ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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バロン城⑤

 

 テレポによってゾットの塔を脱出した一行は、バロン城の一室へと転移した。

 

「ここは……」

「バロンのあなたの部屋よ」

「さすがじゃローザ!ニセモンの王も倒したしもう安心じゃしな!」

 

 そこはセシルにとっては見慣れた場所、自分の一室だった。

 偽のバロン王は倒され、ゴルベーザもすでにバロンを去っている。

 ならば、もうここは安全なはずだ。

 

「セシル……話しておかねばならぬことが……」

「どうした、カイン」

「クリスタルのことだ……」

 

 カインの言葉を聞き、セシルは表情を曇らせた。

 

「……トロイアから借りてきた土のクリスタルも奪われてしまった」

 

 土のクリスタルは、ローザと引き換えにゴルベーザへ手渡した。

 結局、その約束をゴルベーザは果たすことはなかったが、土のクリスタルは持ち去られたままだ。

 

「……これでヤツの手にすべてのクリスタルが揃ったことになる」

 

 その事実を前に、誰もすぐには言葉を返せなかった。

 部屋の空気が、重く沈んでいく。

 

「いや、クリスタルはまだ四つしか揃っていない」

 

 カインの言葉に、一同は顔を上げた。

 

「まさか……存在していたのか!?闇のクリスタルが!」

「闇の……クリスタル?」

「四つで全部じゃ……」

 

 カインの言葉に、真っ先に反応したのはセオドールだった。

 ミシディアには、闇のクリスタルにまつわる伝承が残されている。

 しかし、それを事実だと証明する者は今まで誰一人としていなかった。

 

「ワシも噂で聞いたことがあるぞい。この世界の四つのクリスタルはいわば表のクリスタル」

「裏のクリスタルが……」

「その闇のクリスタルか!」

 

 カインの話と、ミシディアに伝わる伝承。

 ゴルベーザは、表の四つのクリスタルだけではなく、その裏の闇のクリスタルも狙っていた。

 

「裏ってことはその闇のクリスタルも四つあるのか?」

「そうだ。だから、ゴルベーザの手に渡ったクリスタルはまだ、半分にすぎん!」

「しかし、誰もが探して見つからなかったものだ。どこにあるかは……」

 

 これまで誰一人として、その所在を突き止めることはできなかった。

 だからこそ、闇のクリスタルは伝承であり噂であった。

 たとえ本当に存在していたとしても、探し出すことは至難の業だった。

 

「だが、ゴルベーザは探し当てた」

「なんだと!?」

「急がなければ!いったいどこに?」

 

 誰も見つけられなかった闇のクリスタル。

 その所在を、ゴルベーザはすでに突き止めていた。

 

「文字通りの表と裏……地底だ!」

「地底!?」

「穴でも掘らなきゃ行けんぞ!」

「いや、どうやって掘るんだよ!!」

 

 まさか、闇のクリスタルが地の底に存在していたとは。

 カインから告げられた思いもよらぬ答えに、一同は言葉を失った。

 

「ともかく、ヤツは表と裏……つまり光と闇のクリスタルをすべて揃えた時、月への道が開かれると言っていた」

「月への道?」

「それが、アイツの目的か?」

「よくは、わからんが……地底への鍵がこれらしい。お前に渡しておこう」

 

 ゴルベーザの真の目的については、まだ分からない。

 しかし、ゴルベーザがクリスタルを集め、その先にある何かを目指していることだけは明らかだった。

 カインは懐から一つの石を取り出し、セシルへ差し出す。

 それは、ゴルベーザから渡された『マグマの石』だった。

 

「これは?」

 

 セシルは、ほんのりと温かな熱を感じる石を見つめた。

 

「こいつをどこかで掲げると地底への道が開けるらしい……」

「どこか?」

「これを渡されてそこまで聞いてないのかお前は……」

「わからん……」

 

 カインは申し訳なさそうに首を横に振る。

 次へ進むための手掛かりは得た。

 しかし、その扉がどこにあるのかまでは、まだ分からない。

 

「何を考えこんどる?エンタープライズがあろう!この世界なんぞアッという間に一跨ぎじゃわい!」

 

 沈みかけた空気を吹き飛ばすように、シドが豪快な声を上げた。

 

「でも、あれはゾットの塔に……」

「なめるんじゃないわい!最新型と言ったろが!遠隔操縦でちゃあんとバロンに戻しとるわい!」

 

 飛空艇はゾットの塔に置き去りにしたはずだった。

 崩壊に巻き込まれたと思ったセシルだったが、シドは抜け目がなかった。

 最新型の飛空艇は遠隔操縦によって、すでにゾットの塔を離れ、バロンへ戻していたのだった。

 

「ならば決まりですな」

「シド、頼りにしているわ!」

「そうじゃろ?な!そうと決まったら出発は明日の朝じゃ!地底の入り口を目指し、ひと眠りじゃ!」

 

 シドの力強い言葉に、一行の間に漂っていた不安は少しずつ和らいでいく。

 四つの表のクリスタルを守り切れなかった悔しさも、テラを失った悲しみも消えることはない。

 それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。

 ゴルベーザを追うため、セシルたちは、次なる戦いへ向けて休息を取ることにした。

 

「しかし……なぜあの時ゴルベーザは僕たちに手を出さなかったのだろう……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない……休もう」

「………………」

 

 セシルの脳裏に残っていたのは、あの瞬間のゴルベーザの姿だった。

 あのまま攻撃していればセシルもセオドールも無事では済まなかった、しかしあの時なぜか動きを止めた。

 その疑問をセシルはみんなに共有することはなかった。

 ただ、その様子を、ギースは黙って見つめていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 夜空に浮かぶ、二つの月を見た。

 こんな状況でも日課はやめられないらしい。

 ギースは、つくづく自分の性分に呆れ返った。

 

 どうやら、ゴルベーザは城の人間すべてを魔物へ変えたわけではなかったようだ。

 休息を取ろうと部屋の外へ出たギースたちを迎えたのは、ゴルベーザの魔の手にかからず無事だったバロンの人々だった。

 無論、その中にはセシルたちの見知った顔もあったようで、みんな安堵の表情を浮かべていた。

 逆にセシルやシドが幽霊扱いされてそこで……主にシドがひと悶着を起こしたがそこは割愛する。

 

「寝れないのか?」

 

 ボーっと月を眺めていたギースにセシルは声をかけた。

 

「……まあ、そんなもんだな。お前は……今まで部下の話を聞いてたのか?」

 

 セシルの無事を知って、バロン兵たち、特に赤い翼の者たちは喜びながら口々に話しかけていた。

 生真面目に一人一人対応しているのを見て通り過ぎたから、ここまで来たということはその対処が終わったということだった。

 

「……カイナッツォが僕を赤い翼の部隊長から外したから、今は元部下……になってしまうが」

「偽物の命令なんて無視でいいんじゃないか?本物が言ってないならセシルは今でも部隊長でいいだろ」

 

 律儀に立場を気にするセシルに対し、ギースはそもそもその命令自体に従う必要があるのかと問いかける。

 

「そうかな?」

「そうだろ、聞きたいのか?カイナッツォの命令」

 

 ギースの言葉にセシルは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「それは嫌だな」

「だろ」

 

 あまりにも分かりやすい反応に、ギースは小さく笑った。

 セシル自身も、ようやくその命令が偽物だったことを実感した。

 

「……あの」

 

 セシルは、言いづらそうに口を開いた。

 本当なら、もっと早く聞きたかった。

 しかし、セシル自身、記憶を失ってしまっていることから、簡単には口に出せなかった。

 

「“カグヤ”について……聞いていいかい?」

「………………」

 

 恐る恐るといった様子で、セシルはギースへ問いかける。

 

「その話題なら……私も混ぜてもらおう」

「!」

「……兄さん」

 

 そこへ、セオドールが姿を現した。

 ギースはしばらく黙ったまま二人を見ていた。

 だが、向けられる視線から逃れることができなかったのか、やがて静かに口を開く。

 

「……答える前に、セオドールに確認したい。いつから気づいていた?」

「……飛空艇で、あの子が作った札を持った時だ」

「恨み言の一つや二つぐらい……言ってもよかったぜ」

「あの子が守りたかった者に対して、そんなことは言わん」

 

 札に込められた精神力と魔力に触れ、それがセシリーのものであるとセオドールは気づいた。

 気づいたうえで、セオドールはあの時まで黙っていた。

 

「お前の方も、気づいてはいたのだな」

「まあ、俺は分かりやすかったからな……何せどっちの顔も見たし。……暗黒騎士の時は分からなかったけど」

 

 ギースもまた、カグヤとセオドールたちの妹・セシリーが同一人物であることに気づいていた。

 セシルの顔がよく見えるようになってからの話だが。

 

「パラディンのセシルとカグヤはそっくりだよ。エブラーナのみんなに聞いても同じこと言うぜ」

 

 ギースの記憶の中のカグヤと、今のセシルの姿はよく似ていた。

 無論男女の差はあるが、それでも、二人が同じ血を分けた兄妹だと言われれば、納得できるほどに似ていた。

 

「と……まあ、あいつの話をするか」

 

 ギースは夜空に浮かぶ二つの月を見上げた。

 あの日のことを思い返す。

 

「あいつが浜辺で死にかけていたところを見つけて、手当てをして、しばらくしてから目を覚ましたが……」

 

──わたしは……だれですか?

 

「あいつは……自分の名前を忘れていた」

「……カグヤという名は」

「……俺がつけた。言っとくが、その名前でいいかはちゃんと本人には聞いたからな」

 

 念を押すように、ギースは付け加えた。

 記憶を失い、自分の名前すら思い出せなかった少女。

 夜空に浮かぶ二つの月を見上げていた彼女に、ギースが仮の名として与えたのが「カグヤ」だった。

 

「カグヤの素性については、俺たちの方でも調べたが何も情報は出てこなかった」

 

 当時、エブラーナの忍びたちは周辺の情報を集めたが、彼女に関する手がかりは一つも見つからなかった。

 それも当然だったのかもしれない。

 カグヤが暮らしていたのは、エブラーナから遠く離れたミシディア近辺の村だった。

 いくらエブラーナ周辺を調べても、彼女の情報が出てくるはずがない。

 バロンにいたセシルの記録が、ミシディア側では見つからなかったのと同じことだった。

 

「結局、そのまま母さんが面倒を見ることになって……それから、ずっと一緒だった。まあ、そうだな、セシルにとってのローザやカインぐらいの付き合いになるかもな」

 

 ローザやカインと同じくらい長い付き合い。

 その言葉だけで、カグヤがギースにとってどれほど大切な存在だったのか、セシルにも伝わった。

 

「一緒に修行して、振り回したり、振り回されたり……」

 

 ギースは、懐かしむように夜空を見上げた。

 剣を交え、魔法の練習台にされ、時には互いの失敗に巻き込まれた。

 何でもないことで笑い合い、くだらないことで言い争ったこともある。

 

「気づけば、いつも隣にいた」

 

 それが当たり前だった。

 だからこそ、その日々が終わることなど、考えたこともなかった。

 

「この旅の始まりもそうだった。記憶を探すのにちょうどいいって言って……俺の武者修行についてきて……それで……ゴルベーザに殺された」

「ギース……」

 

 懐かしい思い出を語っていたギースの声が、そこで途切れた。

 夜空を見上げていた視線は、いつの間にか足元へ落ちている。

 どれほど長い時間を共に過ごしても、最後に残ったのは、カグヤを守れなかったという後悔だった。

 誰も、すぐには言葉を返せず、夜の空の下に、重い沈黙だけが残る。

 

「……俺は、あいつを守れなかった」

 

 ギースは拳を強く握りしめる。

 あの日、もっと力があれば、もっと早く気づいていれば。

 もっと自分に覚悟があれば。そんな後悔が、何度も胸を締め付ける。

 だとしても──

 

「だから……あいつの最後の願いだけは果たす」

「最後の、願いだと?」

 

──ゴルベーザを殺して

 

 あの時の悲痛な声が、今も耳から離れない。

 それは、ギースが戦い続ける理由になっていた。

 そうするべきなのだと、何度も自分に言い聞かせてきた。

 

「ゴルベーザを殺す。それが、カグヤが最後に俺に頼んだことだ」

 

 

 

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