ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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バロン

 

 デビルロードを通り、一行はバロンへとたどり着いた。

 警戒していた一行だったが、デビルロードの出口には監視に立つバロン兵の姿はなかった。

 

「随分不用心だな……。いくら使われていないとはいえ、封印はミシディアが施したものだろ?ミシディアが封印を解いて攻め込んでくるとは考えなかったのか?」

 

 ギースは周囲を見渡しながら首を傾げる。

 

「デビルロードは、聖なる光に守られた者でなければ、通るだけで命を削られる場所だ」

 

 セオドールは、デビルロードの性質を説明するように口を開いた。

 

「私たちはパラディンとなったセシルがそばにいるから、この程度の消耗で済んでいる。しかし、常人ではそうはいかん」

 

 デビルロードを通ること自体が命懸けとなる以上、バロン側もここから侵入される可能性は低いと判断し、監視を置いていないのだろう。

 

「まあ、理由が分かれば納得だな。俺たちにとってはありがたい話だけど」

 

 ギースはデビルロードに見張りがいない理由を理解し、周囲を見渡した。

 

「セシル、まずシドって人に会うんだろ?」

「ああ、シドの家はすぐそこだ。早速行こう」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 シドの家に入ると、そこにいた娘はセシルの姿を見て驚きの声を上げた。

 

「セシル様!?生きておられたんですね!」

「ああ、シドは?」

「それが……お父さんが、ずっとお城から帰ってこないんです……」

「なんだって!?」

「新型飛空艇ができる!!って言ってたから、お仕事が立て込んでるだけかなと思ってたんですが……それにしては長くて……」

 

 娘の言葉に、セシルたちは顔を見合わせた。

 

 シドが城から戻らない。

 それだけなら仕事が長引いている可能性もある。

 だが、今のバロンの状況を考えれば、ただの遅れとは思えなかった。

 

「セシル様、父を見に行ってもらえますか?」

 

 シドの娘は、帰ってこない父への不安を隠せない様子で、セシルに助けを求めた。

 

 

 

「どうする?」

 

 シドの家を出て、ギースが口を開く。

 

「バロン城へ行く。シドがいなければ、飛空艇はもう……」

「それは分かるが、馬鹿正直に正面から行くわけにはいかないだろ」

 

 暗黒騎士だった頃の印象が強く残っているのか、城下の人々はパラディンのセシルを見ても、特に反応を示さなかった。

 しかし、かつて共に過ごした者や、セシルをよく知る者ならば気づくだろう。

 

「いくら様変わりしたって言っても、顔まで変わったわけじゃない。それに俺たちは……事情はそれぞれあるにしても、バロンに……ゴルベーザに歯向かった人間だ」

 

 ここにいる全員、形は違えどバロンとゴルベーザに因縁を持っている。

 そんな者たちが正面から城へ向かえば、警戒されないはずがない。

 

「元赤い翼の部隊長だったセシルに聞くが……バロンは、そんな不審者を正面から簡単に通せるほど警備が甘い国なのか?」

「……そんなことはあり得ない」

 

 セシルは即答した。

 バロン城の警備体制は、彼自身が誰よりも理解している。

 正面から乗り込めば、騒ぎになることは避けられないだろう。

 

「じゃあどうすんだよー!手詰まりじゃんか!」

 

 パロムが頭を抱える。

 

「ふむむむ……」

 

 テラも腕を組み、考え込む。

 

「行動を起こすにも、まずは情報が必要だ」

 

 セオドールが周囲を見渡す。

 敵の本拠地へ向かう以上、何も分からぬまま動くのは危険だった。

 

「城の中の様子も分からぬまま向かうのは危険だ。誰か、今のバロンの状況を知っている者を探した方がいい」

 

 セオドールの言葉に、全員が黙り込む。

 

 正面から乗り込むことはできない。

 かといって、城の内部の情報もない。

 手がかりがない以上、今は動くべきではなかった。

 

「それなら……」

 

 しばらく考えた後、セシルは城下町へ視線を向けた。

 

「酒場なら、あそこは宿屋も兼ねている。人の出入りも多いから……何か情報が集まるかもしれない」

「酒場か……まあ、こういう時はそういう場所が一番早いってことだな」

 

 ギースが納得したように頷く。

 

「決まりだな。まずは情報を集めよう」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「あ!あなたたち、お客さん?」

 

 建物の中へ入ると、少女が明るい声で話しかけてきた。

 

「ああ、えーっと……ひーふーみー……六人だが、大丈夫か?」

「全然大丈夫!お父さん、最近なかなかお客さんが来ないって嘆いてたから、うれしいわ!」

 

 少女は嬉しそうに笑う。

 しかし、続いた言葉にセシルたちは表情を変えた。

 

「……酒場も怖い兵隊さんがいるし」

「兵隊さん?」

 

 ギースが反応する。

 

「……バロン兵か」

「だいぶ、横暴な振る舞いをしておるようじゃの」

 

 少女の言葉に、セオドールとテラは顔をしかめる。

 

「酒場を利用するなら気を付けてね。酔っぱらって絡んでくるから」

「ああ、気をつける。ありがとう」

 

 少女から聞いた話は、今のバロンの状況を知る手掛かりになるかもしれない。

 セシルたちは酒場へ向かい、バロン兵の様子を探ることにした。

 少女の言葉通り、酒場ではバロン兵が店主へ酒を要求し、横暴な態度を取っていた。

 

 セシルたちは店の隅に座り、気づかれないようにその様子を見つめる。

 

「あの格好は……近衛兵だ」

 

 セシルは、兵士の身につけた装備を見て呟いた。

 

「近衛兵って……王様の近くにいる奴らだろ。なんでこんな無様なふるまいを……」

「えらい奴のすることは分からんわい……王が王なら、下も下じゃ!人様に迷惑をかけるようなことをしよって!」

 

 テラは怒りを抑えきれず、思わず声を荒げる。

 

「テラ様……声を抑えてください。気づかれます」

 

 セオドールが慌てて制する。

 テラは不満そうにしながらも、周囲を見回して口を閉じた。

 

「待ってくれ……あれは」

 

 セシルは、近衛兵たちの中に混じる一人の男の姿に気づいた。

 

 周囲の兵士たちとは明らかに違う装い。

 鍛え抜かれた肉体に、見覚えのある僧衣。

 

「まさか……」

 

 その姿を見た瞬間、セシルの目が大きく見開かれる。

 

 ファブールのモンク僧。

 そして、共に戦った仲間。

 

「ヤンだ!!」

 

 セシルは思わず声を上げ、嬉しそうに駆け寄った。

 

「ヤン!無事だったのか!!」

「お前は……!」

 

 ヤンは突然現れた白銀の鎧の騎士を警戒する。

 

「パラディンになったから分からないのか。僕だ、セシルだ!」

「セシル!?捜したぞ!!」

 

 ヤンは確かにセシルの名を口にした。

 しかし、その声に懐かしさや再会を喜ぶ響きはなかった。

 

「バロン王に逆らう犬め!かかれ!!」

「はっ!!」

「!!?」

 

 次の瞬間、近衛兵たちが一斉に動き出す。

 

「まずい!」

「助けるぞ!」

 

 隠れて様子を見ていたギースたちは、ただならぬ状況にすぐさま反応した。

 セシルへ向けられた敵意を見て、彼らは迷うことなく飛び出す。

 かつての仲間との再会は、戦いという最悪の形で始まることになった。

 

「ヤン、分からないのか!?」

「分かるとも、このお尋ね者が!!」

 

 セシルの呼びかけにも、ヤンの拳は止まらなかった。

 

 かつて背中を預けて戦った仲間。

 それでも今のヤンにとって、セシルはただバロンに逆らう敵でしかない。

 セシルへ向けられた拳を、横から割って入ったギースが受け止めた。

 

「ファブールのモンク僧がなんてざまだ!奥さんに顔向けできるのかそれで!」

「貴様らもお尋ね者の仲間か!!」

 

 ヤンの瞳に、かつての仲間を見た面影はない。

 向けられるのは、敵としての警戒と敵意だけだった。

 

「セシル!ヤンに何があったかは分からないが、どうやら話ができる状況じゃなさそうだ!」

 

 ギースは構えたまま、ヤンから視線を逸らさない。

 

「とりあえず、全員ぶっ飛ばしてから、話を聞いてもらおうと思うんだがどうする?」

 

 ギースの言葉は荒っぽいが、本気で傷つけるつもりがないことはセシルにも分かっていた。

 ヤンを、そして近衛兵たちを止めるための苦肉の策だった。

 

「これ以上、騒ぎを大きくするわけにはいかない。ヤンも近衛兵も、できれば傷つけずに済ませたいが……」

 

 セシルの言葉を聞いて、ギースはテラたちへ視線を向ける。

 

「魔法ってのは便利だが、峰打ちみたいな器用な真似はできないよな?」

「峰打ちはできんが、無力化する方法ならある」

 

 セオドールはすぐに判断する。

 

「パロム!私たちは近衛兵たちをスリプルで眠らせるぞ!テラ様とポロムはセシルたちの援護を頼む!」

「あいあいさー!」

「任せろ!」

「はい、分かりました!」

 

 それぞれが役割を理解し、すぐに動き出す。

 

「目を覚ませヤン!」

「しねええい!」

 

 セシルの呼びかけに答えることなく、ヤンは拳を振り抜く。

 かつて共に戦った仲間とは思えないほど、迷いのない一撃だった。

 セシルは剣で受け止める。

 だが、ヤンの拳は重く、その衝撃に腕が痺れる。

 

「ヤン!僕だ!セシルだ!」

「黙れ!バロンに逆らう者にかける情けなどない!」

 

 再び放たれる拳。

 セシルは避けながら、決して反撃に転じようとはしなかった。

 

「くそっ……話を聞いてくれ!」

 

 その間にも、近衛兵たちが剣を抜き、セシルたちへ迫る。

 

「スリプル!」

「うわっ……!」

 

 テラとパロムの魔法が響き渡り、近衛兵たちは次々と眠りへ落ちていく。

 

「取り巻きどもは全員眠らせたぜ!」

「よし!あとはヤンだけだ!」

 

 だが、ヤンの拳は止まらない。

 

「なぜだ……なぜ私の邪魔をする!」

「それはこっちの台詞だ、ヤン!」

 

 セシルは拳をかわしながら叫ぶ。

 

「君はファブールのモンク僧だろう!仲間を守る人間だったはずだ!」

「……っ!」

 

 一瞬、ヤンの動きが止まる。

 

「今の君は、本当の君じゃない!」

「黙れえええ!!」

 

 しかし、ヤンは再び拳を振り上げた。

 ヤンは聞く耳を持たず、渾身の一撃をセシルへ叩き込もうとする。

 

「セシル!」

 

 あまりにも話を聞かないヤンに、ギースの堪忍袋の緒が切れた。

 

「いい加減にっ!」

 

 ギースは近くにあった酒瓶を掴む。

 

「しろおおおおお!」

「うっ!」

 

 そして酒瓶を思いきりヤンの頭へ振り下ろした。

 鈍い音が響き、ヤンの身体がゆっくりと崩れ落ちる。

 

「………………」

 

 一瞬、場が静まり返った。

 

「あんた、俺たちには危害を加えるなって言っておいて……一番やってるじゃねえか!」

 

 誰もが思ったことを、パロムが代表して口にした。

 

「いや……もう、あまりにも話を聞かないから……つい。刀や剣じゃないなら、まだ加減できるかなって……」

「酒瓶でも人は死ぬぞ」

「す、すぐに癒しましょう!!」

 

 慌ててポロムがケアルを唱えようとした、その時だった。

 

「うぅ……ここは?」

 

 ヤンがゆっくりと目を開け、むくりと身体を起こす。

 

「ヤン!」

「だ、大丈夫か……?」

 

 ギースは恐る恐るヤンの様子を窺った。

 自分が酒瓶を振り下ろした相手だけに、さすがに少しばかり不安だった。

 

「セシル殿、ギース殿!ここはいったい……確か、私はリヴァイアサンに襲われた後……う!」

 

 ヤンは頭を押さえ、記憶を辿ろうとする。

 

「どうやら記憶喪失のところをバロンに利用されてたらしいのう」

「……かたじけない」

 

 ヤンは深く頭を下げる。

 

「じゃ、じゃあ一応俺の攻撃は結果オーライだったということで……」

「短気を起こした事実は変わらないと思うが……」

「う……」

 

 セオドールの冷静な指摘に、ギースは言葉を詰まらせた。

 だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。

 セシルはすぐに、ヤンへと視線を向ける。

 

「リディアとギルバートは!?」

 

 リヴァイアサンに襲われた船に乗っていた仲間。

 ヤンならば、その後の行方を知っているかもしれない。

 

「……リディアはリヴァイアサンに飲み込まれてしまった。ギルバートは……分からない……」

「そうか……」

 

 セシルは目を伏せる。

 覚悟していた答えだった。それでも、仲間の安否が分からないことは重く胸に残った。

 

「ここは?」

「バロンだ」

 

 ヤンの問いに、セシルは周囲を警戒しながら答える。

 

「兵士に聞かれるとまずい。まずは部屋へ移動して、これからの策を練ろう!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「あんたら強いねぇ!」

 

 宿屋へ戻ると、店主が豪快に声をかけてきた。

 

「近衛兵をのしちまうなんて、気に入った!代金はいらねえぜ!部屋の準備はできてるから、行きな!」

「ありがとう」

 

 部屋へ移動したセシルたちは、互いの情報を共有し、これからの行動について話し合うことになった。

 

「……こちらの方々は?」

 

 ヤンは改めて、見知らぬ顔ぶれへ視線を向ける。

 

「賢者のテラだ。ギルバートの……」

 

 セシルが言葉を続けようとした時、テラが静かに口を開いた。

 

「私の娘は……命を懸けて、あの男を愛しおった」

「そうですか……私はファブールのモンク僧長ヤン」

 

 ヤンはそれ以上聞くことはせず、静かに頭を下げる。

 

「オイラがミシディアの天才児!パロムさ!」

 

 その声に振り返ると、パロムがベッドの上で飛び跳ねていた。

 

「こら、パロム!」

「いいじゃんか!」

「生意気ですみません。双子のポロムですわ」

 

 ポロムが慌てて頭を下げる。

 

「ったく! バロンなんかに利用されちゃってさ!」

「パロム!」

「……面目ない」

 

 ポロムがパロムをたしなめるが、パロムの言葉に、ヤンは小さく目を伏せた。

 自分が知らぬ間とはいえ、仲間へ拳を向けていた事実は変わらない。

 その重さを、ヤン自身が誰よりも感じていた。

 

 ヤンは静かに視線を移し、セオドールを見る。

 

「私はセオドール。今はミシディアで、子供たちに魔法を教えている」

「僕の……兄だ」

「なんと……」

 

 ヤンは驚きに目を見開く。

 しかし、二人の間に流れる空気から、簡単に踏み込める話ではないことを察した。

 それ以上、言葉を続けることはなかった。

 

「ともかくシドを救出しなければ……」

「じゃが、容易くは入り込めんじゃろう……」

 

 テラが難しい顔をする。

 その時だった。

 

「ん……? これは……」

 

 ヤンが懐へ手を入れ、一つの鍵を取り出した。

 セシルはその鍵を見て、目を見開く。

 

「それは……地下水路の鍵!そうか!ヤンに近衛兵を従わせてたから……何とかなりそうだ!」

 

 地下水路──セシルはその存在を知っていた。

 そこを通れば、バロン城へ潜入することができる。

 

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