ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
「ご苦労、諸君……」
最上階へたどり着いたセシルたちを待っていたのは、ゴルベーザとカインだった。
そこに驚きや焦りはない。
まるで、彼らがここまで来ることすら、すべて予想していたかのように静かに立っている。
「ゴルベーザ!」
「ローザはどこだ!!」
セシルは怒りを込めて叫ぶ。
だが、ゴルベーザは動じることなく、ゆっくりと彼らを見つめていた。
「クリスタルが先だ」
「ローザは無事なんだろうな?」
「無論、無事だ」
ゴルベーザは淡々と答える。
その言葉に嘘を見抜こうとするように、セシルは鋭い視線を向けた。
「さあ、クリスタルをもらおう」
「……これだ!」
セシルは懐から土のクリスタルを取り出す。
一瞬だけ、それを握る手に力がこもった。
このまま渡していいのか……だが、ローザを救うためには渡すしかない。
セシルは覚悟を決め、ゴルベーザへクリスタルを手渡した。
「ローザを返せ!」
「ローザ?何のことだ?」
セシルが声を荒げる。
しかし、ゴルベーザはわずかに首を傾げた。
まるで、その名前に心当たりがないと言わんばかりに。
「何!?」
セシルの表情が凍りつく。
約束したはずだった。
クリスタルと引き換えに、ローザを返すと。
「話が違うぞい!」
シドが怒りの声を上げる。
だが、ゴルベーザは彼らの怒りなど意に介さず、ただ静かにその場に立っていた。
「どこまでも汚いヤツじゃ!!」
ローザを人質に取り、約束すら平然と踏みにじる。
その卑劣なやり方に、かつて娘を奪われた父の怒りはさらに激しさを増した。
「老いぼれに用はない」
ゴルベーザは冷たく言い放つ。
そこにあるのは、目の前の老人を敵とすら認めていない余裕だった。
「貴様になくても私にはある!」
テラは一歩前へ出る。
この者だけは許せない。
アンナの命を奪ったこの者だけは。
「思い知れ……アンナの痛みを!!」
テラは杖を掲げ、魔力を杖へと込める。
空気が震え、魔力が一点へと集束していく。
「“ファイガ”!!」
放たれた炎が、ゴルベーザへ向かって一直線に走る。
「所詮、老いぼれのお前に……私を倒す力はない」
ゴルベーザは微動だにしない。
迫り来る炎を前にしても、その声には揺らぎすらなかった。
「“ブリザガ”」
ゴルベーザの手に冷気が集まる。
それはただの魔法ではなかった。
ファブールで見せた、魔法を刃へと変える技──魔法剣。
「あれは……ファブールで見せた魔法剣!」
セシルが息を呑む。
ゴルベーザの手に現れた氷の刃は、迫り来る炎を迎え撃つ。
激突した炎は、氷の刃によって真っ二つに切り裂かれた。
燃え盛っていた炎は力を失い、霧散していく。
テラの渾身の魔法を前にしても、ゴルベーザは一歩も動かなかった。
「まだじゃ!!“ブリザガ”!!」
テラは息を荒げながら、再び杖を掲げる。
老いた身体に残された魔力を振り絞り、冷気の奔流をゴルベーザへと放つ。
「“ファイガ”」
ゴルベーザが再び静かに呟く。
その手に炎が集まり、燃え盛る魔力の刃へと姿を変えた。
ゴルベーザは炎の剣を振り抜く。
迫り来る氷の魔法は、炎をまとった刃によって真っ二つに切り裂かれた。
「“サンダガ”!!」
テラの放った雷撃が、轟音を響かせながらゴルベーザへ迫る。
「“ブレイク”」
ゴルベーザが静かに魔法を唱える。
瞬間、雷撃の先端から石のような結晶が広がっていく。
「なっ……!?」
雷そのものが、まるで時を止められたかのように固まり、無数の石片となって砕け散った。
放たれたはずの雷は、ゴルベーザへ届くことなく消滅する。
「魔法を……石化させた……?」
セシルは目を疑った。
攻撃魔法そのものを変質させるほどの魔力操作。
それは、ゴルベーザがただ強大な魔力を持つだけの存在ではないことを示していた。
「はあ……はあ……」
テラは荒い息を吐きながら、杖を支えに立っていた。
幾度となく魔法を放ち、持てる魔力のすべてをぶつけた。
だが、それでも目の前の男には届かない。
「これで最後か……」
ゴルベーザは静かに呟く。
「では、次は私からだ」
その言葉とともに、ゴルベーザの周囲に二つの異なる魔力が集まり始める。
一つは、すべてを浄化する白き輝き。
もう一つは、すべてを焼き尽くす黒き破壊の力。
「“ホーリー”……」
まばゆい光がゴルベーザの手に集まる。
「……“フレア”」
続いて漆黒の魔力が重なる。
二つの相反する力は反発することなく、一本の巨大な魔力の刃へと形を変えていく。
「白魔法まで扱えるばかりか、相反する力を束ねるだと!?」
セオドールが息を呑む。
魔導士だからこそ、その異質さが分かった。
白と黒──二つの異なる魔力を完全に制御し、さらにそれを魔法剣へと昇華させている。
それは単に多くの魔法を扱えるという次元ではない。
ゴルベーザという存在が持つ、規格外の魔力制御能力だった。
「思い知れ……」
ゴルベーザは魔力の剣を構える。
その刃には、白と黒──相反する二つの魔力が絡み合っていた。
「貴様らと私では、立っている場所が違う」
その言葉に、セシルたちは息を呑む。
圧倒的な魔力差。
それは、これまで数々の戦いを潜り抜けてきた彼らにも理解できるほどだった。
「メテオを使う時が来たか……」
「テラ様、おやめください!あなたの体ではその魔法に耐えることは!!」
セオドールは悟った。
テラは、今の自分では本来届かない領域の魔法を使おうとしている。
その代償として差し出そうとしているのは──己の命だった。
「構わん!!この命すべてを精神力に変えて……貴様を……ゴルベーザを倒す!!」
テラの身体から、凄まじい魔力が溢れ出す。
老いた肉体では支えきれないほどの力。
それでもなお、テラは詠唱を止めなかった。
「“メテオ”……!」
空間が震える。
遥か上空より、無数の隕石が呼び寄せられる。
それはかつて、伝説として語られるほどの威力を持つ究極魔法。
「馬鹿な……メテオを放ったというのか、この老いぼれが!?」
初めてゴルベーザの顔色が変わる。
白と黒、二つの魔力が絡み合った異質な剣が、迫り来る隕石群へ向けて振るわれた。
斬撃が隕石を砕き、いくつもの魔力の塊が消滅していく。
しかし、止めきれず、砕かれた隕石の破片が、次々とゴルベーザへ降り注ぐ。
「ぐっ……!」
衝撃が塔全体を揺らす。
防ぎきれなかった魔力の奔流が、ゴルベーザの身体を襲った。
「メテオを、使うとは……ぐっ!」
ゴルベーザは片膝をつく。
「テラ!」
メテオを放ったテラの身体も限界を迎えていた。
全ての力を振り絞った老人の身体は、もはや立っていることすらできない。
テラはその場に倒れ込んだ。
「だが……クリスタルはいただいた……退くぞカイン!」
ゴルベーザは片膝をついた状態からゆっくりと立ち上がる。
メテオによる傷は深い。だが、それでも目的は果たした。
土のクリスタルは、すでに手の中にある。
ならば、これ以上ここに留まる理由はない。
「………………」
しかしカインからの返事がない。
ゴルベーザが振り返ると、そこには床に倒れ伏したカインの姿があった。
「今のメテオで術が解けたか。まあよい、貴様は用済みだ」
先ほどのメテオによる衝撃。
維持していた精神干渉が一瞬だけ途切れ、その隙にカインを縛っていた術が弱まったのだ。
だが、そこに驚きも怒りもなかった。
「この借りは必ず返す」
ゴルベーザはそう言い残し、その場を去ろうとする。
「逃がすかゴルベーザ!」
しかし、セシルは剣を構え、迷うことなく踏み込んだ。
ローザを奪われた怒り。
仲間を傷つけられた悔しさ。
そして、バロンを裏から操り、多くの人々を苦しめたゴルベーザへの憤り。
そのすべてを込めた一撃だった。
「なめるな!!」
ゴルベーザは振り返ると、片手を掲げる。
次の瞬間、凄まじい魔力の奔流がセシルへ叩きつけられた。
「うわあああ!!」
剣ごと弾き飛ばされ、セシルの身体が床を滑る。
「セシル!!」
その瞬間、セオドールが駆け込んだ。
倒れ込むセシルの前に立ち、剣を構える。
「ミシディアの魔導士か……」
ゴルベーザはセオドールへ視線を向ける。
「なぜ庇う?ミシディアから水のクリスタルを奪ったのは、セシルだったはずだ」
「それも貴様の策略だろう」
セオドールは迷いなく言い放つ。
「バロンを操り、セシルを利用した。すべての元凶は貴様だ」
そして、一歩前へ出る。
「そして……私には、貴様に対する別の因縁がある」
「……何?」
セオドールはゴルベーザを睨みつける。
「ギースから聞いた。お前が奪った、カグヤという女性の存在を」
「!」
その名を聞いた瞬間、ギースの表情が変わった。
「セオドール……お前、気づいていたのか!」
「お前が殺したその子は……私の妹だ!!」
「え……」
その言葉に、その場にいた全員が息を呑む。
セシルもまた、言葉を失っていた。
忘れていた、もう一人の自分の家族。
だが、すでに彼女はこの世にはいなかった。
再会することも、言葉を交わすこともできないまま。
「ゴルベーザ……貴様っ!」
「そうか……あれはお前の妹だったか」
ゴルベーザは淡々と呟く。
しかし、その声にはわずかな揺らぎも見せない。
「だが、それは筋違いだ」
ゴルベーザはギースへ視線を向ける。
「あれを死なせたのは、あの侍だ」
「減らず口を……」
「もういい、もろとも……!」
ゴルベーザの手に、再び魔力が集まる。
セシルも、セオドールも、まとめて吹き飛ばすつもりだった。
「……?」
魔力を放とうとしていたゴルベーザの動きが、突然止まった。
「お前は……お前、たちは……」
ゴルベーザの視線が、セシルとセオドールへ向けられる。
「……わた、しは……ぐっ」
苦しげに呻き、胸元を押さえるゴルベーザ。
「何だ……?」
セシルたちは警戒したまま、動きを止める。
その異変を、ただ一人ギースだけが見逃さなかった。
「……まさか……」
小さく呟いた声は、誰にも届かない。
「この勝負……ひとまず預けるぞ」
ゴルベーザの周囲に黒い闇が広がる。
「待て、ゴルベーザ!」
セシルが叫ぶより早く、闇がその姿を包み込む。
そして、次の瞬間には──ゴルベーザの姿は消えていた。
「逃げた……?」
セオドールが呟く。
誰もが突然の出来事に戸惑う中、ギースだけは消えた場所を見つめ続けていた。
「セシル殿!」
「大丈夫か!」
「あ、ああ……僕よりテラは!」
セシルは痛みに耐えながら立ち上がる。
一行はすぐさまテラの元へ駆け寄った。
「テラ殿!」
「しっかりするんだ!」
テラはゆっくりと目を開く。
「……倒せなんだか……」
掠れた声で、テラは呟いた。
命を削る覚悟で放ったメテオ。
それでも、ゴルベーザを倒しきることはできなかった。
「喋っちゃいかん!」
「これも……憎しみに囚われて戦った報いかもしれん……」
テラは苦しげに息を吐く。
「アンナの仇を……たの……」
「テラ!」
「テラ様!」
「ええい!目を開けんかい!このクソジジイ!」
シドが必死にテラの身体を揺さぶる。
しかし、返事はない。
「………………」
「テラ殿……」
「テラ……」
静寂がその場を包む。
テラの表情は、どこか穏やかだった。
「……娘さんと……安らかに暮らすんじゃぞ……」
シドが震える声で呟く。
「テラ……アンナとあなたの仇は……僕らが……」
セシルは拳を握りしめ、固く誓った。