ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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地下水路~バロン城

 

 ヤンが持っていた鍵で地下水路への扉を開け、一行は階段を下って行った。

 地下へ降りるにつれ、ひんやりと湿った空気が肌を包む。

 長い間人の手が入っていないのだろう。石壁には苔が張りつき、水滴がぽたり、ぽたりと静かな水音を響かせていた。

 

「この水路は、今はもう使われていない。……ただ、最近になって魔物が現れるようになったから、封鎖して鍵を国で管理することになったんだ」

「封鎖してそれっきりって……ちゃんと管理しろよ。町まで扉と階段を挟んですぐそこだぞ。しかも、城にもつながってるんだろ、この道」

 

 あまりにもずさんな管理体制に、ギースは呆れた。

 

 セシルもその指摘を否定はしなかった。

 当時のバロンなら、当然水路の安全を取り戻すために動いていたはずだった。

 民を危険にさらすような場所を、そのまま放置する国ではなかった。

 

「もちろん、水路の魔物を討伐する計画は立てていたさ。だが、その話はミシディアの水のクリスタルを奪う前……王がおかしくなる前のことだ」

 

 バロン王は、いつも民を想い、国を治めていた。

 身寄りのなかった自分を引き取り、育ててくれた人だ。

 あんな非道な命令を下すような人物では、決してなかったはずだった。

 

「セシル……」

 

 セオドールは、沈んだ表情を浮かべるセシルを気遣うように、その名を呼んだ。

 

「……行こう」

 

 セシルはセオドールの気遣いを振り切るように歩き出した。

 地下水路を進んでも、振り返ることなく前だけを見据えて歩き続けた。

 その背を追うようにパロムとポロムが続き、気づけばセオドールとの距離は自然と開いていた。

 

 先頭を歩くセシルの後ろには、パロムとポロム。

 一方、少し遅れて歩くセオドールの隣にはギース、さらにテラとヤンが続く。

 

「……なあなあ、あんちゃんはおっさんの弟だったんだろ?」

「パロム!今、それを聞く状況じゃないでしょ!」

「なんだよ!」

 

 誰も口にできずにいた事実へ、パロムは遠慮なく踏み込んだ。

 その無遠慮さに、ポロムは慌ててパロムをたしなめる。

 

「……そうだと思う」

「思う?」

 

 あの時、混乱のあまり、思わず彼の手を振り払ってしまった。

 それでも、どこか懐かしさを覚えたのも事実だった。

 

「……記憶はない。でも、不思議と彼の言葉を信じられる自分がいる。それは、確かなんだ」

「セシルさん……」

 

 だが、それだけで失われた時間が埋まるわけではない。

 兄と呼ぶべき相手に、どんな顔で接すればいいのか──セシルはその答えだけは、まだ見つからなかった。

 

「じゃあ、おっさんもあんちゃんも、気まずくする必要ないんじゃんか」

「……だとしてもどうすればいいか、分からないんだ」

 

 セシルは苦笑するように視線を落とした。

 信じることと、家族として向き合うことは、彼の中ではまだ別の問題だった。

 

「ああもう!めんどくせーな大人って!」

「うん、そうだね……パロムの言う通りだ」

 

 パロムらしい率直な言葉に、セシルは小さく笑う。

 振り返れば、少し離れた場所を歩くセオドールの姿が見えた。

 今すぐ答えは出せない。

 それでも、いつか向き合わなければならない相手なのだと、セシルは静かに胸に刻んだ。

 

 後方では、ギースが前を歩くセシルたちへちらりと目を向けた。

 

「……あっちはあっちで、少しは話ができてるみたいだな」

「時間が必要なのじゃろう」

 

 テラは静かに頷く。

 

「急かしてどうにかなる話ではない」

「それもそうだな」

 

 状況が状況だが……こればかりは、セシルが時間をかけて乗り越えるしかない。

 ましては望む望まないにも関わらず加害者と被害者になってしまった今では。

 

「この場で聞くのもどうかと思うんだが、バロンが襲ってきた時、あんたはいなかったのか?それほどの腕を持ってるなら、戦いに出ていてもおかしくなかっただろ」

 

 これまで幾度も肩を並べて戦ってきたからこそ分かる。

 セオドールほどの魔導士がミシディアにいたなら、あの日の戦いは決して小さな戦力ではなかったはずだ。

 だからこそ、ギースはその不在が気になっていた。

 

「……ああ、ちょうどその時は、子供たちと一緒に外で授業を行っていた……。ただ、今となっては、あの場にいたとしても役に立てたかどうか……」

「どういうことだ?」

「暗黒騎士が……セシルだと知ってしまえば、私が冷静でいられたとは思えない」

「………………」

「今以上に……最悪の結果になった可能性がある」

 

 その言葉に、誰も返す言葉がなかった。

 重い沈黙の中で、ギースだけは静かに考えを巡らせていた。

 

 偶然なのか。

 それとも、何か理由があるのか。

 

「……なあ、一つ気になってたことがあるんだが」

 

 沈黙を破るように、ギースが腕を組んで口を開いた。

 

「なんでセシルは、バロン近辺の村にいたんだ?」

 

 ミシディアとバロン。二つの場所の距離を考えれば、幼い子供が偶然辿り着くにはあまりにも遠すぎる。

 当時、双方が周辺を探しても何一つ手掛かりが見つからなかったのも、その一点で説明がつく。

 ミシディア側でセオドールがいくら探しても見つからず、バロン側でもセシルの身内をどれだけ捜しても手掛かりは得られない。

 幼い子供が、自力でミシディアからバロンまで移動したなど、誰も考えはしなかったのだ。

 

「人攫いでも、そんな遠回りなことはしないぜ」

「……普通に考えれば、あり得ない話だ」

 

 しばらく考え込んでいたセオドールが、小さく呟く。

 

「……だがテレポによる移動であれば可能性はある」

「!」

 

 その言葉に、一同の視線がセオドールへ集まる。

 

「そして、それができる子を、私は知っている」

「それって……」

「セシリー……私たちの妹だ」

 

 セオドールは、どこか遠い過去を思い返すように目を細めた。

 もう失われてしまった、幼い妹との記憶を辿るように。

 

「当時のあの子は……パロムとポロム以上の才に恵まれていた」

 

 その声音には、兄としての誇らしさと、失った妹への深い想いが滲んでいた。

 

「きっと……生きていれば、賢者として名を馳せていたはず」

 

 テラは思わず目を見開く。

 

「なんと、あの双子を上回る資質を持っておったというのか……」

「その少女は……」

 

 ヤンが静かに尋ねる。

 セオドールは、小さく首を横に振った。

 

「あの日、セシルと共に行方不明に……」

 

 そこで一度言葉を切り、寂しげに目を伏せる。

 

「……セシルが生きていたのなら、あの子も生きている。そう信じたいが……分からないのだ」

「分からない?」

 

 歯切れの悪い言葉に、ギースは僅かに眉を動かした。

 

「うまく説明できるか分からないが……セシルと再会して、一つだけ確信したことがある」

 

 セオドールは静かに前を見つめる。

 迷信と片付けられても仕方のない話だ。

 それでも、彼自身には確かに感じ続けてきたものがあった。

 

「おそらく私は、無意識のうちにセシルが生きていることを感じ取っていた」

「それは……魔導士としての才能か?」

「そういうものではない。……しいて言うなら、勘だろう」

「勘……」

 

 セオドールは視線を落とし、言葉を選ぶように静かに口を開いた。

 自分でも、うまく説明できる話ではない。

 魔法の理論でも、誰かに証明できるものでもない。ただ、長い年月を経ても消えなかった感覚が、彼の中には確かにあった。

 

「あの日からずっと、暗闇の中に一つだけ光が見えていた。その光は時折弱まることはあっても、決して消えることはなかった」

 

 静まり返った地下水路に、セオドールの穏やかな声だけが響く。

 誰も口を挟まなかった。

 理解できる話ではなくとも、その言葉に嘘はないと、不思議と全員が感じ取っていた。

 

 セオドールは小さく息をつく。

 

「そして今、その光は、これまでになく強く輝いている」

「それが……セシルだったって?なんだ、その抽象的な勘……」

「だから、うまく説明できるか分からないと言っただろう」

 

 セオドールは少しだけ表情を曇らせる。

 

「……だが、セシリーは違う」

 

 あの子の光は、あの日からずっと見えなかった。

 ……いや、正確には一度だけ。

 ほんの一瞬、確かに感じた気がした。

 

「だが、それが本当にあの子だったのか……私には分からない」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 水路を無事に抜けた一行は、妨害を受けることなくバロン城へと入り込んだ。

 

「おかしい……」

「どうした?」

「城内に人の気配を感じない」

 

 セシルは辺りを見回す。

 王城である以上、本来なら人の気配が絶えることなどない。

 しかし、今の城内は異様なほど静まり返っていた。

 物音一つなく、聞こえるのは一行の足音だけ。

 その不自然な静けさが、かえって胸騒ぎを募らせる。

 

「……静かすぎるな」

 

 一行は周囲を警戒しながら、慎重に城内を進んでいく。

 物音一つしない廊下を歩いていると、前方の曲がり角から一人の人影が駆けてきた。

 

「セシル殿!ご無事でしたか!」

「ベイガン!まさか君も……」

 

 姿を現したのは、近衛兵長ベイガンだった。

 かつてはバロンを支える者として、幾度も顔を合わせた相手。

 だが今のバロンでは、立場や肩書きだけで相手を信じることはできない。

 

「わたくしがどうかしましたか?」

「ゴルベーザに操られて……」

「まさか。わたくしとて近衛兵を率いる身。バロンへの忠誠は誰にも曲げられません!」

 

 ベイガンはきっぱりと言い切った。

 その口調に迷いはなく、セシルは少なくとも操られているようには見えなかった。

 

「シドが捕らえられていると聞いたが?」

「わたくしどもは、残った近衛兵で彼を助けに来たのですが。生き残ったのはこの私だけ……」

 

 悲痛な表情で語るベイガンに、不自然な点は見当たらない。

 長年バロンに仕えてきた近衛兵長としての姿は、以前と何一つ変わっていないように見えた。

 

「そうか……なら、一緒に行こう!君がいてくれれば、心強い!」

「ええ!もちろん!」

 

 ベイガンを先頭に、一行は再び歩き出した。

 

「……」

 

 その時、不意にパロムとポロムが足を止める。

 

「どうした?」

「……臭うんだ」

「魔物の臭いですわ!」

 

 双子は同じ方向へ視線を向ける。

 普段の軽口は消え、その表情にははっきりと警戒の色が浮かんでいた。

 

「なに、どこだ?」

 

 ベイガンは眉をひそめ、周囲へ視線を巡らせる。

 

「とぼけんなよ!臭いのはお前だ!」

「お芝居するならもう少しうまくやっていただきたいものね」

 

 双子の言葉に、その場の空気が張り詰める。

 セシルたちは一斉にベイガンへ視線を向けた。

 

「君もゴルベーザに!」

「やめていただきたいですな。そんな言い方は……」

 

 ベイガンは肩をすくめるように笑う。

 その瞬間、周囲の空気が一変した。

 全身から禍々しい魔力が噴き出し、皮膚は黒く染まっていく。

 近衛兵長としての面影を残しながらも、その姿は爬虫類を思わせる異形へと変わっていた。

 

「あの方は、わたくしに素晴らしいものを授けてくださったのですよ」

 

 変わり果てた姿が、不気味な笑みを浮かべる。

 

「こんなに素敵な力をね!!」

「ベイガン!」

 

 禍々しい魔力が一気に吹き荒れる。

 セシルたちは咄嗟に身構え、それぞれの武器を構えた。

 

「来るぞ!」

 

 こうして、バロン城内での戦いが始まった。

 

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