ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
父が死んだ。
父を疎んでいた者たちが徒党を組み、その命を奪った。
父は最後まで抵抗しなかったという。
母も死んだ。
父を失った悲しみで、母の身体は限界だった。
それでも母は、お腹の子どもたちだけは諦めなかった。
二人を産み落とし、静かに息を引き取った。
残されたのは、二つの小さな命。
そして、その命を抱えることになった、一人の少年だった。
──憎かろう。
突然、頭の奥で声が響いた。
──弟と妹が。
「……え?」
──お前の不幸は、あの時から始まったのだ
──そやつらさえいなければ、父も母も……
「違う!」
思わず叫んでいた。
「違う……!」
そんなこと、思っていない。
母が命を懸けて守った子たちを、そんなふうに思えるはずがない。
──お前は害虫だ。
──朽ちた竜の骸より生まれし毒虫。
「やめろ……!」
両手で耳を塞ぐ。それでも、声は止まらない。
まるで心の奥底へ直接流れ込んでくるように、何度も、何度も響き続ける。
「やめてくれ……!」
「おぎゃあ!」
「ふえぇぇん!」
その時だった。
赤子の泣き声が、静まり返った部屋に響き渡る。
「……あ」
セオドールは我に返り、慌てて二人のもとへ駆け寄る。
恐る恐る差し出した指を、小さな手がぎゅっと握った。
「あー!」
「きゃう!」
ついさっきまで泣いていた二人は、まるで安心したように笑う。
その笑顔は、母によく似ていた。
「母さん……」
母の笑顔を思い出し、声が震える。
「ごめん……ごめんよ……」
二人を抱きしめたまま、セオドールは泣いた。
父も母も、その子たちに名前を贈ることはできなかった。
だから、兄である自分が贈ろうと決めた。
母によく似た二人の名前は母の名前からとった。
男の子は、セシル。
女の子は、セシリー。
二人はすくすく成長した。
周りの人たちに助けられながらも、三人は幸せに暮らしていた。
あの日以来、あの声は聞こえていない。
セオドールは、あれは自分が生み出した幻聴だったのだと思うことにした。
父を失い、母までも亡くした。
あまりにも過酷な現実を受け入れられず、心が見せた幻だったのだと。
だからこそ、彼は気づけなかった。
あの声が、月より忍び寄る悪意そのものだったことに。
◇ ◇ ◇
あの日から、数年の月日が流れた。
セシルとセシリーは、健やかに成長していた。
二人とも、亡き母によく似た穏やかな笑顔を持ち、人を思いやる優しい子に育っていた。
双子らしく顔立ちはそっくりで、好きな食べ物も、嫌いなものも、不思議なくらい同じだった。
けれど、一つだけ大きく違うものがあった。
それは、剣と魔法の才能。
セシルには魔法の才はなかった。
しかし、その代わりに剣の腕前は幼いとは思えないほど冴えていた。村の大人たちも驚くほどの筋の良さで、木剣を振るう姿は年上の子どもたちにも引けを取らなかった。
一方、セシリーは剣こそ得意ではなかったが、この年齢ですでに黒魔法と白魔法、その両方を扱える稀有な才能を持っていた。
普通なら、お互いを羨むことがあってもおかしくない。
けれど、二人は違った。
「セシリーが、ぼくの分まで魔法を持っていったんだね」
「その代わり、セシルがわたしの分まで剣を持っていったんだよ」
セシルの言葉にセシリーも笑って答える。
そして二人は顔を見合わせ、くすくすと笑うのだった。
兄妹で力を合わせれば、村の近くに現れる魔物程度なら追い払えるほどになっていた。
そんな二人を見守ることが、セオドールの何よりの幸せだった。
しかし、その穏やかな日々にも転機が訪れる。
父の旧友を名乗る人物から、セオドールに一通の誘いが届いた。
魔導士の都ミシディアで修行を積まないか──という話だった。
結局白魔法を扱うことはかなわなかったが、セオドールは黒魔法の扱いに長けていた。
さらに、ミシディアには調べたいこともあった。
本来なら断る理由はない。
ただ一つ、心残りがあるとすれば。
「本当に……本当に、本当に大丈夫か?」
旅立ちの日。
村の入口で、セオドールは何度目かも分からない確認をしていた。
「うん、大丈夫だよ」
セシルが笑う。
「わたしも。セシルと一緒だもん」
セシリーも元気よく頷いた。
それでも安心できない。
「知らない人にはついて行くな。魔物を見つけたらすぐ逃げろ。逃げられなかったら──」
そこまで言って、セオドールは少し考える。
「……遠慮するな。全力でやれ」
「うん!」
「わかった!」
そして、二人に遠慮はせずで思いっきりやるように伝えた。
二人はセオドールの言葉に元気よく返事をした。
その様子を見ていた老婆が、呆れたようにため息をついた。
「まったく。こんな小さな子に何を教え込んでるんだい」
ぽかり、と後頭部を叩かれる。
「痛っ!」
「荷車を待たせてるんだよ。いつまで村の入口で立ち止まってるつもりだい」
「しかし……」
セオドールは二人を見つめる。
「私だけ行くなんて……やっぱり、この話は断った方が……」
「何を言ってるんだい」
老婆は優しく笑った。
「セシリアから、この子たちを頼むって言われたのは私さ。心配しなくてもちゃんと見てるよ」
そして少しだけ悪戯っぽく続けた。
「それに、この子たちはセシリア似でしっかりしてる。あんたはクルーヤさん譲りの心配性だね」
「…………」
心配性といわれセオドールは返す言葉が無かった。
「あんただって、まだ子どもだ。自分のやりたいことまで諦める必要はないだろう?」
その言葉に、セオドールはゆっくり目を閉じた。
父のこと。母のこと。そして、自分が調べたいこと。
ミシディアへ行く意味は、確かにあった。
「……申し訳ありません」
セオドールは老婆へ深く頭を下げる。
「二人を、お願いします」
「任せな」
「いってらっしゃーい!」
「おみやげ、楽しみにしてる!」
二人はぴょんぴょん飛び跳ねながら、大きく手を振る。
その笑顔を胸に刻み、セオドールは村を後にした。
修行とはいえ、季節が変わる頃には一度帰るつもりだった。
だから、この別れもほんの少しの間だけ。
そう思っていた。
──その思いは、無惨にも裏切られることになる。
ミシディアへ来て七日後。
故郷の村が襲われたという知らせを受けたセオドールは、昼夜を問わず駆け続けた。
息を切らし、ようやく辿り着いた故郷。
そこで目にしたのは──
焼け落ち、崩れ果てた村だった。
人の気配は、どこにもなかった。
◇ ◇ ◇
その子を最初に見つけたのは、共に捜索していた兵士だった。
バロン王国の郊外。
いかに大国といえど、その手が届かぬ場所はある。
ここもその一つだった。
魔物の襲撃を受け、跡形もなく滅ぼされた小さな村。
焼け焦げた家々からは、まだ薄く煙が立ち上っていた。
「……また、間に合わなかったか」
バロン王は静かに目を伏せる。
「陛下……」
「まだ生きている者がいるかもしれぬ。周囲を捜索せよ。亡くなった者たちには、せめて安らかな眠りを」
「はっ!」
兵士たちは一斉に散っていった。
しばらくして、一人の兵士が息を切らして駆け戻ってくる。
「陛下! まだ息のある子どもがおります!」
「何だと!」
王はすぐさま兵士の後を追った。
そこには、一人の幼い少年が倒れていた。
服は煤にまみれ、ところどころ裂けている。
傷だらけの小さな身体は、村を守ろうと必死にもがいたことを物語っていた。
右手には一本の木剣。
幼い手で強く握り締めていたせいで、掌からは血が滲んでいた。
少年は薄く目を開き、その顔を見た瞬間、バロン王は目を見開いた。
「……お前の名は?」
バロン王が静かに問いかける。
少年はかすれた声を絞り出した。
「……セシル……」
その面影は、あまりにもよく似ていたのだ。
かつて、自らの臆病さゆえに守ることのできなかった、一人の女性に。
唯一の生存者だった少年は、バロン王に保護された。
心ない者たちの妬みや中傷を受けることもあったが、それ以上に多くの人々に支えられ、少年は真っ直ぐに成長していく。
そして十数年後、バロンにその名を轟かせる暗黒騎士となり、飛空艇団『赤い翼』を率いる隊長を務めることとなる。