ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
試練の山の入り口は、燃え盛る炎によって閉ざされていた。
赤々と揺らめく炎はまるで意思を持っているかのように立ちはだかり、先へ進もうとする者を拒んでいるようだった。
「パロム、出番よ!」
「言われなくたって分かってるよ!」
パロムは得意げにロッドを構えると、炎へ向けて魔法を放つ。
「“ブリザド”!」
冷気が渦巻き、燃え盛っていた炎を瞬く間に凍らせていく。
「おお……」
セシルは思わず感嘆の声を漏らした。
「凄いよ、パロム」
「へっへっへ! ざっと、こんなもんさ!」
調子に乗って胸を張ったパロムの頭に、ポロムの拳がぽかりと落ちる。
「いってー!何すんだよ!」
頭を押さえながら、パロムはポロムへ抗議の声を上げる。
「パロム!おごり高ぶってはいけないと長老がおっしゃってるでしょ!」
真剣な表情で叱るポロムに、パロムは少しだけたじろいだ。
「なんだよ!初級魔法の腕前は、おっさんからも認められてるんだぜ!」
しかし、すぐにいつもの調子を取り戻し、パロムは得意げに胸を張る。
どうやら自分の魔法の腕には、かなりの自信があるようだ。
「だからって調子に乗らないの!!分かった?」
「ちぇー」
ポロムの鋭い一言に、パロムは口を尖らせた。
「では、参りましょう、セシルさん!」
ポロムに促され、セシルたちは再び試練の山の奥へと進んでいった。
パロムとポロムは、まだ幼いながらも確かな力を持つ魔導士だった。
最初は子供だと思っていた二人の存在が、今では頼もしい仲間になっている。
彼らの魔法がなければ、セシルは試練の山を進むことすら難しかっただろう。
「あれは……」
試練の山を進み続けたセシルたちの前に、一人の老人の姿が見えた。
白い髭を蓄えたその姿には、見覚えがあった。
「テラ!」
「……セシル!」
セシルの声に気づいたテラは、驚いたように目を見開く。
そして、すぐにこちらへ駆け寄ってきた。
「おぬしもやはりメテオを求めて……」
「メテオ?」
聞きなれない言葉にセシルは首をかしげる。
「メテオを知ってるっていうことは……じいちゃん!あのテラか?」
「テラ様とおっしゃい!失礼な!」
テラの言葉に、パロムが目を輝かせた。
すかさずポロムがパロムをたしなめる。
「お目にかかれて光栄ですわ。私たちミシディア長老のお言いつけで……」
「セシルの身は──」
余計なことを言いかけたパロムの頭を、ポロムがすかさず叩く。
ポロムは何事もなかったかのように、テラへ向き直った。
「セシルさんをこの試練の山へご案内してます。ポロムといいます」
「オイラはパロムだ!そっかー、じいちゃんがミシディアでも有名なテラか!」
ポロムとパロムの様子に、テラは思わず表情を緩めた。
「ミシディアの子供たちか。ギルバートやギース、リディアはどうした?」
セシルと共にいるはずだったギースたちの姿がない。
代わりにミシディアの双子を連れていることを、テラは不思議に思った。
「ローザが……僕の仲間が、ゴルベーザに攫われてしまい……」
「……きっと恋人だぜ」
「しっ!」
パロムの言葉に、ポロムが慌てて制する。
だが、セシルは何も言わず、ただ俯いた。
「助けるため、バロンへ向かう途中、リヴァイアサンに襲われて……」
セシルは視線を落とす。
あの時の光景が脳裏に蘇る。
「……死におったか!」
「……分かりません。波に飲まれて、姿が見えなくなって……」
「……そうか」
セシルは俯いた。
無事だと信じたい。だが、あの荒れ狂う海から生き延びた姿を想像することもできなかった。
重い沈黙が流れる。
「でも、あなたはゴルベーザのもとに向かったはずでは?」
「ヤツほどのものを倒すには、悔しいが手持ちの魔法だけでは無理じゃ」
テラは拳を握りしめた。
かつては数多の魔法を操った自分も、今では多くの力を失っている。
ゴルベーザほどの相手を前にして、自分にできることは限られていた。
「封印されし伝説の魔法。メテオを探してたんじゃが、この山に強い霊気を感じてな!もしやここにメテオが……」
「あの魔法は危険です!テラ様はお年を召されて……」
「確かに老いぼれてはおる!しかしな!私の命に代えてもヤツは……ゴルベーザは私が倒さねばならんのじゃ!!」
「………………」
普段の穏やかな老人の姿からは想像できないほどの強い怒りが、テラの声に滲んでいた。
セシルは何も言えず、ただその姿を見つめる。
「けっ!これだから大人はめんどくさいんだよ」
「子供は黙ってなさい!」
「ポロムも同じじゃねえか!」
テラはセシルに目を向ける。
その瞳には、問いかけだけではなく、何かを見極めようとするような光が宿っていた。
「セシル、おぬしは?」
セシルは一瞬だけ言葉に詰まる。
だが、静かに自分の決意を口にした。
「僕はパラディンになるためです。暗黒剣ではゴルベーザを倒すことができないと……そして、僕もこの忌まわしい暗黒剣から離れたいんです」
セシルの言葉を聞き、テラは静かに目を細めた。
力を求める理由は違えど、二人は同じ敵を見据えている。
「ゴルベーザって誰かな?」
「あんた何も知らないのね!バロンを動かしてるヤツよ!」
この期に及んで事態を理解していないパロムを、ポロムが呆れたように叱る。
「そう、諸悪の根源じゃ!」
テラは拳を握りしめる。
ゴルベーザへの怒りは、今も消えることはない。
しかし、目の前の青年もまた、己を変えるためにこの山へ来ているのだ。
その姿に、テラは何かを感じ取っていた。
「しかし……パラディンか。私の睨んだ通り、この山には何か隠されているのじゃな!共に行くとするか。……待っておれゴルベーザ!!」
テラの決意を胸に、セシルたちは再び山道へ足を踏み出した。
新たな仲間を迎えた一行は、試練の山の頂を目指して進んでいく。
◇ ◇ ◇
セシルたちはついに山頂へたどり着く。
吹き抜ける風は冷たく、辺りには不思議な静けさが漂っていた。
ここまでの険しい道のりとは対照的に、山頂には何かを待ち受けているような空気が流れている。
最後の橋を渡ろうとした時だった。
──フシュルルル
どこからともなく奇妙な音が響いた。
「パロム、何か言った?」
「言ってねーよ」
奇妙な音を聞いたポロムが、辺りを見回す。
──フシュルルル
「ほら!また何か聞こえた!」
「む!邪悪な気配!!」
テラは険しい表情で周囲を見渡す。
山頂に漂う気配は、先ほどまでの静けさとは明らかに違っていた。
「嬉しい……嬉しいぞ……お前らを葬ることができて……」
どこからともなく、不気味な声が響き渡る。
その声には、生きた者とは思えない冷たさがあった。
「何者だ!」
姿の見えない相手に向かって、セシルは叫んだ。
「我は……死の水先案内人……ゴルベーザ様の四天王……土のスカルミリョーネ」
その瞬間、セシルたちの目の前に黄色いローブをまとった人影がゆっくりと姿を現した。
「私のかわいいアンデッドたちの餌の時間だ……!」
次の瞬間、地面が不気味に隆起し、土の中から次々とアンデッドたちが這い出してくる。
腐敗した身体を引きずりながら、生者を憎むような呻き声を漏らす。
死者に囲まれたスカルミリョーネは、まるでこの山そのものを墓場に変えたかのようだった。
「何人、何十人もの人間が……試練の山に挑み。帰ってこなかった。ろくに弔われることもなかった人間の無念は……アンデッドとなってこの山に残った。私は……その無念の行き場を示したのだ!」
セシルは剣を握り直した。
目の前の死者たちは、かつてこの山へ挑んだ者たちなのだ。
テラは険しい表情でアンデッドたちを見つめる。
「お前たちに、このアンデッドたちを倒しきれるかな?」
スカルミリョーネは歪んだ笑みを浮かべ、セシルたちを試すように言った。
「おいらを何だと思ってるんだ! ミシディアの天才魔導士パロム様だぜ!」
パロムは胸を張り、杖を構える。
「──“ファイラ”!!」
放たれた炎が、アンデッドたちを一瞬で包み込む。
死者たちは悲鳴を上げる間もなく、灰となって崩れ落ちていった。
「な、なんだと……!?」
余裕を見せていたスカルミリョーネの表情が初めて歪む。
そして炎は、そのまま土の四天王へと襲いかかった。
「うう!! 体が崩れていく!……ゴルベーザ様っ」
スカルミリョーネの身体は崩れ始め、黒い霧となって消えていった。
「へん!四天王って言ってもパロム様にかなう相手じゃないってな!!行こうぜ!!」
「ちょっとパロム!待ちなさい!」
パロムは胸を張りながら、意気揚々と先へ進んでいく。
その後ろを、セシルたちは苦笑しながら追いかけた。
だが、セシルだけは、先ほどの戦いに小さな違和感を覚えていた。
あのゴルベーザに仕える四天王。
それが、あまりにもあっけなく崩れ去った。
「……本当に、終わったのか……?」
──その時だった。
「フシュルルル……よくぞ私を倒してくれた」
消えたはずの声が、再び山頂に響き渡る。
「だが……」
冷たい風が吹き抜ける。
「死してなお恐ろしい土のスカルミリョーネの強さ……ゆっくり味わいながら死ねえ!!」
その瞬間、背後から凄まじい衝撃が襲いかかった。
「ぐっ!」
不意を突かれたセシルたちは、体勢を崩す。
何が起きたのか理解できぬまま、セシルは振り返った。
そこにいたのは、先ほどのローブ姿の男ではなかった。
腐敗した肉体をさらし、歪んだ身体を引きずる異形の姿。
土色に染まった皮膚は裂け、ところどころから骨が覗いている。
死者そのものと化した姿で、スカルミリョーネは不気味な笑みを浮かべた。
「そ、そんな……確かに倒したはずなのに……」
ポロムが息を呑む。
先ほどまでローブに包まれていた姿とはまるで違う。
腐敗した肉体をさらし、死者そのものと化したスカルミリョーネの姿に、ポロムの顔から血の気が引いていく。
「正体を見たものは生かしておけぬ。崖から突き落としてくれるわっ!」
次の瞬間、スカルミリョーネは地面を蹴り、セシルたちへと襲い掛かった。
「“プロテス”!」
迫り来る爪撃を前に、ポロムがすぐさま魔法を唱える。
淡い光が仲間たちを包み、振り下ろされた爪の勢いをわずかに鈍らせた。
「はああ!!!」
セシルの剣が、スカルミリョーネの身体を切り裂く。
だが、手応えがない。
まるで腐った土を斬ったかのように、傷口から黒い霧が漏れるだけだった。
「甘い……!死したこの身に、もはや貴様の暗黒剣など届かぬ!!」
「くっ!!」
スカルミリョーネの腕力に押し負け、セシルは後方へ吹き飛ばされる。
「セシルさん、今治しますわ!“ケアルラ”!!!」
「助かった!」
セシルは立ち上がる。
しかし、その光を見たテラの表情が変わった。
「……待て」
テラはスカルミリョーネを見据える。
「あの者の身体……まさか……“ケアルラ”!!」
テラが放った癒しの光が、スカルミリョーネの身体を包み込む。
「ぐギャア!?」
しかし、それは傷を癒すことはなかった。
黒い霧が噴き出し、スカルミリョーネは苦痛の叫びを上げる。
「思った通りじゃ!奴はすでにアンデッド!癒しの力はヤツにとっては毒となる!」
「ぐうう……老いぼれが!!」
テラの言葉に、スカルミリョーネは怒りの声を上げる。
パロムとポロムの魔法。
そしてテラの知識。
弱点を突かれ、土の四天王の身体は少しずつ崩れていく。
「おのれ……!おのれぇ……!私が……この土のスカルミリョーネが、貴様らなんぞに……!!」
追い詰められたスカルミリョーネの瞳に、憎悪の光が宿る。
そして、その視線がパロムへ向いた。
「……この私に、こんな姿を晒させた貴様だけは……貴様だけは道連れにしてやるぞぉぉ!!」
「!!?」
「パロム!!」
スカルミリョーネの狙いに気づいたポロムが叫ぶ。
だが、異形の腕はすでにパロムへと迫っていた。
その瞬間、セシルが割って入り、パロムを庇う。
「あんた……なんで……」
「頼んだ!パロム!!」
セシルに庇われたことに、パロムは驚く。
だが、すぐにその意味を理解した。
今、自分がやるべきことは決まっている。
「“ファイラ”!!」
パロムの炎が、スカルミリョーネの腐敗した身体を包み込む。
焼け落ちていく身体を引きずりながら、スカルミリョーネは後ずさった。
「おのれ……この私が……貴様らごときにいいいいい!」
最期まで怨嗟の声を響かせながら、土の四天王は橋の下へと消えていった。