ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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バロン城⑦~エブラーナの洞窟

 

 ホバー船をエブラーナまで運ぶため、一行はバロン城へ戻り、シドの弟子たちに相談することにした。

 

「なるほど、そうですか……」

「何か、方法はないか?」

 

 事情を聞いた弟子たちは、しばらく顔を見合わせる。

 

「実は以前、親方に頼まれて作ったものがあるんです!」

「頼まれたもの?」

「はい、このフックです!」

 

 弟子の一人が、倉庫の奥から大きな金属製のフックを運び出してくる。

 

「このフックを取り付ければ、ホバー船を引き上げて移動できます!」

「頼めるか?」

「任せてください!なーに、あっという間ですよ!」

 

 弟子たちはさっそくエンタープライズへ取りかかる。

 船体の下部へ金具を取り付け、そこへ頑丈なフックを固定していく。

 何度も強度を確かめながら調整を重ね、やがて作業は完了した。

 

「これでホバー船を引き上げて移動できます!」

「これなら、バブイルの塔のあるエブラーナの洞窟まで行けますよ!」

「助かった。ありがとう」

 

 セシルが礼を言うと、弟子たちは満足そうに頷いた。

 

「……実は、シドは……」

 

 セシルが言いかけた、その時だった。

 

「元気すぎてお困りでしょう?」

「殺したって死ぬような人じゃないですからねえ!」

「それじゃ、僕たちは仕事が山積みなんで!頑張ってください!」

 

 弟子たちはそれだけ言うと、慌ただしく作業場へ戻っていっ

 セシルは、最後まで言葉を続けることができなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 セシルたちはホブス山に置いてきたホバー船を引き上げ、エンタープライズでエブラーナまで運んできた。

 その後、ホバー船へ乗り換え、浅瀬を進みエブラーナの洞窟へたどり着いた。

 

「ここに、ギースの仲間がいるの?」

「……あの、隠し通路を使っていれば、な……」

 

 ギースは洞窟の奥へ視線を向ける。

 そこにエブラーナの仲間たちがいるのか。

 故郷を襲った惨劇から、誰か一人でも生き延びているのか。

 確かめたいという思いが、胸の奥から込み上げてくる。

 そして、もし生き残った忍びがいるのなら──バブイルの塔へ潜入するために、その力を借りることもできる。

 

「あの、バブイルの塔に潜入するのに、エブラーナの忍びの力が必要だ。いなかったらまた振り出しだな」

「できるの?」

「王や王妃……それとエッジなら間違いなくできるはず」

 

 エブラーナの忍びが使う術なら、正面から攻め込むことなく、セシルたちを連れて塔の内部へ潜り込めるはずだった。

 

「……いくぞ、こっちだ」

 

 そう言って、ギースは洞窟の奥へと歩き出し、一行もその後に続く。

 洞窟の中は薄暗く、外から差し込んでいた光もすぐに届かなくなった。

 足元には大小の岩が転がり、ところどころ天井から落ちた土砂が道を狭めている。

 ギースは迷うことなく、分かれ道に差しかかっても足を止めることなく、崩れた岩壁や古びた目印を頼りに進路を選んでいく。

 静まり返った洞窟には、一行の足音だけが響いていた。

 やがて、さらに奥へ進んだところで、ギースがふと足を止める。

 その先に、かすかな明かりが見えていた。

 

「止まれ!!」

 

 洞窟の奥から鋭い声が飛んだ。

 同時に、暗闇の中から複数の気配が立ち上がる。

 姿は見えない。だが、向けられた殺気だけははっきりと感じ取れた。

 セシルたちが身構える。

 

「俺だ!ギースだ!!」

 

 ギースが声を張り上げる。

 

「ギース様!?」

 

 次の瞬間、岩陰からエブラーナの忍びたちが姿を現した。

 ギースの顔を確認すると、構えていた刀をゆっくりと下ろす。

 

「ギース様……!戻られたのですね!!」

「ああ。お前たち、生きていたのか……!」

 

 ギースの声に、安堵が滲む。

 

「はい!ですが、それよりも……!」

 

 忍びの表情が再び険しくなる。

 

「ギース様!お急ぎください!セフィ様が……!!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「母さん!!」

 

 ギースは忍びたちの話を聞き、洞窟の奥にある一室へ駆け込んだ。

 そこは岩壁を削って作られた簡素な部屋だった。

 最低限の寝台や薬品が並べられ、その中央に、一人の女性が静かに横たわっている。

 

「ギース様!」

 

 その傍らで看護をしていたリョウアンが顔を上げる。

 

「リョウアン!母さんは!」

 

 ギースは寝台へ駆け寄り、眠るセフィの顔を覗き込む。

 顔色は悪く、身体にはいくつもの傷が残っている。

 それでも、胸はかすかに上下していた。

 

「……予断を許さない状況ではありますが、何とか一命はとりとめました」

「……そうか……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ギースの張り詰めていた表情がわずかに緩む。

 

「……何があった」

 

 ギースが低い声で尋ねる。

 リョウアンは一瞬ためらったあと、重い口を開いた。

 

「……突如、ルビカンテなる者がエブラーナを襲い……手練れの者たちが応戦しましたが、ルビカンテには我らの忍術が通用しませんでした」

「…………」

 

 リョウアンは俯き、声を震わせながら続ける。

 

「王と王妃……そして、ガルドさんは皆を逃がすため殿に残りました。そして、いまだに帰ってきておりません……おそらくは、もう……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ギースは黙り込んだ。

 母は生きていた。それだけで、胸の奥から安堵が込み上げる。だが、その一方で、父はもう帰ってこない。

 王と王妃も、故郷を守るために命を懸け、戻ることはなかった。

 そして、ふと脳裏に浮かんだのは、あの運命の日のことだった。

 あの日、ゴルベーザを殺しておけば。

 

 ──これまで起きたすべての惨劇を止められていたのではないか。

 

 そんな考えが、今さらのように胸を締めつける。

 だが、もう確かめようがない。

 失われた命も、壊された故郷も、決して元には戻らない。

 ギースは眠る母を見つめながら、悔しさを押し殺すように拳を強く握り締めた。

 

「エッジは?」

「生きております。今は、残った者たちの指揮を執っています」

「そうか……」

 

 ギースが小さく息を吐いた、その時だった。

 

「う……」

 

 ベッドから、かすかな声が漏れる。

 

「母さん!」

 

 ギースが弾かれたように顔を上げ、すぐさまセフィのもとへ駆け寄る。

 

「セフィ様!」

 

 リョウアンも慌てて身を乗り出す。

 ゆっくりとセフィの瞼が開く。まだ意識は朦朧としているのか、焦点の合わない目がしばらく宙をさまよった。

 やがて、その視線が目の前にいるギースを捉える。

 

「ギース……帰って、きたのね」

 

 弱々しく、それでも確かな声だった。

 その一言を聞いた瞬間、ギースの胸に張り詰めていたものが崩れ落ちた。

 

「母さん……ごめん、ごめん、俺が!」

 

 押し殺していた感情が堰を切ったように溢れ出す。

 あと少しだけ早く動いていれば、何かを変えられたのではないか。そんな考えが、次々と頭の中を駆け巡る。どこまで遡っても、やり直せる場所があったように思えてしまう。それなのに、気づいた時には父も、王も、王妃も、故郷の多くの者たちも失われていた。

 ギースは俯き、震える拳を強く握り締める。

 自分が何をしても、もう失われたものは戻らない。その事実だけが、今はどうしようもなく重かった。

 セフィはそんな息子の姿を静かに見つめ、やがてリョウアンへ視線を向ける。

 

「リョウアン、席を……外してもらえる?この子だけに、伝えたいことがあるの」

「セフィ様?……分かりました」

 

 セフィの言葉に、リョウアンは一瞬だけ迷うような表情を見せたが、すぐに頷いた。

 

「しかし、無理はいけません。何か異常があれば、すぐに呼んでください。私は扉の外にいます」

「ええ、ありがとう」

 

 リョウアンは二人を残して静かに部屋を出ると、扉の向こうへ姿を消した。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 扉の外へ出たリョウアンは、そこで待っていたセシルたちと鉢合わせた。

 

「どうも、すみません。セフィ様がギース様と話したいことがあるとのことですので、もう少々お時間をいただきます」

「……あなたは」

 

 セシルが尋ねると、リョウアンは穏やかに一礼した。

 

「申し遅れました。私はリョウアン。見ての通り、エブラーナの医師です」

 

 その言葉に、セシルたちもそれぞれ名を名乗る。

 リョウアンは一人ずつ顔を確かめるように頷き、その表情をわずかに和らげた。

 

「なるほど……ギース様が共に旅をされていた方々でしたか」

 

 ギースの帰還を喜ぶ一方で、彼が仲間たちとここまで辿り着いたことに、リョウアンも安堵を覚えているようだった。

 だが、そんなリョウアンの視線が、ふとセシルの顔に留まる。

 

「失礼を承知で確認しますが、セシル殿はカグヤの血縁でしょうか?」

「……そんなに、そっくりですか」

 

 ギースから、自分とカグヤはよく似ているとは聞いていた。

 だが、こうしてエブラーナへ来てから、すれ違う人々が何度も自分の顔を振り返るのを見ると、その言葉が改めて実感を伴ってくる。

 

「ええ。何なら、今いるエブラーナの民に聞いてみてください。皆、そう言うでしょう」

 

 セシルは少し困ったように笑う。

 

「いえ、ギースを待っている間……通りかかる人が、みんな僕の顔を見ていたので……」

 

 ここへ来てから感じていた視線の正体が、ようやく分かった。

 露骨に見つめてくるわけではない。それでも、すれ違うたびにちらりとこちらへ目を向け、何かを確かめるような視線を送ってくる者が多かった。

 

「それは、ギース様のお仲間に失礼なことをいたしました」

「いえ、気にしていません。それだけ似ているということなんでしょう?」

「ええ。カグヤを知る者なら、なおさらです」

 

 リョウアンはそう答え、セシルの顔をもう一度見つめる。

 その横を通り過ぎるエブラーナの民も、やはり気になった様子でセシルを振り返っていた。

 その反応を見れば見るほど、ギースが言っていた「よく似ている」という言葉の意味が、セシルにも少しずつ分かってくるのだった。

 

「カグヤ……いえ、セシリーは……双子の妹です」

「なるほど、道理でそっくりだ……本当の名前はセシリーというんですね」

 

 リョウアンは納得したように頷いた。

 エブラーナでは、ギースが彼女につけた「カグヤ」という名で親しまれていたが、本当の名がセシリーであることは、今初めて知った。

 

「あの子のことはギース様から?」

「聞いてます。エブラーナの浜辺で倒れていたと……」

 

 リョウアンはその言葉に頷きながら、改めてセシルの顔を見つめた。

 双子の兄と妹。その事実を知れば、目の前の二人がよく似ていることにも納得がいく。

 

「……何があったか、うかがっても?」

「……実は、僕も分からないんです。僕も自分の名前だけしか覚えてなくて、バロンで倒れていました」

 

 セシルは少し視線を落とす。

 

「最近、生き別れていた兄と再会して、僕も妹がいると分かったばかりです」

「なんと……あの子とは会いましたか?」

「……それは……」

 

 セシルの言葉が途切れる。

 セシリーがどうなったのかを、ここで自分の口から伝えていいのか分からなかった。

 エブラーナの人々は、まだ彼女が生きていると思っている。先ほどまで自分へ向けられていた視線も、そこに理由があったのだろう。

 それを思うと、簡単に口にすることはできなかった。

 

「………………」

 

 沈黙するセシルを前に、リョウアンもそれ以上は尋ねなかった。

 言葉を濁したことだけで、彼女の身に何かが起きたのだと察したのだ。

 問いただすようなことはせず、リョウアンは静かに目を伏せる。

 

「……今は、深く尋ねるのはやめておきましょう」

 

 リョウアンがそう言った直後だった。

 洞窟の奥から、慌ただしい足音が響いてくる。

 何事かと振り返ったリョウアンの前へ、息を切らした忍びが駆け込んできた。

 

「リョウアン!!」

「どうしました?」

「若が一人でバブイルの塔に向かった!」

「なんですって!?」

 

 忍びの言葉に、その場にいた一同の表情が変わる。

 セシルは驚きながらも、すぐに状況を尋ねた。

 

「なぜ一人で?」

「若は昔から、熱くなると見境がなく……。今回も、皆を止める間もなく飛び出してしまわれました」

「随分と無茶な王子様だな」

 

 カインが呆れたように呟く。

 だが、その言葉とは裏腹に、エッジが一人で敵の本拠地へ向かったことへの危機感は、一同の間に広がっていた。

 

「話は聞こえた」

「ギース」

「ギース様!」

 

 その時、部屋の扉が開き、ギースが姿を現した。

 その姿を見た忍びの表情に、わずかな安堵が浮かぶ。

 

「セフィ様は?」

「今は眠ってる。後は頼む、リョウアン。俺たちはエッジを追いかける」

 

 ギースはそれだけ告げると、すぐに仲間たちへ視線を向けた。

 母の無事を確認できた今、次にすべきことは決まっている。エッジが一人でバブイルの塔へ向かったのなら、追いついて止めなければならない。

 

「……あとは、よろしくお願いします」

「ああ、任せろ」

 

 ギースは短く頷くと、セシルたちとともに洞窟を駆け出した。

 

 

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