ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
テレポによってゾットの塔を脱出した一行は、バロン城の一室へと転移した。
「ここは……」
「バロンのあなたの部屋よ」
「さすがじゃローザ!ニセモンの王も倒したしもう安心じゃしな!」
そこはセシルにとっては見慣れた場所、自分の一室だった。
偽のバロン王は倒され、ゴルベーザもすでにバロンを去っている。
ならば、もうここは安全なはずだ。
「セシル……話しておかねばならぬことが……」
「どうした、カイン」
「クリスタルのことだ……」
カインの言葉を聞き、セシルは表情を曇らせた。
「……トロイアから借りてきた土のクリスタルも奪われてしまった」
土のクリスタルは、ローザと引き換えにゴルベーザへ手渡した。
結局、その約束をゴルベーザは果たすことはなかったが、土のクリスタルは持ち去られたままだ。
「……これでヤツの手にすべてのクリスタルが揃ったことになる」
その事実を前に、誰もすぐには言葉を返せなかった。
部屋の空気が、重く沈んでいく。
「いや、クリスタルはまだ四つしか揃っていない」
カインの言葉に、一同は顔を上げた。
「まさか……存在していたのか!?闇のクリスタルが!」
「闇の……クリスタル?」
「四つで全部じゃ……」
カインの言葉に、真っ先に反応したのはセオドールだった。
ミシディアには、闇のクリスタルにまつわる伝承が残されている。
しかし、それを事実だと証明する者は今まで誰一人としていなかった。
「ワシも噂で聞いたことがあるぞい。この世界の四つのクリスタルはいわば表のクリスタル」
「裏のクリスタルが……」
「その闇のクリスタルか!」
カインの話と、ミシディアに伝わる伝承。
ゴルベーザは、表の四つのクリスタルだけではなく、その裏の闇のクリスタルも狙っていた。
「裏ってことはその闇のクリスタルも四つあるのか?」
「そうだ。だから、ゴルベーザの手に渡ったクリスタルはまだ、半分にすぎん!」
「しかし、誰もが探して見つからなかったものだ。どこにあるかは……」
これまで誰一人として、その所在を突き止めることはできなかった。
だからこそ、闇のクリスタルは伝承であり噂であった。
たとえ本当に存在していたとしても、探し出すことは至難の業だった。
「だが、ゴルベーザは探し当てた」
「なんだと!?」
「急がなければ!いったいどこに?」
誰も見つけられなかった闇のクリスタル。
その所在を、ゴルベーザはすでに突き止めていた。
「文字通りの表と裏……地底だ!」
「地底!?」
「穴でも掘らなきゃ行けんぞ!」
「いや、どうやって掘るんだよ!!」
まさか、闇のクリスタルが地の底に存在していたとは。
カインから告げられた思いもよらぬ答えに、一同は言葉を失った。
「ともかく、ヤツは表と裏……つまり光と闇のクリスタルをすべて揃えた時、月への道が開かれると言っていた」
「月への道?」
「それが、アイツの目的か?」
「よくは、わからんが……地底への鍵がこれらしい。お前に渡しておこう」
ゴルベーザの真の目的については、まだ分からない。
しかし、ゴルベーザがクリスタルを集め、その先にある何かを目指していることだけは明らかだった。
カインは懐から一つの石を取り出し、セシルへ差し出す。
それは、ゴルベーザから渡された『マグマの石』だった。
「これは?」
セシルは、ほんのりと温かな熱を感じる石を見つめた。
「こいつをどこかで掲げると地底への道が開けるらしい……」
「どこか?」
「これを渡されてそこまで聞いてないのかお前は……」
「わからん……」
カインは申し訳なさそうに首を横に振る。
次へ進むための手掛かりは得た。
しかし、その扉がどこにあるのかまでは、まだ分からない。
「何を考えこんどる?エンタープライズがあろう!この世界なんぞアッという間に一跨ぎじゃわい!」
沈みかけた空気を吹き飛ばすように、シドが豪快な声を上げた。
「でも、あれはゾットの塔に……」
「なめるんじゃないわい!最新型と言ったろが!遠隔操縦でちゃあんとバロンに戻しとるわい!」
飛空艇はゾットの塔に置き去りにしたはずだった。
崩壊に巻き込まれたと思ったセシルだったが、シドは抜け目がなかった。
最新型の飛空艇は遠隔操縦によって、すでにゾットの塔を離れ、バロンへ戻していたのだった。
「ならば決まりですな」
「シド、頼りにしているわ!」
「そうじゃろ?な!そうと決まったら出発は明日の朝じゃ!地底の入り口を目指し、ひと眠りじゃ!」
シドの力強い言葉に、一行の間に漂っていた不安は少しずつ和らいでいく。
四つの表のクリスタルを守り切れなかった悔しさも、テラを失った悲しみも消えることはない。
それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
ゴルベーザを追うため、セシルたちは、次なる戦いへ向けて休息を取ることにした。
「しかし……なぜあの時ゴルベーザは僕たちに手を出さなかったのだろう……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない……休もう」
「………………」
セシルの脳裏に残っていたのは、あの瞬間のゴルベーザの姿だった。
あのまま攻撃していればセシルもセオドールも無事では済まなかった、しかしあの時なぜか動きを止めた。
その疑問をセシルはみんなに共有することはなかった。
ただ、その様子を、ギースは黙って見つめていた。
◇ ◇ ◇
夜空に浮かぶ、二つの月を見た。
こんな状況でも日課はやめられないらしい。
ギースは、つくづく自分の性分に呆れ返った。
どうやら、ゴルベーザは城の人間すべてを魔物へ変えたわけではなかったようだ。
休息を取ろうと部屋の外へ出たギースたちを迎えたのは、ゴルベーザの魔の手にかからず無事だったバロンの人々だった。
無論、その中にはセシルたちの見知った顔もあったようで、みんな安堵の表情を浮かべていた。
逆にセシルやシドが幽霊扱いされてそこで……主にシドがひと悶着を起こしたがそこは割愛する。
「寝れないのか?」
ボーっと月を眺めていたギースにセシルは声をかけた。
「……まあ、そんなもんだな。お前は……今まで部下の話を聞いてたのか?」
セシルの無事を知って、バロン兵たち、特に赤い翼の者たちは喜びながら口々に話しかけていた。
生真面目に一人一人対応しているのを見て通り過ぎたから、ここまで来たということはその対処が終わったということだった。
「……カイナッツォが僕を赤い翼の部隊長から外したから、今は元部下……になってしまうが」
「偽物の命令なんて無視でいいんじゃないか?本物が言ってないならセシルは今でも部隊長でいいだろ」
律儀に立場を気にするセシルに対し、ギースはそもそもその命令自体に従う必要があるのかと問いかける。
「そうかな?」
「そうだろ、聞きたいのか?カイナッツォの命令」
ギースの言葉にセシルは露骨に嫌そうな顔をした。
「それは嫌だな」
「だろ」
あまりにも分かりやすい反応に、ギースは小さく笑った。
セシル自身も、ようやくその命令が偽物だったことを実感した。
「……あの」
セシルは、言いづらそうに口を開いた。
本当なら、もっと早く聞きたかった。
しかし、セシル自身、記憶を失ってしまっていることから、簡単には口に出せなかった。
「“カグヤ”について……聞いていいかい?」
「………………」
恐る恐るといった様子で、セシルはギースへ問いかける。
「その話題なら……私も混ぜてもらおう」
「!」
「……兄さん」
そこへ、セオドールが姿を現した。
ギースはしばらく黙ったまま二人を見ていた。
だが、向けられる視線から逃れることができなかったのか、やがて静かに口を開く。
「……答える前に、セオドールに確認したい。いつから気づいていた?」
「……飛空艇で、あの子が作った札を持った時だ」
「恨み言の一つや二つぐらい……言ってもよかったぜ」
「あの子が守りたかった者に対して、そんなことは言わん」
札に込められた精神力と魔力に触れ、それがセシリーのものであるとセオドールは気づいた。
気づいたうえで、セオドールはあの時まで黙っていた。
「お前の方も、気づいてはいたのだな」
「まあ、俺は分かりやすかったからな……何せどっちの顔も見たし。……暗黒騎士の時は分からなかったけど」
ギースもまた、カグヤとセオドールたちの妹・セシリーが同一人物であることに気づいていた。
セシルの顔がよく見えるようになってからの話だが。
「パラディンのセシルとカグヤはそっくりだよ。エブラーナのみんなに聞いても同じこと言うぜ」
ギースの記憶の中のカグヤと、今のセシルの姿はよく似ていた。
無論男女の差はあるが、それでも、二人が同じ血を分けた兄妹だと言われれば、納得できるほどに似ていた。
「と……まあ、あいつの話をするか」
ギースは夜空に浮かぶ二つの月を見上げた。
あの日のことを思い返す。
「あいつが浜辺で死にかけていたところを見つけて、手当てをして、しばらくしてから目を覚ましたが……」
──わたしは……だれですか?
「あいつは……自分の名前を忘れていた」
「……カグヤという名は」
「……俺がつけた。言っとくが、その名前でいいかはちゃんと本人には聞いたからな」
念を押すように、ギースは付け加えた。
記憶を失い、自分の名前すら思い出せなかった少女。
夜空に浮かぶ二つの月を見上げていた彼女に、ギースが仮の名として与えたのが「カグヤ」だった。
「カグヤの素性については、俺たちの方でも調べたが何も情報は出てこなかった」
当時、エブラーナの忍びたちは周辺の情報を集めたが、彼女に関する手がかりは一つも見つからなかった。
それも当然だったのかもしれない。
カグヤが暮らしていたのは、エブラーナから遠く離れたミシディア近辺の村だった。
いくらエブラーナ周辺を調べても、彼女の情報が出てくるはずがない。
バロンにいたセシルの記録が、ミシディア側では見つからなかったのと同じことだった。
「結局、そのまま母さんが面倒を見ることになって……それから、ずっと一緒だった。まあ、そうだな、セシルにとってのローザやカインぐらいの付き合いになるかもな」
ローザやカインと同じくらい長い付き合い。
その言葉だけで、カグヤがギースにとってどれほど大切な存在だったのか、セシルにも伝わった。
「一緒に修行して、振り回したり、振り回されたり……」
ギースは、懐かしむように夜空を見上げた。
剣を交え、魔法の練習台にされ、時には互いの失敗に巻き込まれた。
何でもないことで笑い合い、くだらないことで言い争ったこともある。
「気づけば、いつも隣にいた」
それが当たり前だった。
だからこそ、その日々が終わることなど、考えたこともなかった。
「この旅の始まりもそうだった。記憶を探すのにちょうどいいって言って……俺の武者修行についてきて……それで……ゴルベーザに殺された」
「ギース……」
懐かしい思い出を語っていたギースの声が、そこで途切れた。
夜空を見上げていた視線は、いつの間にか足元へ落ちている。
どれほど長い時間を共に過ごしても、最後に残ったのは、カグヤを守れなかったという後悔だった。
誰も、すぐには言葉を返せず、夜の空の下に、重い沈黙だけが残る。
「……俺は、あいつを守れなかった」
ギースは拳を強く握りしめる。
あの日、もっと力があれば、もっと早く気づいていれば。
もっと自分に覚悟があれば。そんな後悔が、何度も胸を締め付ける。
だとしても──
「だから……あいつの最後の願いだけは果たす」
「最後の、願いだと?」
──ゴルベーザを殺して
あの時の悲痛な声が、今も耳から離れない。
それは、ギースが戦い続ける理由になっていた。
そうするべきなのだと、何度も自分に言い聞かせてきた。
「ゴルベーザを殺す。それが、カグヤが最後に俺に頼んだことだ」