ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ゴルベーザが去り、テラは命を落とした。
残された一行を、重い静寂が包む。
セシルは倒れているカインへ駆け寄ると、その肩を掴んだ。
「カイン……カイン!」
何度も呼びかけながら、強く身体を揺さぶる。
「……っ」
やがて、カインの指がわずかに動いた。
「カイン!」
「……セシル……」
ゆっくりと目を開いたカインは、目の前にいるセシルの姿を認める。
「す、すまん……俺は、なんということを……」
カインは苦しげに呟き、視線を落とした。
「操られていたんだ……仕方ないさ」
これまでの所業を悔いるカインに対し、セシルは首を横に振った。
自分の意思でなかったことを、カインが背負い続ける必要はないと伝えるように。
「しかし……意識はあったのだ。俺は……ローザを……」
「っ!ローザは!?」
セシルがカインにローザの居場所を尋ねると、カインは顔色を変えた。
「この上だ、時間がない!」
カインは立ち上がり、ローザのいる場所へ急ごうとする。
その声には、切迫した焦りが滲んでおり、セシルたちも、カインの後に続いた。
◇ ◇ ◇
カインに先導され、さらに上の階へと進む。
その先に、ローザの姿があった。
ローザは柱へ両手を縛りつけられ、その頭上には巨大なギロチンの刃が吊り下げられていた。
「セシル!」
ローザはセシルの姿を認めると、安堵したように表情をほころばせた。
「ローザ!!」
セシルはローザの置かれた状況を目にし、血相を変えた。
すぐさま駆け寄り、ローザを縛っていた縄を剣で断ち切る。
自由になったローザの身体を、セシルはそのまま強く引き寄せた。
「!!」
ガシャンと激しい音を響かせ、巨大なギロチンの刃が落下した。
刃が突き刺さったのは、つい先ほどまでローザが縛りつけられていた場所だった。
「……っ」
セシルはローザを抱き寄せたまま、落ちたギロチンへ視線を向ける。
──危なかった。
あと一歩遅れていれば、ローザの命は、失われていた。
「ローザ……」
「私、あなたが来てくれると信じていたわ……」
セシルとローザは、互いを見つめ合う。
ローザは信じていた。
どれほど遠く離れていても、どれほど危険な場所に囚われていても、セシルは必ず自分を迎えに来てくれると。
「……君がいなくなってわかったよ……僕は、君を……」
「セシル……」
その先の言葉を、ローザは待たなかった。
そっと両手を伸ばし、セシルの顔を引き寄せる。
「……!」
そして、その唇へ静かに口づける、言葉にしなくても、分かっていた。
セシルが伝えようとした想いも、自分が、ずっと待ち続けていた言葉も。
しばらくして、二人はゆっくりと顔を離す。
「ローザ……」
セシルは驚いたように目を見開いた。
ローザは微笑み、そっとセシルの胸へ身を寄せる。
一方、その様子を見ていたカインは、何も言わずに背を向けていた。
「…………」
「やれやれ、お熱いこっちゃ!」
シドが呆れたように肩をすくめる。
その声に視線を向けたローザは、そこで初めてカインがこの場にいることに気づいた。
「カイン!?」
「正気に戻ったんだ」
「許してくれローザ……操られていたから、というだけじゃない!」
カインは苦しげに視線を落とす。
そして、これまで胸の奥に隠していた本音の一端を吐露した。
「俺は君に、そばに……いてほしかったんだ」
「カイン……」
「………………」
「………………」
三人の間に、重い沈黙が落ちる。
しばらくして、ローザは静かにカインへ歩み寄った。
「……一緒に戦いましょう。カイン」
「すまない!許してくれローザ……セシル!」
「ええい!ごちゃごちゃやっとる場合じゃなかろーが!ここは危険じゃぞ!」
シドの怒鳴り声が、三人の間に落ちていた重い空気を吹き飛ばした。
「……いくぞカイン!」
「セシル……」
「竜騎士である君の力がいる!共にゴルベーザと戦ってくれるな?」
カインはしばらくセシルを見つめていた。
やがて、強く頷く。
「すまん、セシル……ローザ……!」
自分を許し、再び仲間として受け入れてくれた二人のために。
カインは、もう一度戦う覚悟を決めた。
「これ以上の積もる話は後にするぞ」
話が一区切りついたことを察し、ギースが口を挟んだ。
「さっさと出るぞこんな塔、あのゴルベーザのことだ。また性格の悪いことをされちゃかまわない」
一行は来た道を戻り、ゾットの塔から脱出するために足を進める。
その時だった。
「ほっほっほほほ……」
どこからともなく、甲高い笑い声が響いた。
一行は足を止め、辺りを見回し、警戒の姿勢を取った。
「ゴルベーザ様に手傷を負わせるとは、お前たちを見くびっていたようね!」
「この声は?」
セシルたちが周囲を警戒する中、カインが表情を険しくした。
「ゴルベーザ四天王。風のバルバリシアだ!」
その言葉と同時に、塔の中へ強烈な風が吹き荒れる。
巻き起こる風の中心から、一人の女性が姿を現した。
「カイン。お前も寝返ったようね。それだけの力を持ちながら!」
「寝返ったのではなく、正気に戻ったと言ってもらおうか、バルバリシア!」
バルバリシアはゴルベーザを裏切ったカインを許せないのか、冷たい視線をカインへ向ける。
もともと自分は味方ではなかったと言うように、バルバリシアを睨み返した。
「馴れ馴れしく呼ぶではない!こんなことなら、お前もローザも消しておくべきだったわね」
自分の名を呼ばれたことに、バルバリシアは不快そうに表情を歪める。
「だが、メテオの使い手はもう、いまい。みんな揃ったところで仲良く葬り去ってやろう!」
バルバリシアが手を掲げると次の瞬間、塔の内部に凄まじい風が吹き荒れた。
彼女を中心に風が渦巻き、巨大な竜巻へと姿を変えていく。
正面からではその姿を捉えることすらできない。
セシルたちは迫り来る風圧に阻まれ、近づくことができなかった。
「ほっほっほほほ!」
「フッ、空中戦はお前だけのものじゃない!」
カインは槍を構える。
竜騎士にとって、空は決して敵だけの領域ではない。
「カイン!策はあるのか!?」
「空からヤツをたたく!」
カインは大きく踏み込み、その場から跳躍する。
迫り来る風の壁を突き破り、竜巻の中へ飛び込んでいく。
「いた!」
竜巻の中心。
その中に潜むバルバリシアの姿を捉えたカインは、迷うことなく槍を振り下ろした。
「ぐっ……!」
直撃を受けたバルバリシアの身体が揺らぐ。
次の瞬間、彼女を包んでいた竜巻が崩れ、荒れ狂っていた風が散っていく。
地面へ降り立ったカインは、槍を構え直した。
「さすが!」
「フッ……空中戦は俺に任せておけ!バルバリシアの竜巻は俺が止める!!」
セシルは、竜巻を打ち破ったカインの姿を見つめる。
その槍さばきと迷いのない戦いぶりに、セシルは改めてカインの頼もしさを感じていた。
「カインっ!それだけの力を持ちながら、なぜゴルベーザ様から寝返った!!」
「さっき言ったはずだ、正気に戻ったとな!!もとより、駒として扱ってきたヤツに対しての忠義は持ち合わせていない!」
カインに負わされた傷を庇いながら、バルバリシアは怒りの声を上げる。
しかしカインは、その言葉を意に介さない。
利用されたことへの怒りを胸に、ただ槍を握り直していた。
「そうか、であれば私がゴルベーザ様から授かった力、存分に思い知れ!!」
バルバリシアが手を天高く掲げる。
その手に雷の魔力を宿した大剣が現れた。
「魔法剣!」
ギースは、その手に現れたものが魔法剣であることに気づいた。
「さあ、耐えられるかしら!!!」
バルバリシアが大剣を振り上げる。
次の瞬間、刃に宿った雷の魔力が弾けた。
剣から生じた雷雲が室内に広がり、轟音とともに無数の雷撃が降り注ぐ。
セシルたちは迫り来る雷の雨に身構えた。
「くうぅ……!!」
直撃を受けた身体に、凄まじい衝撃が走る。
雷の力をまとった一撃は、ただの魔法攻撃とは比べものにならない威力だった。
「っ……今、回復するわ!!“ケアルラ”!!」
ローザはすぐさま回復魔法を唱える。
淡い光が仲間たちを包み込み、傷ついた身体を癒していく。
「ありがとう、ローザ!!」
傷を癒したセシルたちは、再びバルバリシアへ向き直る。
「さあ、再び飛べるか?カイン!!」
バルバリシアが手を掲げる。
再び風が渦巻き、巨大な竜巻が彼女を包み込んでいく。
さらに、先ほど生み出した雷雲が塔の内部に残っていた。
空へ飛び上がれば、竜巻へ近づく前に雷撃の標的になる。
カインの空中戦を封じるための構えだった。
「小癪な!」
「ローザ!カインにリフレクを!」
「……いや、無駄だ。この雷は魔法ではない。リフレクでは反射できない!」
セシルはリフレクで雷を防ぐよう指示するが、セオドールがすぐに止める。
彼は迫り来る雷が魔法によるものではないこと見抜いた。
「ちょこざいな手を使いおって!」
「手立ては!」
「………………私には無理だ。だが……」
セオドールは視線をギースに向ける。
この状況を打開できる可能性があるとすれば、彼しかいなかった。
「……オーケー分かった」
ギースは懐から一枚の札を取り出した。
「ギース、その札は……」
「言われなくても、分かってる」
ギースはセオドールに頷き、その先の言葉を言わせなかった。
「カイン、お前に向かう雷はこいつで全部吸収する!」
ギースはヤンの隣に並び、カインに呼びかけた。
「いけるのか?」
「いける。なんてったって、カグヤの最高傑作だからな。これは」
不敵な笑みを崩さず、ギースは言い切った。
その表情には、カグヤが残した力への絶対的な信頼があった。
「ヤン!カインのジャンプと合わせて俺を上に飛ばせ!」
「承知!」
ヤンは構えを取り、ギースを打ち上げる準備をする。
「ついてこい!」
「ヤン!」
「とりゃああ!!!」
カインが跳躍する。
その直後、ヤンの腕力によってギースの身体もまた高々と打ち上げられた。
二人の竜騎士と侍は、雷雲渦巻く空中へと舞い上がっていく。
襲い来る雷撃を前に、ギースは手に持っていた札を掲げた。
「“
掲げられた札が淡い光を放つ。
バルバリシアが生み出した雷雲が揺らぎ、そこから放たれる雷撃が次々と札へ吸い込まれていく。
やがて雷雲は力を失い、塔内を満たしていた雷の気配が消え去った。
「俺の仕事は果たした。こっから先は、お前が決めろ」
「言われずとも!」
雷の妨害はもうない。
カインは再び風の渦へ飛び込む。
残された風圧をものともせず、崩れかけた竜巻の中心へ向かって一直線に突き進んだ。
その先にいるのは、風を操るバルバリシア。
「これで終わりだ!」
「カインッ!!」
槍が、バルバリシアを貫いた。
風を操っていた力が消え、彼女の身体を包んでいた魔力が霧散していく。
「カイン、貴様……!この私を倒しても……最後の四天王がいる!」
バルバリシアは恨めしげな表情で、カインたちを睨みつける。
「このゾットの塔もろとも……消え去るがいい!!」
その言葉と共に、彼女の身体から残された魔力が溢れ出す。
「ほっほっほほほ……」
高らかな笑い声だけを残し、バルバリシアの姿が消えた。
ほっとする間まもなく、塔全体を揺らすような地響きが鳴り響く。
セシルたちはすぐに集まり、周囲を警戒した。
「く、崩れる!」
「なんで四天王ってのは毎度死に際に後を濁すかなぁ!!」
「くそっ!」
天井から瓦礫が落ち、床が大きく揺れる。
「私に掴まって!──“テレポ”!!」
ローザはすぐさま仲間たちへ呼びかけ、魔法を唱える。
淡い光が一行を包み込み、崩れゆくゾットの塔から脱出するための転移が発動した。