ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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バロン城⑥~バロン②

 

 バロン城で束の間の休息を取り、旅支度を整えていた時のことだった。

 

「どうしよう……気のせいだったかな……でも、もしそうだったら」

 

 一人のバロン兵が、廊下を行ったり来たりしながら落ち着かない様子を見せていた。

 

「どうしたんだ?」

「セシル様!!そ、それが……」

 

 兵士が、セシルの姿に気付いて足を止める。

 セシルの姿を見た兵士は、まるで天の助けを得たように顔を明るくさせる。

 

「夜、亡き陛下のお声が塔の地下から響いてくるんです」

「……!」

 

 セシルは思わず息を呑む。

 亡き陛下のお声、そんなものが本当に地下から聞こえているというのなら、確かめないわけにはいかなかった。

 

「君はその声を確かめに行ったのか?」

「も、申し訳ありません。まだ確認はできていないのです。仲間にもどう報告すればよいか分からず……」

 

 亡くなったはずの王の声が聞こえるなど、下手に伝えれば混乱を招くかもしれない。

 そう思った兵士は周りの人間に伝えることができなかった。

 

「分かった。僕らが調べよう」

「申し訳ございません、よろしくお願いします」

 

 兵士は深く頭を下げた。

 その背中を見送ったセシルは、静かに塔の地下へ続く道へ視線を向ける。

 

 

 

 

 

「……なんだと思う?」

 

 地下から聞こえるという声について、セシルは仲間たちへ問いかけた。

 

「もしその声がバロン王のものであれば、無念が怨霊となって残っている可能性がある」

 

 セオドールは冷静に可能性を口にする。

 

「陛下……」

 

 ローザは小さく呟いた。

 バロンを治めていた王。ゴルベーザたちによって命を奪われ、城までも奪われた人物。

 ローザは亡き陛下へ思いを馳せる。

 

「敵の罠の可能性も……」

 

 ヤンは警戒を緩めず、地下へ続く道を見る。

 

「あいつら、性格悪いからな……」

 

 ギースもまた、険しい表情で呟いた。

 ゴルベーザたちがこれまで仕掛けてきたことを考えれば、不可解な声を利用して何かを企んでいたとしても不思議ではない。

 

「どちらにせよ、聞いたからには放ってはおけん」

 

 カインは静かに言った。

 それが亡き王の残したものなのか、それとも敵の仕掛けた罠なのか。

 確かめもせずに放置することはできなかった。

 

「安心せい!もしニセモンの仕業じゃったら、わしの木槌でぶちかましたるわい!」

 

 シドが豪快に笑いながら拳を握る。

 その言葉に、張り詰めていた空気がわずかに和らいだ。

 セシルたちは地下へ続く階段を降りていく。

 静まり返った地下には、足音だけが響いていた。

 

 

 やがて辿り着いた最後の間。

 そこには、玉座が静かに佇んでいた。

 

「セシルよ……」

「陛下!?」

 

 玉座に現れたのは、かつてバロンを治めていた王──バロン王だった。

 その姿は生前と変わらない。

 だが、実体はなく、淡い光をまとった身体はどこか儚げだった。

 

「陛下、申し訳ありません。僕は……あなたを」

 

 その先の言葉を、セシルは口にできなかった。

 俯いたまま、拳を強く握りしめる。

 王を守れなかったことへの後悔は、今も胸の奥に残っていた。

 

「よい、セシル。おぬしはバロンを救ってくれた」

 

 バロン王は穏やかな声で告げた。

 

「だが、まだだ。今、この星は大いなる窮地に立たされておる」

「窮地……」

「この身になり、ようやく状況を理解した」

 

 王は静かに語り始めた。

 命を失い、この世を離れたことで初めて見えたもの。

 それは、地上だけでは知ることのできなかった、この星を巡る大いなる危機だった。

 

「それは、ミシディアの伝承と何か関わりが……」

「……おぬしも、セシリアの子か」

「!母をご存じで……」

 

 思いもよらぬ名が出たことに、セオドールは目を見開いた。

 

「ああ、知っておる。あの子のことはよく……」

 

 バロン王は、どこか懐かしむように目を細めた。

 その表情には、遠い昔を思い出す者のような穏やかさが浮かんでいた。

 

「セシル、幻獣の世界へ行き、再びここへ来るのだ。お前の力になれるはず……」

「陛下!」

「セシリア……今度こそ、お前の子らを……」

 

 王の言葉は、そこで途切れた。

 淡い光をまとっていた身体が、少しずつ輪郭を失っていく。

 

「陛下!」

 

 セシルが呼びかける。

 しかし、バロン王はもう答えなかった。

 やがて、その姿は淡い光となって消え、玉座には再び静寂だけが残った。

 

「幻獣の……世界」

 

 王が残した言葉を、セシルは小さく繰り返す。

 

「まず地底が見つからないってのに、別の世界もあるのか」

 

 ギースは困ったように頭をかいた。

 地底への入り口すら見つかっていない。それなのに幻獣が住むという別の世界へ行けと言われるとは……

 新たに示された道は、あまりにも途方もないものだった。

 

「……王は、母と何か関りが?」

 

 セオドールは、先ほど王が口にした母の名を思い返す。

 

「うーん……セシリアという女性は、王と昔、何かがあったようじゃが」

「何かが?」

「王はもちろん、古いもんほどそのことについて語らんのじゃ!ワシは分からん!」

 

 セシリアとバロン王の間に何があったのか。

 シドもまた、詳しい事情までは知らされていなかった。

 

「セオドール、おぬしは何か知らんのか?」

「……すまない。私も、両親のことはあまりよく知らないのだ」

「………………」

 

 セオドールがまだ幼い頃、母はセシルとセシリーを産んだ後に亡くなった。

 思えば、父や母がどのような人生を歩み、何を思っていたのか。セオドールは何も知らなかった。

 幼い頃から両親について尋ねる機会もなく、今となっては、その過去を知る者もほとんど残っていない。

 セオドールは静かに俯いた。

 その姿を見たセシルも、胸の奥にわずかな引っかかりを覚える。

 

「……調べてみるか?」

「なに?」

 

 不意に声をかけられ、セオドールは顔を上げた。

 

「結局、バロン王と、そのセシリアさんには何かあるんだろ?」

 

 ギースは、先ほど王が残した言葉を思い返す。

 

「せっかくバロンにいるんだし、調べようぜ」

「しかし……この状況でこちらの事情を優先するのは……」

 

 今、自分たちには地底へ向かう手段を探すという目的がある。そんな状況で、自分の両親について調べることを優先してよいのか。

 セオドールは、ためらうように言葉を濁した。

 

「こんなのでモヤモヤするのも嫌だろ。思い立ったら吉日だ!」

 

 今すぐ旅を中断して、長い時間をかけて調べようというわけではない。

 せっかくバロンにいるのだし、王やセシリアのことを知る者がいるか、少し尋ねてみるだけでもいい。

 

「地底へ行く方法を探すのと、同時にできることもあるかもしれないだろ?」

 

 地底に行く方法を全く、探さないわけではない。ついでに探すというだけだ。

 

「それに、俺も知っておきたいし……あいつの家族の話だろ」

 

 最後の言葉には、セシリー……いや、カグヤの家族を知っておきたいというギース自身の本音が混ざっていた。

 

「ギース……」

「しかしどうする?城にいる連中は、そう簡単には話さんぞ。その話題になるとそろって口を閉ざしおるからな」

「まじか……徹底してるな……」

 

 シドの話を聞き、ギースは困ったように頭をかいた。

 城に仕える者たちがそろって口を閉ざすとなれば、城の中で事情を聞き出すのは難しいだろう。

 

「バロン王と長い付き合いがあり、なおかつ城に仕えていない者であれば、話してくれる可能性がある……か」

 

 カインは、シドの言葉を整理するように口にした。

 しばらく考え込んでいたカインが、ふと顔を上げる。

 

「……一つ、心当たりがある」

「心当たり?」

「それはいったい……」

「ローザ。お前もよく知る人物だ」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ローザ、無事だったのね!」

「……ごめんなさい」

 

 カインの心当たりは、バロン城下に暮らすローザの母親だった。

 久しぶりに再会した娘の姿を、母親は何度も確かめるように見つめる。

 目立った傷はないが、娘が再び危険な旅から帰ってきたという事実に、安心だけでは済まなかった。

 

「もう、どこにも行っちゃいけないよ!お前を白魔導士なんかにすべきじゃなかったんだ!」

「違うわ、お母さん!私は、よかったと思うわ。セシルの力になれる白魔導士で!」

 

 ローザは、母の言葉をまっすぐに否定する。

 白魔導士になったからこそ、多くの人を助けることができた。

 そして何より、危険な戦いへ身を投じるセシルを支えることができた。

 たとえ危険な旅であっても、自分が選んだ道を後悔したことはなかった。

 

「お母さんだって、昔はお父さんと共に戦った白魔導士じゃない!」

 

 ローザは、母の過去を思い出すように言った。

 

「ローザ……」

 

 母親は、娘の言葉を受け、複雑そうな表情を浮かべた。

 危険な旅へ出ることを、簡単に認めることはできない。

 それでも、自分の意思を貫こうとするローザの姿は、かつて共に戦った夫の姿と重なって見えた。

 

「……まったく。お前は昔から、一度決めたら聞かないんだから」

「お母さん……」

 

「それで、わざわざ大所帯でここに来たのは、ローザのためだけじゃないんだろ?」

「……ああ、聞きたいことがあって、ここに来た。あんたは、昔、バロン王と長い間行動を共にしていたと聞いている」

 

 まだ父が生きていた頃、カインは何度もバロン王の昔の話を聞かされていた。

 その中には、ローザの両親がバロン王と共に戦い、数々の戦場を駆け抜けたという武勇伝もあった。

 

「セシリアという女性について何か知らないか?」

 

 その名を聞いた瞬間、ローザの母親の表情がわずかに変わった。

 

「……随分と、懐かしい名前を調べてるんだね。いったいなんで」

「セシルと……そこのセオドールがそのセシリアの息子らしい」

「なんだって!!?」

 

 ローザの母親は、思わず声を上げた。

 もう二度と聞くことはないと思っていたその名前が、まさか今、自分の前にいる者たちと繋がっているとは思わなかった。

 彼女は改めて、セシルとセオドールへ視線を向ける。そこにある面影を探すように、二人の姿を見つめた。

 

「……母をご存じでしょうか」

「セシリア……あの子のことは、よーく知ってるよ」

 

 その声には、長い年月を経ても消えない懐かしさが滲んでいた。

 

「あの子は……バロン王の妹だよ」

「!?」

「そんな話、聞いとらんぞわしは!」

 

 ローザの母親から知らされた事実に誰もが言葉を失った。

 セシルも、セオドールも、まさか母の出生にそんな秘密があったとは思いもしなかった。

 ただ一人、ローザの母親だけが、遠い過去を知る者として静かに口を開いた。

 

「セシリアは、先王が酒に酔ってメイドにお手つきして生まれた子さ。不祥事も不祥事だから、知っているお偉方はみんな黙ってるさ」

「な、なんと……」

「めっちゃやらかしたな、先王……」

 

 ヤンはあまりの話に言葉を失い、ギースは呆れたように眉をひそめた。

 

「王族として認めることはできなかったけど、先王はあの子のことを気にかけていたようだね」

 

 ローザの母親は、記憶を辿るようにゆっくりと言葉を続けた。

 

「もちろん、バロン王……バロンだってセシリアをかわいがってた。よく市井に遊びに来て、私たちもそれに付き合わされたりしたね……」

 

 ローザの母親は、遠い昔を懐かしむように目を細めた。

 

「……それなら、なぜ母……“セシリア”のことは、そこまで隠されているのですか」

「それは、セシリアが魔導士と駆け落ちしたからだね」

「駆け落ち!?」

 

 思いもよらない言葉に、セオドールは目を見開いた。

 

「セシリアが流れの魔導士と恋仲になったんだが、その魔導士を先王が認めなかったんだ」

「似たような話、前にも聞いたな……」

「いや、先王だけじゃない。バロンも……私たちもセシリアの味方をしなかった」

 

 ローザの母親は、わずかに目を伏せた。

 身元も分からない流れの魔導士との関係を止めることが、彼女を守ることになると信じていたのだ。

 

「みんなに反対されて、それで、セシリアは我慢できなかったのさ」

 

 誰も自分たちの関係を認めてくれない。それなら、もうバロンに残る理由はない。

 そう思った彼女の行動は早かった。

 

「セシリアは魔導士と一緒にバロンを飛び出していった。それから先、セシリアの行方は分からなくなった」

「……………………」

「魔導士に娘を奪われたと思った先王は、さらに魔法を嫌うようになってね」

「……先王の時代、バロンとミシディアの交流が一度途切れたと伺いましたがもしや……」

「ああ、それが原因だね。城から、すべての魔導士を追い出したんだ」

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってか……」

 

 ギースは呆れたように呟く。

 大切な娘を失った悲しみがあったとはいえ、先王の取った行動はあまりにも極端だった。

 

「バロンは、妹の味方をできなかったことを後悔してた……」

 

 ローザの母はセシルの顔をまじまじと見つめ呟く。

 

「似ているだけ……そう思っていたのにね」

 

 ローザの母親は、セオドールへ視線を向ける。

 

「セシリアは……」

「……昔、セシルが赤子のころに亡くなっています」

「……そうかい」

「母は……最期まで笑っていました」

 

 ローザの母は、静かに目を伏せた。

 

「私が知るのはここまでさ、これでいいかい?」

「はい、ありがとうございます。母のことを知れてよかったです」

 

 セオドールは穏やかに微笑んだ。

 長い間知らなかった母の過去。その一端を知ることができただけでも、十分な意味があった。

 

「……セシル、ローザをお願いね」

「はい、必ず」

 

 ローザの母親は、セシルをまっすぐに見つめた。

 娘が再び危険な旅へ向かう不安は残っている。

 それでも、ローザが選んだ相手を、そしてセシリアの息子を信じることにした。

 セシルはその思いを受け止めるように、力強く頷いた。

 

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