ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
「母さん!母さん!母さん!ついでにリョウアン!」
廊下を駆け抜け、ギースは勢いよく扉を開け放った。
「廊下は走らない。それと、扉はもっと静かに開けなさい。まったく、落ち着きがないんだから」
「元気なのは良いことですがね。そして私はついでですか」
部屋ではセフィとリョウアンが穏やかにお茶を飲んでいた。
突然飛び込んできたギースに、セフィは呆れたようにため息をつき、リョウアンは苦笑を浮かべる。
「これが落ち着いてられないよ!あの子が起きた!!」
「あら、本当?」
セフィは目を丸くすると、すぐに立ち上がった。
「分かった、すぐに様子を見に行きましょう」
三人は足早に少女の部屋へ向かう。
部屋へ入ると、少女はベッドの上で身を起こし、きょとんとした様子で部屋の中を見回していた。
扉が開く音に気づき、その視線が三人へ向けられる。
「あっ……」
「慌ただしくしてしまって、ごめんなさいね」
「だい……じょうぶ、です」
少女は小さく首を横に振った。
その声はか細く、今にも消えてしまいそうだった。
「……ここは、どこですか」
「ここはエブラーナよ」
セフィが優しく答える。
「浜辺で倒れてたんだぜ、お前。俺とエッジ兄が見つけて、ここまで運んできたんだ」
「エブラーナ……浜辺……」
少女は聞いた言葉を確かめるように、ゆっくりと繰り返した。
その瞳には戸惑いの色が浮かんでいる。
「なんで浜辺に流れ着いたんだ、お前?」
「えっと……」
少女は答えようとして口を開く。
しかし、その先の言葉は出てこなかった。
「ごめんなさいね」
セフィが穏やかに微笑む。
「まずは自己紹介から始めましょう。私はセフィ。この白い服のお兄さんが弟子のリョウアン。そして、さっきから落ち着きがないこの子がギース。私の息子よ」
「え、落ち着きないの、俺って」
「落ち着きがある子は、廊下を走ったり扉を勢いよく開けたりはしませんね。妥当な評価かと」
セフィの評価が心外だったのか、ギースは隣に立つリョウアンへ視線を向ける。
だがリョウアンは苦笑しながら、小さく頷いた。
「あなたのお名前を教えてもらえるかしら」
「なまえ……」
少女は胸の前で小さく手を握りしめた。
「わたしの……名前は……」
少女の唇が小さく動く。何かを思い出そうとしているのだろう。
しかし、その続きを紡ぐことはできなかった。
三人は少女の言葉を静かに待つ。
長い沈黙のあと、少女は不安そうに顔を上げた。
「わたしは……だれですか?」
部屋から音が消えた。
その一言に、ギースは目を丸くする。
「……え?」
思わず漏れた声とは対照的に、セフィとリョウアンは顔を見合わせた。
二人の表情から笑みは消え、代わりに静かな緊張が漂う。
「……わたし、わたしは……わからないっわからない!!」
少女は必死に思い出そうと頭を押さえる。
乱れた銀髪をかきむしり、苦しそうに何度も首を振った。
「……大丈夫」
セフィは静かに少女のそばへ歩み寄る。
「無理に思い出そうとしなくていいわ」
そう言って、怯える少女をそっと抱きしめた。
少女の体が小さく震える。
「まずは、ご飯を食べましょう」
優しく背中をさすりながら、セフィは穏やかな声で続けた。
「ずっと眠っていたんだもの。きっとお腹も空いているわ。後のことは、ご飯を食べてから、ゆっくり考えましょう」
◇ ◇ ◇
ギースとエッジは小太刀を構え、向かい合う。
互いに間合いを測り、一歩、また一歩と足を運ぶ。
鋭い踏み込みとともに、エッジの刃が閃いた。
ギースは半身になって受け流し、その勢いのまま足払いを狙う。
「それで、結局あいつが何者なのか分からなかったのか?」
「うん。母さんが視ても、おっちゃんたちが調べても、なしのつぶて。手掛かりは何一つ出てこなかった」
エッジは軽く跳んで足払いをかわすと、着地と同時に身を沈める。
「まあ、あれだけ綺麗な顔だ。人さらいに攫われたって線もあるか……」
「でも、おっちゃんは近くで難破船が出た話は聞いてないって」
「エブラーナの近くを通る船を、忍びたちが全部把握してるわけじゃねぇさ。どこにも記録のない船が難破して、あいつだけ流れ着いたって可能性もある」
「そっか……」
「母さんが『邪の気配は感じない』って言うなら、悪い奴じゃないんだろうけど」
「だな。そこは俺も同意見だ」
そう言うや否や、エッジの姿がふっと消えた。
「えっ──」
気づいた時には、ギースの背後に回り込んでいた。
首筋へ小太刀の切っ先がぴたりと添えられる。
「一本」
「また負けたー!」
ギースは悔しそうに肩を落とす。
「足払いは悪くなかった。でも、相手の足ばかり見てたな」
エッジは小太刀を納め、にやりと笑った。
「ううっ! 今日こそ勝てると思ったのに!!」
「まだまだ。俺に勝とうなんて五年早いぜ」
「それ、俺とエッジ兄の歳の差じゃん!! 五年後になっても絶対言うでしょ、それ!!」
「まあ、言うか言わないかで言ったら……言うな」
ギースはその場に倒れ込み、じたばたと手足をばたつかせながら抗議する。
そんな様子を見て、エッジは肩をすくめ、からからと笑った。
「今に見てろ!今度、父さんに新技を教えてもらうんだから!」
「別にいいけど、前みたいに『新技!』とか言って、小遣いで銭投げするオチだけはやめろよ」
エッジは、少し前にギースが披露した”新技”を思い出した。
数十ギルでは小銭がぱらぱらと地面に散っただけで、そもそもエッジに届いてすらいなかった。
「銭投げを馬鹿にするなよ!父さんの銭投げは凄いんだ!」
「……いや、別にあの人の銭投げは馬鹿にしてねぇよ」
ギースの父親が放つ銭投げは、一度に惜しげもなく大金を投じる豪快な技だ。
大型の魔物すらまとめて吹き飛ばすほどの威力があり、ギースの"新技"とは比べものにならない。
「……そういや、あの人の銭投げって用心棒の活動費から出してるんだよな」
「?たぶんそうだと思うけど」
エッジは、ある事実に気づいてしまった。
「なあ……あれ、
「…………」
二人の間に、何とも言えない沈黙が流れる。
お互い、同じ結論にたどり着いてしまった。
――銭投げのお金、国費では?
「父さん……母さんに怒られるのでは……」
「心配するの遅ぇよ。今さらだろ」