ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ヤンと共に、一行はホブス山を下っていく。
魔物と遭遇するたび、ヤンは鍛え抜かれた体術で次々と敵を打ち倒していく。
唯一生き残ったモンク僧というだけあって、その腕前は並の戦士とは一線を画していた。
「お見事」
無駄のない動きで敵を制圧するヤンに、ギースは思わず感嘆の声を漏らした。
「いーや、俺はまだまだだ。アントリオンの甲殻すら斬れなかったしな……」
ヤンはギースの刀筋を思い返す。
あれほど鋭い太刀筋は並の剣士には真似できない。
「父さんの域には、まだ遠い。俺なんて、武者修行中の若輩者さ」
「……もしや、ギース殿のお父君はガルド殿では?」
「え、そうだが……なんで知ってる?」
ギースは一瞬首を傾げ、すぐに嫌な予感がした。
「……まさか、そっちでやらかしたのか?うちの父さん」
「やらかした?」
ギースが脂汗を浮かべながら、おそるおそるヤンへ尋ねる。
普段は飄々としている彼らしくない様子に、セシルたちは思わず顔を見合わせた。
「いえ……以前、ファブールへ来られた際、道場破りでモンク僧たちを次々となぎ倒されまして」
「お、おう……そっちならまだ安心だな」
「安心できる行為かしら、それ……」
ギースは胸をなで下ろす。
武者修行中の道場破りなら、父親なら十分あり得る話だった。
しかし、ヤンはまだ話の続きを残していた。
「その後、城下町の賭場を総なめにされました」
「安心した俺が馬鹿だった……うちの父親が、大変申し訳ございません」
ギースは迷いなく地面へ額を擦りつける勢いで土下座した。
エブラーナに古くから伝わる、最大級の謝罪である。
「いえ。その後、勝った金は町の者たちに振る舞われまして、皆が大騒ぎになりました」
ヤンは当時を思い出したのか、小さく笑みを浮かべる。
「なんとも豪快なお方でしたな」
「豪快で済ませちゃ駄目だろ!後から来る俺がどれだけ困ってると思ってるんだ!」
ギースは勢いよく顔を上げる。
「……なるほど。侍だと分かると賭場の人間に妙に警戒される原因、それか!」
長らく旅を続ける中で、侍と名乗るたびに賭場の者たちから妙な視線を向けられることがあった。
その理由が、ようやく分かった。
思わず頭を抱えたくなるような真実だった。
「あの、一応聞くんだが……エブラーナの侍がいるから門前払いってことは無いよな?」
「ご心配には及びませぬ」
ファブール城に入れない可能性がある。
父親の所業に頭を抱えるギースを見て、ヤンは安心させるように微笑んだ。
「ガルド殿が打ち倒したモンク僧たちは、修行を盾に町の者へ乱暴を働いていた不心得者たちでした。賭場も、いかさまで旅人から金を巻き上げる悪徳な店ばかりでしてな」
ギースは思わず目を瞬かせた。
父の豪快な振る舞いは数え切れないほど見てきたが、その裏にそんな事情があったとは知らなかった。
「ガルド殿はそれを見過ごせず、叩きのめしたうえで、勝った金を町の者たちへ振る舞われたのです」
ヤンは当時を懐かしむように目を細めた。
その表情には、武人としてガルドへ寄せる敬意がにじんでいた。
「ファブールの民は、今でもガルド殿に感謝しております」
「なるほどな……なんというか本当に言わないよなあの人」
「あの方は深く話すような方ではありませんからな」
武人として父を尊敬していた気持ちは、昔から変わらない。
だが、その豪快な振る舞いの裏に、誰にも語らない義理堅さがあったことを、ギースは初めて知った。
「でもさ、あの人、賭け事は普通に好きだと思うんだが、そこんとこどう思ってるんだ?」
「……ノーコメントでお願いしますぞ」
ヤンはわずかに視線を逸らした。
その反応だけで、答えは十分だった。
◇ ◇ ◇
ホブス山を越えた一行は、ついにファブール城へとたどり着いた。
「ヤン様!戻られましたか。陛下がお待ちです」
城門を守る門番はヤンの姿を認めると、安堵したように表情を和らげる。重々しい城門がゆっくりと開かれた。
ヤンに先導されながら城内を進み、一行は王の間へと通された。
「おお、ヤンよ、戻ったか」
「はっ!それよりもファブール王、ご報告がございます!ゴルベーザなる者がバロンを動かしクリスタルを奪いに来るとのことです!!」
思いもよらぬ報告に、王の表情が険しく変わる。
王の間にも緊張が走り、居並ぶ家臣たちがどよめいた。
「なに、まことか!」
「この方たちは、それを知らせに来てくれたのです」
ファブール王の視線が、ヤンの後ろに控えるセシルたちへ向けられる。
「その方たちは何者じゃ?」
「時間がありません。早く守りを固めないと!」
「しかしその姿はバロンの暗黒騎士。信じてよい者かどうか……」
「………………」
王はセシルの黒い鎧を見据え、わずかに眉をひそめた。
バロン軍が襲い来る話であれば、その姿は容易に信用できるものではない。
「ファブール王」
「おぬしは……」
ギースは静かに跪くと、腰の刀を外して床へ置いた。
「お初にお目にかかります。俺……いえ、私はギースウェル・ジェラルダイン。エブラーナ王家の一員として参りました」
一度頭を垂れ、真っ直ぐ王を見据える。
「この刀に懸けてお約束いたします。この者たちに、二心はございません」
「ギース……」
「王よ!信頼できる方たちです!私が部隊を失い苦戦していたところを助太刀していただいたのです」
「一刻を争います!」
「急いでください!」
セシルとローザは、ファブール王へ必死に訴えた。
「お久しぶりです。ファブール王」
ギルバートは一歩前へ進み、恭しく一礼した。
「おお、これはダムシアンのギルバート王子!」
「わがダムシアンも襲われ、火のクリスタルを奪われたのです。父も母も……恋人も失いました」
悲しみを押し殺すように、ギルバートは拳を強く握り締めた。
同じ悲劇だけは、決して繰り返させたくなかった。
「このファブールをダムシアンの二の舞にされるおつもりですか?」
ギルバートの言葉は、王の胸に重く突き刺さった。
ダムシアンの惨状を知る者の叫びには、疑う余地のない重みがあった。
「すまぬ!まことじゃったか……だが、主力のモンク隊を失っては……そなたらも力を貸してはくれぬか」
「もとより、そのつもりです」
「この方たちは素晴らしい腕をお持ちです!私と共に最前線についていただきます!」
ヤンは迷いなくセシルたちを推薦した。
ともに戦ったからこそ、その実力を誰よりも信じていた。
「ヤンがそこまで言うのなら、そなたらを信じよう!」
王は力強く頷くと、ローザとリディアへ視線を向けた。
「娘さんがたは救護の任についてもらおう」
「分かりました」
ローザは静かに頷いた。
前線へ立てない悔しさはあったが、傷ついた者を救うこともまた、自分にしかできない戦いだと理解していた。
「では、頼むぞヤン」
「はっ!」
ヤンは力強く一礼し、セシルたちへ向き直る。
「では、セシル殿。参りましょう」
「ああ」
セシルたちはヤンに連れられ、迎撃の準備へ向かう。
「ギース……王子様だったの?」
「いいや、俺は親戚。王子様は俺の従兄の方。俺の母さんが王様の妹なんだ」
迎撃の準備を進めながら、リディアはギースへ尋ねた。
王の前で見せた張り詰めた空気はどこへやら。
ギースはいつもの気さくな笑顔に戻っていた。
「ギースのところの王子様ってギルバートみたいな人?」
「え、いやぁ……ギルバートを基準にすると、だいぶ自由な人だけど、いい兄貴分だよ」
「?」
「まあ、もし会えたら紹介するよ。それより救護班頑張れよ」
ギースは優しくリディアの頭をぽんと撫でた。
二人がそんな話をしていると、ローザはセシルへ歩み寄った。
「セシル!……気をつけてね」
「君も……リディア、ローザを頼む!」
「うん!」
リディアは力強く頷いた。
セシルたちはファブールを守るため、城門へ向かった。