ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ダークエルフ、あるいはダークドラゴンを倒し、セシルたちは土のクリスタルを取り戻した。
「よし、これで土のクリスタルが手に入った。まずはトロイアの神官たちのもとへ行こう」
「じゃあ、さっさと帰ろうぜ。……帰りは俺たちも戦うからっと!!?」
意気揚々とクリスタルルームを飛び出したギースだったが、外へ出た途端、盛大に転び、そのまま地面へ這いつくばった。
「ギース殿!?」
「お、おっも!?磁力はなくなったんじゃないのか!?」
ギースは再び磁力によって地面へ縫い付けられていた。
ダークエルフを倒したことで磁力も消えたと思っていただけに、その場で目を丸くする。
「あれは洞窟の磁力を増幅し、自在に操っていただけだろう。洞窟そのものの磁力は、もともと存在している」
ギースの様子を見てセオドールは冷静に説明した。
「え!?じゃあなんだ!?また荷物持って、同じ道を逆戻りか!?」
「安心せい。帰りはテレポで入り口まで一瞬じゃ」
あの重い装備を抱え、苦労して歩いた道のりが脳裏によみがえり、ギースの顔からさっと血の気が引く。
だが、テラの言葉を聞くと、ほっと胸をなで下ろした。
「ほれ、みな、私の近くによるのじゃ。では行くぞ――“テレポ”!」
◇ ◇ ◇
磁力の洞窟から帰還したセシルたちは、まず土のクリスタルを神官たちへ返還するため、トロイア城を訪れた。
「それは!」
「まさしく土のクリスタル!」
「取り戻してくださったのですね!」
「やったー!」
セシルたちが差し出した土のクリスタルを見るなり、神官たちは駆け寄り、口々に歓喜の声を上げた。
だが、セシルたちにはまだやるべきことが残っている。
土のクリスタルを借り受けるため、セシルが口を開こうとした──その瞬間。
──クリスタルを手に入れたようだな。
「この声は!」
「カイン!」
どこからともなく、カインの声が響いた。
──表に出て飛空艇に乗れ……ローザの居場所まで連れて行ってやろう。
声はそれだけを告げると、静かに途絶えた。
突然響いた声に、神官たちは戸惑ったように顔を見合わせ、セシルたちへ問いかける。
「今の声はいったい?」
「………………」
事情を説明することもできず、セシルたちはただ黙り込むしかなかった。
「何か、事情がありそうですね。……土のクリスタルは約束通りお貸しいたします」
「……貸すだけですよ!くれぐれも用心してください!」
神官たちは、セシルたちが並々ならぬ事情を抱えていることを察し、約束どおり土のクリスタルを託した。
◇ ◇ ◇
カインの元へ向かう前に、セシルたちにはもう一つ立ち寄るべき場所があった。
「ギルバート!」
「やったようだね……」
病室へ入るなり、ギルバートは穏やかな笑みを浮かべた。
その表情だけで、戦いの結果を悟っていた。
「君のおかげだ」
「そんなこと……」
「でも、なぜきゃつはあの歌で?」
ダークエルフは、ギルバートの竪琴の音色を耳にした途端、苦しみ始め、その力を大きく削がれていた。
あまりにも劇的な変化に、シドは首をかしげる。
「以前、吟遊詩人として放浪していた頃……悪しき妖精を戒める歌というのを聞いたことがあって……それで、もしやと思って……」
「おかげで助かり申した」
「ああ、あの歌のおかげで楽に戦えた。さすが、フォローを任せたらピカイチだな」
「そんな……僕なんか……うっ!」
「ギルバート!」
張りつめていた気が緩んだのか、ギルバートは胸を押さえ、小さく顔をしかめた。
「テラさん……」
「アンナも幸せじゃった。おぬしのような勇敢な者に愛されたのだからな……」
テラは静かにギルバートを見つめる。
そこにいるのは、かつて自分が守れなかった娘が選んだ男だった。
弱さを抱えながらも、それでも誰かのために立ち上がろうとする姿こそ、アンナが愛した理由なのだろう。
「テラ……さん……」
「今は、その身を治すことだけを考えるのだ。アンナの仇は、私のメテオで必ず討ってみせる!」
アンナが最後に託した想いを、この青年は今も背負っている。
ならば、父である自分もまた、その想いに応えなければならない。
「ギルバート……おぬしの分もな」
「……ありがとうございます」
戦えない身体でも、仲間のために立ち上がったギルバート。
セシルは、改めて彼の強さを感じていた。
「ギルバート、君は……勇気ある男だ!」
「アンナ……なんとなく分かった気がするよ……君の言葉の意味が……」
ギルバートは誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやいた。
「僕の分も……頼むよ」
その言葉に込められた想いを、セシルたちは確かに受け取った。
◇ ◇ ◇
飛空艇へ乗り込み、空へ飛び立つ。
すると、まるで待ち構えていたかのように、一隻の飛空艇が姿を現した。
「土のクリスタルは?」
開口一番、カインは挨拶もなくクリスタルの所在を確認する。
「ここにある!ローザはどこだ!?」
「フッ、慌てるな。俺の飛空艇についてこい」
そう言うと、カインの飛空艇は進路を変え、先導するように動き出した。
セシルたちは一瞬だけ顔を見合わせる。
だが、ローザを救うために、今はカインを信じるしかなかった。
セシルたちはカインの飛空艇の後を追った。
「あれは……」
「空中に塔が浮いとる!?」
カインに案内された先──そこには、トロイアの遥か上空に浮かぶ巨大な塔があった。
「道理で……地上をいくら探しても見つからないわけだ……」
ギースは、かつてゴルベーザの行方を一人で追っていた時のことを思い出す。
どれだけ地上を探し回っても、その姿を見つけることができなかった理由。
奴の本拠地は、最初から遥か空の上にあったのだ。
◇ ◇ ◇
塔の内部へ足を踏み入れた瞬間、いつの間にかカインの姿は消えていた。
「カイン!」
「どこへ隠れおった!」
──そう慌てるな……ゴルベーザ様から一言お礼が言いたいそうだ。
「ゴルベーザ!」
──約束を守ってもらい、嬉しい限りだ。
その声は、かつてファブールのクリスタルルームで聞いたものと同じだった。
「姿を見せい!」
──逸る気持ちも分かる……だが、まずは私の礼を受け取ってほしい。
「礼?」
──私は……セシル。君の愛しいローザと共に、このゾットの塔の最上階にいる。
──ここまでたどり着けば、ローザの命とクリスタルを交換してやろう。
「ゴルベーザ、貴様……!」
素直にローザを渡すつもりなど、最初からない。
そのことを悟り、セシルは拳を握りしめた。
──だが、ただ登ってくるだけでは味気ないだろう?
──塔の者たちには、お前たちを歓迎するよう伝えてある。
──さあ、早く来ることだ。遅れれば……君の大事なローザの命は保証できない……さあ、登ってこい!
「待て!ゴルベーザ!!」
ゴルベーザの声が消え、塔の中に静寂が戻る。
誰もが怒りを覚えていた。
自分たちの焦りも、ローザへの想いも、すべて見透かした上で弄ばれている。
だが、立ち止まることはできない。
ローザを救うためには、ゴルベーザの待つ最上階へ向かうしかなかった。
「なんと卑劣な……」
「しかし、今の私たちに最上階へたどり着く以外の選択肢はない」
「ああ、急ぐぞ。手のひらの上で踊らされている感は否めないが……」
悔しさを胸に抱えながらも、一行は歩き出す。
目指す先は、ゴルベーザとローザが待つゾットの塔の最上階。
罠だと分かっていても、進むしかなかった。
「ゴルベーザめ……こんな塔まで持っておるとは……一体、奴は何者なんじゃ?」
シドは塔の内部を見渡しながら、険しい表情を浮かべる。
巨大な構造物を空中に浮かせ、さらにそれを維持する技術。
長年、機械や飛空艇に携わってきたシドでさえ、その仕組みを理解することはできなかった。
「わしの知る技術の遥か先を行っておる……」
その事実が、ゴルベーザという存在の底知れなさを改めて感じさせた。
「バロンにいたとき、シドは会ってないのか?」
「あやつめ!ワシに一度も顔を見せに来んかったんじゃ!!ワシの飛空艇を好き勝手に乗り回しておいて、一言の詫びもなしじゃぞ!!」
シドはバロンにいた頃のゴルベーザの横暴な振る舞いを思い出し、怒りを露わにする。
自分が丹精込めて作り上げた飛空艇を道具のように扱われたことは、技師として到底許せるものではなかった。
「まあ、会ってたら……あいつの術にかかっていたかもしれない。ある意味幸いじゃないか?」
「そんな間抜けなことになるか!!」
シドは手にした木槌を握りしめ、鼻息荒く言い放つ。
「会っていたら、この槌で一発ぶん殴ってやらんと気が済まんかったわい!!」
「ぶん殴っていたら、その時点で捕まっていただろうな。本当に会ってなくてよかったよ」
もしゴルベーザと直接対面していたら、シドは本当にその木槌を振り下ろしていただろう。
そう考えると、シドが無事に救出されたのは、いくつもの偶然が重なった結果だった。
バロンで捕らわれるのがあと少し早ければ、セシルたちは間に合わなかった。
偽バロン王に一人で立ち向かっていたなら、カイナッツォに命を奪われていた可能性もある。
「偽バロン王の時には、殴り飛ばす機会を逃してしまったからの!!」
シドは悔しそうに木槌を握り直し、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべる。
「責任は上司に取ってもらうのが筋じゃろう!!」
「……やっぱり、技術職は怒らせると怖いな」
◇ ◇ ◇
ゾットの塔──最上階。
そこに、ゴルベーザとカイン、そしてローザの姿があった。
「──ゴルベーザ様」
「……バルバリシアか」
突如、静まり返った部屋の中に風が巻き起こる。
渦巻く風の中心から、一人の女性がゆっくりと姿を現す。
長い髪を風になびかせ、その身に纏う魔力はまるで嵐そのものだった。
ゴルベーザ四天王 風のバルバリシア。
彼女はゴルベーザの前まで進むと、静かに跪いた。
「ゴルベーザ様。本当に奴らがここまでたどり着いたなら……ご自身で相手をなさるおつもりでしょうか」
その声音には、主への疑念ではなく、純粋にゴルベーザの身を案じる気持ちが込められていた。
「……というと?」
「あの者たち程度、あなた様が直接相手をなさる必要はございません。私にご命令いただければ、必ずや──」
「構わない。それも含めての褒美だ」
ゴルベーザは淡々とバルバリシアの言葉を遮った。
「しかし、奴らはスカルミリョーネとカイナッツォを退けております。あなた様といえど……」
「くどい……私が、相手をすると言っているのだ」
低く響いた声。
それだけで、部屋に張り詰めた空気が広がる。
これ以上の言葉を許さぬ圧に、バルバリシアは口を閉ざした。
「……いつからお前は、私に意見できる立場になったのだ?」
その一言に、部屋の空気が凍りつく。
先ほどまで荒れ狂っていた風さえも、まるで主の怒りを察したかのように静まり返った。
「……差し出がましいことをいたしました」
バルバリシアは静かに頭を下げる。
「下がれ、バルバリシア。貴様の役目はまだない」
「……承知いたしました」
バルバリシアは立ち上がり、踵を返す。
だが、その背へゴルベーザの声が届いた。
「だが……」
「!」
「お前の部下に、私から指示することはない。好きに使え」
「はい。承知いたしました、ゴルベーザ様」
バルバリシアはわずかに微笑む。
そして踵を返すと、三人の名を呼んだ。
「ドグ!マグ!ラグ!メーガス三姉妹よ!!」
「はい!」
「呼ばれて飛び出て!」
「じゃじゃじゃじゃーん!」
バルバリシアの呼び声に応え、三つの影が姿を現した。
大、中、小──それぞれ異なる姿をした三人の姉妹。
ふざけた口調とは裏腹に、その身から放たれる魔力は決して侮れるものではなかった。
「塔を登る不届き者どもを始末しなさい」
バルバリシアは冷たい視線を向ける。
「ゴルベーザ様のお手を煩わせるまでもありません」
「はい、私たち!」
「メーガス三姉妹に!」
「お任せあれ!」