ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
『砂漠の光』を手に入れた一行は、浅瀬を渡り、カイポへ向かった。
カイポへたどり着くと、セシルはそのままローザを預かっていた老人の家へ駆け込む。
「ローザ!」
「おお!それは『砂漠の光』!早くそれを彼女にかざすんじゃ!」
セシルは『砂漠の光』をローザにかざした。
すると、『砂漠の光』が淡く輝き、その光がローザの身体を優しく包み込んでいく。
苦しげだった呼吸は次第に落ち着き、その表情にも穏やかさが戻っていった。
「ローザ、目を覚ましてくれ……」
「ううん……セ、シル?生きていたのね!よかった……」
「無茶だよ君は……」
セシルは無事に意識を取り戻したローザを見て、ようやく胸をなで下ろした。
「ミストの地震であなたは死んだと聞いて……でも信じられなくて……」
「すまない……」
「……カインは?」
「……分からない、追手から逃げるためにもあの場から離れるしかなくて……」
リディアを守るため、あの場をすぐに離れなければならなかった。
それでも、親友を探しきれなかった後悔は、今もセシルの胸に残っていた。
「カインなら大丈夫だ……きっと無事でいてくれてるはず」
そう口にしたものの、その声には自分自身を納得させようとする響きが混じっていた。
ダムシアンで耳にした、あの名が脳裏をよぎる。
「ローザ、教えてくれ……ゴルベーザとはいったい?」
「あなたに代わって赤い翼を指揮させるため、陛下が呼んだの。それから陛下はますます、おかしくなって……」
ミシディアの水のクリスタルを奪った一件から、ローザは王に違和感を抱いていた。
だが、ゴルベーザが現れてから、その変化は決定的なものとなった。
もはや王は、ゴルベーザの言葉に従うだけの存在となっていた。
「きっとゴルベーザが王を操りクリスタルを集めてるんだわ。このままじゃ他のクリスタルも危ない」
「危ないっていうか……残念な話だが、残っているのはファブールの風のクリスタルと、トロイアの土のクリスタルだけだ」
「……火のクリスタルは、すでに奴らの手の中です」
ギルバートの言葉に、その場の空気が重く沈む。
四つのクリスタルのうち、すでに二つはゴルベーザの手に落ちていた。
「あなた達は……?」
「彼はギース。砂漠で倒れていた君を助けてくれた人で、こっちはダムシアンの王子ギルバート。彼のおかげで君を治すことができたんだ」
セシルの紹介に、ギースとギルバートは軽く頭を下げた。
続いてセシルはリディアへ視線を向けた。
「この子はミストの……リディアだ」
「大丈夫?」
「ありがとうリディア、ギース、ギルバート」
ローザは優しく微笑み、自分だけでなく、セシルを助けてくれた三人へ感謝の言葉を伝えた。
「ダムシアンがすでに襲われたとしたら次はファブール!こうしては……ゴホッ、ゴホッ!」
「ローザ、無理をするな。ファブールへは僕が行く!」
ローザは慌てて身を起こそうとした。
しかし、高熱病で消耗した体力はまだ戻っておらず、激しく咳き込んでしまう。
「でも、ファブールへ行くボブスの山はこの時期は厚い氷で閉ざされてる」
「氷をどうにかしなきゃ通ることができないのか……」
ギルバートとギースがホブス山の状況を話していると、ローザはミストの召喚士であるリディアへ視線を向けた。
「リディア。あなた、ファイアは使える?」
「っ!……ううん、使えない……」
ローザの問いに、リディアは怯えたように首を横へ振る。
「召喚士のあなたが黒魔法の初歩ともいえるファイアを使えないはずは……ゴホっ!」
「ローザ!やはり君は待っていなきゃダメだ!」
体力がまだ戻りきっていないローザを見て、セシルは旅に同行するのは無理だと諭した。
「私なら大丈夫。それに私も白魔導士。足手まといにはならないはずよ」
「…………」
「セシル……ローザは君と一緒にいたいんだよ」
「元々、心配かけた結果がこれだろ?一緒についてやった方がいいんじゃないか?お互いのためにも」
二人の言葉に、セシルはしばらく黙り込んだ。
「……分かった、ローザ……一緒に行こう。ただ、もう夜だ。出発は明日の朝にしよう。今夜はとにかくゆっくり休んでほしい」
「セシル……分かったわ」
◇ ◇ ◇
その後、老人の厚意に甘え、一行はそのまま一晩泊めてもらうことになった。
深夜。ふと目を覚ましたギルバートは、皆を起こさぬよう静かに家の外へ出る。
「寝れないのか?」
「……ああ。……君は?」
外へ出ると、家の壁にもたれ、月を眺めていたギースが声をかけた。
「俺?俺は……考え事だな。ちょっとした人助けが、ずいぶん大ごとになったなって」
「君もセシルたちと一緒に行くのかい?」
「もちろん。納得がいくまでついていくつもりだ」
「……強いね、君は」
偶然セシルたちと出会っただけのギースが、迷いなく旅を共にすることを決めている。
その姿は、愛する人を失い、進むべき道さえ見失いかけていたギルバートには、どこか眩しく映った。
「強くはないさ、本当に強かったらこんなところで月見なんかしないで、寝てるぞ俺は」
ギルバートの言葉に、ギースは苦笑して首を横に振った。
強いから前を向けているのではない。ただ立ち止まるわけにはいかないから、歩き続けているだけだった。
「月、好きなのかい?これまでも何度か見ていたようだけど」
「いや、好きというより習慣かな……相方がよく、それも野営の時は必ず見てたんだ。俺もそれに付き合ってたらいつの間にか習慣になった」
旅の中でも、ギースは時間があれば月を眺めていた。
それは好きだからではなく、"相方"に付き合っているうちに身についた習慣だった。
「じゃあ、その人が好きだったのかい?」
「ただ、そいつも別に好きってわけじゃなくて、なんとなく気になるって感じで見ててな」
「ええ……」
ギルバートは思わず苦笑した。
月を眺める理由にしては、あまりにも曖昧すぎる。
それなのに、ギースはどこか懐かしそうな表情で語っていた。
「最終的にいつの間にかそいつの中で俺の方が月を見るのが好きって話になったのは本当に納得いかないんだよな……こちとら毎度のごとく付き合っただけだぞ。絶対に俺一人じゃやらなかった」
不満そうにぼやくギースだったが、その口元には自然と笑みが浮かんでいた。
その"相方"との日々が、彼にとってかけがえのない思い出であることは、言葉にしなくても伝わってくる。
ギルバートは、その人物がギースにとって大切な存在だったのだと、なんとなく悟った。
「……今、その人は?」
「もういない」
「……っそう、なんだね……」
その一言だけで、先ほどまでの柔らかな空気は途切れた。
ギースの表情からは笑みが消え、感情を閉ざしたような静けさだけが残っていた。
「悪い……自分から話題に出しといて、とんだ地雷だったな」
ギースは手で顔を覆い、自嘲するように苦笑した。
「僕の方こそごめん……」
「気にするなギルバート、お前が俺に謝ることは何一つない。明日も早いしな、俺は先に寝る。夜更かしもほどほどにしろよ」
ギースはそう言い残すと、ギルバートと入れ替わるように家の中へ戻っていった。
ギルバートは引き留めることもできず、その背中を静かに見送った。
「──────―」
「え?」
ギースは誰にも聞かせるつもりなどなく、ぽつりと呟いた。
だが、吟遊詩人であるギルバートの耳は、その微かな声を聞き逃さなかった。
「……謝らなきゃいけないのは、俺の方だ」
その言葉の本当の意味を、ギルバートが知るのは──すべての決着がついた後のことだった。