ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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エブラーナ(過去)

 

「“ケアル”」

 

 エブラーナの医務室。

 銀色の髪の女性──カグヤは、幼い忍びの傷へ手をかざした。

 淡い光が傷口を包み込む。

 痛みにこわばっていた小さな身体から、少しずつ力が抜けて、みるみるうちに傷は塞がっていった。

 

「はい、もう大丈夫」

「すっげー!もう治った!!」

 

 傷が消えた少年は、驚きと喜びを隠せず声を上げた。

 

「おーい!治ったなら遊びに行こうぜー!」

「うん!今行く!ありがとカグヤ!」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 友達に呼ばれ、少年は元気よく医務室を飛び出していく。

 カグヤは小さく手を振り、その背中を見送った。

 

「カグヤ、あの子が最後でしたから。あなたは先に休憩に入っていいですよ」

 

 医務室の奥で作業をしていたリョウアンが、カグヤへ声をかける。

 

「まだ大丈夫だよ。ポーションの補充もしておきたいし」

「でも、多分そろそろ来る頃合いですよ?」

「カーグヤ!言われたもの、お土産に持ってきたぜ!」

 

 リョウアンの言葉が終わるのとほぼ同時に、勢いよく医務室の扉が開いた。

 そこに立っていたのは、見慣れた少年だった。

 

「おかえり、ギース」

「ただいま!はい、これ」

「……え?こんなにいいの?」

 

 ギースは手に持っていた薬草の束をカグヤへ渡す。

 受け取った薬草の量に、カグヤは思わず目を丸くした。

 

「ああ、別にいいぜ、俺は使わないし」

「ありがとう、ギース」

 

 カグヤは受け取った薬草を大切そうに抱える。

 ギースが集めてきた薬草は、一般的な薬草ではなかった。

 希少なものや扱いの難しいものばかりで、普通の薬師なら避けるような素材も含まれていた。

 

「毒性が強いのもあったが、一体何に使うんだ?」

「エーテルを作ろうかと」

「え、アレ作れるのか?」

 

 ギースは思わず目を見開いた。

 エーテルはめったに手に入らない貴重品だ。それを自分で作ろうとしているカグヤの発想に、驚きを隠せなかった。

 

「うーん……自信はないから、試し試しになるけど。まあ作りたいなって感じ」

「それで大丈夫なのか……?」

 

 あまりにもあっさり言うカグヤに、ギースは思わず不安そうな顔をする。

 希少な薬草の中には、扱いを誤れば危険なものもある。

 それを分かったうえで、カグヤは迷う様子もなく調合に挑もうとしていた。

 

「作ったものは責任もって、まず自分で試すから。迷惑はかけないよ」

「それが不安なんだ。試すときは絶対、俺とか他の人間呼べよ。一人でやるなよ」

 

 カグヤの言葉に、ギースはため息をついた。

 カグヤが無茶をする性格であることを、ギースはよく知っていた。

 こう見えて彼女は意外と頑固で、一度決めたことは簡単には曲げない。

 止めたところで、結局は自分で試そうとするだろう。

 ならばせめて、危険な時に一人にならないよう見ているしかない。

 

「分かったよ。ちゃんと誰かに頼る」

「本当に頼れよ!」

 

 カグヤは困ったように笑い、ギースは念を押すように指を立てた。

 

「じゃあ、さっそく調合して……」

「その前に休憩をお願いします」

 

 受け取った薬草で早速調合に取りかかろうとするカグヤだったが、リョウアンがすぐに止めた。

 

「え──」

「文句は言わない」

 

 不満そうな声を漏らすカグヤに、リョウアンは有無を言わせない口調で返す。

 

「ギース様、連れてってください」

「了解、じゃあカグヤ連れてくぜ。行くぞ食堂、今日は肉か魚だってよ」

「うん、分かった。じゃあ先に休憩します」

 

 カグヤはリョウアンに礼をすると、ギースの隣に並んで医務室を出ていった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「カグヤ、お前は何にする?」

「うーん……魚か肉、どっちにしようか迷ってて」

「じゃあ、俺が肉にするから、カグヤは魚にしろよ。半分ずつ交換しようぜ」

「そうだね、そうしよっか」

 

 そんなやり取りをしながら、二人は食堂へ向かった。

 食堂には、すでにエッジの姿があった。

 ギースはいつものようにエッジの隣へ座り、カグヤはその向かいの席に腰を下ろす。

 

「よう、先に来てたのかエッジ」

「お、ギースとカグヤか」

 

 エッジは二人の姿を見ると、軽く手を上げた。

 三人で食事をすることは、エブラーナでは珍しいことではなかった。

 いつものように、何気ない会話が始まる。

 

「エッジもおかえり。演習はどうだった?」

「おい、カグヤ。なんで俺に聞かないんだ?」

「ギース、いつも大丈夫としか言わないじゃない」

「………………」

 

 あまりにも迷いのない返答に、ギースは言葉に詰まった。

 

「いや、本当に大丈夫なんだって」

「ほら、そういうところ」

「………………」

 

 反論しようとしたが、言葉が出てこない。

 実際、ギースは何かあっても大丈夫だと言うことが多く、カグヤにはそれが全部お見通しだった。

 

「てめーら、合流して早々いちゃついてんじゃねえぞ。俺に対する当てつけか」

 

 そんな二人のやり取りを見ていたエッジが、からかうように口を挟んだ。

 

「いちゃついてないよ」

「そうだぞ」

 

 二人はほぼ同時に否定した。

 

「息ぴったりじゃねえか」

 

 エッジは呆れたように笑った。

 ギースとカグヤのこうしたやり取りは、エッジにとってすっかり見慣れたものだった。

 そんな二人をからかいながらも、エッジは聞かれたことには素直に答える。

 

「ギースじゃねえが……演習は大丈夫だったぜ」

「それならよかった」

 

 エッジの言葉に、カグヤは安心したように微笑んだ。

 

「……いっぱい薬草を持ってきてくれたから、無理してないか心配したんだ」

「お前、気が狂ったみたいに同じモンスターばっかり倒してたの、カグヤの土産のためだったのかよ」

「なんだよ、その不名誉な言い方」

 

 ギースは不満そうにエッジを見る。

 

「別に気が狂ってたわけじゃないぞ。俺は普通に!モンスターを倒してただけだからな!」

「普通の奴は同じ場所で延々狩り続けねえよ」

「え、そんなことしてたのギース」

 

 呆れたような視線を向けるカグヤに、ギースは思わず目を逸らした。

 

「そ、そんなことより、おかず交換しようぜ。俺も魚食べる」

「あ、話をそらした」

「そらしたな」

「いいから交換!冷めるだろ!」

 

 カグヤとエッジの言葉が重なる。

 二人から同時に指摘され、ギースはわずかに視線を泳がせた。

 これ以上追及されるのはまずいと感じたのか、半ば強引に話題を変える。

 

「まあ、いいけどね。はい」

 

 カグヤは小さく笑うと、自分の器をギースへ差し出した。

 先ほどの話を聞けば、ギースが無茶をしていたことは明らかだった。

 それでも、今ここで問い詰めたところで、ギースはきっと「大丈夫だ」と言い張るだけだろう。

 それが分かっているからこそ、カグヤはそれ以上追及しなかった。

 

「……お前もたいがいギースに甘いよな」

「そうかな?」

「そうだ」

 

 ギースが話をそらせば、カグヤはそれ以上踏み込まない。

 心配していないわけではない。ただ、無理に聞き出すよりも、ギース自身が話すのを待つ。

 そんな二人の関係を、エッジは昔から何度も見てきた。

 だが、当のカグヤには、自分がギースに甘いという自覚はないらしい。

 エッジの言葉に納得がいっていないのか、カグヤは不思議そうに首を傾げた。

 

「そうだ、ギース。セフィとガルドが飯を食い終わったら、話すことがあるから帰ってこいだって」

「母さんと父さんが二人とも?分かった」

 

 ふと思い出したように、エッジはギースの両親から預かっていた言葉を伝えた。

 二人そろって話があるというのは珍しかったが、ギースは深く考えることなく頷いた。

 

「いってらっしゃい、ギース」

「ってカグヤは来ないのかよ」

 

 カグヤも一緒に戻るものだと思っていたギースは、意外そうに彼女を見た。

 

「私は、もう話を聞いてるし」

「え、何の話だった?」

「内緒!」

 

 カグヤは楽しそうに笑い、ギースの問いには答えなかった。

 

「はあー?気になるから先に教えろよ」

「嫌。そんなことしたら私が二人から怒られるじゃない」

 

 カグヤは悪びれる様子もなく、きっぱりと言い切った。

 その反応に、ギースは不満そうに眉を寄せる。

 自分だけ何も知らされていないことが納得できないらしい。

 

「だー!痴話喧嘩は後にしろ!」

「してないって」

「そうだそうだ、俺は抗議だ!」

「どう見てもしてんだよ!ギース!いいからさっさと行ってこい!!」

 

 エッジは呆れたように声を張り上げる。

 昔から変わらない二人のやり取りに、エッジもまた突っ込むことには慣れていた。

 

「えー分かった……」

「いってらっしゃーい!」

 

 ギースはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、エッジに急かされるまま食堂を後にする。

 そんなギースの背中を、カグヤはいつものように笑顔で見送った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「それで、ギース様はセフィ様たちとお話ですか」

「そうなるね」

 

 カグヤはそう答えながら、乳鉢の中の薬草を丁寧にすり潰していく。

 休憩が終わり、医務室に戻ってきたカグヤはリョウアンと共に薬の補充をしていた。

 

「ギース様も、ガルドさんと同じく武者修行の旅ですか……私も歳をとったわけですよ」

 

 かつてガルドも同じように旅へ出た。

 その頃を思い出したのか、リョウアンはどこか懐かしそうに目を細めた。

 

「そういえば気になってたんだけど、なんでガルドさんだけさん付けなの? ギースとセフィさんは様付けなのに」

 

 ふと気になったことを、カグヤは尋ねる。

 

「そうですね。最初は私も同じように呼んでいたんですが……」

 

 リョウアンは少し遠い目をする。

 

「様付けしたら、ガルドさんに『そんな身分じゃないから気持ち悪い!様付けはやめろ!』っとぶっ飛ばされまして……」

「ええ!?」

「ガルドさんも、そこまで吹っ飛ばすつもりはなかったようですが……私も一応、裏方の人間ですからね」

 

 リョウアンは苦笑しながら説明する。

 どうやら、ガルドに悪意はなかったらしい。

 ただ、力加減を間違えた結果、医務室の人間を盛大に吹き飛ばすことになったようだった。

 

「その後、ガルドさんもまた『加減しなさい馬鹿』といわれてセフィ様にぶっ飛ばされてましたね」

「ええ……」

 

 カグヤは何とも言えない表情を浮かべた。

 

「だいぶいい気味でしたね」

 

 リョウアンは、いつもの穏やかな表情のまま言った。

 そこに怒りや恨みがあるわけではない。

 長い付き合いの中で、ガルドの不器用さを知っているからこその、ちょっとした冗談だった。

 

「そ、そうなんだ……」

「まあ、彼も弟分だった私に急に敬われて、戸惑ったのでしょう。あまり気にしていませんよ」

 

 リョウアンは何でもないことのように言う。

 

「そんなことより、手が止まってますよ。出発までに数を作るんじゃないですか?」

「そうだった!急がないと!」

 

 カグヤは慌てて乳鉢へ視線を戻す。

 話をしている間に止まっていた手を再び動かし、薬草を丁寧にすり潰し始めた。

 出発までに、少しでも多くの薬を用意しなければならない。

 カグヤは気持ちを切り替え、調合作業へ戻った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 夜空には、二つの月が並んで浮かんでいた。

 ギースは一人、縁側に腰を下ろし、その月をぼんやりと眺めていた。

 しばらくして、背後から足音が近づいてくる。

 

「……隣、いい?」

「ああ」

 

 カグヤはギースの返事を聞くと、その隣へ腰を下ろした。

 二人の間を、夜の涼しい風が静かに吹き抜ける。

 

「……お前も一緒に来るのか?」

「え、ついていっちゃダメだった?」

 

 ギースの問いに、カグヤは不思議そうに首を傾げる

 まるで、一緒に行くことは最初から決まっていたとでも言うような反応だった。

 

 

「大きくなったら、あなたの武者修行に連れてってくれる。それで一緒に記憶を探す。そういう約束でしょ」

「うぅ……したな約束」

 

 ギースは苦しそうに顔をしかめた。

 確かに、そんな約束をした。

 カグヤが記憶を失って間もない頃、いつか本当の名前や、生まれ育った場所を思い出すために、一緒に旅へ出ようと約束したのだ。

 

「なあ……記憶……戻ったらどうする?」

「?……どうする……ねえ……」

 

 カグヤは、夜空を見上げたまま考え込む。

 記憶を取り戻した後のこと。

 自分が何者なのか、どこで生まれ、誰と暮らしていたのか。

 それを知りたいと思ってはいる。

 けれど、記憶を取り戻した後に何をしたいのかと聞かれると、すぐには答えが浮かばなかった。

 

「……正直、記憶を取り戻して何かしたいってわけじゃない……かな」

「じゃあ、別に一緒に旅に出なくてもいいんじゃねえか。武者修行だし、俺一人でも大丈夫だ」

 

 武者修行は、決して安全な旅ではない。

 カグヤの記憶を探すという目的がないのなら、無理に危険な旅へ連れていく必要はない。

 

「あら、私が記憶を探すためだけに、あなたについていくような薄情な人間に見えた?」

「?」

 

 思いもよらない言葉に、ギースは首を傾げた。

 カグヤが何を言いたいのか、すぐには分からなかった。

 

「確かに、記憶が戻ればとか、私を知っている人が見つかれば……そういう理由もあるよ。けど、一番の理由は違う」

 

 カグヤは、再び夜空に浮かぶ二つの月を見上げる。

 記憶を取り戻したい。自分が何者なのかを知りたい。

 それは、ずっと抱いてきた願いだった。

 けれど──それだけではないのだ、ギースの旅についていきたいと思ったのは。

 

 カグヤはゆっくりとギースへ顔を向けた。

 

 

 

「あなたのそばに居たい」

 

 二つの月から降り注ぐ淡い光が、カグヤの銀色の髪を静かに照らしていた。

 夜風に揺れる髪は月明かりを受け、まるで淡く輝いているように見える。

 あの日も、こうして二つの月を眺めていた。

 名前も、過去も、自分が何者なのかさえ分からなかった少女。

 そんな彼女に、自分が「カグヤ」という名を与えた。

 あれから長い時間が過ぎて、今、目の前にいるカグヤは、あの頃と変わらない穏やかな表情で自分を見つめている。

 

「!?なっ……」

 

 ギースは思わず息を詰まらせた。

 

「私は、ただ、それだけ」

 

 カグヤは、穏やかな笑みを浮かべた。

 自分の気持ちを伝えられたことで、どこか安心したようにも見える。

 一方、ギースは何も言えなかった。

 突然告げられた言葉を理解するだけで精一杯で、頭の中は真っ白になっていた。

 しばらく、二人の間に沈黙が落ちる。

 

「……ねえ、私だけ告白した感じになってるけど、ギースは?」

「お、お前が先に言うから、俺が言いたいこと全部飛んだ……」

 

 ようやく絞り出したギースの言葉に、カグヤはきょとんと目を瞬かせた。

 自分が先に言ったことで、ギースがここまで慌てるとは思っていなかったらしい。

 

「えー、私のせい?」

「ちょ、ちょっと待ってろ。今思い出す!」

 

 ギースは必死に頭を働かせる。

 言おうとしていたことは確かにあった。

 旅に出る前に伝えたいと思っていたことも、月を見ながら考えていた言葉もあった。

 けれど、カグヤの一言で、それらは全部吹き飛んでしまった。

 

「そんな焦って思い出されてもねー……」

 

 カグヤは楽しそうに笑う。

 

「じゃあ私も無しにしようかな」

「そ、それはダメだ!!」

 

 反射的に叫んだギースに、カグヤは目を丸くした。

 あまりにも迷いのない返事だった。

 

「……じゃあ、私は待ってるね」

 

 カグヤは、いつものように穏やかに笑った。

 急かすこともなく、答えを求めることもない。

 ただ、ギースが自分の言葉で伝えてくれるその時を、静かに待つつもりだった。

 

「武者修行が終わった時ぐらいに、もうちょっと気の利いた告白してほしいな」

「……おうおう言ってくれるな」

 

 ギースは少し不満そうにしながらも、どこか嬉しそうに笑った。

 

「分かった待ってろ。ぜってーお前以上の一世一代の大告白ぶちかますからな!!待ってろ!!」

 

 勢いよく宣言するギースの姿に、カグヤは思わず小さく笑った。

 いつもの無茶なところも、意地を張るところも変わらない。

 けれど、その言葉だけは嘘ではないと分かっていた。

 

「うん、楽しみに待ってる」

 

 月明かりの下で交わした約束。

 それは、二人にとって新しい旅の始まりだった。

 

 

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