ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
エッジは、すでにルビカンテと対峙していた。
「やっと会えたなルビカンテ!今日という日を待ってたぜぇ!」
「ほう、どこかで会ったかな?」
「オレがエブラーナの王子!エッジ様よ!」
「エブラーナ?何のことかな?」
エッジの名乗りを聞いても、ルビカンテは表情一つ変えなかった。
エブラーナという国の名にも、そこに暮らしていた者たちのことにも、何の興味もないとでも言うように、淡々とエッジを見つめている。
その態度が、エッジの怒りをさらに煽った。
「てめえの胸に聞いてみやがれ!」
エッジは素早く印を結び、炎をまとった手を突き出す。
「火遁!!」
放たれた炎が、ルビカンテへと一直線に襲いかかる。
だが、ルビカンテは動かない。
ただ、その身を包む赤いマントがゆらりと揺れた。
次の瞬間、炎はマントに吸い込まれるように消えていった。
「なんだ、その哀れな術は……」
ルビカンテがゆっくりと両腕を広げる。
赤いマントが大きく翻り、その向こうから凄まじい熱気が吹き荒れた。
「炎とは、こうして使うものだ!」
轟音とともに巨大な火炎が渦を巻き、エッジへと襲いかかる。
「ぐああああっ!」
炎に呑み込まれたエッジの身体が、大きく吹き飛ばされた。
床を何度も転がり、壁際まで叩きつけられる。
「ち……きしょう……!」
エッジは痛みに顔を歪めながら、震える腕で身体を起こそうとする。
だが、全身に力が入らない。
それでも、目だけはルビカンテから逸らさなかった。
「確かに、自信を持てるほどの強さだ……しかし、この私にはまだ及ばぬ」
ルビカンテは倒れたエッジを見下ろし、静かに告げる。
そこにあるのは侮蔑ではなかった。ただ、自分とエッジとの間にある圧倒的な力量差を示すような、余裕のある声だった。
そして、ルビカンテは背を向ける。
「腕を磨いてこい! いつでも相手になるぞ!」
赤いマントを翻し、ルビカンテはそのまま立ち去っていく。
「待ち……やが、れ……っ!」
エッジは歯を食いしばり、震える腕で床を押す。
どうにか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
それでも、這うように一歩を踏み出す。
だが、次の瞬間、膝から力が抜け、エッジは再び床へと倒れ込んだ。
「エッジ!」
洞窟の奥から、ギースの声が響いた。
駆けつけた一行が目にしたのは、床に倒れたエッジと、その先へ消えていくルビカンテの姿だった。
「大丈夫か!?」
「ギースか……な、情けねえ……このオレが負けるなんざ!」
ギースが駆け寄ると、エッジは悔しそうに顔を歪めた。
身体は傷つき、立ち上がることすらできない。それでも、その目にはまだ闘志が消えていなかった。
「私たちもルビカンテの持つクリスタルを追ってるの」
「手を出すな!ヤツは……オレが……この手でぶっ倒す!」
エッジは傷ついた身体を起こそうとしながら、なおもルビカンテの去った方向を睨みつけていた。
その姿に、カインが呆れたように息を吐く。
「相手は四天王だぜ、王子様」
「ヤツの強さを味わっただろう!」
セシルも、倒れたエッジを見つめながら言い聞かせる。
「ヘッ……オレをただのあまちゃん王子だと思うなよ。エブラーナ王族は代々、忍術の奥義を受け継いでんだ……! おめーらより一枚も二枚も……上手だ……ぜ」
強がるように笑うエッジ。
だが、その身体はすでに限界に達している。
それでも彼は、自分だけの戦いだと言わんばかりに拳を握り締めた。
「エッジ!一人じゃ無理だ!!」
「無理じゃねえ!オレが……あいつと決着をつける!」
ギースの止める声にも耳を貸さず、エッジはなおも立ち上がろうとする。
その姿を見つめていたリディアの表情が、次第に歪んでいった。
「いい加減にしてえ!」
張り詰めていた感情が、一気に溢れ出す。
「もうこれ以上、死んじゃうのはいや……」
リディアの声が震える。
「テラのおじいちゃんも、ヤンも……シドのおじちゃんも!」
失った仲間たちの姿が、次々と脳裏に浮かぶ。
「みんな……みんな……!」
リディアは涙をこらえきれず、拳を強く握り締めた。
「お、おい……」
「リディア……」
「グスッ……」
泣き出したリディアを前に、エッジはそれ以上何も言えなくなった。
ローザも心配そうにリディアの肩へ手を添える。
しばらくして、セシルが静かに口を開いた。
「……相手は四天王最強だ。勝ち目があるかどうかもわからない。だが、僕たちは奴らからクリスタルを取り戻さなくてはならない!」
その言葉に、エッジも顔を上げる。
「エッジ、エブラーナを襲ったのはルビカンテだが、それを命令したやつは別にいる」
「!」
ギースの言葉に、エッジの表情が変わった。
「俺たちは、そいつの目的を止めるためにここに来た。だから頼む……お前が俺たちに手を貸してくれ」
ギースはまっすぐにエッジを見つめる。
仇を討つためだけではなく、エブラーナを襲った者の背後にいる存在を止めるために。
その言葉は、エッジに新たな選択を突きつけていた。
「……こんなきれーな姉ちゃんに泣かれたんじゃしょうがねえ……ここは一発……手を組もうじゃねーか」
エッジは涙を拭うリディアをちらりと見たあと、観念したように息を吐いた。
どうやら、ルビカンテへの怒りを一人で抱え込むよりも、仲間とともに戦うほうが得策だと考えたらしい。
「俺とセシルの言葉は無視か」
「やろーどもより、姉ちゃんの話を聞くタイプなんでなオレは。知ってるだろ」
「ああ、今更だった」
ギースは呆れたように肩をすくめる。
昔から、エッジが女性に弱いことはよく知っていた。
それでも、こうして仲間として力を貸してくれることには、素直に安堵していた。
「まったく、こんな体で口の減らない王子様だ。見るに耐えん。おい、ローザ」
「ええ、“ケアルラ”!」
ローザが回復魔法を唱えると、淡い光がエッジの身体を包み込む。
傷の痛みが和らぎ、エッジの呼吸も少しずつ落ち着いていった。
「サンキュー姉ちゃん!あんたもかわいいぜ!」
「おい、ギース。本当にこいつが役に立つのか?」
「腕はお墨付きだ。……今となっては、エブラーナの誰よりも強い」
あまりにも軽い調子のエッジに、カインは半信半疑の目を向ける。
そんなカインの疑念を察したギースは、エッジの実力を知る者として言い切った。
「おっしゃ!それじゃ仲良く乗り込むとしよーぜ!」
「調子いいの!」
エッジはすっかり元気を取り戻した様子で拳を握る。
その変わり身の早さに、リディアは呆れながらも、思わず小さく笑った。
エッジは、ふと周囲を見回した。
「ん?てめー……」
「?」
エッジは、ふとセシルの顔に目を留めた。
何かが引っかかったように眉を寄せ、そのままじっと顔を見つめる。
しばらく見比べるようにしていたエッジは、やがてギースへ振り返った。
「おい、ギース。このカグヤのそっくりさんは──」
「カグヤの双子の兄」
「まじか!?」
エッジは目を丸くした。
まさか、こんなところでカグヤの家族に出会うとは思ってもいなかった。
「見つけたのか!……そういや、カグヤはどうした?」
カグヤの家族が見つかったことを素直に喜ぶエッジ。
だが、そこでふと疑問が浮かんだ。
一緒に旅へ出たはずのカグヤの姿が、どこにもない。
その名前が出た瞬間、ギースの表情がわずかに強張った。
「………………」
「?」
エッジは不思議そうにギースを見る。
いつものように軽口を返してくると思っていたのに、ギースは何も答えなかった。
「…………だ」
「は?」
かすかな声だった。
確かに何かを呟いたように聞こえたが、エッジにはその意味を捉えきれなかった。
聞き間違いかもしれない。そう思いながら、もう一度聞き返す。
「……カグヤは死んだ」
その事実は、すでに仲間たちにも伝えている。
何度も口にしてきた言葉だった。
それでも、カグヤを知るエッジに告げるのは、また違った重さがあった。
「な、なに言って──」
「ゴルベーザに!殺された!」
ギースは声を荒らげる。
まるで余計な言葉を挟むことを拒むように、ただ事実だけを叩きつけた。
「…………」
エッジの動きが止まった。
耳には確かに届いていた。
だが、その言葉の意味だけが、頭の中に入ってこない。
“殺された”
その意味を理解した瞬間、エッジの顔から血の気が引いた。
「……カグヤが……?」
呟くように漏らした声は、ひどく小さかった。
その言葉の意味が現実として胸に突き刺さった瞬間、エッジは頭に血が上るままギースへと掴みかかった。
「お前がついていながら、どういうことだ!!?」
「………………ごめん」
ギースは抵抗しなかった。
俯いたまま、ただその言葉を受け止めている。
その顔を見た瞬間、エッジの怒りが急速に冷めていった。
ギースもまた、カグヤを守りたかったはずだ。
誰より近くで彼女と旅をして、それでも守れなかった。その苦しみを、ギース自身が抱えていることは明らかだった。
そして、エッジ自身もエブラーナを守ることができなかった。
父も母も、仲間たちも守れず、自分だけが生き残った。
そんな自分が、ギースを責めていいのか。
そう思い直したエッジは、ゆっくりとギースの胸ぐらから手を離した。
「わりい、かっとなった……」
エッジは顔を伏せ、一度だけ深く息を吐く。
だが、胸の奥に湧き上がった怒りまで消えたわけではなかった。
「どこのどいつだ。ゴルベーザってヤツは」
「……明確な正体は、分からない。ただ、ルビカンテにエブラーナを襲わせたのは……そいつだ」
その言葉を聞いたエッジの表情が、再び険しくなる。
「そうか……じゃあ、なおさらそいつには落とし前をつけさせないとな」
◇ ◇ ◇
目の前には、外壁に阻まれたバブイルの塔。正面から乗り込むことはできない。
「どうやって侵入するんだ?」
「へへ!壁抜けの術だ!あらよっと!」
エッジは得意げに笑うと、素早く印を結ぶ。
術が発動した瞬間、その身体が淡い光に包まれた。
次の瞬間、エッジの身体はまるで壁など存在しないかのように、バブイルの塔の外壁をすり抜けていく。
それに続いて、セシルたちも次々と壁を抜ける。
全員が塔内へ入り込んだところで、エッジが振り返った。
「ざっと、こんなもんだ!」
「お見事!」
ギースの言葉に、エッジは満足そうに鼻を鳴らした。
だが、塔内へ入ったことで安心できるわけではない。
目の前には、どこまでも続く不気味な通路が広がっている。
セシルたちは気を引き締め直し、警戒しながら塔の奥へと進み始めた。