ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
甲板の上では、バロン到着後の行動について話し合いが始まっていた。
「バロンに着いたらどうされるおつもりで?」
「まず、飛空艇技師のシドに会おう。彼なら飛空艇に精通しているし、力になってくれるはずだ」
「だが今やバロンは敵の本陣、そのごじんが無事だとよいが……」
「話を聞くに、その人の飛空艇技師の腕は唯一無二なんだろ?命までは奪われない……と思いたいな」
セシルの胸にも、不安がよぎる。
シドが無事でいてくれなければ、この先の希望は大きく失われてしまう。
「………………」
「寒いの?震えてるよ」
「いや、何でもないんだ……」
ギルバートはセシルたちの会話を聞きながらも、意識はどこか別のところへ向いていた。
リディアは不思議そうにギルバートを見つめる。
だが、ギルバートは苦笑してごまかすだけだった。
◇ ◇ ◇
しばらくは、波の音だけが静かに響いていた。
その静寂を破るように、見張りの叫び声が甲板へ響く。
「船長!!前方に何かいます!!」
「なんだと!?」
船長は船員から望遠鏡をひったくるように受け取り、前方へ目を凝らした。
次の瞬間、その表情が強張る。
「あれはまさか……大海原の主!」
「リヴァイアサンだー!!!」
海面が大きく盛り上がり、巨大な海龍がその姿を現した。
圧倒的な巨体が海を割るたび、船は大きく揺れ、波が甲板へと叩きつけられる。
「てめーら!オロオロするんじゃねえ!!何とかやり過ごさんかい!!」
船長の怒号が響く。
慌てふためいていた船員たちは、その一喝で我に返り、一斉に持ち場へ駆け出した。
「きゃあ!!」
船が激しく揺れ、リディアの小さな身体が甲板から宙へ投げ出される。
「しまった!」
「リディア!!」
迷うことなく、ヤンは海へ飛び込んだ。
「リディア!ヤン!」
セシルは慌てて船縁へ駆け寄り、荒れ狂う海を見下ろす。
だが、波間に二人の姿は見えなかった。
「うわぁ!」
「くっ!」
再び船が大きく揺れ、バランスを崩したギルバートをギースが咄嗟に支える。
「ギルバート!」
ギースは歯を食いしばり、必死にその身体を支えた。
だが――その時。
海の底から響くような轟音が、辺り一帯に響き渡った。
「……なんだ、あれは……」
誰かの呟きが漏れる。
リヴァイアサンが大きく身を翻した瞬間、海面が空へ向かって盛り上がった。
まるで海そのものが立ち上がったかのような巨大な波。
「逃げろおおお!!」
船員の叫びも虚しく、巨大な津波は一瞬で船を覆い尽くした。
◇ ◇ ◇
「ここは……?」
気がつくと、セシルは暗闇の中に立っていた。
上下も、距離も、時間の流れすらも曖昧な不思議な空間。
ここがどこなのか。
なぜ自分がここにいるのか。
考えようとしても、答えは何も浮かばなかった。
「光……?」
闇の向こうに、小さな光が揺れている。
なぜか分からない。けれど、セシルにはそれが自分を呼んでいるように感じられた。
導かれるように、セシルはその光へ歩き出す。
「………………」
近づいて、初めて気づいた。
それは光ではなかった。
そこにいたのは、一人の幼い少女だった。
「ひっく……ひっく……」
少女はその場に蹲り、小さな肩を震わせながら泣いていた。
「……ごめんなさい……ごめんなさいっ……」
「君……は?」
セシルは戸惑いながらも、静かに声をかける。
少女はゆっくりと顔を上げた──
◇ ◇ ◇
「…………う……」
セシルはゆっくりと目を開けた。
頬に触れるのは冷たい砂の感触。耳には穏やかな波の音が届く。
「ここは……?」
ぼやけていた視界が、少しずつ輪郭を取り戻していく。
「……リディア!……ギース!……ギルバート!……ヤン!」
セシルは辺りを見渡しながら、仲間たちの名を叫ぶ。
だが、返ってくるのは波の音だけだった。
「一人……か」
呟いた声は、誰にも届かず消えていく。
波だけが、何事もなかったかのように浜辺へ寄せては返していた。
つい先ほどまで共に戦っていた仲間たちの姿は、どこにもない。
セシルはしばらく、その場に立ち尽くしていた。
◇ ◇ ◇
「こ、ここは……」
クリスタルを守れず、ローザを攫われ、仲間たちの行方すら分からない。
たどり着いた先は、最初の罪の場所──ミシディアだった。
町の入り口に立った瞬間、肌を刺すような敵意を感じる。
当然だった。
赤い翼は……セシルは、この町で罪もない魔導士たちからクリスタルを奪った。失われた命も、一つや二つではない。
建物の窓や扉の向こうから、無数の視線がセシルへ突き刺さる。
「……っ」
セシルは息を飲み、一歩、町の中へ足を踏み入れた。
セシルがまず向かったのは水のクリスタルが安置されていた祈りの館だった。
建物に入るとそこにはミシディアの長老が立っていた。
「そなたは、あの時の……今度は一体何の用じゃ」
「……飛空艇団を指揮していましたセシルといいます」
セシルは深く頭を下げる。
かつてこの地で犯した罪を思えば、顔を上げる資格などないと思った。
「あの時は、王の命令に背く勇気がありませんでした……」
「謝ってもらっても、死んでいった者たちは生き返ってはこん」
長老の言葉は静かだった。
だからこそ、その一言はセシルの胸に重く突き刺さった。
「………………」
「しかし……今のそなたからはその姿とは違う輝きのかけらが見受けられる。話を聞く価値はありそうじゃ」
長老は静かにセシルを見つめ、話の続きを促した。
「今は、バロンを操るゴルベーザというものと戦っています。しかし、仲間が捕らわれ助けに行く途中、リヴァイアサンに襲われて他の仲間も……」
「……それも、そなたに与えられた試練じゃろう」
責めるでも、慰めるでもない。
長老はただ、揺るぎない眼差しでセシルを見つめていた。
「しかし、暗黒剣に頼っていては真の悪を倒せぬばかりかそなた自身も、いつ悪しき心に染まってしまうやもしれぬ」
長老は一度言葉を切り、静かに目を閉じた。
「もし、そなたが善き心で戦おうと願うならば東にある試練の山に行け。そこで強い運命がそなたを待ち受けておるはずじゃ」
「しかし、早く仲間を助け出さねば!!」
セシルは思わず声を荒らげる。
ローザは、今この瞬間にも危険にさらされているかもしれない。
試練に挑む時間など、残されているとは思えなかった。
「そなたの大事な人じゃな?しかし、焦ってはならん!そなたは大きな運命を背負っているようじゃ」
長老はセシルの焦りを見抜いていた。
その眼差しは厳しくも、どこか諭すような優しさを宿している。
「まずは、その邪悪な剣を聖なる剣に変えるため、試練の山に登ってみるがよい」
そう言って、長老はセシルの腰に下げられた暗黒剣へ視線を向けた。
「聖なる光を受け入れられる者は、聖なる騎士……パラディンとなれるそうじゃ。志を抱き試練の山へ向かった者は数多い。じゃが、誰一人として戻ってはこん……どうじゃ、行ってみるか?」
「……ええ!」
セシルは覚悟を決めたように、大きく頷いた。
「……しかし、試練の山は死霊が多く、暗黒剣では一人はつらかろう。魔導士を供につけてやろう……パロム!ポロム!」
呼びかけから間もなく、一人の少女が長老の前へ姿を現した。
「何か?」
いつも一緒にいるはずの少年の姿がないことに、長老は気づいた。
「……パロムはどうした?」
「パロムったら、また!」
ポロムが振り返った、その時だった。
セシルの背後で、ポカン!と煙が上がる。
突然の物音に、セシルは思わず振り返った。
「おめーが、パロム様がいないときにクリスタルを奪ったバロンの奴か。じーさんの命令だから仕方なく手を貸してやるんだから、ありがたく思えよ!」
煙の中から現れたのは、ポロムによく似た少年だった。
「この二人が?」
「さよう。双子の魔導士パロムとポロムじゃ。修行中の身じゃが助けになるじゃろう。まだ幼いが、その資質はワシが保証する」
「このミシディアの天才児、パロム様がお供してやるんだから、ありがたく思うんだな!」
「パロム!おぬしらの修行も兼ねておるんじゃ!」
自慢げに胸を張るパロムを、長老がたしなめる。
「セシルさんとおっしゃいましたね。よろしくお願いしますわ」
ポロムは礼儀正しく頭を下げると、隣のパロムの腕を引いた。
「ほら、パロムも!」
「よろしくな、あんちゃん!」
パロムは得意げにあいさつした。
「旅立つのじゃ試練の山へ!パロム、ポロム!頼んじゃぞ!」
◇ ◇ ◇
一方、その頃――
人目の届かぬ、ゴルベーザたちの本拠地。
「出でよ、スカルミリョーネ」
ゴルベーザが静かに呼びかける。
「土のスカルミリョーネ、こちらに……」
その声に応えるように、ローブを深くまとった人影が姿を現した。
「あのセシルとかいう者、侮れん。今のうちに手を打っておいた方がよさそうだ。幸い奴は暗黒騎士。お前の率いるアンデッドたちにはその剣も鈍ろうというもの」
スカルミリョーネは静かに頭を垂れ、その命を聞いていた。
「だが、奴は試練の山を登ろうとしている」
その一言に、ローブの奥の表情がわずかに変わる。
「では、パラディンに?」
ゴルベーザは静かにうなずき、言い放つ。
「そうなる前に始末するのが、お前の役目だ」
「ご心配無用。ゴルベーザ様はゆっくりここでご覧ください……」
「では、行け!」
「はっ……!」
スカルミリョーネは深々と頭を垂れる。
次の瞬間、その姿は闇へ溶けるように消え去った。
スカルミリョーネの気配が完全に消え、部屋は再び静寂に包まれた。
「面白くなってきたな、カイン」
ゴルベーザの傍らに控えていたカインが、静かに頭を垂れる。
「はっ……しかし、セシルの力、侮っては……」
「かつての友ゆえ、奴を侮れぬというのもわかるが……だからこそスカルミリョーネを差し向けた」
セシルの力を軽んじているわけではない。だからこそ、四天王の一角を差し向けたのだ。
「奴も四天王の一人。楽しませてくれるはず。なあ、ローザよ」
ゴルベーザは捕らえたローザへ視線を向ける。
ローザは唇を固く結び、何も答えなかった。
「奴とは、このカインが!」
思わず声を荒らげたカインを、ゴルベーザは冷たく一瞥する。
「この間のような失態を見せておいて何を言う。お前はローザの見張りをしていろ」
「……は!」
ローザは祈るように目を閉じ、小さく呟いた。
「セシル……気を付けて……」