ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ホブス山の入り口にたどり着いた一行は、厚い氷の前に立ち尽くしていた。
「これはなかなかの厚さだな……少なくとも普通の手段じゃ壊せなさそうだ」
ギースは氷を軽くコンコンと叩き、その厚さを確かめる。
「リディア。ファイアを唱えてみて」
ローザはリディアと目線を合わせ、優しくファイアを唱えるよう促した。
「…………」
リディアは俯いたまま動かない。
小さな肩がかすかに震え、杖を握る手にも力がこもっていく。
「リディア?」
「あなたなら必ずできるわ」
「いや……」
掠れた声が漏れる。
リディアは一歩、また一歩と後ずさった。
「炎はいや!!」
燃え盛る炎。崩れ落ちる村。
すべてを焼き尽くした、あの赤い炎──。
「……そうか……あのボムの指輪の炎でミストは……」
リディアの悲鳴を聞き、セシルはボムの指輪が引き起こした悲劇を思い返す。
あの日、幻獣を殺したことでリディアの母の命を奪った。
そして、自らが運んだボムの指輪によってミスト村は焼き払われ、多くの命が失われた。 その記憶に胸を締めつけられ、セシルは静かに俯いた。
「いい、リディア。この氷を溶かせるのは、今はあなただけなの」
「………………」
「私たちがここで氷を溶かしてファブールへ行かなければ、もっとたくさんの人たちが恐ろしい目に遭ってしまう……。お願い、勇気を出して」
リディアにこんなことを頼みたくはなかった。
だが、このまま立ち止まれば、ファブールもダムシアンと同じ悲劇に見舞われるかもしれない。
ローザはその思いを胸に、ただ少女を信じるしかなかった。
「リディア、お願い!」
「頼むよ、リディア!」
ローザとギルバートは、リディアへ懸命に呼びかけた。
「………………」
しばらく俯いていたリディアは、小さく息を吸う。
震える足で一歩前へ踏み出すと、厚い氷の前へ立った。
「…………“ファイア”!!」
杖の先から放たれた炎は、轟音とともに氷へぶつかる。
みるみるうちに厚い氷は溶け始め、やがてホブス山への道が開かれた。
「お見事!」
「凄いよ、リディア!」
「えへへ……」
ギースたちは、勇気を振り絞って魔法を放ったリディアを口々に褒めた。
「ありがとう。リディア」
ローザは、勇気を出してくれたリディアへ心から感謝を伝えた。
「リディア……」
セシルは小さくその名を呼んだ。
恐怖に立ち向かい、自ら一歩を踏み出した彼女の姿を、心から誇らしく思った。
「道は開けた。先へ進もう!」
一行はファブールを目指し、ホブス山へ足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
ホブス山を登っていくと、どこからともなく激しい戦いの音が聞こえてきた。
「何だ?」
一行が物陰から様子をうかがうと、一人のモンク僧が魔物の群れを相手に戦っていた。
「あれは……」
「あの衣装は……ファブールのモンク僧!」
「はッ!!」
多勢に無勢と思われた。
しかし、モンク僧は敵の攻撃を紙一重でかわし、受け流し、拳一つで魔物を次々と打ち倒していく。
「さすがファブールのモンク僧だ。助太刀はいらないか?」
「いや、待ってくれ……」
ギルバートは戦況を冷静に見つめる。
「最後の一体……あれはマザーボムだ!」
モンク僧が相手をしていた最後の魔物は、厄介なマザーボムだった。
「あいつは手強い!」
「助けよう!」
セシルたちは一斉にモンク僧のもとへ駆け出した。
「おぬしたちは!」
「通りすがりの助太刀だ!」
「かたじけない!」
モンク僧は短く礼を述べると、セシルたちと共にマザーボムへ向き直った。
「うぷぷ……何人来ようが関係ない!オマエラまとめてやっつけてゴルベーザ様の手土産にしてヤル!!」
「ゴルベーザだと!?」
その名を聞いた瞬間、セシルの表情が変わった。
クリスタルを狙うゴルベーザの名が、魔物の口から出た。
つまり、魔の手はすでにファブールへ伸びていたのだ。
「随分と動きが早い……いや、バロンという大義名分で隠れる必要がなくなったのか」
ギースは、ゴルベーザが姿を現してからのあまりにも迅速な行動に警戒を強めた。
「で、お前一体で俺たちを倒せると思ってるのか?」
「うぷぷ……馬鹿だなオマエ……まとめてって言っただろ!」
その直後、マザーボムの身体がむくむくと膨れ上がっていく。
その姿を見た瞬間、ギースの背筋に嫌な予感が走った。
「ギルバート!隠れてろ!」
「うわぁ!?」
ギースはギルバートの襟首を掴むと、そのまま後方へ放り投げる。
安全な場所へ退避させると、間髪入れずリディアのもとへ駆け寄った。
「ギース?」
「リディア、頭を抱えてしゃがめ!……もし、駄目だったときは俺が盾になる!!」
ギースは一か八か、懐から札を取り出し、高く掲げた。
「ばーくーはーつーすーるーぞー!!」
「“
次の瞬間、マザーボムの巨体が爆発した。
凄まじい爆風が周囲へ広がり、セシルたちを飲み込もうと迫る。
しかし、その爆発を受け止めたのは──ギースが掲げた一枚の札だった。
「けほ……けほ……」
煙の中で、ギースは咳き込みながら立ち上がった。
「……いくらかは吸収できたか」
「助かった。ありがとうギース!」
「すぐに癒すわ!“ケアル”!」
ローザの放った癒しの光が、ギースの傷を優しく包み込む。
「アレ?」
「あれ?」
「あれれれれ!?」
「生きてるぞ?」
「しぶとい!」
「自爆したのにー!!」
爆発で分裂した赤いボムと青いボムが、口々に騒ぎ立てる。
「……うるさい」
ギースは思わず呟いた。
「情報を聞き出せればと思ったんだが……不用意に挑発すると自爆するタイプだったか。悪い」
ギースは、マザーボムの自爆を許し、仲間を危険に晒したことを悔やんでいた。
「気にするな、ギース。今は目の前の敵に集中しよう」
セシルはそう言うと、剣を構える。
「“暗黒”!!」
漆黒の斬撃が放たれ、六体のボムをまとめて切り裂く。
ボムたちは大きくよろめいた。
「今だ!」
「後は私にお任せを!」
ヤンは力強く踏み込み、ボムたちへ向かって駆け出す。
「はああっ!!」
鍛え抜かれた蹴りが次々とボムを捉える。
セシルの暗黒によって弱ったボムたちは、ヤンの連撃を受けて次々と吹き飛んでいった。
最後の一体が大きく弾き飛ばされ、地面へ転がる。
「くっそー! 俺たちがやられるなんて!」
「イイサ!」
「仕事は果たした!」
「モンク僧はソイツを残して全滅!」
「ファブールは強い奴はもういない!」
「ゴルベーザ様!ゴメンナサイ!!」
そう叫ぶと、ボムたちの身体から力が抜けていく。
やがて赤と青の小さな身体は、跡形もなく消えていった。
「最後までうるさい奴らだったな」
「危ないところをかたじけない。私はファブールのモンク僧長ヤン」
ヤンは胸の前で手を合わせ、セシルたちへ静かに礼を述べた。
「このホブスの山で修行中、魔物の群れに襲われ私を残し全滅してしまった……」
ヤンは静かに目を伏せる。
「あれほどの手練れの者たちが……」
「僕らはクリスタルを守るため、ファブールへ向かっている途中でした」
「ゴルベーザという者が、バロンを利用してクリスタルを奪っているの」
ローザの言葉に、ヤンの表情が険しくなる。
「ということは、我らがファブールの風のクリスタルも!」
「ええ……ダムシアンの、火のクリスタルはすでに奪われました」
「次はファブールが狙われているんです!」
ヤンの表情が険しくなる。
仲間たちが倒された理由。それは、ただの魔物の襲撃ではなかった。
すべてはファブールの風のクリスタルを奪うための布石だったのだ。
「なんということだ。主力のモンク隊は全滅。城にいるのは、まだ修行も浅い者ばかり。今、攻め込まれてはひとたまりも!」
「さっきの魔物も言ってたな。ゴルベーザもそれが狙いだったんだろう」
「我らを消し、ファブールを無防備にするためか……!」
ヤンは拳を握り締める。
自分が山にいる間にも、ファブールには危機が迫っている。
仲間を失った悔しさを噛み締める暇すらなかった。
「とすれば、手薄になったファブールへもうすでに向かっているはず!僕らも手伝います!早くファブールへ!」
「しかし、そなたたちまで巻き込んでは……」
「これは、僕らの戦いでもあるんです!」
セシルはヤンの目を真っ直ぐ見つめた。
「ヤン、気を使っているところ悪いが、こっちは当事者の当事者でな」
ギースが肩をすくめる。
「僕は、ダムシアンの王子です」
「僕とローザはバロンにいました。この子も、敵の術中にはまり、僕が……」
セシルはそこで一瞬言葉を詰まらせる。
「みな、わけありか……かたじけないが助太刀願えるか?」
セシルたちの事情を察したヤンは、それ以上尋ねることなく頭を下げた。
今必要なのは、ファブールを守ることだった。
「もちろんです!さあ、ファブールへ!」
「ファブールは東の山を越えたところ。さ、参りましょう!」
ヤンと共に、セシルたちはファブールへ向けて歩き出した。