ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ホバー船をエブラーナまで運ぶため、一行はバロン城へ戻り、シドの弟子たちに相談することにした。
「なるほど、そうですか……」
「何か、方法はないか?」
事情を聞いた弟子たちは、しばらく顔を見合わせる。
「実は以前、親方に頼まれて作ったものがあるんです!」
「頼まれたもの?」
「はい、このフックです!」
弟子の一人が、倉庫の奥から大きな金属製のフックを運び出してくる。
「このフックを取り付ければ、ホバー船を引き上げて移動できます!」
「頼めるか?」
「任せてください!なーに、あっという間ですよ!」
弟子たちはさっそくエンタープライズへ取りかかる。
船体の下部へ金具を取り付け、そこへ頑丈なフックを固定していく。
何度も強度を確かめながら調整を重ね、やがて作業は完了した。
「これでホバー船を引き上げて移動できます!」
「これなら、バブイルの塔のあるエブラーナの洞窟まで行けますよ!」
「助かった。ありがとう」
セシルが礼を言うと、弟子たちは満足そうに頷いた。
「……実は、シドは……」
セシルが言いかけた、その時だった。
「元気すぎてお困りでしょう?」
「殺したって死ぬような人じゃないですからねえ!」
「それじゃ、僕たちは仕事が山積みなんで!頑張ってください!」
弟子たちはそれだけ言うと、慌ただしく作業場へ戻っていっ
セシルは、最後まで言葉を続けることができなかった。
◇ ◇ ◇
セシルたちはホブス山に置いてきたホバー船を引き上げ、エンタープライズでエブラーナまで運んできた。
その後、ホバー船へ乗り換え、浅瀬を進みエブラーナの洞窟へたどり着いた。
「ここに、ギースの仲間がいるの?」
「……あの、隠し通路を使っていれば、な……」
ギースは洞窟の奥へ視線を向ける。
そこにエブラーナの仲間たちがいるのか。
故郷を襲った惨劇から、誰か一人でも生き延びているのか。
確かめたいという思いが、胸の奥から込み上げてくる。
そして、もし生き残った忍びがいるのなら──バブイルの塔へ潜入するために、その力を借りることもできる。
「あの、バブイルの塔に潜入するのに、エブラーナの忍びの力が必要だ。いなかったらまた振り出しだな」
「できるの?」
「王や王妃……それとエッジなら間違いなくできるはず」
エブラーナの忍びが使う術なら、正面から攻め込むことなく、セシルたちを連れて塔の内部へ潜り込めるはずだった。
「……いくぞ、こっちだ」
そう言って、ギースは洞窟の奥へと歩き出し、一行もその後に続く。
洞窟の中は薄暗く、外から差し込んでいた光もすぐに届かなくなった。
足元には大小の岩が転がり、ところどころ天井から落ちた土砂が道を狭めている。
ギースは迷うことなく、分かれ道に差しかかっても足を止めることなく、崩れた岩壁や古びた目印を頼りに進路を選んでいく。
静まり返った洞窟には、一行の足音だけが響いていた。
やがて、さらに奥へ進んだところで、ギースがふと足を止める。
その先に、かすかな明かりが見えていた。
「止まれ!!」
洞窟の奥から鋭い声が飛んだ。
同時に、暗闇の中から複数の気配が立ち上がる。
姿は見えない。だが、向けられた殺気だけははっきりと感じ取れた。
セシルたちが身構える。
「俺だ!ギースだ!!」
ギースが声を張り上げる。
「ギース様!?」
次の瞬間、岩陰からエブラーナの忍びたちが姿を現した。
ギースの顔を確認すると、構えていた刀をゆっくりと下ろす。
「ギース様……!戻られたのですね!!」
「ああ。お前たち、生きていたのか……!」
ギースの声に、安堵が滲む。
「はい!ですが、それよりも……!」
忍びの表情が再び険しくなる。
「ギース様!お急ぎください!セフィ様が……!!」
◇ ◇ ◇
「母さん!!」
ギースは忍びたちの話を聞き、洞窟の奥にある一室へ駆け込んだ。
そこは岩壁を削って作られた簡素な部屋だった。
最低限の寝台や薬品が並べられ、その中央に、一人の女性が静かに横たわっている。
「ギース様!」
その傍らで看護をしていたリョウアンが顔を上げる。
「リョウアン!母さんは!」
ギースは寝台へ駆け寄り、眠るセフィの顔を覗き込む。
顔色は悪く、身体にはいくつもの傷が残っている。
それでも、胸はかすかに上下していた。
「……予断を許さない状況ではありますが、何とか一命はとりとめました」
「……そうか……」
その言葉を聞いた瞬間、ギースの張り詰めていた表情がわずかに緩む。
「……何があった」
ギースが低い声で尋ねる。
リョウアンは一瞬ためらったあと、重い口を開いた。
「……突如、ルビカンテなる者がエブラーナを襲い……手練れの者たちが応戦しましたが、ルビカンテには我らの忍術が通用しませんでした」
「…………」
リョウアンは俯き、声を震わせながら続ける。
「王と王妃……そして、ガルドさんは皆を逃がすため殿に残りました。そして、いまだに帰ってきておりません……おそらくは、もう……」
その言葉を聞いた瞬間、ギースは黙り込んだ。
母は生きていた。それだけで、胸の奥から安堵が込み上げる。だが、その一方で、父はもう帰ってこない。
王と王妃も、故郷を守るために命を懸け、戻ることはなかった。
そして、ふと脳裏に浮かんだのは、あの運命の日のことだった。
あの日、ゴルベーザを殺しておけば。
──これまで起きたすべての惨劇を止められていたのではないか。
そんな考えが、今さらのように胸を締めつける。
だが、もう確かめようがない。
失われた命も、壊された故郷も、決して元には戻らない。
ギースは眠る母を見つめながら、悔しさを押し殺すように拳を強く握り締めた。
「エッジは?」
「生きております。今は、残った者たちの指揮を執っています」
「そうか……」
ギースが小さく息を吐いた、その時だった。
「う……」
ベッドから、かすかな声が漏れる。
「母さん!」
ギースが弾かれたように顔を上げ、すぐさまセフィのもとへ駆け寄る。
「セフィ様!」
リョウアンも慌てて身を乗り出す。
ゆっくりとセフィの瞼が開く。まだ意識は朦朧としているのか、焦点の合わない目がしばらく宙をさまよった。
やがて、その視線が目の前にいるギースを捉える。
「ギース……帰って、きたのね」
弱々しく、それでも確かな声だった。
その一言を聞いた瞬間、ギースの胸に張り詰めていたものが崩れ落ちた。
「母さん……ごめん、ごめん、俺が!」
押し殺していた感情が堰を切ったように溢れ出す。
あと少しだけ早く動いていれば、何かを変えられたのではないか。そんな考えが、次々と頭の中を駆け巡る。どこまで遡っても、やり直せる場所があったように思えてしまう。それなのに、気づいた時には父も、王も、王妃も、故郷の多くの者たちも失われていた。
ギースは俯き、震える拳を強く握り締める。
自分が何をしても、もう失われたものは戻らない。その事実だけが、今はどうしようもなく重かった。
セフィはそんな息子の姿を静かに見つめ、やがてリョウアンへ視線を向ける。
「リョウアン、席を……外してもらえる?この子だけに、伝えたいことがあるの」
「セフィ様?……分かりました」
セフィの言葉に、リョウアンは一瞬だけ迷うような表情を見せたが、すぐに頷いた。
「しかし、無理はいけません。何か異常があれば、すぐに呼んでください。私は扉の外にいます」
「ええ、ありがとう」
リョウアンは二人を残して静かに部屋を出ると、扉の向こうへ姿を消した。
◇ ◇ ◇
扉の外へ出たリョウアンは、そこで待っていたセシルたちと鉢合わせた。
「どうも、すみません。セフィ様がギース様と話したいことがあるとのことですので、もう少々お時間をいただきます」
「……あなたは」
セシルが尋ねると、リョウアンは穏やかに一礼した。
「申し遅れました。私はリョウアン。見ての通り、エブラーナの医師です」
その言葉に、セシルたちもそれぞれ名を名乗る。
リョウアンは一人ずつ顔を確かめるように頷き、その表情をわずかに和らげた。
「なるほど……ギース様が共に旅をされていた方々でしたか」
ギースの帰還を喜ぶ一方で、彼が仲間たちとここまで辿り着いたことに、リョウアンも安堵を覚えているようだった。
だが、そんなリョウアンの視線が、ふとセシルの顔に留まる。
「失礼を承知で確認しますが、セシル殿はカグヤの血縁でしょうか?」
「……そんなに、そっくりですか」
ギースから、自分とカグヤはよく似ているとは聞いていた。
だが、こうしてエブラーナへ来てから、すれ違う人々が何度も自分の顔を振り返るのを見ると、その言葉が改めて実感を伴ってくる。
「ええ。何なら、今いるエブラーナの民に聞いてみてください。皆、そう言うでしょう」
セシルは少し困ったように笑う。
「いえ、ギースを待っている間……通りかかる人が、みんな僕の顔を見ていたので……」
ここへ来てから感じていた視線の正体が、ようやく分かった。
露骨に見つめてくるわけではない。それでも、すれ違うたびにちらりとこちらへ目を向け、何かを確かめるような視線を送ってくる者が多かった。
「それは、ギース様のお仲間に失礼なことをいたしました」
「いえ、気にしていません。それだけ似ているということなんでしょう?」
「ええ。カグヤを知る者なら、なおさらです」
リョウアンはそう答え、セシルの顔をもう一度見つめる。
その横を通り過ぎるエブラーナの民も、やはり気になった様子でセシルを振り返っていた。
その反応を見れば見るほど、ギースが言っていた「よく似ている」という言葉の意味が、セシルにも少しずつ分かってくるのだった。
「カグヤ……いえ、セシリーは……双子の妹です」
「なるほど、道理でそっくりだ……本当の名前はセシリーというんですね」
リョウアンは納得したように頷いた。
エブラーナでは、ギースが彼女につけた「カグヤ」という名で親しまれていたが、本当の名がセシリーであることは、今初めて知った。
「あの子のことはギース様から?」
「聞いてます。エブラーナの浜辺で倒れていたと……」
リョウアンはその言葉に頷きながら、改めてセシルの顔を見つめた。
双子の兄と妹。その事実を知れば、目の前の二人がよく似ていることにも納得がいく。
「……何があったか、うかがっても?」
「……実は、僕も分からないんです。僕も自分の名前だけしか覚えてなくて、バロンで倒れていました」
セシルは少し視線を落とす。
「最近、生き別れていた兄と再会して、僕も妹がいると分かったばかりです」
「なんと……あの子とは会いましたか?」
「……それは……」
セシルの言葉が途切れる。
セシリーがどうなったのかを、ここで自分の口から伝えていいのか分からなかった。
エブラーナの人々は、まだ彼女が生きていると思っている。先ほどまで自分へ向けられていた視線も、そこに理由があったのだろう。
それを思うと、簡単に口にすることはできなかった。
「………………」
沈黙するセシルを前に、リョウアンもそれ以上は尋ねなかった。
言葉を濁したことだけで、彼女の身に何かが起きたのだと察したのだ。
問いただすようなことはせず、リョウアンは静かに目を伏せる。
「……今は、深く尋ねるのはやめておきましょう」
リョウアンがそう言った直後だった。
洞窟の奥から、慌ただしい足音が響いてくる。
何事かと振り返ったリョウアンの前へ、息を切らした忍びが駆け込んできた。
「リョウアン!!」
「どうしました?」
「若が一人でバブイルの塔に向かった!」
「なんですって!?」
忍びの言葉に、その場にいた一同の表情が変わる。
セシルは驚きながらも、すぐに状況を尋ねた。
「なぜ一人で?」
「若は昔から、熱くなると見境がなく……。今回も、皆を止める間もなく飛び出してしまわれました」
「随分と無茶な王子様だな」
カインが呆れたように呟く。
だが、その言葉とは裏腹に、エッジが一人で敵の本拠地へ向かったことへの危機感は、一同の間に広がっていた。
「話は聞こえた」
「ギース」
「ギース様!」
その時、部屋の扉が開き、ギースが姿を現した。
その姿を見た忍びの表情に、わずかな安堵が浮かぶ。
「セフィ様は?」
「今は眠ってる。後は頼む、リョウアン。俺たちはエッジを追いかける」
ギースはそれだけ告げると、すぐに仲間たちへ視線を向けた。
母の無事を確認できた今、次にすべきことは決まっている。エッジが一人でバブイルの塔へ向かったのなら、追いついて止めなければならない。
「……あとは、よろしくお願いします」
「ああ、任せろ」
ギースは短く頷くと、セシルたちとともに洞窟を駆け出した。