ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
「すみません、クリスタルはゴルベーザの手に……」
「いや、謝る必要はない。クリスタルを守るため、よく戦ってくれた」
ジオット王はそう言って、傷ついた一行へ視線を向ける。
「お仲間の手当ても、こちらで引き受けよう。あれほどの傷だ、今は休むことが先決だ」
そう言うジオット王の表情には心配の色が浮かんでいたが、すぐに次の戦いへと思考を切り替えていた。
「こうなっては最後のクリスタルを死守するしかあるまい」
「最後のクリスタルはどこにあるのでしょう?」
「南西にある封印の洞窟じゃ。だが、慌てるでない。封印を解く鍵が無ければ、あの洞窟に入ることはできん」
ジオット王はそこで一度言葉を切った。
そして、改めて口を開く。
「そこでじゃ、おぬしらに頼みがある!」
「クリスタルが奪われたのは僕らの責任です!何か力になれるのなら……」
「ゴルベーザが深手を負った今がチャンスじゃ!」
ジオット王は力強く言い切る。
ゴルベーザが動けぬ今こそ、奪われたクリスタルを取り戻す絶好の機会だった。
「バブイルの塔に潜入し、七つのクリスタルを奪い返してもらえぬか?」
「バブイルの塔に?」
「敵の本拠に潜入しろとおっしゃるか!?」
「心配はいらん!我らの戦車隊が敵を引きつける!」
ジオット王は、さらに言葉を続ける。
「その隙に、おぬしらにクリスタルを奪還してほしい!」
戦車隊が敵を引きつけている間に、バブイルの塔へ潜入する。
危険な賭けであることに変わりはない。だが、ゴルベーザが深手を負っている今を逃せば、二度とクリスタルを取り戻す機会はないかもしれない。
「どうする?」
「敵の基地なんでしょう?」
「確かに危険ね」
「しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ず……」
「……ゴルベーザの方も、あの深手じゃろくに動けそうにはなかった」
「ジオット王の言う通り、今しかチャンスはあるまい」
それぞれの言葉を聞き、セシルはしばらく考え込む。
「よし……」
セシルは顔を上げる。
危険な賭けになることは分かっている。
それでも、奪われたクリスタルを取り戻すために、今できることをやるしかなかった。
「やってみます!」
「頼むぞ!この城の地下に抜け道への入り口がある!支度ができ次第行くがよい!ご武運を祈っておるぞ!」
◇ ◇ ◇
「……やっぱり似てる」
地底を進む一行の前に、巨大な塔がそびえ立っている。
その姿を見上げながら、ギースがぽつりと呟いた。
「ギース?」
「似ているって?」
「俺の故郷……エブラーナの近くにも、似たような塔があってな。周りを高い山に囲まれていて……その山よりもはるかに高い塔だった」
ギースは、故郷で何度も目にしてきた塔を思い返す。
自分が生まれるよりもはるか昔から、そこに建ち続けていた塔。
「いつ建てられたのか、誰が建てたのか……何も分からない。そんな謎の塔だった」
「その塔にアレが似ているのか?」
「ああ、見た目が特に。あの塔を地上から持ってきたって言われても納得するぐらいには」
ギースは塔を見上げたあと、さらに上へ視線を移す。
そこには、自分たちが地上から降りてきた大穴がある。
「あそこから、俺たちは来て……塔はここ……位置を考えると、いや、まさか……」
ギースは視線を行き来させながら、何かを確かめるように考え込む。
その時──轟音が地底に響き渡った。
「!!」
ドワーフの戦車隊が、一斉にバブイルの塔へ砲撃を開始したのだ。
砲弾が塔の外壁へ次々と撃ち込まれる。
しかし、塔も黙ってはいなかった。塔から放たれた砲撃が地底を切り裂き、ドワーフの戦車隊へと降り注ぐ。
「始まった!!」
「今のうちに、塔へ入るぞ!」
砲撃が飛び交う中、セシルたちはバブイルの塔へ向かって駆け出した。
◇ ◇ ◇
セオドールは、自分がどこにいるのか分からなかった。
暗闇で、ただ一人立っている。
明確に覚えているのは、セシルを庇った瞬間だった。
黒龍の牙を受けた身体は、もう動かなかった。
ゴルベーザが倒されたという声を聞いたところで、意識は途切れた。
ローザの治療を受けていたはずだ。
だが、それでも──自分は助からなかったのではないか。
ここは、死後の世界なのか。
「……呼んでる」
暗闇の先から、何かが自分を呼んでいるような気がした。
姿は見えない。それでも、そこへ行かなければならないような、不思議な感覚に導かれる。
セオドールは、引き寄せられるように暗闇の中を歩いていく。
「そっちはダメ」
腕に、何かが触れ、引き止めるような感覚。
聞き覚えのある声。
振り返ると、そこには銀色の髪をした少女がいた。
「……セシリー?」
忘れるはずがない。
幼い頃に自分が守れなかった存在。もう二度と会えないと思っていた大切な妹。
記憶のままのセシリーがそこにいた。
「お前……なのか?」
「うん、そうだよ。久しぶり……お兄ちゃん」
少女──セシリーは、悲しげに微笑みながらセオドールを見つめていた。
「そうか。じゃあ、やはり私は死んで……」
「お兄ちゃんは、まだ死んでないよ。眠ってるだけ」
セオドールの考えを、セシリーは静かに首を横に振り否定する。
そして、少し考えるように視線を落とすと、目の前に広がる暗闇を見つめた。
「ここは……狭間……かな?」
「狭間?」
「生と死、光と闇、現実と夢、その狭間。ここは……そんな世界」
セシリーはそう言って、少しだけ困ったように笑った。
「確かに、死んだ人もここを通るけど……たまに生きてる人がうっかり入ってきちゃうこともあるんだ、お兄ちゃんはその一人」
セシリーの説明を受け、セオドールは周囲を見渡す。
どこまでも果てのない暗闇。
「こんな世界に、お前は一人か」
「……今は、お兄ちゃんと私だけだけど。狭間は、いろんな人が通るんだよ」
セシリーはそう言って、暗闇の先へ視線を向ける。
「だから、寂しくはないし。……まだ、私は……やることあるから」
「……やること?」
「うん、私が、やらなきゃいけないこと」
セシリーはしばらく暗闇を見つめていたが、やがてセオドールへ振り返る。
その表情には、先ほどまでの寂しさはもうなかった。
「そして今!私がやらなきゃいけないことは!迷子のお兄ちゃんを現実に叩き出すことです!」
セシリーは胸を張り、まるで重大な使命を告げるように高らかに宣言した。
「迷子……」
「うん、迷子。まだ死んでないとは言ったけど、このままここに居たら死んじゃうからお兄ちゃん」
「そ、そうなのか……」
セオドールは、次々と告げられるセシリーの言葉に、ただ頷くことしかできなかった。
久しぶりに会った妹の勢いにすっかり押され、気付けば話の流れをそのまま受け入れている。
「だから、私が案内してあげる」
セシリーはセオドールの手を引き、歩き出す。
「どこへ?」
「光の先へ」
セシリーが指をさす。
その先に広がる暗闇の中で、ほんのわずかな光がきらめいていた。
それはまだ遠く、小さな光だったが、確かに暗闇の中に浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
セシリーに手を引かれ、セオドールは狭間を進んでいく。
誰かと出会うこともなく、二人はただ、遠くに見える光を目指して歩き続けていた。
しばらく無言で歩いていたセオドールだったが、ふと隣の妹へ視線を向ける。
こうしてもう一度、妹と手を繋いで歩くことができるなど、思ってもいなかった。
「……セシリー」
「どうしたの?」
「いや、こうして共に歩くのは久しぶりだなと……」
「……そうだね。いつもお兄ちゃんとセシルと一緒に歩いてた」
あの頃は、いつもそうだった。
あの日が来るまでは、セオドールの両手には二人の弟妹がいた。
そんな当たり前だった時間が、今では遠い記憶になっている。
「どうして、お前はあの時の姿のままなんだ?」
セオドールは、改めてセシリーの姿を見る。
幼い頃に別れた時と、ほとんど変わらない姿。
「お兄ちゃんは……私がちっちゃいころの姿のままに見えてるんだね」
「違うのか?」
「うん。ここはお兄ちゃんにとって夢みたいなものだから、お兄ちゃんが知ってる姿で見えてるだけなんだと思う」
セシリーは少し考えてから、ふっと笑う。
「多分、ここにいるのがギースだったら、カグヤの姿で見えてるかなって」
「そうか……きっと、お前は美しく成長していたんだろうな」
セオドールは、隣を歩く妹の姿を静かに見つめた。
自分が知っているのは、幼い頃のセシリーだけだ。
カグヤとして過ごした彼女が、どんな女性になったのかを、その目で見ることはできなかった。
それでも、妹が長い時間を生きてきたことだけは分かる。
セオドールは小さく笑みを浮かべ、前を向いた。
「知りたかったらギースに聞いても、……答えて、くれるかな?」
セシリーは、カグヤとしての自分の姿を知りたいのなら、ギースに聞くのが一番だと思った。
けれど、あのギースが素直に答えてくれるかと考えると、少しばかり疑問が残る。
セシリーは少し考えるように前を向いたまま歩き続け、セオドールはそんな妹の横顔を見つめる。
「なあ、セシリー。ギースとはどんな関係だ?」
「……ギースから聞いてないの?」
「お前が相方ということは聞いている……しかし、なんというかそれ以上というか」
セオドールは言葉を濁す。
兄として、妹がどんな相手と過ごしてきたのかは気になる。
あの札から、セシリーがギースに特別な感情を抱いていたことは分かっている。
そして、ギースの側もセシリーを少なからず想っていたことも。
それでも、二人の間にあったものが何だったのか──セオドールは、核心に触れる部分までは知ることができていなかった。
「ギースは、ずっと一緒に居たい人」
「!」
セシリーは足を止めることなく、まっすぐ前を見つめていた。
その声には、冗談も照れもなかった。
「旅に出る前に、私の気持ちはもう伝えてる」
セシリーは静かに笑う。
心の奥に大切にしまっていた、かけがえのない思い出。
ギースと過ごした時間を、一つ一つ思い出すように、セオドールへ語っていく。
「一緒にいると楽しくて……安心できて。これからも、ずっと隣にいたいって思ったの」
その言葉は、遠い過去を振り返るようでいて、今もなお大切に抱えている想いそのものだった。
「そうか、ギースは……」
「ギースから、返事は保留されてるけど」
「なんだと……」
セオドールの表情がわずかに険しくなる。
妹が勇気を出して伝えた想いに、返事をしなかったギースに対して、兄としてどうにも苛立ちを覚えた。
「返事は、ギースの大告白と一緒に貰う予定だったから」
「……大告白?」
「うん、大告白。『分かった待ってろ。ぜってーお前以上の一世一代の大告白ぶちかますからな!!待ってろ!!』って言われた」
セシリーは、ギースに言われた言葉を一言一句違えることなく口にした。
その声には、ほんの少しの照れが混じっていた。
それでも、その言葉を今も大切に覚えていることだけは、セオドールにも伝わった。
「……結局、私のせいで聞けなくなったけどね……」
セシリーの表情から、先ほどまでの照れた笑みが消える。
俯いた視線に、わずかな寂しさが滲んだ。
「あのね……お兄ちゃん、私が、悪いんだ」
「なに?」
セシリーはしばらく黙って歩いていた。
やがて、俯いたまま小さく息を吐く。
「私が悪いから、ギースのこと、怒らないで。私が、無理を言ったから……ずっとギースは苦しんでる」
その言葉を最後に、セオドールの視界が白く染まっていく。
声も、暗闇も、隣にいたセシリーの姿さえも、白い光の中へと溶けていった。