ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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バロン城④

 

 カイナッツォを倒し、王の間は重苦しい静寂に包まれた。

 誰も口を開かない。セシルの胸中を思えば、その沈黙は自然なものだった。

 

 ──その空気を、木っ端微塵に吹き飛ばす怒号が響く。

 

「こぉのー!偽バロン王めがあ!!」

「!?」

 

 次の瞬間、王の間の扉が勢いよく蹴破られる。

 怒鳴り声とともに、工具を手にした技師の男が王の間へ怒鳴り込んできた。

 

「よくもあんなカビ臭いところに閉じ込めよって!ブチのめしたるわい!!」

「………………」

「……あ、あら?」

 

 男は手にした木槌をぶんぶんと振り回していたが、そこにいたのはセシルたちだけだった。

 思い描いていた光景との違いに気づき、男は気まずそうに首を傾げる。

 

「シド!」

「セシルかあ!生きとったんか!心配かけおって、この……!」

「すまない……」

 

 セシルは思わず駆け寄った。

 捕らわれたシドが無事だったことに、胸をなで下ろす。

 シドもまた、ミストの一件以来行方の知れなかったセシルがこうして目の前に立っていることに、心の底から安堵していた。

 

「ローザはどうした!?お前は生きとると飛び出していったが……」

 

 シドの問いに、セシルの表情へ影が差す。

 

「ゴルベーザに捕らわれてしまって……」

「お前がついていながら、なんというざまじゃ!」

 

 思わず声を荒らげる。

 ローザもセシルも、自分にとっては大切な子どものような存在だった。

 だからこそ、その報せを簡単には受け入れられなかった。

 

「しかし、あのゴルベーザ……ワシの飛空艇たちをひどいことに使うばかりか、ローザまで!」

「その娘が危ないのじゃ!早く飛空艇とやらに案内してもらおう!」

 

 テラがシドへ詰め寄る。

 

「なんじゃ、このジジイは?」

「おぬしに言われたくはない!」

「ワシャ、まだ若いわ!」

 

 初対面にもかかわらず、二人は顔を合わせた瞬間から火花を散らした。

 互いに一歩も譲る気はなく、王の間には怒鳴り声が響き渡る。

 

「いや、割とドングリの背比べ……」

「「なんじゃとお!!」」

「うわぁ、藪蛇!!」

 

 年齢など大差ないようにしか見えなかったギースは、思わず本音を漏らしてしまう。

 その一言を聞き逃すはずもなく、テラとシドはぴたりと口論を止め、同時にギースを睨みつけた。

 

「まあまあ……シド様ですわね。こちらはテラ様。偉大な賢者様ですわ」

 

 すっと割って入ったポロムが、にこやかにテラを紹介する。

 その柔らかな口調に、険悪になりかけた空気が少しだけ和らいだ。

 

「それから、こちらがエブラーナの侍、ギースさんですわ」

「ども!」

 

 ギースは軽く手を上げるだけの素っ気ない挨拶をする。

 

「こちらはファブール僧兵団長のヤン様ですわ」

「お初にお目にかかります」

 

 ヤンは静かに一礼する。その落ち着いた所作に、シドも思わず背筋を伸ばした。

 

「そして私はミシディアの魔導士見習いポロムですわ」

「へっ、いい子ぶりやがって!」

「あの口の悪いのが双子のパロムですの」

 

 すかさず茶々を入れたパロムに、ポロムはにこやかな笑みを崩さないまま紹介を続けた。

 

「こちらがセオドール先生。ミシディアでわたくしたちに魔法を教えてくださった先生ですわ」

「……弟が、セシルがあなたに世話になったと伺いました」

 

 セオドールは一歩前へ出ると、シドへ向かって静かに頭を下げた。

 

「セシルの身内じゃと!?おぬし今までどこをほっつき歩いてた!!」

 

 驚きのあまり、シドは思わずセオドールへ詰め寄る。

 聞きたいことが次から次へと溢れ出し、ここが王の間だということすら忘れていた。

 

「お待ちください。ここは危険ゆえ急ぎませんと。積もる話は後で」

「……む、そうじゃったな。聞きたいことは山ほどあるが、まずはここを出るぞ!」

「シド、新型飛空艇はいったいどこに?」

「フフフ……だーれも分からんところじゃ!ちょっとばかり細工をしておいたんじゃ!」

 

 よほど自信があるのだろう。シドは鼻を鳴らし、子どものように得意げな笑みを浮かべた。

 

「時間がないと言っておろうに!ローザの命がかかっとるんじゃ!」

「いちいちうるさいジジイじゃの!分かっとるわい!さ、こっちじゃ!」

 

 互いに文句を言い合いながらも、足だけは止まらない。

 シドを先頭に、一行は王の間を飛び出した。

 

 石造りの通路へ足を踏み入れた、その時だった。

 

「クカカ……この俺を倒すとはなぁ。だが、俺は寂しがりやでな」

「……カイナッツォ!?」

 

 その声の主は、つい先ほど倒したはずのカイナッツォだった。

 姿は見えない。だが、あの粘つくような笑い声だけは聞き間違えるはずもない。

 

 スカルミリョーネが死後もなおアンデッドとなって立ちはだかった光景が脳裏をよぎる。

 セシルたちは反射的に武器を構え、周囲へ鋭い視線を巡らせた。

 

「クカカカ……死してなお、すさまじいこの水のカイナッツォの恐ろしさ、とくと味わいながら死ねえ!」

 

 突如、轟音が響いた。

 左右の石壁が唸りを上げながらせり出し、逃げ道を塞ぐように動き始める。

 

「先に地獄で待ってるぞお!ヘエッヘッヘッ!」

 

 カイナッツォの声は、その不気味な笑い声を最後に途絶えた。

 それでも石壁は止まることなく、一行を押し潰さんと迫り続ける。

 

「壁が!」

「開かない!」

「こっちもじゃ!」

 

 シドとテラは、それぞれ前後の扉へ駆け寄り、力任せに押したり引いたりする。

 しかし、どれだけ力を込めても扉はびくともしなかった。

 セシルたちも迫る石壁や扉へ剣を叩きつけ、拳を打ち込み、魔法を放つ。

 だが、壁も扉も傷一つ負うことなく、壁は鈍い轟音を響かせながら容赦なく迫ってくる。

 

「奴の力で守られているのか!!」

「あんにゃろ最後まで性格悪いな!!」

 

 その様子を見た双子は、互いに視線を交わす。

 言葉はなかった。ただ小さく頷き合うと、二人は迷いなく壁の前へ歩み出た。

 

「パロム!ポロム!?」

「あんちゃん、ありがとよ!」

「お兄さまができたみたいで、嬉しかったですわ!」

 

 双子は最後にセシルへ微笑みかける。

 その表情には恐れよりも、どこか晴れやかな覚悟があった。

 

「お前たち何を!」

「あんたらを、ここで殺させやしない!」

「テラ様!先生!セシルさんをお願いしますわ!」

 

 ポロムはテラとセオドールへ深く頭を下げる。

 その一言に、自分たちの命を託す覚悟が込められていた。

 

「いくぞポロム!」

「うんっ!」

「まさかっ止めるのだ二人とも!!」

 

 二人が何をしようとしているのか悟ったセオドールは、思わず叫ぶ。

 だが、その声は双子の決意を止めることはできなかった。

 

「「“ブレイク”!!」」

 

 双子の足元から魔法陣が広がる。

 眩い光が二人を包み込み、その身体は足先からゆっくりと石へと変わっていく。

 やがて全身が灰色の石像となった双子は、迫り来る石壁へ両手を突き出すような姿勢のまま、その場に立ち尽くした。

 

 左右から迫っていた石壁は、二人の石像にぶつかると鈍い音を立て、そのまま動きを止める。

 

「パロム……ポロムっ……」

 

 その光景を前に、セシルは呆然と立ち尽くした。

 

「ブレイクで自らを石化するとは……!待っておれ!“エスナ”!」

 

 テラはすぐさまエスナを放つ。

 淡い光が双子の石像を包み込む。

 しかし、二人は自らの意思で石となっている。

 エスナの光は石像をなぞるだけで、何一つ変化は起こらなかった。

 

「馬鹿者が!死ぬのはこの老いぼれでよかったろうに!」

「こんな、幼子が……」

 

 幼い双子が自ら犠牲となった光景に、その場の誰もが言葉を失った。

 悔しさ、怒り、悲しみ──それぞれの胸に込み上げる感情は違えど、抱く思いは一つだった。

 

「弔い合戦じゃ!エンタープライズを出す!!」

「待っていろ……ゴルベーザっ!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 シドの案内で、一行は兵士たちの休憩所へたどり着く。

 

「こんな所に?」

「灯台元暗しってやつじゃ!」

「これは……ちょっとばかりの細工で隠せるものなのか?」

「……俺のところの城とどっこいどっこいだぞ。いいのか、個人でこんな隠し通路作って……」

 

 シドは得意げに鼻を鳴らすと、休憩所の壁をあちこち叩き始めた。

 セオドールは、城内でも人目につきやすい場所に隠し通路があることへ首をかしげる。

 一方のギースは、エブラーナ城にも似たような隠し通路があることを思い出し、国レベルで作ったものと大差ないものを個人で作っているシドに呆れた。

 

 隠し通路を進んだ先で、一行は巨大な格納庫へとたどり着いた。

 そこには、一隻の巨大な飛空艇が静かにその翼を休めている。

 

「おお、これは……!」

「これが……空に舞い上がるというのか……!?」

 

 初めて目にする巨大な飛空艇に、ヤンとテラは思わず息をのんだ。

 

「待たせたの、エンタープライズ……お前の出番じゃぞ!」

 

 飛空艇へ歩み寄るシドの声には、久しく会えなかった子どもへ語りかけるような温かさがあった。

 シドに続き、一行はエンタープライズの甲板へと足を踏み入れる。

 一行を乗せたエンタープライズは、重々しい唸り声を上げながら格納庫を離れる。

 やがて巨大な船体はゆっくりと浮かび上がり、バロン城の上空へと姿を現した。

 

 すると、後方から、一隻の赤い飛空艇が一直線にこちらへ向かってくる。

 

「さっそくお出ましじゃな! エンタープライズの力、とくと見せてやるわ!」

 

 シドは操縦桿を握りしめ、迎え撃とうと船首を向ける。

 

「待つんだ!」

 

 セシルが鋭く声を上げた。

 飛空艇の先端に、風を受けてはためく白い布が見えたからだ。

 

「あれは……」

「白旗?」

「なんじゃと!?」

 

 向こうの飛空艇、その甲板に一人の男が立っていた。

 槍を携え、風を受けながらこちらを見据えるその姿を見て、セシルは息をのむ。

 

「カイン……」

「やはり、生きていたかセシル」

 

 感情の読めない声が返ってくる。

 

「カイン、いったいどういうつもりじゃ!」

 

 シドが怒鳴るが、カインは意に介した様子もない。

 

「ローザは……無事だろうな」

 

 セシルが問いかけると、カインはわずかに口元を歪めた。

 

「フッ、そんなに心配か?ローザの命が惜しければ、トロイアの土のクリスタルと引き換えだ」

「なに?」

「卑怯な手を!」

「手に入れたらまた連絡に来る……いいか、必ずだ!ローザの身を案じるなら……な」

「貴様……!」

 

 ローザを盾にクリスタルを要求する。その卑劣なやり口に、一行の表情が険しくなる。

 怒りと苛立ちが一斉に広がる中、ただ一人、セシルだけはカインを見つめ続けていた。

 

「目を覚ませ、カイン!」

 

 セシルの叫びにも、カインの表情は微動だにしない。

 

「話すことはそれだけだ」

 

 それだけ言い残すと、カインは背を向けた。

 赤い翼はゆっくりと向きを変え、そのままバロンの空から遠ざかっていく。

 

「セシル殿……」

「カインのヤツ……!」

 

 誰もすぐには次の言葉を続けられなかった。

 ローザを救うため、これからどう動くべきか──その答えを、皆がセシルに委ねていた。

 

「……どうする?」

「……トロイアに行こう」

 

 セシルは赤い翼が消えた空を見つめたまま、小さく息を吐く。

 迷いも怒りも胸に抱えたまま、それでも進むしかない。

 

「シド、舵を北西へ……」

 

 エンタープライズは静かに進路を北西へ変え、トロイアへ向けて大空を駆け抜けていった。

 

 

 

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