ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
祈りの館へ足を踏み入れたセシルたちを待っていた長老は、その姿を見るなり目を見開いた。
「おお、その姿は!」
白銀の鎧をまとったセシルを見た長老は、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべた。
「ご覧の通りですわ!」
「まさかとは思ったけどな!」
パロムとポロムはどこか誇らしげに胸を張る。
「何のことです?」
「悪いとは思ったが、この二人にそなたの見張りを命じたのじゃ。もっとも、その必要はなかったようじゃな」
長老は双子へと穏やかな眼差しを向けた。
「ご苦労じゃった、パロム、ポロム」
「ま、そんなわけだ」
「隠してて申し訳ございません」
ようやく二人の言葉の意味を理解し、セシルは静かに息をついた。
試練の山へ向かう道中、二人が何度も何かを言いかけていた理由も、これでようやく腑に落ちた。
「いや、当然だ。あれだけのことを僕はしてしまったんだから……」
「だが、そなたは過去の自らを乗り越えパラディンとなった!……!その剣は?」
「山頂で授かったものです」
長老は、セシルが手にしている聖なる剣へと視線を向けた。
セシルは静かに頷き、試練の山で起きた出来事を語り始める。
「これは!いにしえより、このミシディアに伝わる言い伝えと同じことが記されておる!」
剣に刻まれた文字を見た長老は、驚きに目を見開いた。
「言い伝え?」
セシルの問いに、長老は静かに頷いた。
そして、古くからミシディアに伝わる伝承を語り始めた。
竜の口より 生まれしもの
天高く 舞い上がり
闇と光を かかげ
眠りの地に さらなる約束を もたらさん
月は 果てしなき光に包まれ
母なる大地に 大いなる恵みと 慈悲を与えん。
「……この伝説が何を意味するかはワシにもわからん。ただ、我々ミシディアの民は、この言い伝えのために祈れと代々言い伝えられておる」
長老は静かに目を閉じ、遠い昔へ思いを馳せるように言葉を続けた。
「そして、聖なる輝きを持つものを信ぜよと……やはりそなたが、その者なのかもしれん」
「あの光は……僕を息子といいました。あの光はいったい何なのですか?」
長老はしばらく黙り込み、やがてゆっくりと口を開いた。
「試練の山の光……おぬしを息子と呼んだのであれば、わしはそれに心当たりが一つある……」
「心当たり?」
「長老!!」
長老がその"心当たり"を話そうとした、その時だった。
祈りの館の扉が勢いよく開かれる。
「あ、おっさん!」
「おかえりなさい!」
「セオドール!戻ったか!」
長老とパロム、ポロムが一斉に振り返る。
息を切らせて駆け込んできたセオドールだったが、白銀の鎧をまとったセシルの姿を目にした瞬間、その足がぴたりと止まった。
「……せ、シル……?」
セオドールは、目の前の光景を受け入れきれず、その場に立ち尽くしていた。
そこへ、遅れてギースが駆け込んでくる。
「セオドール!早い!待ってくれ!そのバロンの暗黒騎士は──」
「ギース!!無事だったのか!!」
セシルはギースの姿を見つけると、安堵したように駆け寄った。
だが、ギースは返事をすることなく、白銀の鎧をまとったセシルの顔を見つめ続けていた。
暗黒騎士の兜に隠れていた面差しが、今ははっきりと見える。
ギースは何かを思い出したように目を見開き、白銀の鎧をまとったセシルの顔を食い入るように見つめた。
「お前……セシルか?」
「ああ。暗黒騎士だった自分を乗り越えたんだ」
「そうか……それはよかった。あまりにも変わってたから、同姓同名の別人かと思ったぜ」
「なんじゃ、見て気づかんとは……まだまだ修行が足りんの」
「い、いや!黒かった奴が白くなってたら、誰だって驚くだろ!」
テラの言葉に、ギースは思わず声を上げる。
まるで自分の未熟さを指摘されたような気がしたのだ。
「それより……なんでテラがいるんだ!?」
視線を移したギースは、思わず声を上げる。
ゴルベーザを倒すために旅立ったはずのテラが、なぜここにいるのか理解できなかった。
「ゴルベーザを倒すための手段を手に入れるために決まっておろう。そこでセシルと合流したのじゃ」
「ギースは……どうしてミシディアに?」
「まあ、俺はこの人に助けられて……」
ギースは隣で固まっているセオドールへ視線を移した。
「セシル……本当に、“セシル”なのか!?」
セオドールは、確かめるようにセシルの肩を掴む。
その手はわずかに震えていた。
目の前にいる青年が本当に弟なのか。信じたい気持ちと、信じられないという戸惑いが入り混じっている。
「無事でいてくれたのか!どうして……っ、いや……良かった……。……あの子は……“セシリー”も無事か?一緒じゃないのか?」
セオドールは、溢れ出す感情を抑えきれないように、矢継ぎ早に問いかける。
長い間、胸の奥に押し込めていた想いが、一気に溢れ出していた。
「ま、待ってください!!!」
セシルは混乱のあまり、反射的にセオドールの手を振り払った。
目の前の男は、自分を知っている。
自分の知らない名前を口にし、まるで失った家族を取り戻したかのように接してくる。
だが、セシルにはその記憶がなかった。
「あ、あなたは……誰ですか?」
◇ ◇ ◇
「状況を、整理するぞ」
重苦しい空気の中、ギースが口を開いた。
「まず……そこのバロンのセシルは、幼い頃に村で倒れていたところをバロン王に拾われた。だが、それ以前の記憶は残っていない。以降はバロンで育ち、カインやローザと共に過ごし、暗黒騎士として国に仕えていた」
暗黒騎士となってからの出来事については、あえて触れなかった。
「一方で、そこのセオドールは……両親を失った後、幼い弟妹を守りながら生きていた。だが、修行に出ている間に村は滅び、弟妹の行方も分からなくなった」
ギースは一度言葉を切る。
「そして……その行方不明になった弟妹の一人が……セシルだったと」
ギースは自分で口にしながらも、未だに信じられないような気持ちだった。
あまりにも多くの偶然が重なりすぎている。
「つまり……死んだと思っていた弟が、生きてバロンの暗黒騎士になっていて、今はパラディンになって戻ってきた、と」
「おっさん……」
「先生……」
パロムとポロムは、心配そうにセオドールへ視線を向ける。
セオドールは、目の前の弟を見つめた。
聞きたいことも、伝えたいことも数え切れないほどある。
失われたと思っていた時間を、どう過ごしてきたのか。
あの日、何が起こったのか……聞きたいことは山ほどあった。
だが、今一番伝えたい言葉は一つだけだった。
「セシル。お前には重いかもしれぬ……だが、これだけは言わせてくれ」
「?」
「生きててくれて、ありがとう」
その言葉に、セシルは返す言葉を失った。
自分の知らない過去。自分の知らない家族。
それでも、目の前の男が本当に自分の無事を願ってくれていたことだけは伝わった。
静かな時間が流れる。
誰もが言葉を探していた、その時──
「感動の再会に水を差すようで悪いが……今は立ち止まっている暇はない!今は、一刻も早くゴルベーザを倒すことじゃ!」
「テラ! おぬしは全く……」
長老が呆れたようにため息をつく。
感傷に浸る間もなく、テラはすでに次の戦いへと意識を向けていた。
「そのために私はメテオを手に入れたんじゃ!」
テラは強く拳を握りしめる。
試練の山で授かった光の力。
その中には、かつて封じられていた最強の黒魔法メテオの力も含まれていた。
だが、テラがその力を求める理由はただ一つだった。
奪われた大切な者の仇を討つため。
「メテオ……あの魔法の封印が解かれるほどのことが起きているというのか……」
長老の表情が険しくなる。
メテオ──封印された究極の黒魔法。
それほどの力が今、必要とされる事態が起きているということだった。
「そのようじゃ。これでアンナの仇を討つ!」
「アンナが?」
その名を口にした瞬間、テラの表情が変わる。
そこにあったのは魔道士としての冷静さではなく、娘を奪われた父親の悲痛な怒りだった。
「ゴルベーザにやられたのじゃ!ヤツだけは私がメテオで倒す!!」
テラの握った拳が震える。
失った悲しみが、いつしか強い憎しみへと変わっていた。
「テラよ、憎しみで戦っては身を滅ぼす。ましては今のおぬしではメテオは危険すぎる!」
「たとえわが身が滅ぼうとも!奴だけは許せんのじゃ!」
テラの瞳には、悲しみと怒りが宿っていた。
長老は小さく息を吐く。
止めても無駄だと、長い付き合いの中で誰よりも理解していた。
「……そういうと思ったぞ。昔のまんまじゃな」
「おぬしもな……」
二人は短く笑う。
かつて共に歩んだ時と変わらぬやり取り。
しかし、今は笑っている場合ではなかった。
「じゃが、セシル殿もパラディンとなった。二人の力を合わせれば!」
「しかし、ゴルベーザに立ち向かうにはバロンに戻り飛空艇を……」
「ならば方法はある」
長老はセシルへ視線を向ける。
「デビルロードの封印を解こう!パラディンとなったそなたならデビルロードを行き来できるはずじゃ」
長老は静かに頷く。
そして、セシルへと願いを託した。
「行くがよいバロンへ!ワシは祈りの塔に入り、そなたたちのために祈り続けるとしよう。頼むぞ……セシル殿!」
「はい!」
セシルは強く頷いた。
もう迷いはなかった。
過去の自分と向き合い、受け取った力を使うべき時が来たのだ。
「私も同行させてくれ」
セオドールは迷いなく告げた。
失ったと思っていた弟が、今、目の前にいる。
ならば今度こそ、その背中を守りたかった。
「お前の力になりたい。……そして、ゴルベーザを止めねばならん」
「……ありがとうございます」
セシルは深く頭を下げた。
まだ「兄」と呼ぶには、あまりにも知らない時間が多い。
それでも、目の前の男が自分を案じてくれていることは伝わっていた。
セオドールの想いを受け取り、セシルたちはデビルロードへ向かう。
その後を追うように、パロムとポロムも続いた。
「パロム! ポロム! おぬしらの役目は終わったのじゃぞ!」
長老は、後を追おうとする二人を呼び止めた。
「終わってなんかいないよ!長老は、こいつの力になれって言ったじゃんか!」
「お許しを!」
「お前たち……」
長老は二人を見つめる。
「試練の山がお前たちを受け入れたということは、それもまたお前たちの運命なのかもしれんな……」
長老は静かに目を伏せる。
「わしはミシディアを離れることはできん……二人を頼むぞ」
「しかし……」
セシルは言葉を濁した。
パロムとポロムの力を疑っているわけではない。
試練の山で、自分自身も二人の覚悟を見ている。
それでも、これから向かう先はゴルベーザとの戦い。
幼い二人を危険な場所へ連れていくことに、ためらいがあった。
「あんちゃんも、オイラたちの力は知ってるだろ!」
「そういうことですわ!」
二人の迷いのない言葉に、セシルは困ったように黙る。
「……随分と助けられたんだろ?」
ギースが口を挟む。
「案ずるな。私もついておる!」
テラが力強く言う。
「私から言えることではないかもしれないが……二人は大丈夫だ。私が認める」
セオドールの言葉に、セシルは少し驚いた。
まだ出会ったばかりの自分を案じてくれるこの男が、二人の力を信じている。
しばらく考えた後、セシルは小さく息を吐いた。
「分かった……頼りにしてるよ!」
「ヒャッホー!そうこなくっちゃ!」
「はしゃいでないで行くわよ!」
調子に乗るパロムを、ポロムが呆れたようにたしなめる。
いつもの二人のやり取りを見つめながら、長老は静かに頷いた。
まだ幼いと思っていた二人は、いつの間にか自分の足で進む覚悟を決めていたのだ。
「ワシは、この上の祈りの塔でそなたらの……いや、すべての生あるもののため祈り続けよう!……頼んだぞ」
長老は、去っていくセシルたちの背中を静かに見つめた。
不安がないわけではない。
しかし、彼らならばきっと成し遂げる。
そう信じて、長老は祈り続けることを選んだ。
◇ ◇ ◇
デビルロードへ向かう道すがら、ギースは最後尾で一人、考え事をしていた。
「(セシルが……“セシル”……?それにあの顔……)」
なぜ、最初に会った時に気が付かなかったのか。
廃村で見た、二つの墓。
そこに刻まれていた名前。
セシル。
そして、セシリー。
「(“セシル”が……セオドールの弟で……)」
そこまで考えたところで、ギースの表情が強張った。
もし、そうだとするなら――。
ギースは思わず拳を握り締める。
「(待て待て待て待て……待ってくれっ!)」
気づいてしまった事実を、口にすることはできなかった。
言えるわけがない。
今さら伝えたところで、誰かが救われるわけでもない。
ただ、失われたものの大きさを突きつけるだけだ。
「(このまま……黙って……いや、でも、それはっ)」
答えは出ない。
ギースは胸の奥に重いものを抱えたまま、誰にも告げることなく、セシルたちの後を追った。