ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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エブラーナの洞窟②

 

 エッジは、すでにルビカンテと対峙していた。

 

「やっと会えたなルビカンテ!今日という日を待ってたぜぇ!」

「ほう、どこかで会ったかな?」

「オレがエブラーナの王子!エッジ様よ!」

「エブラーナ?何のことかな?」

 

 エッジの名乗りを聞いても、ルビカンテは表情一つ変えなかった。

 エブラーナという国の名にも、そこに暮らしていた者たちのことにも、何の興味もないとでも言うように、淡々とエッジを見つめている。

 その態度が、エッジの怒りをさらに煽った。

 

「てめえの胸に聞いてみやがれ!」

 

 エッジは素早く印を結び、炎をまとった手を突き出す。

 

「火遁!!」

 

 放たれた炎が、ルビカンテへと一直線に襲いかかる。

 だが、ルビカンテは動かない。

 ただ、その身を包む赤いマントがゆらりと揺れた。

 次の瞬間、炎はマントに吸い込まれるように消えていった。

 

「なんだ、その哀れな術は……」

 

 ルビカンテがゆっくりと両腕を広げる。

 赤いマントが大きく翻り、その向こうから凄まじい熱気が吹き荒れた。

 

「炎とは、こうして使うものだ!」

 

 轟音とともに巨大な火炎が渦を巻き、エッジへと襲いかかる。

 

「ぐああああっ!」

 

 炎に呑み込まれたエッジの身体が、大きく吹き飛ばされた。

 床を何度も転がり、壁際まで叩きつけられる。

 

「ち……きしょう……!」

 

 エッジは痛みに顔を歪めながら、震える腕で身体を起こそうとする。

 だが、全身に力が入らない。

 それでも、目だけはルビカンテから逸らさなかった。

 

「確かに、自信を持てるほどの強さだ……しかし、この私にはまだ及ばぬ」

 

 ルビカンテは倒れたエッジを見下ろし、静かに告げる。

 そこにあるのは侮蔑ではなかった。ただ、自分とエッジとの間にある圧倒的な力量差を示すような、余裕のある声だった。

 そして、ルビカンテは背を向ける。

 

「腕を磨いてこい! いつでも相手になるぞ!」

 

 赤いマントを翻し、ルビカンテはそのまま立ち去っていく。

 

「待ち……やが、れ……っ!」

 

 エッジは歯を食いしばり、震える腕で床を押す。

 どうにか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

 それでも、這うように一歩を踏み出す。

 だが、次の瞬間、膝から力が抜け、エッジは再び床へと倒れ込んだ。

 

「エッジ!」

 

 洞窟の奥から、ギースの声が響いた。

 駆けつけた一行が目にしたのは、床に倒れたエッジと、その先へ消えていくルビカンテの姿だった。

 

「大丈夫か!?」

「ギースか……な、情けねえ……このオレが負けるなんざ!」

 

 ギースが駆け寄ると、エッジは悔しそうに顔を歪めた。

 身体は傷つき、立ち上がることすらできない。それでも、その目にはまだ闘志が消えていなかった。

 

「私たちもルビカンテの持つクリスタルを追ってるの」

「手を出すな!ヤツは……オレが……この手でぶっ倒す!」

 

 エッジは傷ついた身体を起こそうとしながら、なおもルビカンテの去った方向を睨みつけていた。

 その姿に、カインが呆れたように息を吐く。

 

「相手は四天王だぜ、王子様」

「ヤツの強さを味わっただろう!」

 

 セシルも、倒れたエッジを見つめながら言い聞かせる。

 

「ヘッ……オレをただのあまちゃん王子だと思うなよ。エブラーナ王族は代々、忍術の奥義を受け継いでんだ……! おめーらより一枚も二枚も……上手だ……ぜ」

 

 強がるように笑うエッジ。

 だが、その身体はすでに限界に達している。

 それでも彼は、自分だけの戦いだと言わんばかりに拳を握り締めた。

 

「エッジ!一人じゃ無理だ!!」

「無理じゃねえ!オレが……あいつと決着をつける!」

 

 ギースの止める声にも耳を貸さず、エッジはなおも立ち上がろうとする。

 その姿を見つめていたリディアの表情が、次第に歪んでいった。

 

「いい加減にしてえ!」

 

 張り詰めていた感情が、一気に溢れ出す。

 

「もうこれ以上、死んじゃうのはいや……」

 

 リディアの声が震える。

 

「テラのおじいちゃんも、ヤンも……シドのおじちゃんも!」

 

 失った仲間たちの姿が、次々と脳裏に浮かぶ。

 

「みんな……みんな……!」

 

 リディアは涙をこらえきれず、拳を強く握り締めた。

 

「お、おい……」

「リディア……」

「グスッ……」

 

 泣き出したリディアを前に、エッジはそれ以上何も言えなくなった。

 ローザも心配そうにリディアの肩へ手を添える。

 

 しばらくして、セシルが静かに口を開いた。

 

「……相手は四天王最強だ。勝ち目があるかどうかもわからない。だが、僕たちは奴らからクリスタルを取り戻さなくてはならない!」

 

 その言葉に、エッジも顔を上げる。

 

「エッジ、エブラーナを襲ったのはルビカンテだが、それを命令したやつは別にいる」

「!」

 

 ギースの言葉に、エッジの表情が変わった。

 

「俺たちは、そいつの目的を止めるためにここに来た。だから頼む……お前が俺たちに手を貸してくれ」

 

 ギースはまっすぐにエッジを見つめる。

 仇を討つためだけではなく、エブラーナを襲った者の背後にいる存在を止めるために。

 その言葉は、エッジに新たな選択を突きつけていた。

 

「……こんなきれーな姉ちゃんに泣かれたんじゃしょうがねえ……ここは一発……手を組もうじゃねーか」

 

 エッジは涙を拭うリディアをちらりと見たあと、観念したように息を吐いた。

 どうやら、ルビカンテへの怒りを一人で抱え込むよりも、仲間とともに戦うほうが得策だと考えたらしい。

 

「俺とセシルの言葉は無視か」

「やろーどもより、姉ちゃんの話を聞くタイプなんでなオレは。知ってるだろ」

「ああ、今更だった」

 

 ギースは呆れたように肩をすくめる。

 昔から、エッジが女性に弱いことはよく知っていた。

 それでも、こうして仲間として力を貸してくれることには、素直に安堵していた。

 

「まったく、こんな体で口の減らない王子様だ。見るに耐えん。おい、ローザ」

「ええ、“ケアルラ”!」

 

 ローザが回復魔法を唱えると、淡い光がエッジの身体を包み込む。

 傷の痛みが和らぎ、エッジの呼吸も少しずつ落ち着いていった。

 

「サンキュー姉ちゃん!あんたもかわいいぜ!」

「おい、ギース。本当にこいつが役に立つのか?」

「腕はお墨付きだ。……今となっては、エブラーナの誰よりも強い」

 

 あまりにも軽い調子のエッジに、カインは半信半疑の目を向ける。

 そんなカインの疑念を察したギースは、エッジの実力を知る者として言い切った。

 

「おっしゃ!それじゃ仲良く乗り込むとしよーぜ!」

「調子いいの!」

 

 エッジはすっかり元気を取り戻した様子で拳を握る。

 その変わり身の早さに、リディアは呆れながらも、思わず小さく笑った。

 エッジは、ふと周囲を見回した。

 

「ん?てめー……」

「?」

 

 エッジは、ふとセシルの顔に目を留めた。

 何かが引っかかったように眉を寄せ、そのままじっと顔を見つめる。

 しばらく見比べるようにしていたエッジは、やがてギースへ振り返った。

 

「おい、ギース。このカグヤのそっくりさんは──」

「カグヤの双子の兄」

「まじか!?」

 

 エッジは目を丸くした。

 まさか、こんなところでカグヤの家族に出会うとは思ってもいなかった。

 

「見つけたのか!……そういや、カグヤはどうした?」

 

 カグヤの家族が見つかったことを素直に喜ぶエッジ。

 だが、そこでふと疑問が浮かんだ。

 一緒に旅へ出たはずのカグヤの姿が、どこにもない。

 その名前が出た瞬間、ギースの表情がわずかに強張った。

 

「………………」

「?」

 

 エッジは不思議そうにギースを見る。

 いつものように軽口を返してくると思っていたのに、ギースは何も答えなかった。

 

「…………だ」

「は?」

 

 かすかな声だった。

 確かに何かを呟いたように聞こえたが、エッジにはその意味を捉えきれなかった。

 聞き間違いかもしれない。そう思いながら、もう一度聞き返す。

 

「……カグヤは死んだ」

 

 その事実は、すでに仲間たちにも伝えている。

 何度も口にしてきた言葉だった。

 それでも、カグヤを知るエッジに告げるのは、また違った重さがあった。

 

「な、なに言って──」

「ゴルベーザに!殺された!」

 

 ギースは声を荒らげる。

 まるで余計な言葉を挟むことを拒むように、ただ事実だけを叩きつけた。

 

「…………」

 

 エッジの動きが止まった。

 耳には確かに届いていた。

 だが、その言葉の意味だけが、頭の中に入ってこない。

 “殺された”

 その意味を理解した瞬間、エッジの顔から血の気が引いた。

 

「……カグヤが……?」

 

 呟くように漏らした声は、ひどく小さかった。

 その言葉の意味が現実として胸に突き刺さった瞬間、エッジは頭に血が上るままギースへと掴みかかった。

 

「お前がついていながら、どういうことだ!!?」

「………………ごめん」

 

 ギースは抵抗しなかった。

 俯いたまま、ただその言葉を受け止めている。

 その顔を見た瞬間、エッジの怒りが急速に冷めていった。

 ギースもまた、カグヤを守りたかったはずだ。

 誰より近くで彼女と旅をして、それでも守れなかった。その苦しみを、ギース自身が抱えていることは明らかだった。

 そして、エッジ自身もエブラーナを守ることができなかった。

 父も母も、仲間たちも守れず、自分だけが生き残った。

 そんな自分が、ギースを責めていいのか。

 そう思い直したエッジは、ゆっくりとギースの胸ぐらから手を離した。

 

「わりい、かっとなった……」

 

 エッジは顔を伏せ、一度だけ深く息を吐く。

 だが、胸の奥に湧き上がった怒りまで消えたわけではなかった。

 

「どこのどいつだ。ゴルベーザってヤツは」

「……明確な正体は、分からない。ただ、ルビカンテにエブラーナを襲わせたのは……そいつだ」

 

 その言葉を聞いたエッジの表情が、再び険しくなる。

 

「そうか……じゃあ、なおさらそいつには落とし前をつけさせないとな」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 目の前には、外壁に阻まれたバブイルの塔。正面から乗り込むことはできない。

 

「どうやって侵入するんだ?」

「へへ!壁抜けの術だ!あらよっと!」

 

 エッジは得意げに笑うと、素早く印を結ぶ。

 術が発動した瞬間、その身体が淡い光に包まれた。

 次の瞬間、エッジの身体はまるで壁など存在しないかのように、バブイルの塔の外壁をすり抜けていく。

 それに続いて、セシルたちも次々と壁を抜ける。

 全員が塔内へ入り込んだところで、エッジが振り返った。

 

「ざっと、こんなもんだ!」

「お見事!」

 

 ギースの言葉に、エッジは満足そうに鼻を鳴らした。

 だが、塔内へ入ったことで安心できるわけではない。

 目の前には、どこまでも続く不気味な通路が広がっている。

 セシルたちは気を引き締め直し、警戒しながら塔の奥へと進み始めた。

 

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