ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
エブラーナ城からそれなりに離れたところにある浜辺。
ギースは海が好きだった。
いろいろなものが流れ着くからだ。
貝殻、ガラス瓶、錆びた剣。
時には、難破船の旗が見つかることもある。
誰かにとってはただのガラクタでも、ギースにとってはどれも宝物だった。
「今日はどんなものが見つかるかなっと!」
「集中しろよ。また波をかぶるんじゃねぇぞ」
「分かってるって、エッジ兄!」
もちろん一人で来ているわけではない。
今日は兄貴分のエッジと一緒だ。
おそらく、見えないところには城の護衛もついてきている。
……たぶん。
「ふんふんふーん……おっ!」
砂浜に半分埋まっていた一本の銛を見つけると、ギースは勢いよく引き抜いた。
海水にさらされて錆びついてはいたが、形はまだしっかり残っている。
嬉しそうに頭上へ掲げる。
「やーやーやー! 俺が手にしたのは、伝説の槍グングンニール!!!」
「甘いな、ギース」
振り返ると、エッジも一本の剣を掲げていた。
「俺が手にしたのは、最強の剣エクスカリパーだ!!」
どう見ても錆びた異国の剣だった。
「そっちの方がなんかかっけぇ! いいなぁ!」
「早い者勝ちだぜ」
「くそー!」
悔しそうに肩を落とした、その時だった。
「……えっ?」
少し先の波打ち際に、白いものが横たわっているのが目に入る。
最初は流木か何かだと思った。
だが、波が寄せるたび、それはかすかに揺れた。
胸騒ぎを覚え、ギースは駆け寄る。
近づいてみると、それは──
「うぅ……」
小さな女の子だった。
「エッジ兄!! 女の子が倒れてる!!」
「はぁ!? お、おい! しっかりしろ!」
◇ ◇ ◇
「母さん! あの子は!?」
部屋へ駆け込むなり、ギースは声を上げた。
「何とか一命は取り留めたわ。あとは、あの子が目を覚ますのを待つだけよ」
セフィは安堵したように息をつき、二人へ微笑みかけた。
「でも、どうして浜辺なんかに流れ着いたのかしら……」
そう呟くと、少し考え込むように視線を落とし、改めてギースとエッジを見た。
「ギース、エッジ。他に何か落ちていなかった?」
「グングンニール!」
「エクスカリパー!」
二人は自信満々に戦利品を掲げる。
セフィは一瞬だけ言葉を失い、それから困ったように笑った。
「……そう。つまり、手掛かりになるものは何も見つからなかったのね」
「……そうとも言う」
ギースとエッジは顔を見合わせ、揃ってうんうんと頷く。
その様子にセフィは思わず苦笑した。
「分かったわ。なら、あの子が目を覚ますのを待つしかないわね」
◇ ◇ ◇
「おっちゃん! そのリンゴ二つちょうだい!」
「あいよ。二つで二十ギルだ」
「サンキュー!」
ギースは紙袋に入ったリンゴを受け取ると、代金を手渡した。
「そういや、坊ちゃんたちが見つけた子は目を覚ましたのか?」
「いや、まだ」
少女を保護してから数日が経っていた。
しかし、少女はまだ一度も目を覚ましてはいない。
「まったく……あんな小せぇ子が、なんで一人で流れ着いたんだか。近くで難破船が出たって話も聞かねぇし」
「おっちゃんたちが調べても何も分からないってのが問題なんだよな……」
エブラーナ自慢の忍びたちが調べても、少女の素性は何一つ分からなかった。
セフィも「邪の気配は感じない」と言っていたため、今はギースたちの屋敷で保護されている。
それでも、目を覚ます気配はまだない。
「そのリンゴは、あの子にか?」
「うん。ずっと寝たきりじゃ、お腹も空いてるだろうし。もし食べられなかったら、俺たちで食えばいいし」
「ははっ、優しい坊ちゃんだ」
商人と別れ、ギースは少女が眠る部屋へ向かった。
「入るぞーリョウアン調子はどうだー!」
「ギース様。また今日もいらしたんですか」
部屋にはベッドで眠る少女と、その様子を見守っていた医師のリョウアンがいた。
「俺が見つけたからな! 責任取って、俺が面倒みる!」
その言葉に、リョウアンはくすりと笑う。
「……その言葉、女の子に軽々しく言うものではありませんよ」
「え?」
何がおかしいのか分からず、ギースは首を傾げた。
そんな様子を見て、リョウアンはまた小さく笑う。
「では、ここはお任せします。目を覚まされたら、私かセフィ様を呼んでください」
「オーケー! 任せとけって!」
医師が部屋を後にすると、ギースはベッドの脇に置かれた椅子へ腰掛けた。
改めて少女を見つめる。
忍びたちが調べても何一つ分からなかった、不思議な少女。
最初は白髪かと思った。だが、近くで見ると違う。窓から差し込む光を受けるたび、透き通るような銀色の髪が淡く輝いている。
目は閉じられたままで、その瞳の色はまだ分からない。
人形のように整った顔立ちで、本当に人形だと言われても信じてしまいそうだった。
静かな寝息だけが、この少女が確かに生きていることを教えてくれる。
「……リンゴでも剥くか」
手持ち無沙汰になったギースは、紙袋からリンゴを取り出し、ナイフを手にした。
リンゴの皮むきとは、己との戦いである。
どこまでも薄く。
どこまでも細く。
どこまでも長く。
一ミリの狂いも許されない。
途中で切れたら、その時点で負けだ。
「よし……ここまではいつも通り」
順調に半分まで剥き進めた、その時だった。
「…………」
ふと、視線を感じる。
顔を上げると、ベッドの上の少女がじっとギースを見つめていた。
「うわぁっ!?」
思わず飛び上がる。
もちろん、その拍子に繋がっていたリンゴの皮は無情にも切れてしまった。
「お、起きてたなら声かけてくれよ!」
思わず文句をこぼす。
しかし、少女は何も答えない。
ただ静かに、青い瞳でギースを見つめ続けていた。
「ちょ、ちょっと待ってろ! 今、母さんたち呼んでくる!」
ギースは慌てて部屋を飛び出していく。
少女は、慌ただしく部屋を飛び出していくギースの姿を、ただ見つめていた。