ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ゴルベーザたちが去ったクリスタルルームには、傷つき倒れた四人と、幼い召喚士だけが残された。
リディアは目の前の光景に息を呑む。
セシルも、ギースも、ヤンも、そしてギルバートも、誰一人として動かない。
小さな身体を震わせながら、それでもリディアは両手を握り締めた。
「お願い……! “ケアル”!!」
リディアのケアルによって癒された四人は、ゆっくりと身体を起こす。
「……大丈夫?」
リディアは不安そうに四人の様子を見つめる。
「ありがとうリディア。でもローザが攫われてしまった……」
「クリスタルも守れなかった……」
セシルたちは悔しさを滲ませ、俯く。
「しっかりしてよ、みんな! ローザはきっと無事よ! クリスタルだって、取り返せばいいじゃない!」
落ち込む四人に、リディアは必死に声をかける。
幼いながらも、その言葉には迷いがなかった。
「……そうだね」
セシルは顔を上げる。
「セシル殿! 今度は我々が力になる番。まずは身体を癒し、救出の方法を練りましょう」
「ありがとう……」
ヤンの言葉に、セシルは小さく頷いた。
◇ ◇ ◇
「ヤン様、お疲れでしょう。ゆっくりお休みください」
「ありがたい」
クリスタルを守れず、ローザまで攫われた。
しかし、立ち止まっている時間はなかった。
城内の一室を借り、セシルたちはこれからの行動について話し合う。
「ローザを助けなければ!」
ギルバートの言葉に、全員が頷く。
「ゴルベーザに対抗するには飛空艇が必要だ。しかし、飛空艇はバロンでしか造れない」
「空を取られたらそこで終わりだからな」
飛空艇を持つバロンに対抗するには、こちらも空を制する手段が必要だった。
しかし、その手段を得るには敵の本拠地へ向かわなければならない。
「バロンに侵入できる方法はないものか……」
「バロンは赤い翼が主力だ。その分、海からの警戒は薄いはずだ。侵入するなら海から……」
「だったら船がいるわ」
リディアの言葉に、ヤンは頷く。
「ならば、さっそく明朝、王に頼み船を出してもらおう。そなたたちには世話になった。王も協力は惜しまぬはずだ」
「頼む……」
セシルは強く拳を握り締める。
ふと、ヤンが尋ねた。
「あの竜騎士はいったい?」
「カインといって、僕の親友だった……共にバロンと戦おうと誓ったのに」
セシルの声に、深い悲しみが滲む。
幼い頃から共に過ごし、互いに背中を預けて戦ってきた大切な友だった。
だからこそ、あの槍を向けられた瞬間、セシルには信じられなかった。
「……ただ」
セシルの様子を見ていたギースが、静かに口を開く。
言うべきか迷うように、一瞬だけ言葉を止める。
「アイツの様子はおかしかった。気休めかもしれないが……操られている可能性はある」
「そうで……あれば」
セシルは顔を上げる。
「カインは、こんなことをする人間じゃない」
セシルの迷いのない言葉に、ギースは一瞬だけ目を伏せた。
その姿が、かつての自分と重なって見えた。
「……ギース、ゴルベーザとは……」
セシルの問いに、ギースはしばらく答えなかった。
やがて諦めたように小さく息を吐く。
「……今まで黙ってて悪かった。どうも、冷静に説明できる保証が無くてな……」
一度目を閉じて気持ちを落ち着かせると、ギースは静かに口を開いた。
そして、誰にも話していなかった過去を語り始めた。
「俺たちがゴルベーザと出会ったのは、今から数年前だ。突然、俺たちの前に現れた」
短い言葉の裏に、消えることのない敗北の記憶があった。
「……まあ、見るも無残に負けたよ」
ギースは苦々しげに続ける。
「偶然通りかかったミシディアの魔導士が、倒れていた俺を見つけなければ……俺は死んでいた」
「ギースが、言っていた“相方”は……」
ギルバートは、カイポで聞いたギースの言葉を思い出す。
いつもなら軽口で流していたその存在が、今語られている過去の中にいるのだと気づく。
「その時に……“アイツ”ごと切れば、ゴルベーザを殺すことはできたんだ」
「えっ……」
予想もしなかった言葉に、ギルバートは息を呑む。
「俺は……“アイツ”ごと切れなかった」
ギースの声が震える。
「できなくて……できなくて……!結局、残ったのは俺だけだ」
その言葉に、セシルは息を呑む。
もし、自分が同じ状況になったら。
大切な人を犠牲にしなければ倒せない敵を前にして、自分は迷わず剣を振れるのだろうか。
ギースの苦しみが、痛いほど理解できた。
「悪かった」
ギースは拳を握り締めたまま、深く頭を下げる。
「数年前に俺がゴルベーザを殺せれば、バロンも、ミストも、ダムシアンも、ファブールも……こんなことにはならなかった……」
「……ギースの責任じゃない」
セシルは静かに言葉を返す。
ゴルベーザが起こした悲劇をギースが背負う必要はない。そう思っていた。
「ゴルベーザが何をしたとしても、それを選んだのはゴルベーザだ。君が背負うことじゃない」
ギースは何かを言おうとするが、言葉が出てこない。
「ともかく、今日はゆっくり休もう……」
その言葉に、誰も反論することはできなかった。
激しい戦いの傷は身体だけではない。
失ったものの重さを抱えながら、セシルたちは束の間の休息を取ることになった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
セシルたちは負傷したファブール王の寝室を訪れ、ローザ救出へ向けた計画を伝えた。
「そうか、あいわかった。すぐさま船を用意させよう」
ファブール王はゆっくりと身を起こし、セシルたちを見つめる。
「ヤンよ。おぬしも同行し、力を貸すがよい」
「はっ!」
ヤンは深く頭を下げる。
「セシル殿には感謝の言葉もない。ローザ殿まで奪われてしまうとは……」
ファブール王は悔しげに表情を曇らせる。
「セシル殿。この剣を持っていくがよい」
そう言って、王は一振りの剣を差し出した。
「これはその昔、ファブールを訪れた暗黒騎士が持っていたものじゃ」
「……いいのですか?」
「なに、ファブールのために戦ってくれた、せめてもの礼だ」
セシルは一瞬、その剣を見つめる。
暗黒騎士として歩んできた自分の過去。
その力で守れなかったもの。
様々な思いを胸に抱えながら、静かに剣を受け取った。
「だが……暗黒剣はしょせん暗闇の剣。真の悪には通用せぬはずだ」
王はセシルを真っ直ぐ見つめる。
「あとは、そなた自身の持つ真の力で……必ずやゴルベーザを倒してくれ」
「分かりました」
セシルは決意を込めて頷く。
「準備ができ次第、東の桟橋へ行かれるがよい。船が用意されておるはず」
ファブール王は立ち上がり、セシルたちを真っ直ぐ見つめる。
「すべてのクリスタルが奴の手に渡れば世界はかつてない危機にさらされるじゃろう。頼んだぞ!」
◇ ◇ ◇
出発の準備を進める中、ギースは壊れてしまった刀の代わりを求め、武器屋を訪れていた。
「ファブールがエブラーナとそれなりに交流があって助かったよ」
店内を見回したギースは、一本の刀を見つけて安堵の息を吐く。
「すみません、今はそれしかなくて……」
「いや、十分だ」
ギースは刀を手に取り、感触を確かめる。
「使い慣れない獲物を使うよりはましだ。普通の剣じゃ、細身でも振った時にどうしても違和感があるからな。刀を失った以上、贅沢は言わないさ」
「ギースの前の刀って、なんであんなに爆発したの?」
付き添いでそばにいたリディアが、不思議そうに尋ねる。
あれほどの威力を生み出したものが、ただの刀ではないことは彼女にも分かっていた。
「アレは俺の相方……カグヤが付与してくれたんだ」
「付与?」
「そうだな……アイスロッドってあるだろ?」
「今、持ってるよあたし」
リディアは腰に携えたアイスロッドを見る。
「あれ、別に俺やセシルが振り回してもブリザド使えるだろ?」
「うん」
「それはロッドにブリザドの魔法が込められているからなんだ」
「そうだったんだ……」
リディアは自分の持つアイスロッドを、興味深そうに見つめる。
「カグヤは道具に魔法を込めるのが得意でさ」
ギースは懐から、砕けた刀の欠片を取り出す。
「俺の刀にも、よく魔法を込めてくれた……」
欠片を静かに見つめる。
「これは……カグヤが付与してくれた最後の一本だった」
「ギース……」
「まあ、結果いいように使われて。大爆発起こしたんだがな」
軽く笑おうとするギースだったが、その表情はどこか苦しげだった。
刀を失ったことだけが辛いわけではない。
大切な人が込めてくれた想いまで、自分の手で傷つけてしまったような感覚が残っていた。
「ゴルベーザの言う通りだった」
あの時、手放せなかった刀が敗因になった。
その事実を、ギースは認めざるを得なかった。
「真っ先に手放すべきだったんだ。カグヤの魔法を利用される可能性を……一番に考えるべきだった」
ギースは小さく息を吐くと、手にしていた刀をカウンターへ静かに置いた。
「店主、これいくらだ?」
「いえ、お代はいりません」
「え?」
「ヤン様から、あなたがガルド様の息子さんだと伺いました」
店主は穏やかに微笑む。
「大したお礼はできませんが……これくらいはさせてください」
「分かった……ありがたく受け取らせてもらう」
ギースは静かに頭を下げ、店主の厚意に甘えることにした。
受け取った刀を腰に差すと、その重みを確かめるように軽く柄へ手を添えた。
◇ ◇ ◇
準備を終えた一行は、東の桟橋へと集まった。
「あんた! 気を付けて、しっかり戦ってきな!!」
「うむ!」
見送りに来た妻の声に、ヤンは力強く頷く。
「セシルさんたちもしっかりね!」
「はい!」
皆の声援を背に受けながら、セシルたちは船へと乗り込んだ。
「では、留守を頼む!」
出航を前に、ヤンは桟橋に立つ妻へ向かって声を張る。
「まかしときな!」
ヤンは妻へ最後に手を振ると、甲板へと上がった。
甲板では、船員たちが出航に向けて忙しく動き回っていた。
「あんたがセシルか! 活躍は聞いてるぜ!」
船長は豪快に笑いながら、セシルの肩を軽く叩いた。
「なーに、ゆっくりしててくれ。バロンなんざ、あっという間についちまうぜ!」
くるりと踵を返して甲板の中央へ歩み出る。
「よーし!野郎ども!さっそく出航だ!!錨を上げろー!」
「「「「ヒャッホー!!」」」」
錨が上がり、船はゆっくりと桟橋を離れる。
こうして一行は、ローザを救うため、そしてゴルベーザを追うため、バロンへ向けて航路を取った。