ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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試練の山②~ミシディア②

 

「今度こそ本当に終わった……か?」

「邪悪な気配は感じられん……今度こそ、滅せられたじゃろう」

 

 スカルミリョーネの姿が消え去り、山頂には再び静寂が戻っていた。

 セシルたちは警戒を解くことなく、周囲の気配を探る。

 テラはゆっくりと辺りを見渡し、消え去った邪悪な気配を確かめた。

 

「あんちゃん……大丈夫か?」

 

 パロムは、自分を庇ったセシルを心配そうに見上げる。

 

「これくらいは大丈夫さ」

 

 セシルは笑みを浮かべ、心配はいらないと答えた。

 

「今、癒しますわ。パロムを守ってくださって、ありがとうございました」

「いや、僕の方こそ、君たちの力がなかったらスカルミリョーネを倒すことはできなかった。ありがとう」

 

 セシルは改めて双子へ礼を述べた。

 ひと息ついたその時、ふと山頂の奥へ目を向ける。

 

「石碑?」

 

 試練の山の頂にあったのは、墓標を思わせる石碑だった。

 何かに呼ばれるように、セシルは石碑の前に立った。

 

 ──よくぞ来た。我が息子よ。

 

「息子!?あなたは……」

 

 どこからともなく、声が頭の中に響いた。セシルはその言葉に驚き、声の主を確認する。

 驚いて声の主を探した、その途端、眩い光が一行を包み込んだ。

 

「ここは……」

 

 視界が開けると、彼らが立っていたのはクリスタルルームを思わせる、厳かな空気に満ちた空間だった。

 

 ──長い間、待っていた。お前が来るのを……今、私にとってとても悲しいことが起きている……

 

 静かな空間に、その声だけが響き渡る。

 セシルたちは声の主を探すように、辺りを見渡した。

 

 ──これからお前に、私の力を授けよう……この力を、お前に与えることで私はさらなる悲しみに包まれる。

 

 その声は深い悲しみを滲ませながら、静かに続いた。

 

 ──だがしかし、もはや、これ以外のすべは残されていない。

 

 セシルの目前に聖なる剣が現れる。

 セシルは震える手で聖なる剣を握る。

 その瞬間、剣は眩い光を放ち始めた。

 

 ──さあ、血塗られた過去と決別するのだ。

 

 暗黒騎士の装いは光に溶け、白銀の鎧をまとったパラディンへと姿を変えた。

 しかし、目の前の鏡に映し出されていたのは、なおも暗黒騎士のままの自分だった。

 

 ──今までの自分を克服しなければ、聖なる力もお前を受け入れない。

 

 その言葉とともに、鏡の中の暗黒騎士が、まるで意思を持ったかのように動き出した。

 

 ──打ち勝つのだ!暗黒騎士であった自分自身に!!

 

 次の瞬間、その姿は鏡からゆっくりと抜け出し、セシルたちの前に実体を現す。

 

「セシルが二人!?」

「どーなってるんだ!?」

 

 暗黒騎士は静かに剣を構えた。

 

「あんちゃん!」

「危ない!」

「手を出すな!これは僕自身との戦いだ!」

 

 助けに入ろうとした双子を、セシルは制した。

 そして、静かに剣を構え、目の前の暗黒騎士と向き合う。

 

「今までの過ちを償うためにも……こいつを……過去の僕自身を倒す!!」

 

 見知った太刀筋だった。

 数度剣を交えるうちに、セシルは声の主の言葉の意味を理解する。

 “血塗られた過去”、声の主は、そう言っていた。

 今、自分が相対しているのは、罪のない人々からクリスタルを奪い、王の命令に逆らうこともできなかった、過去の自分。

 罪を犯し続けた、臆病な暗黒騎士そのものだった。 

 その自分を倒さねば。その一心で、セシルは暗黒騎士へ剣を向ける。

 しかし、相手は自分自身。互いの剣筋は酷似し、攻防は一歩も譲らない。

 

 ──もし、お前が本当のパラディンなら……剣を収め耐えるのだ!!

 

 厳かな声が、セシルの頭の中に鋭く響いた。

 それは命令ではない。迷い続ける心を導くような、不思議な力を宿した声だった。

 

「………………」

 

 確証はない。しかし、もしこれが過去の自分を受け入れるための試練だというのなら、剣で断ち切ることはできない。

 罪を償うと決めた以上、逃げることも、抗うこともしてはならない。

 セシルは覚悟を決め、静かに剣を下ろした。

 

「セシル!?何を!!」

 

 戦いを見守っていたテラは、セシルの捨て身ともいえる行動に息を呑む。

 だが、暗黒騎士はその行動にも動じることなく、剣を振り下ろした。

 セシルは身を守ろうともせず、その一撃を受け止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──痛みは、なかった。

 

 暗黒騎士の剣は確かにセシルの胸を貫いていた。

 だが、その刃は次第に淡く透け始め、やがて光となって消えていく。

 

 それに合わせるように、暗黒騎士の姿もまた、ゆっくりと薄れていった。

 

 ──正義よりも正しいことよりも、大事なことがある。いつか、分かる時が来る。

 

 暗黒騎士が光となって消え去った。

 最後に兜の奥から微かにのぞいたもう一人の自分の瞳は、まるで苦しみから解放され、救われたかのように穏やかだった。

 

 ──よくやった。これから私の意識を光の力に変え、お前に託そう。

 

 暗黒騎士が消えた空間に、温かな光が満ちていく。

 

 ──受け取るがよい。私の……最後の光を!

 

 眩い光が収まると、鏡には、白銀の鎧をまとったパラディンの姿が映っていた。

 

 ──その力で、どうか……我が息子よ。ゴルベーザを……止めるのだ!

 

「ま、待ってください!」

 

 セシルは思わず声の主を呼び止めた。

 しかし、その気配は静かに消え去り、返事が返ってくることは二度となかった。

 

「なんだこの感覚は……不思議に懐かしい。あの声は一体……」

「お……おお!!」

 

 声の主の正体を考え込んでいたセシルは、不意に上がったテラの声に顔を上げた。

 

「テラ様?」

「思い出してきた……呪文の数々を!!……!?」

 

 歓喜に震えていたテラの表情が、驚愕へと変わる。

 

「メ……メテオ? あの光が授けてくれたというのか!! 封印されし最強の黒魔法、メテオを!」

「さすがテラ様ね」

「おい、ポロム」

 

 パロムが小さく声をかける。

 ポロムははっとしたように顔を上げ、二人は視線を交わした。

 言葉を交わさずとも、お互いが何を考えているのかは分かっている。

 やがて覚悟を決めたように、二人はセシルへ向き直った。

 

「……あのですね、セシルさん……」

「実は、オイラたち……」

「よおし!準備万端整った!!行くぞ、ゴルベーザの元に!!」

 

 二人がセシルに打ち明けようとした、その時だった。

 すっかり気力を取り戻したテラが、勢いよく声を張り上げる。

 

「何をしておるセシル!さあ、行くぞ!」

「あ!ちょっと!」

「……参りましょ!セシルさん!」

 

 勢いのまま試練の間を出ていくテラを、パロムが慌てて追いかける。

 ポロムも一度だけセシルを振り返ったあと、小さく頭を下げてその後を追った。

 

「ああ……しかし、あの光は……たしかに僕を……我が息子と……」

 

 胸に拭いきれない疑問を残したまま、セシルは試練の間を後にした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 セオドールの人生は、いつも何かを失うことの繰り返しだった。

 

 父を殺され、母を失い、残された弟妹さえ守ることはできなかった。

 

 第二の故郷となったミシディアでは、子供たちの世話をしながら日々を過ごしていた。

 それでも、心に空いた穴が埋まることはなかった。

 

 ミシディアが襲撃されたあの日も、駆けつけた時にはすべてが終わっていた。

 クリスタルは奪われ、自分はまた守れなかった。

 

 ──自分は、いつも間に合わない。

 

 やがて、パロムとポロムも立派な魔導士へと成長した。

 幼さは残るものの、その実力はすでに一人前だった。

 

 二人の手が離れたことで、セオドールは一人で過ごす時間が増えていく。

 

 後悔を抱えたまま、彼は今日も墓参りへ向かった。

 人の気配などとうになくなった廃村。

 それでも、家族の眠る墓だけは、どうしても他の場所へ移すことができなかった。

 

 その帰り道だった。

 波打ち際に、一人の男が倒れているのを見つけた。

 黒髪を後ろで結い、一振りの刀を携えた侍だった。

 

 その姿に、セオドールは見覚えがあった。

 

 数年前、あの廃村で倒れていた侍だ。

 満足な手当ても受けられぬまま、いつの間にか姿を消した男。

 その男を、セオドールは再び見つけたのだ。

 

 急いで波打ち際から引き上げると、ファイアで火を起こし、冷え切った身体を温める。

 しばらくして、男はゆっくりと瞼を開いた。

 

「……うっ、あんたは?」

「久しい……というべきか」

 

 二度もこの男が倒れているところを助けるとは、奇妙な縁だとセオドールは思った。

 

「……あんた、また助けてくれたのか……」

「ああ、今度は波打ち際から引き揚げた……一体何があった?」

 

 セオドールは静かに事情を尋ねる。

 

「バロンに向かう途中で、リヴァイアサンに襲われた。ものの見事に転覆して……」

 

 ふと何かを思い出したように、男の顔色が変わる。

 

「……他の奴らは見なかったか!?」

「いや……いたのは、お前だけだ」

「…………そう、か……」

 

 セオドールの言葉に、男は力なく視線を落とした。

 

「なぜ、バロンに?」

「仲間が……攫われたんだ。火と風のクリスタルも奪われて……取り戻すためにバロンに向かったんだ」

 

 男はそこで一度言葉を切り、自嘲するように小さく笑う。

 

「その……結果がこれか……」

「気休めかもしれないが、まだ私がお前をここで見つけただけだ。他の仲間も流れ着いている可能性はある」

 

 セオドールの落ち着いた声には、根拠のない慰めではなく、わずかな希望を信じようとする強さがあった。

 その言葉に、ギースも静かに息を吐く。

 

「ミシディアへ向かおう。もし、お前がまだバロンへ向かうというのであれば、助力できるやもしれぬ」

 

 思いがけない申し出に、ギースは目を見開いた。

 見ず知らずの自分を二度も助け、そのうえ力まで貸そうというのか。

 

「あの時は、自己紹介もなく、俺が飛び出してそれっきりだったな……改めて……まずは礼を」

 

 ギースは深々と頭を下げた。

 

「俺はギース。よろしく頼む」

「私はセオドールだ。よろしく、ギース」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ミシディアへ戻ったセオドールに、一人の黒魔導士が駆け寄ってきた。

 

「戻ったんだね、セオドール!今、バロンの暗黒騎士だった男がパロムとポロムと一緒に長老がいる祈りの館に――」

「何!?」

 

 セオドールは最後まで話を聞かず、祈りの館へ向かって駆け出した。

 

「ちょ、ちょっと!まだ話の続きが!!」

「おい、バロンの暗黒騎士が来たのか?」

「あ、ああ、そうだけど――」

「分かった!ありがとう!!」

 

 ギースも要点だけ聞き取ると、セオドールの後を追って駆け出す。

 

「って、お前も人の話は最後まで聞けって!!」

 

 黒魔導士は去っていく二人の背中を睨みつけ、憤慨したように足を踏み鳴らした。

 

 

 

 

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