレか?」

『そうだ。周辺に敵影は確認できん。そのままアクセスしろ。内部解析はこちらで並行して行う』

 

 倒れたACの前に着陸し、左手を当てる。スキャニングが始まる。機体構成は、俺の機体に似てる。が、ライフルと小型の機関砲…マシンガンを搭載しているようだ。何よりも目立つのは、資源採掘用の杭に似た手持ち兵器だ。

 

「…終わったか?」

 

『………ああ』

 

 死骸の観察をしてる間に解析は終わっていたらしい。俺の言葉からやや空けて、ジジイは言った。

 

『手に入れたライセンスの詳細を───待て』

 

「あ?」

 

 咄嗟に言葉を止めたジジイに、俺は不吉な予感を覚えた。こういう時、待てだのなんだの言う奴がいる時は、大抵何かある。

 で、その予感は的中する。

 

「うおおっ!?」

 

 目の前が赤い炎に包まれ、思わず後ろを飛び去る。爆発は運良く俺をかすりもしなかったが、俺を仕留められていないとわかった敵は、Uターンしてこっちを狙ってきやがった。

 

『…これは…サブジェクトガードの重装戦闘ヘリか』

 

 変電所を遠方からロケットで爆撃する、何か。

 あれがジジイの言う通り監視部隊(サブジェクトガード)だとして、少し過剰すぎやしねえか。

 

『本来なら危険視されるような事は避けたいが…今はお前には何の情報も無い。足がつくことはないだろう。排除しろ、622』

 

「簡単に言うんじゃねえよジジイ!」

 

 排除…など簡単に言いやがるが、あのサイズを飛ばせるって事はジェネレータも相応に強力なものを積んでんだろう。

 

 航続距離でも速力でも、逃げ切れる相手じゃねえ。やるしかねえか。

 

 ミサイルやライフルを撃ち込み、様子見をする。爆発は確かに装甲にダメージを与えているようだが、ライフルは一定距離以上だと急速に威力が減退する関係か、貫通をしねえ。

 

 距離は……400強か。

 銃器には性能を保証する最低距離っつうのが存在するらしいが、このACの詳細なカタログスペックなど知りもしねえ以上は、実戦で慣らしていくしかねえか。

 

『622、敵機体下部の大型グレネードキャノンには注意しろ。爆風は避けていけ』

「いちいち……ぐおっ?! …うるせえぞジジイ! それが出来てりゃあ苦労しねえんだよ!」

 

 警告音から数秒も待たずに爆撃がやってくる。イラついて言い返しながら、ACの状態を確認した。

 

 いや、確認するまでもねえ。直立姿勢を保てなくて、膝を折って動けなくなってるみてえだ。

 ACS…姿勢制御システムが立ち直るまで、ACの動作制動は保証されねえ……つまり、動けねえ。

 

『そのままでは次の被弾でやられるぞ』

 

 言われずともだ。

 リペアキットが消費され、今度は機体の前面装甲と内部駆動系、特にエネルギーを各部位に供給するための電力回路が修復される。

 

 動けるようになったところで、まだ敵の攻撃は続いてやがる。奴の馬鹿でけぇグレネードに目が行きがちだが、本命はACSにダメージを蓄積させるためのガトリング砲門とマイクロミサイルだ。

 

 つまり、近づく奴は迎撃機銃とミサイルで追い払い、逃げていく奴はグレネードで追い詰める。火力だけじゃねえ、計算され尽くした機体設計ってワケだ。

 

「舐めやがって…!」

 

『622、落ち着いて対処をしろ。小口径弾では奴の内部には大したダメージは与えられないようだ』

 

「見りゃわかる!」

 

 奴にもコクピットは存在するだろうが、キャノピーらしい部位は小さすぎて、狙って当てられるとは思えねえ。かと言って動力部を直接狙うにも、肉厚すぎるフレームは流石にライフルじゃあ貫けねえ。

 

 となりゃ、メインローターを直接狙うか。

 

 作戦はそれでいい。だが手段はどうする。コンソールに目を落として、他には何か武装はないか見てみる。

 

 ……HI-32 : BU-TT/A 。

 

 いわゆるブレードってやつか。

 昔、木星戦争で活躍したっつう傭兵が、自分の宣伝のためにテレビでプロモーション映像を流してやがった記憶がある。

 

 そいつが確か、派手を好むいけ好かねえ野郎で、レーザーのブレードを使ってた。

 

 こいつはちょっと違う…パルスブレードってやつのようだが、いずれにせよブレードなら特段変わりねえ。

 

 こいつを発振し続けりゃ、少なくともツインローターの片方程度なら切り裂いて叩き落とせるはずだ。

 

 問題は…。

 

「クソ…なんつぅ弾幕だよ…」

 

 単純に、火力の差だ。

 この場で言う火力ってのは、弾頭の威力を示すものだけじゃねえ。同時に向けられる銃口の数……一瞬で撃てる弾の数の事でもある。

 

 そいつが、ACに乗る俺は、ライフルとミサイルの二つしか使えねえのに対して、だ。

 

 少なくとも八発以上のグレネード弾に、何門かも分からねえガトリング砲、無数のミサイルポッド。

 それが、向こうの持つ火力。

 

 俺でも分かる。

 ()()()()()()()()()()()()ってワケだ。

 

 そんなナメた言い訳、したくねぇ。

 だったら、向こうが持ってねえモンで向こうをぶっ飛ばしてやる。

 

「…ぉぉぉおおああ!」

 

 弾幕の中を、コア部ブースタを全開出力で突っ切る。グレネード弾が二発掠めて、ガトリングに至ってはモロにコアに受けた。

 

 だが、必要な事は全部終わった。

 あとは───

 

 

「───ラァッ!!」

 

 ──捕まえたぜ、クソヘリ野郎。

 

 アサルトライフルを投げ捨てて、AC右マニピュレーターを、キャノピー部に叩きつける。それは質量を伴って風防をぶち破り、ヘリに俺のACをガッチリと固定した。

 

 その勢いのまま、俺は左腕のパルスブレードを発振し、ヘリの胴体部へ突き立て……そのままローター機関部に向けて切り上げた。

 

 

 

 

 

 

 ……上への推力を失ったヘリは、そのまま墜落していく。俺は腕を引き抜き、少し離れた場所に着地した。

 

 ヘリに突っ込ませた右腕が、見る影もねぇくらいボロボロだが、そんなのはどうでもいい。

 

 ……()()()()()()()()()()

 

 格下が格上を潰す。言ってしまいやぁそれだけだが、それを成した事そのものに意味がある。頬がニヤケちまうが、それは俺が今力を持っていることの証に他ならねえワケだ。

 

『…よくやった、622。 お前のライセンスだが』

 

「あぁ? …今は余韻に浸ってンだよ。後にしろよ」

 

『…まあいい。お前には休息も必要だ。先にライセンス名だけは伝えておく』

 

 ジジイは続けた。

 

『レイヴン』

 

 …これが、ルビコンでの俺の名前だ。

 

 

 

 

*1
太陽など、他惑星に熱や高い光量を供給する惑星のこと。かつては太陽に類似した特徴を持つ恒星がソーラータイプと呼ばれていたが、人類が太陽系外へ進出すると共に、地球に似た生活環境とソーラータイプを有する複数の惑星を発見すると、それら太陽は纏めて光源惑星と呼ばれるに至った。

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