少しズレた刻を   作:続く(続かない)

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アーキバス輜重部隊殲滅

 

 

 

 

「……で、なんでベイラムなんだよ」

 

 デバイス付きの車椅子に座る俺は、ハンドラー・ウォルターのジジイが端末に送信してきた傭兵宛ての依頼を確認させられていた。

 強化人間手術の影響で肉体が不自由だってのは、まだいい。俺より二回りも上のジジイに介護されんのも中々に耐え難いが、我慢できねぇとまでは言わねえ。

 

 だが、仕事相手がベイラムなのは許せねえ。

 連中はクソだ。ゴミだ。

 

 奴らは俺がつるんでた連中をマシンガンでミンチにするような連中だ。俺が7か8くらいのガキの頃、所属してたグループの大人がMTに薙ぎ払われたのも、ぼんやりと覚えてる。

 

「前回の依頼で、ベイラムからの公示はこなしていただろう。今回はお前が直々に指名されているというだけの違いでしかない」

 

「そういうんじゃねえんだよ。奴らはクソだぜ。こいつらの仕事を受けるぐれえなら、俺ぁアーキバスかルビコニアンの仕事を受けんぜ」

 

()()のなら、それでも構わないがな。生憎と、今はベイラムからの依頼しか届いていない」

 

 ため息を吐いて、おれはその映像を再生した。

 

 

 ───独立傭兵レイヴンへ伝達!!!

 

「ぐああっ! うるっせえ!!」

 

 俺はすぐさまモニターをダブルタップし、出てきたメニューの音量調節バーをすぐさまゼロギリギリにした。

 こないだの仕事の帰り際、ヘビーメタルを聞き流すために音を最大にしてたのを思い出して、犯人が俺だったことに辟易した。

 

「大丈夫か?」

「心配されるまでもねえ! …クソ」

 

 今度こそ、音量は問題ないことを確認した俺は、そのまま再生を続けた。

 

 ───我々の情報網が、ある情報を掴んだ。

 

 若い男の声が、モニター越しに、かつ一方的に仕事の概要と詳細を告げ始めた。

 

 

 

『アーキバスの強化人間部隊、ヴェスパーが我々ベイラム《レッドガン》の相手である事は、貴様も知っての通りだ。しかし敵はそれだけではなく、ルビコン解放戦線も対象であり、我々は三つ巴の様相を呈している。

 

 今回の作戦では、アーキバスを弱体化させる事で、我々のコーラル湧出状況の調査を有利に進める狙いだ。

 

 そこで、我々が掴んだ情報である。

 

 貴様には、一昨日ルビコン入りしたヴェスパーの輸送部隊を撃滅してもらう。作戦区域はベリウス、汚染市街外縁部にあるアーキバス仮設前哨基地。

 

 情報では、直掩に当たるMTの数はさほど多くないようだ。貴様にとっては、我々レッドガンからの信頼を手堅く得る好機でもある。

 

 また、ベイラムは敵性勢力所属の兵器撃破対し、追加報酬を用意している。この際、敵の戦力を少しでも減らしてもらおう。

 

 レイヴン。先日の公示で鳴らした腕を、もう一度振るってもらおう!』

 

 

 

 

 

 

『622、機体調節は終わったか?』

 

 タブレット画面に則って、ガレージのアームにACの最終調整をさせていたところに、ジジイは話しかけてきた。もう終わるところだったのもあって、俺は適当に相槌を打った。

 

「ああ。しっかし、傭兵ってのは自由でいいぜ。稼いだ金を好きに使えんだからよ。企業所属なんざ考えただけでゾッとすらぁ」

 

『傭兵も自由ではない。多くの場合、金勘定から仲介人との連絡まで、全て一人でやらねばならん。その点は俺がやるが……』

 

 ジジイは少し口ごもった。

 

「その辺りは楽させてもらうからな。仕事はきっちりやりゃいいんだろ?」

 

『ああ』

 

 事実、この数日の間に4か5回くらいは公示で稼がせてもらったし、その稼いだ金は全部俺の物だ。

 

 それならといくつか性能の良さそうなパーツを見繕ってカタログを送信したら、ジジイは次の日には空輸で送られてきたと言うし、俺のACガレージにそれらのパーツをズラっと並べやがった。

 

 ACパーツってのは金の山だ。扱っても作っても、バラしても金になる。そいつを俺は、中古のオンボロなんぞじゃなく、ピカピカの新品を買ったという点で感動しちまった。

 しかも転売のためじゃねえ。

 

 自分で使うためだ。

 

『ベイラムの二脚をベースにしているな』

 

 気に入らないんじゃなかったのか? なんて聞いてきそうな声色だ。俺はガレージのアームに自分をACのコクピットシートまで運ばせながら、ジジイに言った。

 

「言っとくが、パーツ性能で選んだだけだ。邪推してんじゃねえ」

『なら、そういう事にしておこう』

 

 ベイラムの中量二脚型…MELANDARをベースに、レーザーライフルやマシンガン、ミサイル、シールドと、中々手堅く纏まった機体に仕上がってる。

 

 ジェネレータも新調して、BAWS製の上位機種に切り替えたが、試運転じゃレーザーとの相性も良くて中々ゴキゲンだ。

 アセンブルの才能があるのかもしれねえ。

 

 ただ、そういう後ろで細々とした作業ってのは好まねえ。やっぱし前線で派手にドカドカ、これに尽きる。

 敵が吹き飛ぶ様は見ていて痛快だしな。

 

 バン、とコンソールを叩けば、ACのメイン電源が立ち上がる。アイドリング状態だった機体が、熱を帯び始めた。

 

『622。お前にとって初の名指しの依頼だ。お前の価値を証明してこい』

 

「言われるまでもねぇ。とっとと自分の人生を生きてえもんだ」

 

 慣れからか軽口を叩いて、俺は運ばれるがままAC輸送ヘリから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 風を切る感覚。

 実際には、俺はACっつう鎧を纏っているからそれを感じることはねえんだが、そう表現するのが似合ってる。

 

 高所から、地面を目掛けて飛び降りるのは、本来の生身なら自殺行為だ。

 

 だが、こいつはAC。

 自由落下の速度を軽々と上回るブースター上昇推力があれば、落下の衝撃はノーダメージにまで軽減できるワケだ。

 

『622、直下のMT部隊がお前を捉えている』

 

 ズームインしたカメラが敵MTの稼働状況を捕捉した。連中、俺に気付いて大慌てでMTに乗り込み始めていやがる。

 

 警備シフトを交代する最中だったんだろう。

 何機かのMTはこっちを目掛けてミサイルやらグレネードやらを飛ばしてくるが、まだ1,500m程度は離れているからな。そうそう当たりゃしねえ。

 

 それよりも。

 輸送部隊という割には、運んでいる物資が少なく見える。見たところ、トラックやらは確かに存在する。だがそいつらだけで今このルビコンで戦っているアーキバスの部隊の腹を満たせるかと言やぁ、多分無理だ。

 

 何せトラックは3台しか見えねえ。

 あれを潰すのは簡単だ。何ならそこらのMT部隊でも簡単にやれんだろ。

 

『射程圏内に入った。全て破壊しろ』

「ん」

 

 ライフルが届くくらいの距離…つまり、300mくらいの距離に入った。その頃にもなりゃあ、ミサイルだってロックオンはフルで完了してる。四連装ミサイルとマシンガンを何発か単機に撃ち込んでから、次はとりあえず一番近いMT相手にレーザーを向けた。

 

 ライフルが放つ青い光線は、たったの一撃で敵MTを半壊に追い込む。敵が使ってる機体は、耐熱エネルギー装甲というのが発達していない機体らしい。

 

 地面が近づく。

 

 着地しながら、FCSの通りにレーザーライフルをもう一発撃ち込み、次は完全にMTを破壊した。

 

「ジジイ、作戦内容は!」

 

『敵輸送部隊の完全壊滅だ。MT及び輸送トラック、それに類する物体は全て破壊しろ』

 

 俺が聞いて覚えてんのと同じ内容だってのをもう一度確認して、今度こそレーザーを次のMTに向けた。

 

『ACだ!』

『ルビコニアン…いや、ベイラムの差し金か!?』

 

 傍受してるっつう通信からして、連中はどうにも焦っているみてえだ。この勢いを殺さず、速攻で沈めてやる。そうすりゃあ大した苦労もなしに依頼を終えて金を貰えるワケだ。

 

 マルチロックを終えたミサイルが、二機のMTに殺到する。そのままレーザーを一発ずつ、合計二発撃ち込んだ。

 面白えほど呆気なく死にやがる。

 

『第8隊長を呼ぶんだ!』

『輜重部隊長補佐官殿なら、来て下さるはずだ!』

 

 俺はその間もMTを排除し続ける。

 最後の一機が逃げようとするのを、レーザーライフルから放たれた一本の光条が永遠に止めた。

 

『ヴェスパーなら……貴様らなぞ……!』

 

 爆発。

 こいつは死んだ。

 

 MT部隊が死に際に吐いた言葉を、俺は聴き逃さなかった。ジジイもそれは同じらしい。

 

「おい、聞いてたよな。情報はあんのか?」

 

『ヴェスパー所属、第8隊長、輜重部隊長の補佐官……これだけあれば特定は容易い。間違いなく、ヴェスパーの第8隊長ペイターの事だろう』

 

「AC乗りか?」

 

 端的に聞く。

 

『ああ。戦闘データはまだ得られていないが……機体構成はベイラム側のバウンティボードで確認できる。二ヶ月前の情報のようだが、概ねこれに近いACに乗っているはずだ』

 

 ジジイの言葉の後に、俺の機体のコンソール画面に一機のACデータが送られてきた。指でそいつをタップすると、データファイルを開くかどうかの確認が出てくる。そいつをもう一度タップしてやりゃあ、一機の逆関節ACのデータが見えた。

 

「こいつか」

『そうだ。このACが来る可能性は充分にある。トラックを破壊し、速やかに退避しろ』

 

 それは、ジジイが俺には対AC戦闘は力不足だと、暗にそう言っているみてえで、気分が悪かった。

 

「ジジイ、今回のベイラムの依頼で得られるACの破壊報酬と、バウンティボードの報酬と合わせたら、いくらになるよ」

 

『………ざっと、18万コーム前後だな』

 

「決まりだな。俺はもっと強え機体が欲しい、テメェは俺を使って仕事を終わらせてえ、利害は一致してんだろ」

 

 理詰めってワケでもねえが、戦い以外でも俺は知恵を絞れるらしい。ある程度のリスクを取れなきゃあ、このルビコンで誰かを出し抜くなんて真似は到底できねえ、それをジジイも理解しちゃいるんだろう。

 

『……いいだろう。622、トラックを破壊したあと、ACのジェネレータを省電力に切り替え、身を隠せ』

 

「了解〜」

 

 気分よく返して、俺はレーザーライフルを続け様に三発、トラック共に撃ち込んだ。

 大した装甲も持たねえ輸送用トラックなんざ、このレーザーの前にゃチリ紙同然の耐久性しかねえ。三両全ての破壊を確認すると、ジジイは続けた。

 

『よし。機体電源を落とせ』

 

 俺は、ACの電源を省エネルギーモードに切り替えて、崩れたビルの隙間に身を潜めた。

 

 いつ頃来るかね。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 暖房も利かねえルビコンの気候は、強化人間にはちと厳しいモンがある。ジャケットのひとつでも羽織れりゃあいいんだが、うなじにコネクターがある都合、そこだけ何かしら工夫した服じゃなきゃならねえ。

 

 そうなると、普通の民間市場が売ってるようなジャケットは着れなくて、軍需品なんかを漁るしかないワケだ。企業の軍なら強化人間を運用する連中も多いからな。

 

『622』

「…んだよ」

 

『無事のようだな。AC反応が近いぞ』

 

 問いかけにぶっきらぼうに返したつもりだが、ジジイは気にも留めずに続ける。ただそれは俺にとって待ち望んだものでもあった。

 

「ようやくかよ。規模は?」

『ACは1。護衛のMTが3。仕掛けるなら、アウトレンジからMTを削れ』

 

「それで行くか。もう起動していいのか?」

 

『待て─────よし、今だ。やれ』

 

 

 ACが起動した。

 廃ビルの隙間を縫うように撃ち込まれたレーザー弾が、MTにあるコア基部を真ん中から吹き飛ばす。

 

『なっ、なんだ!?』

 

『慌てないでください! 十時の方向からの射撃です。身を隠してください!』

『隊長、支援します!』

 

 一機破壊だ。

 MTをあと二機潰しゃあ、奴と対等にタメ張れるワケだ。次弾のチャージを進めながら、俺はビルに身を隠しつつ狙撃ポイントを変えた。

 

『機体反応は近いのに…見失ってます!』

『このままじゃ、いつ次が来るか……ぐぁっ!?』

 

 撃ち込んだ瞬間、傍受先から悲鳴が聞こえてきた。生きてはいるみてえだが、股関節を真ん中に吹き飛んでて、コクピットがかろうじて無事って状況ならもう戦えやしねえだろう。

 

『いました! 移動しています…八時の方向、あのビルの屋上に!』

 

 その言葉と同時に、敵MT、ACと目が合う。カメラアイ越しとはいえ、殺意ってのが感じられてゾクゾクしてくる。

 

『貴殿は…確か、独立傭兵レイヴンですね。昨日は我々アーキバスグループからの公示を受けていただき、感謝しています』

 

「…イカれてんのか? 俺らぁ戦闘中だぞ!」

 

 どれだけ几帳面なのか、空気が読めてねえのか、それは次でわかった。

 

『…ですが、ベイラム側の依頼を遂行する気でいるのであれば、私は貴殿を全力で排除します』

 

 やつのACの真価は、軽量逆関節特有の加速力を存分に活かした、ヒットアンドアウェイらしい。

 急速に接近してきたかと思うと、パルスガンとパルスキャノンをありったけ浴びせてきやがった。

 

 パルス技術っつうのは、特定の形の波形で纏めたエネルギー形を、その媒体周辺に固着させる事ができる技術だというらしい。

 で、パルスガンってのは、エネルギーの波形を低速の弾丸としてACにぶつける速射砲。射程もクソもあったもんじゃねえが、至近距離でその連射を浴びた時はヤバい。

 

 みるみるうちにACのコンソールにレッドアラートが増えていく。

 しかも。

 

『アラートだ、避けろ。622』

 

「クソッ!」

 

 グレネードが飛んできやがった。

 それ自体は何とか躱したが、脅威度の高い援護射撃があるってだけで動きにくくて叶わねぇ。

 

 犯人は残り一機のMTだが、友軍ACを挟んだ位置取りを徹底しやがるせいで、俺はすぐさま手を出せねえのに向こうは遠慮なしにバンバン撃ってやがる。

 

 それにあのACの事もある。

 奴は速えだけじゃねえ。見たところEN限定のようだが、火力まで備えてやがった。

 

 俺は画面を二度タッチし、リペアキットを消費して装甲補修を片手間に反撃した。

 レーザーライフル特有の曳光を描く高速弾と、ベイラム製小型マシンガンの弾幕は、いくら速度に優れる逆脚ったってそうそう避けられるもんじゃねえはずだ。

 

 実際、レーザーが装甲を削って、マシンガンが機体各部にバラけて当たることで、姿勢制御の不安定化を狙ってる。

 極めつけに、ミサイルを撃ち込んでやる。

 

 ミサイルってのは、自動誘導弾の総称なワケだが、AC用のそれは速度より誘導性能が重視される傾向にある。

 それは、速度で翻弄する相手よりも、脚の遅い機体を確実に潰す方が敵勢力の摩耗ってのは早えからだ。

 

 速度重視の結果、動く相手を追い越して当たらねえなんて事になるよりも、誘導性を高めて確実な命中を見込める方が優秀である、と判断されたっつう経緯があるらしい。

 

 何でこんなに知ってるかって言うと、傭兵支援システムとかいうAIが兵器の生い立ちを懇切丁寧に、耳にタコができるぐれえ、うんざりするほど説明してきやがったからだが──

 

『クッ…』

 

 ──敵の逆脚は被弾を嫌って飛んで避けやがった。それは、機体コンデンサー内エネルギーを消費する避け方。

 ミサイルにはそういう使い方もあるって事だ!

 

「しゃあ! 死ね!」

 

 レーザーライフルをチャージし終え、俺は狙い澄ましたその位置に向けて銃口を向け、トリガーを引き絞った。

 

『それは……ぐうっ!』

 

 被弾! …したかと思ったが。

 やつの肩から伸びる何かが、レーザー弾を受け止めやがった。俺のシールドに似ちゃいるが、より短時間でより強力なモデル……。

 

(バックラー…汚ねえ手を使いやがる)

 

 今まで確認できなかったのもあるが、二ヶ月前のACデータじゃあこいつの肩にはミサイルが積まれていた。

 さっきの肩パルスキャノンといい、パルスバックラーといい、古い情報ほど当てにならねえもんはねぇ。

 

「ジジイ! 俺が押してるように見えるか?」

『マシンガンによる継続した被弾で、奴もリペアキットを用いている。勝率は半々だが…』

 

「そういう時は素直に俺が勝つって言いやがれ…!」

 

 コアのアサルトブースターにエネルギーが充填され、僅かな推進剤の消耗を引き換えに莫大な推力を得る。俺が狙ってんのは、ただ一つだ。

 

『…来ますか!』

 

 奴は何を考えたか、パルス弾の弾幕を張って俺を近づかせねえ狙いのようだが、俺は奴には()()()()()

 奴の脇を通り過ぎ、残るMTにレーザーライフルを放った。

 

『狙いはこっちか! クソッ!』

 

 グレネード弾が俺の脇を掠め、僅かに後ろで爆発する。俺は二発目のレーザーを撃ち込んだ。

 

「おっ! …っと、へッ、惜しかったな!」

 

 焼け溶けるMTをバックに、俺はいよいよ逆脚のACとタイマンを張る形に持ち込んだ。

 

『直掩機を全員…やってくれましたね、レイヴン』

 

 逆脚はそのまま建物の壁を蹴り、速力を得て俺の上空を取る。俺はパルスシールドを構えながらレーザーライフルとミサイルをばら撒き、一定距離を保つための牽制射撃を続ける。

 

「テメェの賞金でもベイラムから受け取れりゃ、今日ぐれえ気分よく寝られるだろうよ!」

 

 二発目のチャージ・ショットが、今度はバックラーを貫通した。

 いや、正確にはACS負荷の許容限界にバックラー側が耐え切れなかったと言うべきか。

 

『何…!?』

 

 そこまで被弾が嵩張っていたのか、と後悔する間も無かったんだろう。三度目のチャージを終えたレーザーライフルの光とアラート音を前に、逆脚は回避機動を行ってエネルギーを吐いた。

 

 それこそが、狙いだった。

 

 俺はクイックブーストをして、チャージ射撃をキャンセルし、次に着地した地点でもう一度、今度はチャージを繰り返す必要もなく、一から強力な集束弾を放った。

 

『私が、傭兵に…!?』

 

 逆脚野郎の機体は、飛び上がって避けた先でレーザーに当たり、弾ける。

 

『この事を、閣下に報告しなくては…!』

 

 ACは吹き飛ぶが、悲鳴は一向に聞こえてこねえ。ジジイからの通信が入ってくる。

 

『……622。敵はどうやら、ベイルアウトしたようだ。バウンティ側の報酬は望めなさそうだぞ』

 

「やり合い損ってわけか。ま追加報酬の方は貰えるだろ、機体はぶっ潰したんだしよ。そこら辺は上手く交渉しとけよ」

 

 俺がそう言ってから帰投のために飛び上がると、ジジイはため息混じりに言った。

 

『…まあいい。その辺りの調整はこちらでやっておく。帰ったら充分に休んでおけ』

 

 ジジイからの通信は、それで終わった。

 仕事は終わりだ。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 数日間も何もねえと、流石にACの腕が鈍っちまうと思って、シミュレーション上で機体を動かしちゃいるが、やっぱデータダイビング方式とリアルとじゃ、動き方が違ぇ。

 

 使い方にも慣れてはきたが、どうにも自分で動かしてる感じがしねえ。例えるなら、ドライブゲームがあって、そいつで車を運転すんのと実際に運転すんのとじゃ感覚も何もかも違うっていうイメージだ。

 

 操縦に関してダメ出しをする相手がいなきゃあ、ドライブゲームなぞつまんねえだろうよ。

 

 

 ……この数日間で俺は、自分が昔どういう人間だったかに想いを馳せる時間が増えていた。

 というより、覚醒した時は覚えていたことが、今になって思い出せなくなってきたと言う方が正しい。

 

 俺の生まれ故郷、親兄弟、仲良しの親友。

 

 ………俺の名前。

 

 きっと、誰にでもあって、誰もが決して忘れないようなモンを、俺は間違いなく忘れてる。

 消失したってのが正しい。

 

 欠けたワケじゃねえ。

 それを言うなら俺じゃなく、俺が想起するそいつらに当てはまるモンのはずだ。そいつらの記憶からは、俺だけがゴッソリと失われてるって事なんだからよ。

 

 だから、一番孤独になれるコクピットの中に、数時間は閉じこもる事にした。ジジイにも特殊な事情がねえ限りは干渉してくんなって言い含めてある。

 

 そうする事で、何かを思い出せる気がしたんだ。

 

 …結論から言やぁ……。

 ……何も思い出せなかったワケだが。

 

 

 

 はぁ、なんて小せえため息を吐き出しながら、コクピットを開き、ガレージアームに俺を持ち上げてもらう。この不自由な全身にも慣れたもんだ。

 そのまま車椅子に乗り込むと、付属タブレットに何件かメールが来てることに気付いた。

 

 それを上から順番に開いていく。幾つかは新規商品の広告だったりするだけのくだらねえものだが、中にはボイスメッセージも含まれてやがった。

 

 俺は興味本位で、その一番上のメッセージを再生した。

 

『独立傭兵レイヴン!』

 

 レッドガンの喧しい野郎だ。音量は適正なのを確認して、続きを再生した。

 

 

 

 

『まずは、我々ベイラムの依頼を完璧に遂行してくれたこと、礼を言おう。それから、戦闘データも拝見した。

 

 貴様が交戦した相手は、確かにアーキバスの強化人間部隊ヴェスパーのナンバー8、V.VIII ペイターに間違いない。同時にこちらで対象がベイルアウトしたことも確認済みである。

 

 そのため、貴様が当初要求していたバウンティ報酬に関しては支払う事はできん。だが、貴様の働きで敵ACのうち一つを再起不能にした功績は、ベイラム軽度戦闘勲章物である。

 当初のAC撃破報酬に加え、特別手当も報酬に加算しておいた。これはミシガン総長から貴様に当てての特別報酬である。光栄に思え。

 

 以上だ!』

 

 

 

 

 そこで通信は切れた。

 随分と長ったらしい弁舌をタラタラと垂れてくれたが、早い話、あの生意気な逆脚野郎の討伐報酬は出ねえが、AC撃破報酬は特別に上乗せしてくれたってところか。

 

 で、次だが、差出人がアーキバスなんだよな。

 所謂ファンメールって奴じゃ無さそうだが、さて中身は……と。

 

 

 

 

『…先日は見事な腕前でした。独立傭兵レイヴン。アーキバスグループとしては、貴殿のような傭兵がアーキバス所属戦力となる事を心より願っているのですが、それは各々の事情により難しい事でしょう。

 

 そこで、私はこれからも貴殿に対し、多くの依頼を斡旋したいと考えております。恐らくはどれも高難易度の遂行確率となるものですが、ヴェスパーの末席とはいえ、強化人間のACを相手取る腕前の貴殿であれば、問題なく遂行できるものであると信じております。

 

 …申し遅れました。

 私は傭兵起用担当、V.VIII ペイターと申します。

 

 以後、お見知り置きを。』

 

 

 

 それで終わりみてえだ。

 中身は、先日俺が負かした男からの悔し半分のボイスメッセージってところか。

 だが、優先して報酬の高い依頼を回してもらえるってのはありがてえ。俺にはとにかく金が必要なワケだしな。

 

 どうせ命が危険に晒される事には変わらねえんだ。傭兵たるもの多少は貪欲に、どうせならハイローラー気質で臨むのも悪かねぇ。

 

 んで、最後のメッセージ。

 差出人は、あの鬱陶しいオールマインドからだ。AIの癖して嫌に饒舌に喋りやがるもんだから、ACパーツショッピングの間なんざ、パーツ説明を右から左に聞き流しながら吟味してたもんなァ。

 

 

 

 

『独立傭兵レイヴン。

 

 貴方の活躍が認められ、ログハント・プログラムへの参加権限が付与されました。

 オールマインドの指定する機体を撃破の後、戦闘データを提出ください。

 

 データを多数提供頂いた傭兵各位には、報酬も用意しております。奮ってご参加ください。

 

 そして、もう一つ。

 先日ご購入頂いたミサイルの性能を拡張する、幾つかの新規FCSチップのご提案を────』

 

 

 

 もううんざりだ、このポンコツAIが!

 

「622」

 

「あぁ!?」

 

 俺が端末を殴りつけたあたりで、ジジイが話しかけてきやがった。俺が怒りを隠そうともせずに聞き返したが、何処吹く風って雰囲気だ。

 

「そのうちお前も知ることになる事だが……お前は今までの旧型強化人間に比べ、聡い。今のうちに話しておく」

「なんだよ、そんな顔しやがって」

 

 いつも神妙な顔つきが、今はいつにも増して皺を深く刻んでやがった。

 

「…お前よりも前の、部下達の事だ」

 

 

 

 

 

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