ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

22 / 25
バロン城③

 

 城内を進んだ一行は、やがて王の間へとたどり着く。

 かつて何度も足を踏み入れた場所。ここで王の言葉を聞き、ここで騎士としての道を歩んできた。

 だが今、その場所にあるのは懐かしさではなく、不気味な静けさだった。

 セシルは無意識に剣へ手を添える。

 胸の奥に、嫌な予感があった。

 玉座には、一人の男が静かに腰掛けていた。

 

「セシル、無事であったか。ずいぶんとたくましくなったな」

「陛下……」

 

 その声に、セシルは思わず一歩前へ出る。

 玉座に座る姿は、間違いなくバロン王そのものだった。

 しかし、その笑みにはどこか拭い切れない違和感があった。

 

「その姿は……パラディンか。そうか、パラディンになったか」

 

 王はゆっくりと立ち上がる。

 

「だがな……いかんぞ、パラディンは」

「陛下……いや、バロン王!!」

 

 セシルは剣を構え、真っ直ぐ玉座を見据えた。

 

「バロン王?」

 

 王はきょとんとした表情を浮かべた。

 

「クカカカカ……誰だそいつは?」

「!!」

 

 低く濁った笑い声が、王の口から漏れる。

 

「おお……そうか、思い出したぞ」

 

 わざとらしく顎へ手を当て、思い出す素振りを見せる。

 

「確かこの国は渡さんなどと言っていた“愚かな人間”か」

 

 その言葉とともに、王の表情が醜く歪む。

 

「そいつに成りすましていたんだっけなぁ、俺は……ヒャアッヒャッヒャッ!!」

「貴様っ、陛下を!!!」

 

 人を食ったような笑みを浮かべるその姿に、もはやバロン王の面影はなかった。

 セシルの表情が、一変する。

 怒りに歯を食いしばり、剣を握る手に力がこもる。

 その瞳には、燃え上がるような怒りが宿っていた。

 

「会いたいか?王に会いたいか?」

 

 カイナッツォは口元を歪め、愉快そうに笑う。

 

「俺はスカルミリョーネのように無様なことはせんぞお」

 

 スカルミリョーネの名を口にするその声に、哀悼の色は一切ない。

 あるのは、露骨な嘲りだけだった。

 

「なにしろ、あいつは不思議なくらい弱っちい……ゴルベーザ様のご慈悲で四天王に加えてもらえただけのヤツだからなぁ……グヘヘヘヘ!」

「ということは、貴様も!!」

「いかにも!ゴルベーザ四天王が一人、水のカイナッツォ!」

 

 カイナッツォのその身体がぐにゃりと歪んだ。

 王の姿は水面が揺らぐように崩れ、青黒い甲羅がせり上がる。

 太い手足が現れ、人の顔は醜く裂けていく。

 

「貴様らをゴルベーザ様の手土産にしてくれる!」

「まーた刀がまともに通らなそうなやつだなあ……」

 

 その分厚い甲羅を見て、ギースはうんざりしたようにぼやく。

 カイナッツォは獲物を前にした獣のように口元を歪めると、ゆっくりと両腕を広げた。

 

「まずは挨拶代わりだ!」

 

 足元から大量の水が湧き上がる。

 王の間とは思えぬほどの水量が渦を巻き、瞬く間にその巨体を包み込んだ。

 渦巻く水は幾重もの膜となり、全身を覆う強固な水のバリアへと変わる。

 

「さあ……溺れろぉ!!」

 

 カイナッツォが両腕を振り上げる。

 全身を覆う水のバリアが呼応するように激しく波打ち、周囲の水を巻き込んで巨大な激流を生み出す。

 

「“学習(ラーニング)”!!」

 

 ギースは一歩前へ踏み出し、札を正面へ掲げる。

 押し寄せる津波は札へ吸い込まれるように渦を巻き、凄まじい水量はみるみるうちに霊符の中へ封じ込められていった。

 轟音が止んだ時、床に残っていたのはわずかな水たまりだけだった。

 

「そんな分かりやすい大技を放つなよ。『吸収してください』って言ってるようなもんだぜ」

「ああ……お前か」

 

 カイナッツォは目を細める。

 

「ゴルベーザ様がおっしゃっていた、ウロチョロしている侍とは」

 

 口元を歪め、せせら笑う。

 

「一度無様に負けたくせに、執拗に追いかけてくる……しつこい奴だってなあ」

 

 その笑みは、ただの挑発ではない。

 まるでギースの手の内を知り尽くしているかのようだった。

 

「でもいいのかぁ?知ってるぜぇ……その特別製の札は使い切り。もう、そんなに数はないんだろぉ?」

 

 カイナッツォは楽しげに肩を揺らす。

 

「作れた奴が、もういないもんなぁ!」

「……っ」

 

 その言葉に、ギースの表情がほんの一瞬だけ強張る。

 札を握る手に、静かに力がこもった。

 

「あと、何枚だ?大事に大事に使えよ?お前が作る粗末な札とは違って、もう手に入れることができないレアモノだしなあ!」

「安い挑発ありがとう、だが俺もアイツもエリクサーは遠慮せず使うタイプだ」

 

 軽口を返しながら、ギースは静かに札を握り直す。

 

「持ち腐れしたら……カグヤに怒られるんでな」

「ああ、そうかぁ……だが、その心配も今日までだなぁ!もう一回だあ!!」

 

 カイナッツォは再び両腕を広げた。

 王の間に満ちた水が唸りを上げ、再び全身を包み込む。

 幾重もの水流が絡み合い、強固な水のバリアがその身を覆った。

 

「っ!」

 

 ギースは反射的に懐へ手を伸ばし、二枚目の札を抜きかける。

 だが、その動きをセオドールは見逃さなかった。

 

 あの津波すら封じ込めるほどの強力な術式。

 しかし、それは決して無限に扱える力ではない。

 残された札の数は限られている。

 そして、この先にもまだ戦いは続く。

 

 ならば──ここで使わせるべきではない。

 セオドールは迷うことなく、一歩前へ踏み出した。

 

「──“サンダガ”!!」

 

 放たれた雷撃が、水のバリアへ突き刺さる。

 轟く雷鳴とともに、水の膜は激しく震え、次の瞬間には音を立てて崩れ落ちた。

 防壁を一瞬で失い、カイナッツォの表情が驚愕から怒りへと変わる。

 

「……水には雷が有効か」

 

 セオドールは短く呟き、カイナッツォを見据えた。

 

「効いてるみたいだぜ、おっさん!」

「さすがですわ、先生!」

 

 弱点を見抜き、瞬時に状況を変えたセオドールの判断に、パロムとポロムは嬉しそうに声を上げる。

 

「ぐぐぐ……貴様ぁ!!」

 

 怒りに任せ、カイナッツォは巨腕をセオドールへ振り上げた。

 

「っ、兄さん!」

 

 叫ぶと同時に、セシルは迷うことなくセオドールの前へ飛び出す。

 

「セシル!」

「ぐっ!」

 

 振り下ろされた巨腕を、セシルは剣で受け止めた。

 凄まじい衝撃が全身へ伝わり、床石を軋ませながら後方へ押し込まれる。

 

「今、癒しますわ──“ケアルラ”!」

「助かった。ありがとうポロム」

 

 癒やしの光がセシルを包み、受けた傷がみるみる塞がっていく。

 

「まだ終わらんぞぉ!!」

 

 カイナッツォは手足を引っ込め、巨大な甲羅へ身を閉じた。

 甲羅が高速で回転し、そのまま一直線に突進してくる。

 

「うわっと!!」

 

 進路上にいたギースは咄嗟に身を翻し、その突進を紙一重でかわす。

 しかし、カイナッツォはそのまま壁際で勢いを殺すと、すぐさま向きを変えて再び襲いかかった。

 

「はあっ!」

 

 ヤンは真正面から正拳を叩き込む。

 だが回転する甲羅は勢いを緩めることなく突き進み、その衝撃でヤンの身体は横へ弾き飛ばされた。

 

「ぐっ……!」

「──“スロウ”!」

 

 テラの杖の先から放たれた魔力が、回転する甲羅を包み込む。

 高速で回転していた巨体は目に見えて勢いを失い、その動きが鈍っていく。

 

「今じゃ!」

「助かった」

 

 ギースは小さく応じると、カイナッツォへ向かって不敵に笑った。

 そして一枚の札を投げる。

 札は回転する甲羅へ吸い寄せられるように張り付いた。

 

「なんだぁ? そんな紙切れで俺を止めるつもりかぁ?」

「お前らの部下の技だろ?返すよ──“大爆発”」

 

 カイナッツォが嘲笑を浮かべるより早く、ギースは指を弾いた。

 ホブス山でマザーボムから学習した爆炎が、一気に解き放たれる。

 

「ぐがあ!?」

 

 爆炎の衝撃に耐えきれず、カイナッツォは反射的に甲羅から頭部を露出させる。

 

「いまだ!」

「!!」

 

 セシルは床を強く蹴って宙へ躍り上がる。

 渾身の力を込め、露わになった頭部へ剣を突き立てた。

 

「ぐううううああああ!!」

 

 剣を突き立てられたまま、カイナッツォは震える腕を伸ばす。

 その表情から、先ほどまで浮かべていた怒りや嘲笑が消えていた。

 残っていたのは、ただ一つ。

 主の命を果たせなかった者の悔恨だった。

 

「ゴル……ベーザ……様……」

 

 己の敗北を嘆いているのではない。

 ただ、託された役目を果たせなかったことだけを悔いている。

 

「申し訳……ございません……」

 

 その言葉とともに、カイナッツォの身体が大きく揺らぐ。

 青黒い甲羅はひび割れるように崩れ、その巨体は黒い霧となって散り始めた。

 最後まで主の名を呼ぶ声だけが、王の間に残響する。

 

「……陛下」

 

 セシルはゆっくりと剣を下ろす。

 ここにいたのは、王ではない。

 バロン王の姿を騙った、ただの魔物だった。

 ……本当は、頭では分かっていた。

 自分が信じたバロン王はもうどこにもいないことを。

 

「……守れず、申し訳ありません」

 

 拳を握り締め、静かに目を閉じる。

 バロンという国を守り続けた王。

 幼かった自分を拾い、剣を教え、導いてくれた恩人。

 もう、その声を聞くことは叶わない。

 

「ですが……仇は討ちました」

 

 ゆっくりと顔を上げる。

 

「どうか……安らかにお眠りください」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 一方そのころ──

 

「カイナッツォが……やられたようだ。スカルミリョーネに引き続きとはな……」

 

 ゴルベーザは、遠く離れた場所で消えた気配を感じ取っていた。

 カイナッツォの敗北。

 そして、それを成し遂げた者たちの力。

 特に、セシルの成長を、ゴルベーザは静かに分析していた。

 

「見くびるつもりはなかったが、お前の親友は……だいぶ腕を上げたようだ」

「残り一つのクリスタルですが……」

「分かっている……しかし、あそこは少しばかり厄介だ」

 

 トロイア城に保管されていたのなら、奪取は容易だった。

 だが、まさか全く関係のない魔物に持ち去られるとは予想外だった。

 問題は、クリスタルを奪った魔物が潜む場所だ。

 そこは一筋縄ではいかない場所であり、下手に戦力を向かわせれば無駄な消耗を招く。

 

 残る四天王にも、それぞれ別の任務を与えている。

 誰を向かわせるべきか──ゴルベーザは、まだ決断を下せずにいた。

 

「セシルに取ってこさせてはいかがでしょう?」

「ヤツに……か」

 

 カインの提案にゴルベーザは、しばし沈黙する。

 

「こちらには、このローザがいます。クリスタルと引き換えに……ということではいかがでしょう」

「なるほど……」

 

 ゴルベーザはしばし沈黙した。

 やがて、その策の有効性を認めるように静かに頷く。

 

「それはいい。ヤツを始末するのも、その時というわけか……」

「では、私が伝えて参りましょう」

 

 カインは一礼すると、その場を離れようと背を向ける。

 

「カイン!」

 

 捕らわれていたローザが、必死に声を張り上げる。

 一瞬だけ、カインの足が止まった。

 

「……セシルなんぞより、俺の方が上だということを教えてやろう」

 

 カインは拳を強く握り締める。

 それでも振り返ることはなく、そのまま闇の中へ歩み去った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。