ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ファブール城では、迫り来るバロン軍を迎え撃つ準備が着々と進められていた。
「来ました!」
城壁で見張りを務めていたモンク僧が、遠くに迫る軍勢を見つけて声を張り上げる。
「迎え撃てい!」
号令とともに、城内は一気に戦場の空気へと変わった。
「かかれ!」
バロン兵たちは鬨の声を上げ、剣を構えて一斉に城門へ突撃する。
迎え撃つモンク僧たちも応戦し、両軍は激しく激突した。
城門前は、たちまち乱戦と化す。
セシルたちも最前線で剣を振るっていた。
倒れたバロン兵の中には、かつてともに戦った顔見知りの兵士たちの姿もある。
胸を締めつけられる思いを抱きながらも、セシルはファブールを守るため、再び剣を握り直した。
「赤い翼だ!!」
見張りのモンク僧が叫ぶ。
思わず空を見上げると、そこには赤い翼の飛空艇部隊が迫っていた。
「砲撃だ!」
飛空艇から砲弾が降り注ぎ、激しい爆発が城内を揺るがす。
さらに、空から次々と魔物が投下された。
「ま、魔物だ!?う、うわあ!!」
「本当、取り繕わなくなったな!!下がれ!!」
ひるむモンク僧を庇いながら、ギースは降り立った魔物を次々と斬り伏せる。
「落ちてきた魔物は対処できるが、空からの攻撃はどうしようもない!!」
飛空艇はクリスタルのある城の中心部を避けているのか、直接砲撃は加えてこない。
だが、城壁や城門周辺には容赦なく砲弾が降り注ぎ、迎撃に当たる兵たちは身をさらし続けていた。
「このままじゃやられるだけだ!」
セシルは空を見上げ、苦々しく歯を食いしばる。
「ヤン!このまま外で戦い続けるのは危険だ!」
「くっ……!ひとまず城内まで後退する!」
戦況を見極めたヤンは、苦渋の決断を下した。
「皆、城内へ退くぞ!」
モンク僧たちは頷き、後退を開始する。
しかしヤンは、一度だけ振り返った。
城外で繰り広げられる戦場を見つめ、拳を握り締める。
この場を守り抜けなかった己の未熟さが、悔しかった。
それでも今は、生き残り、再び戦うために退くしかない。
城内へ戻ると、城門が固く閉ざされた。
直後、外からは門を破ろうとする衝撃音が何度も響き渡った。
「かたじけない……勝ち目のない戦いに!」
「言ったはずだ。僕たちの戦いでもあると!それに負けと決まったわけじゃない!」
「ああ、少なくとも最初から負け戦だとは思っていない」
ヤンはセシルたちを巻き込んでしまったことを悔やむが、セシルとギースに迷いはない。
自分たちは巻き込まれたのではない。自らの意思で、この戦いに立っているのだ。
「く、来る!」
ひときわ大きな衝撃音が城内に響き渡る。
次の瞬間、破られた城門から魔物たちがなだれ込んできた。
「話は後だ!!とにかくやるぞ!!」
セシルたちは、とにかく襲い掛かる魔物やバロン兵を切り伏せていく。
バロン兵も魔物も、単体で相手をするならセシルたちにとって脅威ではない。
しかし、数の差はあまりにも大きかった。
そして、経験の浅いモンク僧たちにとっては、状況はさらに厳しいものだった。
熟練の戦士たちを失ったファブールの防衛戦力では、次々と押し寄せる敵の波を止めきれない。
「くっ……! このままでは……!」
ヤンは周囲を見渡し、険しい表情を浮かべる。
「ヤン様!お下がりください!!」
「ここは我らが引き受けます!」
「おぬしたち……」
ヤンは若いモンク僧たちの姿を見る。
まだ修行の途中で、戦場の経験も浅い。それでも彼らはファブールを守るために敵の前へ立っていた。
「……くっ……すまん、後を頼む!」
ヤンは唇を噛み締め、彼らの覚悟を背負うように城の奥へ向かった。
「この上は王の間じゃ!」
「ご心配めさるな。王や女、子供は安全なところに避難している!」
王の間の近くまで、セシルたちは退くことを余儀なくされていた。
「………………」
ギースは黙ったまま、周囲へ鋭い視線を巡らせる。
胸の奥に拭いきれない違和感を覚えていた。
先ほどから、敵はじわじわとこちらを追い詰めてくる。
だが、それは決して力任せではない。
こちらが対処できるギリギリのところを見極めるように、逃げ場だけを少しずつ削り取ってくる。
まるでこちらが足掻く様を愉しんでいるかのような、底意地の悪い攻め方だった。
「鍵をかけた!ここで防がねば!!」
ヤンは王の間の重い扉を閉ざし、固く鍵をかける。
「クリスタルは!?」
「この上に!」
その答えを聞いた一人のモンク僧が、おもむろに扉へ歩み寄った。
カチャリ、と鍵の外れる音が響く。
「おぬし!何を!?」
ヤンの怒声にも、そのモンク僧は振り向こうとしない。
やがて、ぎこちない動きで首だけをこちらへ向けた。
「うがが……」
その顔は、もはや人間のものではなかった。
「人間じゃ……ない!」
ギルバートは、目の前で変貌していくモンク僧に息を呑んだ。
「もうファブールの中にまで、魔物が入り込んでいたのか……!!」
「下がれ!来るぞ!!」
モンク僧の姿を捨てたガーゴイルは、不気味な羽音を響かせながら天井近くまで舞い上がる。
「ローザとリディアがいなくなった途端に飛ぶやつが来るなよ!!」
ガーゴイルは地上の四人を嘲るように、手の届かぬ高さを悠々と飛び回る。
さらに、開け放たれた扉からは次々と魔物がなだれ込んできた。
「こちとら限りある札をやりくりしてるってのに、使わざるを得ない状況を作りやがって!」
通常の手段では埒が明かない。
ギースは小さく舌打ちすると、懐へ手を伸ばした。
「──“グラビデ”!!」
札が紫黒い光を放つ。
放たれた重力の奔流は、空中のガーゴイルと扉からなだれ込んできた魔物たちを捉え、その身体を容赦なく押し潰した。
ガーゴイルの翼は重さに耐えきれず、嫌な音を立てて折れる。
「ギャアアアッ!?」
支えを失ったガーゴイルは、そのまま床へ叩き落とされた。
そのままギースは札へ精神力を注ぎ込み続け、重力でガーゴイルたちを地へ縫い留める。
その額には、じわりと汗が滲んでいた。
「悪いが、一時しのぎだ!このまま残るか退くか、選べ!」
ギースの額を伝う汗を見て、ヤンはこの状況が長くは持たないことを悟った。
「やむを得ん!背水の陣だがクリスタルルームまで撤退する!」
ヤンの号令のもと、一行は最後の防衛線となるクリスタルルームへと退いた。
◇ ◇ ◇
クリスタルルームまで退くと、不思議なことに追ってきた魔物の姿はなかった。
張り詰めた静寂の中、廊下の向こうから激しい戦闘音が響く。
剣戟と断末魔が幾度か重なり、それもやがて静まり返った。
そして姿を現したのは、一人の竜騎士だった。
「久しぶりだな」
「カイン! 無事だったのか!」
「ああ」
窮地に現れた親友の姿に、セシルは思わず駆け寄った。
旧知の仲であることを察したヤンたちも、ひとまず警戒を解く。
「一緒に戦ってくれるな」
「無論、そのつもりだ」
その返答に、セシルは胸をなで下ろした。
これで戦況を立て直せる──そう思った、その瞬間だった。
「だがセシル、戦うのはお前とだ!!」
「カイン!?」
「一騎打ちだ、セシル!」
カインは静かに槍を構え、その切っ先をセシルへと向ける。
「まて、カイン!」
「ゆくぞ!」
セシルは戸惑いながらも剣を構え、カインの猛攻を受け止める。
だが、カインの槍には一切の迷いがない。
親友を傷つけまいと躊躇するセシルは、防戦一方へと追い込まれていった。
「一体何があったんだ!」
「うるさい黙れ!」
カインは叫ぶように槍を振るう。
「セシル、とどめだ!」
次の瞬間、カインは大きく跳躍した。
天井近くまで舞い上がったその姿が、一瞬視界から消える。
「……っ!」
鋭い一撃が、上空から一直線にセシルへ襲いかかった。
「くっ……まさか、お前もゴルベーザに!」
受け止めきれない衝撃に、セシルは床へ叩き伏せられる。
「今、楽にしてやろう!」
「そうはさせん!」
「っ!!」
振り下ろされた槍を、ヤンが間一髪で受け止める。
その横からギースも刀を構え、カインの前へ立ち塞がった。
「邪魔をするな! これは俺とセシルの勝負だ!」
「そもそも、一騎打ちなんてセシルは受けちゃいないだろ」
ギースは刀を下ろさぬまま、皮肉交じりに言い放つ。
「悪いが、これ以上は黙って見てられないぜ」
「やめて!!」
「ローザ……!」
張り詰めた空気を切り裂くように、ローザの声が響いた。
その後を追うように、リディアもクリスタルルームへ駆け込んでくる。
「カイン、まさかあなたまで!」
「う……ううっ! 俺を……見るな!」
カインは頭を抱え、苦しげにローザから目をそらした。
「何を血迷っているのだ、カイン」
その瞬間、男とも女ともつかぬ、不気味な声がクリスタルルームに響き渡る。
「ゴルベーザ!」
「…………っ」
カインの身体がびくりと震える。
闇の奥から、黒い甲冑に身を包んだ魔人が静かに姿を現した。
「貴様がゴルベーザ……!」
「……お前がセシルか。会えたばかりで残念だが。これが私の挨拶だ」
「セシル!」
「させるものか!」
ゴルベーザが放った魔法が、一直線にセシルへ襲いかかる。
「よう──久しぶりだな、ゴルベーザ」
割って入ったギースが刀を振るう。
鋭い一閃が魔法を両断し、四散した魔力が霧のように消えた。
「ほう……どうにも懐かしい顔が見える」
甲冑の奥から、くぐもった笑い声が漏れる。
「あれから姿を見せぬから、てっきり野垂れ死んだものと思っていたが……」
「ああ、お前が殺し損ねたおかげで生きてたぜ。残念だったな」
軽口を叩きながらも、ギースは一瞬たりとも刀を下ろさない。
視線はゴルベーザを真っ直ぐ捉え、そのわずかな動きすら見逃すまいとしていた。
いつも冗談を口にするギースの姿はそこにはない。
刀を構えるその姿から漂うのは、冷え切った殺気だけだった。
ゴルベーザと向き合うその横顔には、これまで見たことのない怒りが宿っていた。
「お前が裏で好き放題やってたせいで、再会が遅れたな」
「ああ、本当にお前は遅い……二つのクリスタルはすでに我が手中。残る一つも、間もなく私のものとなる」
「もう勝った気でいるのか?」
「生き恥をさらした臆病者が私に勝てるとでも?」
ゴルベーザは一拍置き、冷たく言い放つ。
「お前に託した結果がこれとは。哀れだ──"あの女"も、あまりにも愚かだった」
その言葉に、ギースの瞳がわずかに揺れた。
「……生き恥云々は、そのとおりだ。そこは否定しない」
刀を握る手に、ぎり、と力がこもる。
「──だがな。お前がアイツを侮辱することだけは、絶対に許さない」
「ほう……であれば。どうする?」
「決まっているだろ」
口にした答えは迷いのないものだった。
だが、その言葉は誰よりも自分自身へ向けたものでもあった。
──ゴルベーザを殺して
「殺す以外の選択肢はあるか?」
「そうか……」
ゴルベーザは静かに右手を掲げる。
黒紫の魔力が渦を巻き、その手の中で一本の剣を形作った。
いや、それだけではない。
一本、二本、三本。
炎を宿す剣。
氷をまとった剣。
雷光を散らす剣。
それぞれ異なる属性を宿した魔法剣が、ゴルベーザの周囲へ円を描くように浮かび上がる。
「……魔法を、剣に?」
セシルが息を呑む。
「違う」
ギースは刀を構えたまま、小さく首を振る。
「剣の形をした魔法だ」
次の瞬間、魔法剣が一斉にギースへ襲いかかった。
ギースは素早く懐から一枚の札を抜き放つ。
「“マイティガード”!!」
札が青白い光を放ち、半透明の障壁がギースの全身を包み込む。
魔法剣が次々と障壁へ突き刺さる。
激しい衝撃が室内へ響くが、刃は障壁を貫くことはできない。
「くっ……」
「まずは防いだか……だが防ぐだけでよいのか?」
ゴルベーザは愉快そうに言い放つと、魔法剣を次々と生み出した。
炎、氷、雷──属性の異なる刃が宙を舞い、一斉にギースへ襲いかかる。
ギースは身をひねり、跳び、刀で弾きながら、少しずつ距離を詰めていく。
狙いはただ一つ。魔導士であるゴルベーザとの間合いを潰すことだった。
「そんなに動き回るな」
ゴルベーザはわずかに右手をかざす。
「潰したくなるだろう──"グラビデ"」
黒紫の魔法陣がクリスタルルームいっぱいに広がる。
ギースが札で放つものとは比較にならない重力が、一瞬にして空間そのものを押し潰した。
「なっ……!」
床が軋み、空気までもが鉛のように重くなる。
膝をつきそうになる身体を、ギースは刀を杖代わりにして必死に支えた。
「この程度か?」
ゴルベーザは冷ややかに見下ろす。
「ギース!」
「身体が……動かん!!」
ヤンたちも助けに駆け出そうとした。
だが、一歩も踏み出せない。
重力の網に絡め取られたように身体が押さえつけられ、足は床に縫い付けられていた。
「では、そろそろお前には退場いただこう。私にも次があるのだからな」
ゴルベーザが静かに手を掲げる。
周囲の魔力が一箇所へ収束し、頭上には巨大な魔法剣が形作られていく。
「終わりだ」
「っ──"リフレク"!!」
ギースは懐から札を引き抜き、最後の力を振り絞る。
青白い光が鏡のような障壁となって、その身を包み込んだ。
巨大な魔法剣は振り下ろされ──次の瞬間、軌道を反転させる。
「なに!?」
反転した巨大な魔法剣は、轟音を響かせながらゴルベーザへ襲いかかる。
自ら放った必殺の一撃が、そのまま牙を剥いた。
「地下水脈でテラに無理を言って思い出してもらった甲斐があったよ……」
荒い息を吐きながらも、ギースは刀を握る手を緩めない。
視線は一瞬たりともゴルベーザから外さなかった。
「お前を殺すためだけに、どれだけ旅をしたと思っている」
どれほど生き恥をさらそうとも。どれほど罪悪感に苛まれようとも。
立ち止まるわけにはいかなかった。これ以上、苦しませるわけにはいかなかった。
「お前なら、そう来ると思ってた」
ここまで追い込まれることも、想定のうちだ。
ギースは刀を握り直し、切っ先をゴルベーザへ向ける。
「そうか……であれば」
ゴルベーザの視線が、ギースの刀へ向く。
「その刀を手放せなかった時点で、お前の負けだ」
「!!」
ゴルベーザが静かに指を鳴らす。
その瞬間、ギースの刀身に無数の亀裂が走った。
「しまっ──」
刀へ封じ込められていた"フレア"が暴走する。
次の瞬間、凄まじい爆発がクリスタルルームを揺るがした。
「ああ、結局。お前ひとりではこの程度だ」
爆発の衝撃がクリスタルルームを満たす。
煙が晴れると、そこには倒れ伏したセシルたちの姿があった。
ゴルベーザは興味を失ったように視線を外す。
「カイン……クリスタルを手に入れるのだ」
「はっ!」
カインは静かに歩みを進める。
その足取りに迷いはなく、まるで自分の意思で動いているかのようだった。
やがて、火のクリスタルへ手を伸ばす。
「やめてカイン!」
ローザはふらつきながらも立ち上がる。
傷ついた身体を支えながら、必死にカインへ呼びかけた。
「下がるんだ、ローザ……!」
倒れたままのセシルが、絞り出すように叫ぶ。
しかし、身体は動かない。
守りたいものがすぐそこにあるというのに、立ち上がることすらできなかった。
「ほう……」
ゴルベーザは倒れたセシルを見る。
剣を握る力も残っていないというのに、彼の目だけはローザを追っていた。
その視線が、答えだった。
「そんなにこの女が大事か。ならばこの女は預かっていこう」
「きゃあ!」
「ローザ!!」
セシルの叫びが響く。
しかし、ゴルベーザは振り返ることすらしなかった。
伸ばした手から黒い魔力が放たれ、ローザの身体を絡め取る。
「っ……!」
抵抗しようとするローザだったが、魔力の拘束には抗えない。
そのまま意識を失い、力なく崩れ落ちる。
「ローザ!!」
セシルが必死に手を伸ばす。
だが、届かない。
「侍はもう飽きたが……」
ゴルベーザは一瞬だけギースへ視線を向ける。
「セシル、お前とはぜひまた会いたい。その約束の証として、この女は預かっていこう」
ゴルベーザの魔力に拘束されたローザが、力なくその場に浮かぶ。
倒れたセシルを見下ろし、ゴルベーザは静かに告げる。
「行くぞ、カイン」
「はっ!!」
カインは火のクリスタルへ手を伸ばす。
赤く輝く結晶は、抵抗する間もなく彼の手へ収まった。
「命拾いしたな、セシル」
「ま……て……!」
セシルは震える腕に力を込める。
しかし、身体は言うことを聞かない。
「……くっ……!」
届かない。
大切なものを奪われたまま、ただ見送ることしかできなかった。
ゴルベーザはそれ以上何も言わず、カインとともに転移の光に包まれる。
次の瞬間、彼らの姿はクリスタルルームから消えていた。