少しズレた刻を   作:続く(続かない)

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ガリア多重ダム乱戦

 

 

 

 

「で、早速アーキバスかよ」

 

 このやり取りも何度目か分からねえが、ウォルターのジジイは仕事のため……というよりも、俺の実績作りの為にせっせこ奔走しているようだった。

 

「それだけ、お前がV.VIIIを撃破した功績が連中の記憶に新しいということだろう。これはお前の実力が運んできた仕事と言える」

 

 仕事の内容は、先んじて依頼内容を見聞きしたジジイが掻い摘んで説明するところ、ガリア多重ダムとかいう治水ダムのインフラ破壊らしい。

 改めて、自分でも内容を精査すべく、メールボックスから依頼テキストとボイスメッセージを開いた。

 

 

 

『先日ぶりですね、レイヴン。V.VIII ペイターです。

 

 今回の仕事は、当社系列企業シュナイダーからの依頼になります。アーキバスとシュナイダーは、貴殿の腕を高く評価しており、このミッションは貴殿の実力を発揮するに相応しいミッションであると考えております。

 

 さて、我々ヴェスパーは、ルビコン解放戦線の重要インフラである治水ダム、通称ガリア多重ダムの徹底的な破壊に踏み切りました。これにより、同エリアでのルビコニアンの活動を抑制し、対ベイラム戦線に集中する狙いです。

 

 貴殿には、その実力を存分に活かして欲しく、我々ヴェスパーのACと共に、ガリア多重ダムを襲撃して頂きます。

 

 破壊目標は、ダム各隔壁上部に位置する変電設備です。これを破壊してください。

 

 尚、多くのルビコニアンによる抵抗が予想されますが、撃破数に応じて報酬を加算させて頂きます。詳細は、添付したマニュアルを参照ください。

 

 説明は以上です。

 貴殿であれば、この依頼は難なく遂行できるものであると、私は固く信じております』

 

 

 

 ペイターとかいう奴は、どうにも胡散臭えニオイがしやがる。で、こういう奴は往々にして何かを企んでいるモンだ。相場が決まってる。

 

『622。ガリア多重ダムは多くのルビコニアンが生活の要とする発電インフラストラクチャーだ。それを破壊する事は、何より多くの人々が路頭に迷うことを意味する。お前が望むのであれば、俺が他の依頼を───』

 

「あのな、ジジイ。俺ぁ金が手に入りゃなんでもいい。現地人がくたばろうが何しようが、俺とジジイが得するような内容なら、俺は構わねえんだよ」

 

 ジジイは、僅かに逡巡するが、すぐに止めた。思うところはあるらしいが、俺と同じく目標を前にして手段を選ぶほど余裕があるってワケじゃねえらしい。

 

『…なら、これ以上は止めん。お前が選んだ仕事だ、必ず物にしろ』

「当たり前だ」

 

 

 ACは、こないだの仕事で得た報酬を元手に、さらに強化を重ねた。ブースターをファーロンの第1世代型のオンボロから、第2世代型の通常推力特化に変更した。切り返しは速くないが、動かしやすい良いACになったと言える。

 

 加えて、FCSもベイラム製のハイバランスタイプに切り替えた。近距離、中距離、ミサイルロック性能と、交戦距離を選ばない性格が気に入った。どの距離でも殴りに行ける点は俺にとっちゃ好ましいもんだ。

 

 

『622、ACの整備は──済んでいるようだな。 ……話は変わるが、機体名は変えないのか?』

 

「あ? ……あ〜…。 確かに、ずっと《LOADER 4》なんかじゃ味気ねえしな。帰ってくる時まで考えとくわ」

 

『そうするといい。愛着の湧いた機体なら、お前も長く使っていけるはずだ』

 

 考えたこともなかった。

 

 最初から積み込み機四番機(LOADER 4)なんざ名付けられたACを渡されたんだ、ずっとこの名前で行くつもりだったが、持ち主本人に変えねえのかなんて言われたなら、どうせなら自分の好きなように変えてしまいや良いか。

 

『よし。作戦地点まで輸送する。現地で合流するACとは、俺が掛け合っておこう』

 

「頼むわ。仕事に備えてちょい仮眠する。着いたら起こせよ」

 

『いいだろう、少し休め』

 

 俺は瞼を閉じた。

 ちょうどいい、周りはちょいとばかし喧しいが、目を瞑って昔のことを思い出す努力でもしてみるか。

 

 

 

 

 

 

 ───やべえぞ、レッドガンの警邏隊だ!

 ───散れ、散れ!

 

 

 

 ──向こうの不良グループが、ひとつ潰されてやがる。噂だと隣町の-----とかいうチンピラが仕切ってた所が、オシャカになったらしいぜ。

 

 俺は隣に座って安いサラダチキンを頬張るそいつに話した。

 

 ──みてえだな。連中、銃撃ち込んででも解散させて、バラバラのところを捕まえるそうじゃねえか。

 

 そいつは、半ば諦め気味に、笑いながら言った。自分たちにそれが降り掛かってくるのなら、そりゃ笑えねえが、どこの誰とも知れねえ赤の他人がボコボコにやられてる分には気分がいい。それはそいつも同じみてえだった。

 

 偶然隣に座っただけの、俺とそいつ。

 どうにもウマがあって、いつしかつるむようになった。名前は思い出せねえし、青臭えセリフを吐くつもりも無えんだが、俺らは中々、長続きしそうなダチになれた。

 

 ──俺はxxxxってんだ。おめえは?

 

 ──xxだ。お互いこんなクソみてえな惑星に生まれた者同士、仲良くしようじゃねえの。

 

 ガシッと掴んだその手は……臭え、確かに青臭えが、間違いなく友情の匂いだった。

 肥溜めみてえな街の中にあって、それだけが、俺が確かに得たものだった。

 

 

 

 

『──2』

 

『622、もうじき作戦エリアだ』

 

 ジジイのセリフに起こされる。

 仮眠だけ取るつもりだったってのに、思いもよらず寝ちまった。疲れてたか? いや、直前に睡眠は取ってるはずだしな。

 

『魘されていたが…何か、悪夢を見ていたのか?』

 

「悪夢だと? …いや、わかんねえな。多分そうだろ。作戦に支障はねぇよ」

 

 俺は何かを言い返そうとして、やめた。何も覚えていなかったからだった。代わりに適当に返しておくが、ジジイはさほど気に留めてもいない様子だった。

 

『そうか。現地で集合する友軍ACからは、既に友軍識別信号を受領している。ACに共有しておくぞ』

「ああ。……降下準備よし、行けんぞ」

 

 俺はうなじにACのコネクターを接続した。

 

『よし、行け』

 

 

 ・・・

 

 

 

 状況は逼迫していると言えた。

 

 度重なるガリアのダムへの襲撃。

 どの勢力も、このルビコンIIIを監視する惑星封鎖機構の監視のために戦力を増やせていないが、それは我々ルビコニアンとて似たような状況だ。

 何せ、土着企業であるエルカノ財団への研究資金提供のため、BAWSはMTを各企業に売り捌いているような状況だからだ。

 

 ならMTの提供を止め、今ある戦力を増強して企業を排除にかかればよいと思いもするが、現実はそう上手くは行かない。

 

 ACという戦力は、基本的にはMTより格上の存在だ。企業の保有するACは、ルビコン解放戦線が持つAC戦力よりも強力なものが多い。

 

 優れた質に対し、数をぶつけることで得られるのは、勝ち負けのあやふやな行方と、甚大な被害だけである。

 どの勢力も早々にACを出して決着をつけないのは、こうした一見して均衡を保っている戦力バランスと、これら三勢力を相手取れる公算がある封鎖機構の存在のためであった。

 

「副司令! ガリアにACが!」

 

「遂にか。所属機はわかるか」

 

 ルビコン解放戦線副司令官、ミドル・フラットウェルは、それを予見していたかのように静かに聞き返した。だが、次に聞こえてくるセリフは慧眼を持つ彼をして、困惑を引き起こした。

 

「両方です! ベイラム、アーキバス両勢力が、我々の防衛部隊と交戦中です!」

 

「…なんだと?」

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 鼻歌混じりでMTや防衛砲台を潰して回っていた。上機嫌と言えた。何故なら、それらを壊す度に報酬が加算されていくと思うと、次に試したいパーツの構成やらが次々浮かんでくるからだった。

 だが、機嫌良くゴミ掃除をする時間ってのは唐突に終わりを告げてくるモンだ。

 

『待て、622。背後に敵性反応。恐らくACだ』

 

「あぁ? 土着野郎共の増援か?」

 

 戦闘中に、突然ジジイが告げた。情報自体は、俺の後ろでプラズマキャノンを射撃する、気に食わねぇ女隊長サマにも届いているらしいが…。

 

『これは…一体!?』

「おい女! テメェのACなら後ろの連中のデータは解析できてんだろ。何が来てやがんだ!」

 

 俺が聞くと、V.VI メーテルリンクはポジションを変え、MT包囲網を抜けるように立ち回った。俺も単機で残されて無傷でいられる自信はねえ。その通りに動くと共に、女が口を開いた。ジジイも同じ事を言おうとしたようだった。

 

『所属機は《レッドガン》…G3 イグアスです!』

 

 G(ガンズ)3だと?

 そいつはつまり、レッドガンの三番手って事じゃねえか。確か現存する隊員は六人までいるって話だったが。そのトップ3の一人が来るってのは、連中はここを確実に潰してぇ理由があるってこった。

 

 その理由とやらは、恐らくアーキバスグループの連中の理由と同じようなものなんだろうが。

 

『────』

 

 向こうの通信からは何も聞こえてこねえ。

 

「傍受できてんのか?」

『出来ている。これは、奴は後方部隊と情報連結を行っていないという事だろう』

 

 つまり、奴は情報戦において孤立してやがるって事だ。だから、アーキバスと戦闘中のルビコニアンの拠点に、三つ巴の危険性を顧みず殴りかかりに来たんだろう。

 

『奴に関する戦闘データは現存していない。それはつまり、生きてデータを持ち帰ってきた奴がいないという事だ。用心しろ』

 

「最強のAC乗りってワケか? クソ、気に入らねえ」

 

 俺だってAC操縦の適性はある。この間だってヴェスパー末席のACを潰したところだったし、そこら辺の通常兵器くらいじゃ俺は止められねぇはずだ。

 

 ハンドラーから、画像解析で得たらしい機体データが送られてきた。ベイラムの量産型AC、MELANDERのカスタムモデル“C3”を基準に、ライフル、ミサイル、グレネード、ブレードと、全作戦対応型らしい構成だ。

 

 ただ、そのシンプルな構成故か、動きに隙が見られねえ。ルビコニアンMTからの反撃を的確に躱しながら、次々と処理してやがる。

 G3を冠する腕前ってのは伊達じゃねえらしい。

 

『レイヴン、ここは退却し、彼らが摩耗するのを待つべきでしょう』

 

 メーテルリンクがへっぴり腰になってやがる。

 

「巫山戯んな。テメェらがAC撃破にも追加報酬を決定したんだろうがよ。乱戦のどさくさに紛れてあの野郎を潰す。テメェは援護に徹しとけ!」

『なっ…!?』

 

 俺はMT部隊と交戦を開始したイグアスのACを潰しにかかる。死角となる後方から、レーザーライフルのチャージ射撃を見舞ってやる。

 

 …だが、そいつは呆気なく躱された。

 ACには、ロックオン済射撃のうち、衝撃や貫徹力の高い危険な攻撃を検知した時、アラートを鳴らしてパイロットに知らせる機能がある。

 

 奴は腕が良い以上に、嗅覚も反射神経も良いらしい。俺は銃口の全てを奴のACに向けながら、メーテルリンクには近付かねえよう口酸っぱく言う。

 

「いいか、テメェは迎撃と援護射撃だけしてろ!」

『な…何なんです、さっきから貴方は! 私もヴェスパー、アーキバスの一員です! この程度の相手、戦果を持ち帰ってみせます!』

 

 ああ、言うことを聞きやがらねえ。

 仕方ねえが、使える手が少なることだけは避けたい。挟撃の形を徹底して、互いの的を絞らせねえように立ち回る。

 

 ───警告…!

 

 遠方のグレネードキャノンによる狙撃。

 咄嗟にクイックブーストを吹かして、横に逸れるように逃げる。だが、避けきれなかったのか、衝撃が俺を襲った。

 爆風と黒煙から抜け出す形で加害範囲から飛び出して、機体の損害箇所を確認した。右腕部と右脚部バーニアノズル、あとは足底部バーニアがイカれ気味か。

 

《リペアキット、残数2》

 

 損傷を回復させると同時に、コンピュータからの音声が聞こえてきた。この音声UIがなけりゃ、目視で残数を確認するしかねえ事を考えると、あるだけありがたいモンだ。

 

 それにしても、あのグレネード砲。

 犯人は四脚MTだろう。

 

 ルビコニアン共の高威力砲は、イグアスに対する援護射撃の腹積もりだろう。

 

 そりゃそうか。奴が死んだら次は俺らがダムを破壊しに回る。俺にとっても奴にとっても、全ての敵が消耗し合って、そこを漁夫の利で全て掻っ攫うってのが効率的なワケだしな。

 

「おい女! リペアキットの残数は!」

『こちらは…二つです! あとその呼び方は──』

 

 聞こえてくる言葉を無視しつつ、俺はこれからの次の作戦に思いを巡らせる。ベストなのは、味方を生存させつつ、全ての敵を潰して報酬を最大まで頂いてやる事だが、そいつは恐らく難しい。

 

 高火力の敵が目立つ中で、どっちも生き残るってのはかなり厳しい話のはずだ。

 

 なら、高性能なパルスシールドを持ってるメーテルリンクに囮をやらせておき、総火力に優れる俺のACで敵を確実に削る方針で行くべきだろう。

 

「ジジイ! 周辺地形と敵の位置をスキャンしとく。辺りで脅威度の高い目標だけ送れ!」

『転送しておく。活用しろ』

「うし!」

 

 送られてきたデータ通り、危険な位置が割り出された周辺環境から、相対的に脅威たり得ないスポットを割り出し、その地点をポイントする。

 

「データ送っとく、うまく使え!」

『待って、これは何です!?』

 

「使い方はテメェで考えろ!」

 

 連絡を切り、眼前の全てに集中する。奴に送ったデータ通りの場所に、あの野郎を誘い込めれば、取り巻きのMTが使うグレネードキャノンは当然危ねえとして、目の前のイグアスとかいう三番手の実力も読み切れてはいねえ。

 

『────』

 

 傍受した通信からは、何も聞こえねえ。

 いや、微かにノイズ混じりの電子音が聞こえては来る。だがそれだけだ。奴の話し声なんかから得られる情報を読み取るっつう作戦は意味がねえらしい。

 

 奴のリニアライフルと、俺のレーザーライフルの削り合い。勝者はまだ決まりそうにねえ。

 シールドを展開しながら、カバーされた左腕のマシンガンをリロードしている最中に、ジジイの通信が挟まった。

 

『622。解析データを深掘りしていたが、奴の期待性能はある程度割り出せた。詳細は送っておく』

 

 返事もせず、僅かに空いた時間でコンソールからACデータを見た。最初に目に入ったのは…というかそれしか見れなかったが、俺の神経を逆撫でするには充分な材料だった。

 

TENDER FOOT(新兵)だと? ナメてんのか…!」

 

 どう考えてもこの強さの敵が新兵なワケがねぇ。無口に見える野郎が、どうせルーキーいびりを趣味にする品性極貧野郎に決まってる。

 

 互いのライフルとミサイルが、互いのACを食い散らかそうと殺到する。ただそれは、こっちはシールドで、向こうは機体制動で、それぞれ無力化しているせいで、双方に決定打がねぇ状況だ。

 

 言っちまえば俺は今、メキメキと頭角を表しつつあるイケイケルーキーなワケだが、やつはあの強さで新兵を名乗っていやがる。

 気に食わねぇ。

 

 リロードを終えたマシンガンの弾幕を浴びせてやる。奴も上手いこと、短距離のジャンプやダッシュを繰り返して避けちゃいるが、細かい弾まで避け切る事は不可能だ。

 事実、細々とした被弾で奴の機体にもACS負荷が蓄積しつつあるはず。

 

 あのヴェスパーの第8隊長と同じように、ACS負荷限界からの集束レーザーの直撃を見舞ってやる。

 

「ACは俺がやる、お前はMTの相手をしとけ」

『…まあ、わかりました。そちらはお任せします』

 

 メーテルリンクに周囲の敵の掃討をさせつつ、AC相手は俺が担当する。幸い、射撃であれば俺が手数の面でリードしている。

 

 リニア式とレーザー銃とでは、単発威力だけならどっちも似たようなモンで、衝撃力についてはリニア式に分がある。

 だが互いに実弾装甲を意識したACである以上、熱エネルギーを照射して攻撃するレーザーライフルの方が、与えられる損傷は大きい。

 

 更にACS負荷を与える補助としてのマシンガン、敵からのダメージと衝撃を受け流すシールド、そしてミサイル。手数、武器の質、それらでは俺のACは奴に勝っている。

 

「テメェは俺の踏み台になる運命なんだよ、レッドガン!」

 

 レーザーライフルのチャージを見せびらかし、威圧する。相手が焦ってクイックブーストを多用してくれるなら良し、そうでなくとも、撃つタイミングで回避をすりゃあ、向こうのエネルギーをブースト一回分消耗させられるってことだ。

 

 俺はノーガードの撃ち合いなんざしねぇ。ACSのエラーが生死を分ける対AC戦において、シールドを持ち込んでいるという点は明確に有利を取れるってこった。

 

 そうこうしている内に、奴のACの動作系が見るからに不安定になってきてやがる。機体の切り返し、ブースト制動の瞬間、そうした時に、その傾向は見えてくる。

 

 …動きがぎこちない。

 奴の機体はもうじきスタッガー状態になるはずだ。その時が───

 

 

『─レイヴン、新手です!』

 

「ンだと…所属と数は!?」

 

 互いの戦闘に水を差すような、メーテルリンクの絶叫にも近い台詞。しかもこの焦りよう。相手はMTとは考えられねえ。

 それは当たってやがった。

 

『数は一つ…AC! 識別信号は解放戦線(RLF)です!』

 

 何が来やがった…?

 撃ち合いを演じつつも、新しくやってきた敵の反応に、多分目の前のイグアスとやらも集中できていねえはずだ。

 

『ルビコンに仇なす不届き者共よ…渡しの舟の六文銭、確と受け取れい!』

 

「なんだぁ…!?」

 

 随分なキワモノが出てきやがった。ウォルターに急いで画像データを送った。

 

「解析急げよ!」

『もう済んでいる。どうやら解放戦線に肩入れする独立傭兵のようだ。AC名、シノビ。パイロット名は六文銭だ』

「ニンジャ被れ野郎か…!」

 

 僅かなAC戦力だけでカチコミをかけた俺らやレッドガンと違って、連中には地の利と数の利、両方備わっていやがる。

 

 しかも、全くもって無傷の六文銭に対して、俺らは互いに撃ち合って消耗している。

 正直、ここで増援なんてのはかなり苦しい。

 

「チッ…背に腹か…!」

 

 本来なら、ここでMTを大量に潰して金を稼いでおきたかったが、そりゃ命あっての物種ってやつだ。なら、欲をかいて死ぬよかさっさと本来の目的を達成しちまった方が良いだろう。

 

「女! テメェは残りの変電設備を叩け! 俺はここでできる限り足止めしてやる!」

『…了解しました。その場は頼みます!』

 

 わざわざヴェスパーの一人をこんな仕事に寄越すくらいだ。このエリアからのルビコニアンの排除は、今の連中にとっちゃ余程重要な目標って事なんだろうが…。

 

 ただ、それなら最高戦力を単独で出す位のことはしそうなモンだ。そいつを踏まえりゃ、何となくだが、アーキバス……いや、ヴェスパーの連中の思考は読めてきた。

 

 が、それを纏めンのは生きて帰ってからだ。

 

 俺が解放戦線に、解放戦線はレッドガンに、レッドガンは俺に、それぞれ手持ちの火器を向ける。

 適切な距離を保って…なんてのはもう無理だ。

 

 誰かが引き金を引いた。

 乱れる戦場の中を激しく飛び交う弾丸。

 

 シノビのバーストライフルの徹甲弾が、俺の機体の装甲を僅かに抉る。

 

 しばらく撃ち合いを演じていたが、イグアスの野郎が俺にブレードで斬りかかってくると、それを見計らったように六文銭のACシノビが、ライフルをショットガンに切り替えて近接戦を仕掛けてきやがった。

 

 俺はそれを紙一重で避けると、奴は更に噛み付いてきたが、イグアスの方はまた射撃に興じ始めた。

 

「チィッ…」

 

 マシンガンのリロードを挟み、後ろに二度三度と飛び退く。やつの装備からして接近戦は分が悪すぎる。

 近距離で迎撃するためのマシンガンは……リロードが終わった。もう二発ぐらいはレーザーライフルを浴びせて、接近戦はリスキーだと教え込んでやるか。

 

 そう考えて、次の一発を撃った。

 レーザーライフルの主幹部から膨大な熱が放出される。トリガーを引いても反応しないそれは、自動的に射撃機構を封じられてしまっているらしい。

 

「クソッ、過熱(オーバーヒート)か!」

 

 エネルギー兵器は無限じゃねえ。装弾数という意味でも、連続して撃てる回数という意味でもだ。

 

 こいつの場合は7だか8発だか撃つとオーバーヒートするワケだが、その規定数以上を撃っちまうと破損の確率が大幅に増すらしい。

 だから、安全機構が設けられてやがる。

 

 六文銭は、俺のレーザーライフルが動かねえ事を見て、ここぞとばかりに距離を詰めて来やがった。

 G3 イグアスも同じように突っ込んできやがる。オマケにパルスブレードまで発振している。先に俺を潰す方向で、連中は考えているようだ。

 

 その後生き残った連中で争えばいいとでも考えてんだろうが───

 

 

 ───俺は殺されてやるつもりはねぇ!

 

「おおぉぉっ!」

 

 気合いを発してアサルトブーストを繰り出し、上空を目掛けて飛び上がった。それまで敵をロックオンしたままだったFCSが、視界外へ消えていった敵機に追従しようとロックサイトを右往左往させるが、それは意味のねえ行為だ。

 

 上へ飛び上がり、エネルギーが切れるまで飛翔し続ける。そしてENが枯渇したあと、俺は下を見ながらシールドを構える。

 ACは追ってきている。が、それは六文銭だけみてえだ。イグアスの方は、近くのMTを潰す方向で行くらしい。

 

 とにかく、分断できりゃ好都合だ。

 

 俺はリロードの済んだマシンガンをバラ撒き、向こうが近づきすぎる前にできる限りダメージを蓄積させようと試みた。

 射撃反動からすっかり立ち直ったMELANDERの腕は、マシンガン単体の反動は難なく吸収していく。

 

 奴の機体(シノビ)のコアに、全ての弾丸が吸い込まれるように命中する。

 

 …だが、奴はそれをものともしねぇ。

 

 それで思い出した..

 確か、アサルトブースト中はACSが受け流せる衝撃力の限界がかさ増しされるらしい。

 

 その理由が、色んな姿勢に移行する可能性のある直立状態より、強襲ブースト中の前傾姿勢の方が、その姿勢を維持するだけでいいからCPUの処理に余裕が生まれる…って事らしい。

 

 つまり、奴は今俺が全力で離した距離を詰めて、もう一度自分の有利な至近戦闘に持ち込もうという腹積もりなんだろう。

 しかも、迎撃に対してより優位に立てるように。

 

『観念して、冥土へ旅立つが良い!』

 

 ショットガンが飛んでくる。それはシールドで受けた。だが次の攻撃を受け切れるほど、ACSに余裕はなかったみてえだ。

 

 一度目、盾が弾ける。

 俺は驚いて、カメラから来る情報に集中した。

 

 二度目、何かが奴の機体の左腕から飛んでくる。

 それが俺のACのコアを直撃した。俺は強く揺さぶられて、コンソールモニターに頭をぶつけた。

 

「ぐああッ!?」

 

 そいつは、球形の何かだった。

 俺はそいつに見覚えがあった。

 

「それ…っ…オールマインドのヨーヨーのおもちゃじゃねえか…!!」

 

 確か、非売品カタログに載ってたやつだ。オールマインドが録画したらしい使い方講座とやらの映像も見てみたが、機雷散布はすぐ爆発して使えなさそうだし、直に当てるのも使いにくそうで仕方なかった奴だ。

 

 衝撃から立ち直りながら、俺はこの六文銭とかいう野郎に少しばかり敬意を覚えた。良く使おうと思ったなそんなゴミ、なんてな。

 しかし、直殴りの威力は思い知った。

 

 一撃が重い上に、そこそこ射程もありやがる。

 見た感じ、60メートルは届くってところか。そのギリギリのレンジで当ててきた野郎の腕前も、大したモンなんだろう。

 いや、むしろその武器の造詣をよく深められたなって言ってやるべきか。

 

《リペアキット、残数1》

 

 コンピュータの音声案内を聞き流しながら、レーザーライフルの冷却が終わったのを確かめて、チャージを始めた。

 

 ブレードでもありゃあ、奴がスタッガーした時の切り札になるんだが、膠着しやすいAC同士の射撃戦で、いざその時ってのが来るまで寝かしておくお荷物を置いておく余裕は俺にはねぇ。

 せっかくACにゃハードポイントが四基あるんだ。なら、どれにも常に仕事があるパーツを宛てがう方が効率は良い。

 

 俺は空中で、もう一度後ろに跳んで逃げる。そして、ミサイルとマシンガンの猛射撃を浴びせかけた。さっきはアサルトブーストのボーナスで上手いこといなされたが、それはACS負荷が蓄積しねぇというワケじゃないはずだ。

 視覚データ的には確認できねえが、ACが見せる不調という形で奴の機体の機嫌はわかった。もうじき墜ちる。

 

「キワモノが随分と手こずらせやがって…」

 

 奴のジェネレータが何かは分からねえが、炎が揺らめくような色合いのジェネレータなら、BAWSか大豊のジェネレータのはずだ。なら、エネルギーを使い切ってから回復した際のEN残量は雀の涙だろう。

 

 つまり、奴が被弾を嫌って飛び退いた時が攻め時。そうでなくともACSの負荷が既に限界近いのは見えてる。

 

 この勝負は奴の積みだ。

 

 

『───グゥッ…!』

 

 ACSエラーだ。

 奴の機体はもう───警告?

 

 シノビの肩部から、投射物のような何かが撃ち出され、それは文字通りワイヤーのような尾を引いて弧を描くようにこっちの機体に向かってくる。

 

『利に寄りて行えば怨み多し 愚昧たる雇われよ ルビコンの土となれい!』

 

 また何か言ってやがる。

 今しがた撃ったミサイルらしき何かといい、最後っ屁のつもりか?

 

 だが、これでチャンスを逃すワケにはいかねえ。俺は構わずトリガーを引く。

 

 レーザーライフルが、強い光を放つ一本の光条を射撃し、それは収束しながらシノビのコアを貫いた。それはコクピットを直撃して、パイロットを諸共焼き払ったはずだ。

 

 だが、さっき撃ち込まれたミサイルのワイヤーが、ACに括りついたかと思うと、強く爆ぜた。どうやらワイヤーのようなものは導爆索だったらしい。しかもかなり強力みてえだ。

 

 手痛い直撃を食らって、視界が揺れる。コア部メインブースタがイカれて、まともな推力が得られねえ。

 

《リペアキット、残数なし》

 

 使い切っちまった。

 そのまま修復したブースタ出力をを全開にして、

 軽いミッションだと思ってたが、随分使わされちまった。それに、まだイグアスの野郎も残ってやがる。解放戦線のMTもだ。

 

「おい、変電設備はどうなってる?」

 

 メーテルリンクに通信を繋げた。

 

『破壊できてますが……くうっ!』

 

 爆発音と同時に聞こえてくる悲鳴。まだ終わってはいねえみたいだな。

 

「すぐに向かう! テメェ、ヴェスパーならちっとは持ち堪えてみやがれ!」

『舐め…ないでください!』

 

 すぐに激しい銃撃音で通信は埋め尽くされた。かなり大規模な破壊音まで聞こえてくると、流石にAC単機では対処し切れない状況に置かれてんじゃねえかと勘繰っちまう。

 

 そこら辺のMTを行きがけの駄賃に蹴散らしつつ、ダムの最上層へと足を踏み入れ……メーテルリンクが交戦している相手に銃を向けた。

 

「チェックメイトってやつだぜ…イグアス」

『────』

 

 こンのノイズ野郎、耳は痛てぇし何喋ってるかなんざ分かりゃしねぇ。いい加減ケリを着けてぇが、俺もメーテルリンクも相当に消耗しちまった。

 

 二対一じゃ分が悪いと思わせられりゃ、俺らの勝ち。逆に押し切られると思われたら、あいつの勝ち。

 

 賭けはどう転ぶ…?

 

 

 喉が鳴った。俺のだ。

 賭けは()()()

 

 僅かにたじろいだと思った直後、踵を返して飛び去っていくイグアスのテンダーフット。俺とメーテルリンクは、強敵の居なくなったことに安堵した。

 

 …安堵、俺が?

 

 その時自分の中に芽生えた複雑な感情が一体なんなのか、まだ分からなかった。

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 出撃前、ジジイに言われた事が、大仕事が終わって落ち着いた今になってぶり返しやがる。

 

 ──多くの人間が強化人間の実験体になって死んでいった。運良く生き延びた個体もまた、大抵は戦闘兵器の生体パーツとして使われ、死ぬ運命にある。お前も、お前の前任達も、その一人だ。

 

 それで、何が言いたいかを端的に聞いた。

 

 ──お前はパーツではない。それを忘れるな。

 

 

 

 

 

 パイロットヘルメットを脱ぎ捨て、作業アームにコクピットシートごと俺を持ち上げさせ、鋼板の床材の上に座らせた。すぐに車椅子が運ばれてきて、俺は自分の腕の力だけでそれに座った。

 

 それに自動で運ばれていく。

 目的地は自分の部屋だ。ガレージ兼居住スペースであるこのヘリには、乗員が寝泊まりするためのスペースが確保されているといい、それが俺やウォルターが寝るような小さな部屋に該当するらしい。

 

 自分に宛てがわれた部屋の中で。

 俺は、ようやく人心地ついた。

 

 

 

 俺はパーツじゃねえ。

 

 そんなのは分かってる。

 そんな事を改めて言及した理由は、だがジジイは話さなかった。

 

 俺は、ジジイの事はほとんど把握してねぇ。何が目的で、何を目指していて、何かの後ろ楯があるのか、どこに所属しているのか、そんなモノの殆どは知らねえ。

 

 分かっていることと言やぁ、こいつが調教師(ハンドラー)を名乗っている事。仕事をひっぱってくる事。

 

 ウォルターという名前がある事。

 

 で、俺らに共通している目標ってのがひとつ有る。コーラルを見つけ出す事だ。

 コーラルを見つけれりゃ、俺はコーラルの湧出情報を企業に売って、大金で人生を買い戻して元の生活に戻れる。

 

 ……だがウォルターは?

 コーラルを見つけて何をすんだ。

 

 俺と違って、身体や人生が云々ってワケじゃなさそうなんだが、何が目的なんだ。

 

 ジジイとこの星に来て、既に二週間近い。

 同じAC輸送ヘリコプター(ガレージキャリア)の中である程度の生活を共にしているワケだが、何も話しやがらねえ。

 

 理由を話さねえのは、何かワケがある。

 だが、それを詮索できるほどの身体を俺は持ってねえ。強化人間手術は中途半端に成功しているらしく、俺がこうやって喋れてるのがその成功部分、歩けねえのと記憶障害が失敗に当たる部分なんだそうだ。

 

 まあ、本当の意味で俺は今、人生と呼べるものを奪われてる状態なワケだから、俺という一人の人間としちゃ失敗と同義だ。

 

 だが少なくとも、今こうしてACを宛てがわれて、自分の好きなようにACをアセンブルできるのは……。

 

 ……そんなゴミみたいな強化人間共の中じゃあ、相当に恵まれてンだろうな。

 

 俺はウォルターを信じ始めてきていた。

 

 

 

 

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