ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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序章③

「母さん!母さん!母さん!ついでにリョウアン!」

 

 廊下を駆け抜け、ギースは勢いよく扉を開け放った。

 

「廊下は走らない。それと、扉はもっと静かに開けなさい。まったく、落ち着きがないんだから」

「元気なのは良いことですがね。そして私はついでですか」

 

 部屋ではセフィとリョウアンが穏やかにお茶を飲んでいた。

 突然飛び込んできたギースに、セフィは呆れたようにため息をつき、リョウアンは苦笑を浮かべる。

 

「これが落ち着いてられないよ!あの子が起きた!!」

「あら、本当?」

 

 セフィは目を丸くすると、すぐに立ち上がった。

 

「分かった、すぐに様子を見に行きましょう」

 

 三人は足早に少女の部屋へ向かう。

 部屋へ入ると、少女はベッドの上で身を起こし、きょとんとした様子で部屋の中を見回していた。

 扉が開く音に気づき、その視線が三人へ向けられる。

 

「あっ……」

「慌ただしくしてしまって、ごめんなさいね」

「だい……じょうぶ、です」

 

 少女は小さく首を横に振った。

 その声はか細く、今にも消えてしまいそうだった。

 

「……ここは、どこですか」

「ここはエブラーナよ」

 

 セフィが優しく答える。

 

「浜辺で倒れてたんだぜ、お前。俺とエッジ兄が見つけて、ここまで運んできたんだ」

「エブラーナ……浜辺……」

 

 少女は聞いた言葉を確かめるように、ゆっくりと繰り返した。

 その瞳には戸惑いの色が浮かんでいる。

 

「なんで浜辺に流れ着いたんだ、お前?」

「えっと……」

 少女は答えようとして口を開く。

 しかし、その先の言葉は出てこなかった。

 

「ごめんなさいね」

 

 セフィが穏やかに微笑む。

 

「まずは自己紹介から始めましょう。私はセフィ。この白い服のお兄さんが弟子のリョウアン。そして、さっきから落ち着きがないこの子がギース。私の息子よ」

「え、落ち着きないの、俺って」

「落ち着きがある子は、廊下を走ったり扉を勢いよく開けたりはしませんね。妥当な評価かと」

 

 セフィの評価が心外だったのか、ギースは隣に立つリョウアンへ視線を向ける。

 だがリョウアンは苦笑しながら、小さく頷いた。

 

「あなたのお名前を教えてもらえるかしら」

「なまえ……」

 

 少女は胸の前で小さく手を握りしめた。

 

「わたしの……名前は……」

 

 少女の唇が小さく動く。何かを思い出そうとしているのだろう。

 しかし、その続きを紡ぐことはできなかった。

 三人は少女の言葉を静かに待つ。

 長い沈黙のあと、少女は不安そうに顔を上げた。

 

「わたしは……だれですか?」

 

 部屋から音が消えた。

 その一言に、ギースは目を丸くする。

 

「……え?」

 

 思わず漏れた声とは対照的に、セフィとリョウアンは顔を見合わせた。

 二人の表情から笑みは消え、代わりに静かな緊張が漂う。

 

「……わたし、わたしは……わからないっわからない!!」

 

 少女は必死に思い出そうと頭を押さえる。

 乱れた銀髪をかきむしり、苦しそうに何度も首を振った。

 

「……大丈夫」

 

 セフィは静かに少女のそばへ歩み寄る。

 

「無理に思い出そうとしなくていいわ」

 

 そう言って、怯える少女をそっと抱きしめた。

 少女の体が小さく震える。

 

「まずは、ご飯を食べましょう」

 

 優しく背中をさすりながら、セフィは穏やかな声で続けた。

 

「ずっと眠っていたんだもの。きっとお腹も空いているわ。後のことは、ご飯を食べてから、ゆっくり考えましょう」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ギースとエッジは小太刀を構え、向かい合う。

 互いに間合いを測り、一歩、また一歩と足を運ぶ。

 鋭い踏み込みとともに、エッジの刃が閃いた。

 ギースは半身になって受け流し、その勢いのまま足払いを狙う。

 

「それで、結局あいつが何者なのか分からなかったのか?」

「うん。母さんが視ても、おっちゃんたちが調べても、なしのつぶて。手掛かりは何一つ出てこなかった」

 

 エッジは軽く跳んで足払いをかわすと、着地と同時に身を沈める。

 

「まあ、あれだけ綺麗な顔だ。人さらいに攫われたって線もあるか……」

「でも、おっちゃんは近くで難破船が出た話は聞いてないって」

「エブラーナの近くを通る船を、忍びたちが全部把握してるわけじゃねぇさ。どこにも記録のない船が難破して、あいつだけ流れ着いたって可能性もある」

「そっか……」

「母さんが『邪の気配は感じない』って言うなら、悪い奴じゃないんだろうけど」

「だな。そこは俺も同意見だ」

 

 そう言うや否や、エッジの姿がふっと消えた。

 

「えっ──」

 

 気づいた時には、ギースの背後に回り込んでいた。

 首筋へ小太刀の切っ先がぴたりと添えられる。

 

「一本」

「また負けたー!」

 

 ギースは悔しそうに肩を落とす。

 

「足払いは悪くなかった。でも、相手の足ばかり見てたな」

 

 エッジは小太刀を納め、にやりと笑った。

 

「ううっ! 今日こそ勝てると思ったのに!!」

「まだまだ。俺に勝とうなんて五年早いぜ」

「それ、俺とエッジ兄の歳の差じゃん!! 五年後になっても絶対言うでしょ、それ!!」

「まあ、言うか言わないかで言ったら……言うな」

 

 ギースはその場に倒れ込み、じたばたと手足をばたつかせながら抗議する。

 そんな様子を見て、エッジは肩をすくめ、からからと笑った。

 

「今に見てろ!今度、父さんに新技を教えてもらうんだから!」

「別にいいけど、前みたいに『新技!』とか言って、小遣いで銭投げするオチだけはやめろよ」

 

 エッジは、少し前にギースが披露した”新技”を思い出した。

 数十ギルでは小銭がぱらぱらと地面に散っただけで、そもそもエッジに届いてすらいなかった。

 

「銭投げを馬鹿にするなよ!父さんの銭投げは凄いんだ!」

「……いや、別にあの人の銭投げは馬鹿にしてねぇよ」

 

 ギースの父親が放つ銭投げは、一度に惜しげもなく大金を投じる豪快な技だ。

 大型の魔物すらまとめて吹き飛ばすほどの威力があり、ギースの"新技"とは比べものにならない。

 

「……そういや、あの人の銭投げって用心棒の活動費から出してるんだよな」

 

「?たぶんそうだと思うけど」

 

 エッジは、ある事実に気づいてしまった。

 

「なあ……あれ、エブラーナ()の金じゃね?」

「…………」

 

 二人の間に、何とも言えない沈黙が流れる。

 お互い、同じ結論にたどり着いてしまった。

 

 ――銭投げのお金、国費では?

 

「父さん……母さんに怒られるのでは……」

「心配するの遅ぇよ。今さらだろ」

 

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