ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

35 / 36
ドワーフ城③

 

 ──何が、あった?

 

 ぼやける視界の中、セシルはゆっくりと身体を起こした。

 全身が痛む。息をするだけで胸が軋み、握っていたはずの剣は床へ転がっていた。

 

 ローザ、ヤン、ギース、カイン、セオドール──。

 

 仲間たちは皆、その場に倒れ伏していた。

 

「……これが、お前たちの力か?」

 

 立っている者は、一人だけ。

 黒い鎧をまとったゴルベーザだけが、静かにセシルを見下ろしていた。

 

「他愛ない。メテオの使い手がいないお前たちではこの程度か」

 

 戦いにならなかった。それほどまでに、両者の力の差は絶望的だった。

 

「とはいえ、ここまで楽しませてくれた礼だ。動けぬ体に残された瞳で、真の恐怖を味わうがいい!」

 

 ゴルベーザが静かに右手を掲げる。

 その足元から漆黒の魔法陣が広がり、重苦しい魔力が、部屋全体を支配した。

 

「参れ、黒龍!」

 

 闇が渦を巻き、耳をつんざくような咆哮が響き渡った。

 闇の中から姿を現したのは、黒龍だった。

 黒龍はゴルベーザへと身体を寄せ、忠誠を示すように顔を擦り寄せる。

 

「さあ、お前の出番だ。ヤツの息の根を止めてこい」

 

 黒龍は低くひと声鳴くと、一直線にセシルへ襲い掛かった。

 漆黒の牙が、容赦なく迫る。

 

「!!」

 

 避けなければ。

 頭では分かっている。だが、満身創痍の身体は、もはやその命令に応えられなかった。

 次の瞬間、セシルの前へ一つの影が飛び込んだ。

 

「……っ、セシル!!」

「えっ……」

 

 黒龍の牙が、その身体を深々と貫く。

 セシルを庇ったのはセオドールだった。

 

「に、にいさ……兄さん!!」

 

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

 目の前で崩れ落ちる兄の姿を見て、ようやく現実を理解したセシルは、悲鳴にも似た声で兄を呼ぶ。

 

「無事……か、セシル……よかっ……」

「兄さん!!」

 

 セオドールは力なく微笑むと、そのまま意識を失った。

 ゴルベーザは倒れたセオドールへ一瞬だけ視線を落とした。

 

「……庇ったか。麗しい兄弟愛だ」

「ゴルベーザ!!」

 

 怒りが、全身を駆け巡る。

 傷ついた身体の痛みさえ忘れ、セシルは剣を拾い上げ、ゆっくりと立ち上がった。

 

「お前……一人で、何ができる?」

 

 ゴルベーザの言葉が、静かに響く。

 セシルは剣を握り締める。

 身体は限界だ。それでも、この男だけは許せない。

 

「一人じゃないわ!」

 

 聞き覚えのある声が、クリスタルルームに響き渡る。

 次の瞬間、濃い霧が黒龍を包み込んだ。

 黒龍は苦しげに身をよじると、その巨体を霧の中へ溶かすように消え去っていく。

 

「ド、ドラゴン!?黒龍を霧の力で消し去るとは……」

「その声は……」

 

 セシルは、信じられないものを見るように顔を上げる。

 そこに立っていたのは、緑色の髪の一人の女性だった。

 以前の幼い面影を残しながらも、その姿は大きく成長していた。

 リヴァイアサンに飲み込まれ、行方不明になったあの少女とは、すぐには結び付かないほどに。

 

「まさか、リディア!?」

「うん!助けに来たわ!」

 

 リヴァイアサンに飲み込まれ、もう二度と会えないと思っていた少女。

 その少女が、成長した姿で今、目の前に立っている。

 しかし、再会を喜ぶ時間は残されていなかった。

 目の前には、まだゴルベーザがいる。

 

「セシル! これを飲んで!!」

 

 リディアは懐から取り出した薬瓶を、セシルへ投げ渡す。

 

「これは?」

「エクスポーション! それで体を治して!」

「助かる!!」

 

 セシルは受け取った薬瓶をすぐに飲み干す。

 身体の奥へと広がる力とともに、傷ついた身体が少しずつ癒えていく。

 失われていた力が戻り、セシルは再び剣を握り直した。

 

「リディア!他のみんなを頼む!僕が、ゴルベーザを相手する!」

「分かった!」

 

 みなをリディアに任せ、セシルはゴルベーザへ向き直ると、ゴルベーザは静かに手を掲げる。

 黒い魔力が集まり、いつものように魔法剣を生み出そうとする。

 

「……………………」

「……?」

 

 しかし、ゴルベーザの動きがわずかに止まった。

 何かを思案するように沈黙した後、すぐに手を下ろす。

 セシルはその不可解な行動に、わずかに眉をひそめた。

 

「まあ、いい。余興だ」

 

 そう呟くと、ゴルベーザは別の力で剣を呼び寄せた。

 

「これで相手をしよう」

 

 黒い鎧の魔人は、静かに剣を構える。

 次の瞬間、ゴルベーザを中心に黒い結界が広がった。

 

「!」

 

 突然の変化に、セシルは警戒する。

 

「一対一だ」

 

 ゴルベーザは剣先をセシルへ向ける。

 

「……こい」

「っ!はああ!!」

 

 セシルが地を蹴り。一気に距離を詰める。

 振り下ろされた剣を、ゴルベーザは静かに受け止め、甲高い金属音がクリスタルルームに響き渡った。

 

「………………」

 

 力任せではない、迷いのない一撃。

 つばぜり合いで拮抗する。

 

「ゴルベーザ……僕は、お前を許さない!」

 

 許せるはずがなかった。

 地上を混乱に陥れ、多くの人々を傷つけた存在。

 慕っていたバロン王を殺し、ようやく再会できた兄にまで手をかけた。

 そして──自分の妹、セシリーを殺した男。

 

「僕は、許さない!!」

「………………」

 

 セシルの怒りを真正面から受けても、ゴルベーザは何も答えなかった。

 ただ、握った剣に力を込める。

 

「はあああああああ!!」

 

 セシルは怒りを力に変え、渾身の一撃を叩き込む。

 

「!?」

 

 ゴルベーザの剣が弾かれる。

 その隙を逃さず、セシルの返す刃が黒い鎧を切り裂いた。

 

「私が、負けるとは……」

 

 ゴルベーザの身体がわずかに揺らぎ、倒れた。

 

「倒した……」

 

 セシルは荒い息を吐きながら、目の前の敵を見つめる。

 

「ゴルベーザを……倒したぞ……!」

 

 長い間、苦しめられてきた存在を前に、セシルは確かな勝利を感じていた。

 

「セシル!」

「無事か!?」

 

 声の方へ振り返ると、そこにはリディアに助け起こされた仲間たちの姿があった。

 ゴルベーザが張った結界が消え、仲間たちはすぐにセシルのもとへ駆け寄ってくる。

 

「僕は大丈夫だ……それより、兄さん!」

 

 セシルはすぐにセオドールのもとへ向う。

 

「………………」

 

 セシルの後を追うように、他の仲間たちも駆け寄っていく。

 そんな中、ギースだけはその場に残っていた。

 倒れたゴルベーザを前に、ただ一人、立ち尽くしていた。

 

「兄さん!」

 

 ローザの治癒魔法を受けながら、セオドールはゆっくりと目を開けた。

 

「セシル……ゴルベーザは……」

「僕が、倒した……」

「そう、か……よかった。これであの子も……」

 

 セオドールは安堵したように目を細める。

 その言葉の先を続ける前に、セオドールの意識が途切れた。

 

「兄さん!」

「大丈夫」

 

 ローザはセオドールの傷口に手をかざし、治癒魔法を続けながら慎重に様子を確認する。

 深い傷ではあるが、呼吸はある。命に関わる状態ではないことを確認し、ローザは少しだけ表情を和らげた。

 

「意識を失っているだけ。ただ……傷は深いから、すぐには動けないわ」

 

 ローザの言葉に、セシルはようやく張り詰めていた気を少しだけ抜いた。

 

「その人、セシルのお兄さんなの?」

「ああ……」

 

 セシルは頷きながら、無事に息をしている兄の姿を見つめた。

 ゴルベーザに敗れ、絶望的な状況に追い込まれたセシルたちを救ったのは、もう会えないと思っていた仲間だった。

 

「ありがとう、リディア……助けてくれて」

「リディア、あなたのおかげよ!」

 

 ローザも安堵したように微笑む。

 しかし、セシルたちは改めて目の前の女性を見つめた。

 

「でも、その姿は?」

 

 かつて共に旅をしたリディアは、まだ幼い少女だった。

 だが、今ここに立っているのは、成長した一人の女性。

 面影は確かに残っている。

 それでも、あの時の姿からは想像できないほど大きく変わっていた。

 

「リヴァイアサンに飲み込まれて幻界に連れていかれたの」

 

 リディアは、リヴァイアサンに飲み込まれた後の出来事を静かに語り始めた。

 

「幻界……?」

 

 聞き慣れない言葉に、セシルは思わず聞き返す。

 

「幻獣たちが住む世界よ。そこで幻獣たちが友達になってくれたの」

 

 リディアは懐かしむように微笑む。

 そこで過ごした時間が、彼女を大きく成長させた。

 

「白魔法は使えなくなったけど、その分召喚と黒魔法の腕は上がったわ!」

 

 以前とは違う力を身につけたリディア。

 しかし、それ以上にセシルたちが気になったのは、彼女の姿だった。

 

「でも幻界は、ここと時間の流れが違って……」

「それで大人に?」

 

 ローザの問いに、リディアは小さく頷いた。

 

「セシル、この子は?」

「ミストの村のリディアだ」

「あの子供!?」

 

 カインは思わず目を見開く。

 かつてミストの村で出会った少女。その姿はもうどこにもなく、目の前にいるのは一人の女性。

 あまりにも大きく変わった姿に、カインは驚きを隠せなかった。

 

「でも、なぜ僕たちを……僕は君の母さんを……」

「言わないで!」

 

 リディアは強い声で遮った。

 かつてなら、その言葉に傷つき、立ち止まっていたかもしれない。

 けれど、今のリディアは違う。幻界で過ごした時間の中で、彼女は多くのものを見て、そして前へ進む強さを身につけていた。

 

「幻界の女王様に言われたの。今、もっと大きな運命が動いているって……あたしたちが立ち向かわなくちゃいけないって……」

「リディア……よろしく頼む」

「うん、任せておいて!」

 

 リディアの力強い返事に、セシルは小さく頷いた。

 

「リディアは……生きてたか」

 

 その様子を少し離れた場所から見つめるギース。

 視線の先には、倒れたゴルベーザの姿があった。

 

「でも、でもだ。ゴルベーザ」

 

 ギースはゆっくりと刀へ手を伸ばす。

 

「……お前は、お前は殺しすぎた」

 

 バロン、ミシディア、ダムシアン、ファブール、多くの場所で、多くの命が奪われた。

 そして、おそらくこの地底でも同じように傷ついた人々がいる。

 

「落とし前は……つけなきゃならない」

 

 ギースは刀を抜き、倒れたゴルベーザへ歩み寄る。

 セシルの一撃で、すでにゴルベーザは動かない。

 これで終わったのだと、誰もが思っていた。

 それでも、ギースは刀を構え、黒い鎧に包まれた首元へ狙いを定めた。

 

「……ありが、……と、ギー……す」

「っ!!」

 

 ギースの手が止まる。

 振り下ろされるはずだった刀は、わずかな間だけ動きを失った。

 その一瞬で、黒い鎧の魔人がゆっくりと立ち上がる。

 

「私は……死なぬ!」

「な!?」

 

 次の瞬間、放たれた力がギースの身体を吹き飛ばす。

 その異変に気付いたセシルが、倒れたゴルベーザへ視線を戻す。

 

「しまった……クリスタルを!」

 

 ゴルベーザはふらつきながらも、クリスタルへ手を伸ばす。

 

「止めろ!!」

 

 セシルが駆け出す。

 しかし、その手が届くよりも早く、ゴルベーザの指がクリスタルに触れた。

 黒い魔力が周囲を包み込む。

 次の瞬間、ゴルベーザの姿はその場から消え去っていた。

 

「……クリスタルが……」

 

 あと一歩だった。

 だが、奪われたクリスタルはもう戻らなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。