ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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バブイルの塔 地上

 

 警戒をしながら、セシルたちはバブイルの塔を登っていく。

 内部の構造は、かつて地底で目にした塔とよく似ていた。機械仕掛けの通路を進み、塔を登っていく。

 しばらく登り続けた頃だった。

 前方の通路に、二人の人影が立っている。

 敵かと思い、一行が身構えるが、その姿を目にした瞬間、エッジとギースの足が止まった。

 

「……!」

 

 彼らの姿を、二人が見間違えるはずがない。

 

「エッジ……」

「親父!おふくろ!」

 

 そこにいたのは、エブラーナ王と王妃だった。

 その姿を目にしたエッジは、驚きと喜びが入り混じった声を上げ、二人の元へ駆け寄った。

 

「伯父さん!伯母さん!」

 

 ギースもまた、驚きに目を見開いたまま駆け出した。

 まさか、ここで再び会えるとは思っていなかった。

 

「よかった……お前も無事だったのね……」

「おふくろも!」

 

 王妃の言葉に、エッジは安堵したように笑う。

 だが、その直後だった。

 

「エッジ、ギース……お前たちもいらっしゃい」

「私たちと一緒に……」

「どこへ?」

 

 問いかけた瞬間、二人の表情が変わった。

 穏やかだった顔から感情が消え、口元だけが不気味に吊り上がる。

 

「地獄にね!」

「なっ!!」

 

 殺気とともに、二人が一斉に襲いかかる。

 

「危ない!」

 

 咄嗟にセシルたちが割って入り、エッジとギースの前に立ちはだかった。

 

「そなたらもか、そんなに死にたいのなら、まとめて地獄の砂にしてやろう!」

 

 エブラーナ王と王妃は、もはや人の姿ではなかった。

 二人は魔物へと変貌し、凄まじい殺気を放ちながら一行へ襲いかかる。

 

「どうしちまったんだ!親父!おふくろ!」

 

 エッジが必死に呼びかける。

 だが、二人はその声に耳を貸すことなく、容赦なく攻撃を繰り返す。

 

「いったいどうして!!お二人は!こんな魔に堕ちる方々ではないでしょう!!」

 

 攻撃をいなしながら、ギースも声を張り上げる。

 

「オレだよ!なあ……っ!」

 

 エッジは、何度攻撃を受けても、ただ両親を呼び続ける。

 

「親父!おふくろ!オレが分からねえのかよ!」

「……エッ……ジ……」

 

 二人の目から、濁っていた光が少しずつ戻っていく。

 やがて、魔物の姿をしていた二人は、その場に膝をついた。

 必死に呼びかけ続けたエッジの声が、二人の中に残っていた良心を呼び覚ましたのだった。

 

「親父?おふくろ……?」

 

 様子が変わった二人に、エッジが恐る恐る呼びかける。

 王は苦しげに顔を上げ、その視線をエッジへ向けた。

 

「エッジか……わしの話を聞け。我々はもう人ではない」

 

 その声には、先ほどまでの殺気はなかった。

 残されたわずかな時間を惜しむように、二人は息子を見つめる。

 

「生きていては、いけない存在なのだ」

「あなたに残すものがなくてごめんなさい……」

「………………」

「この意識があるうちに……我々はここを去らねばならん。後を、頼んだぞエッジ」

「嫌だ……行っちゃいやだ!」

 

 エッジは、ただ首を横に振った。

 ようやく取り戻した父と母との時間が、あまりにも短すぎることを認めたくなかった。

 それでも二人の表情には、もう決意が浮かんでいる。

 エッジの言葉を聞きながらも、王と王妃は静かに息子を見つめていた。

 

「さよならエッジ」

「待って!おふくろ!いやだああああああ!」

 

 二人は最後に息子を見つめると、静かに自ら命を絶った。

 その瞬間、二人の身体は淡い光に包まれ、やがて跡形もなく消えていった。

 二人の最期にエッジはただ、立ち尽くす。

 セシルたちも、かける言葉を失ったまま、その光景を見つめていた。

 

「う……うわあああああ!」

 

 エッジの絶叫が、塔内に響き渡る。

 

「伯父さん……伯母さん……」

 

 ギースもまた、消えてしまった二人がいた場所を見つめたまま、呆然と呟く。

 

「なんて……ひどいことを……!」

 

 ローザが息を呑んだ、そのときだった。

 突然、目の前で炎が大きく燃え上がった。

 轟々と燃え盛る炎の向こうから、赤いマントをまとった男が姿を現す。

 

「ルゲイエの奴め……勝手な真似をしおって……」

「ルビカンテ!てめえだけは許さねえ!許さねえぞ!!!」

 

 エッジは、怒りに満ちた目でルビカンテを睨みつける。

 

「お前の両親を魔物にしたのは、ルゲイエの奴が勝手にしたことだが……その非礼は詫びよう」

「ふざけるな!」

 

 ルビカンテは怒りを露わにするエッジを見つめる。

 その表情には、敵意だけではなく、どこか認めるような色も浮かんでいた。

 

「私はお前のように勇気ある者は好きだ。……しかし、そういった感情に振り回される人間では真の強さは手に入らん。永遠に、な……」

「その人間の!怒りってもんを……見せてやるぜえええ!!!」

 

 怒りに震えるエッジの身体から、これまでとは明らかに違う力が噴き上がる。

 その瞬間、眠っていた力が呼び起こされるように、全身を凄まじい気迫が包み込んだ。

 

「ほう……面白い男だ。怒りでそこまでの力を引き出したか」

 

 ルビカンテは感心したように目を細める。

 そして、赤いマントを大きく翻した。

 

「だが、私の炎のマントは凍てつく冷気すら受け付けぬぞ!!さあ、回復してやろう。全力でかかってくるがよい!」

 

 ルビカンテが手を掲げる。

 その瞬間、セシルたちの身体を淡い光が包み込んだ。

 これまでの戦いで負った傷が次々と癒えていく。

 全員の傷が癒えたことを確認すると、ルビカンテは静かに構え直した。

 

「“シェル”!」

 

 ローザもすぐに魔法を唱える。

 淡い光が仲間たちを包み込み、彼らを守護する。

 

「ほう……だが、それで私の炎を防げるかな?」

 

 ルビカンテはマントを翻し、炎を放つ。

 

「うっ!!」

「くっ!」

 

 炎が一行を包み込み、熱気が全身を焼く。

 

「“ブリザラ”!」

 

 リディアがすぐさま氷の魔法を放つ。

 凍てつく冷気がルビカンテへと迫る。

 

「無駄だ!」

 

 ルビカンテは赤いマントを前へと突き出す。

 氷の魔力がマントに触れた瞬間、まるで吸い込まれるように消えていった。

 

「効いてない!?」

「言ったであろう!私のマントは凍てつく冷気すら受け付けないと!」

 

 ルビカンテが腕を振るう。

 その手から放たれた火炎流が、一直線にリディアへと襲いかかった。

 

「!?」

「リディア!」

「危ねえ!!」

 

 火炎流が迫る寸前、エッジがリディアを抱えて飛び退く。

 炎は二人のすぐ脇をかすめ、そのまま背後の壁を焼き焦がした。

 

「あ、ありがとう……」

「ぼーっとすんなよ、お前なんか簡単に黒焦げだぜ!」

 

 エッジはリディアをそっと地面へ降ろすと、すぐにルビカンテへ向き直る。

 

「最初に黒焦げになった奴が言うと、説得力が違うな」

「オレは黒焦げにはなってねーての!」

 

 エッジとギースが軽口を交わす間にも、ルビカンテは静かに二人を見つめていた。

 次の瞬間、二人は互いに合図を交わすこともなく、同時に前へ出る。

 それぞれの武器を構え、並んでルビカンテへと向かっていった。

 ギースとエッジの攻撃が交差する。

 

「っ!!」

 

 しかし、ルビカンテは二人の動きを見切り、それぞれの一撃を受け止めた。

 その瞬間、ルビカンテの視線がギースへ向く。その顔に、何かを思い出したような色が浮かんだ。

 

「ほう……エブラーナを襲った時、王と王妃とは別に、めっぽう強い侍がいた」

「!!」

 

 ルビカンテの言葉に、ギースの表情が強張る。

 

「……もしや、あの侍の息子か?」

「黒髪の、酒瓶持った、賭け狂いの侍だったら、俺の父親だよ。そいつは」

「そうか……」

 

 ルビカンテはギースを見つめたまま、静かに目を細める。

 

「奴もなかなかの武人だった……もっとも……私には敵わなかったが……」

「……ああ、そうかよ」

 

 ギースは吐き捨てるように言い放つ。

 父の敗北を聞かされても、その言葉を受け止める余裕はなかった。

 その直後、ルビカンテの頭上から影が落ちる。

 

「!」

 

 エッジとギースは、とっさに後方へ下がる。

 高く跳び上がっていたカインは、槍を構えたまま急降下する。

 不意を突く一撃が、ルビカンテへと襲いかかった。

 

「はあああ!!」

 

 そこへセシルも間髪入れずに斬り込む。

 カインの一撃をかわしたルビカンテへ、セシルの剣が鋭く迫った。

 避けきれなかった刃が、ルビカンテの身体を捉える。

 赤い衣が裂け、その下から血が滲んだ。

 

「ほう……ゴルベーザ様に手傷を負わせただけはあるか」

 

 ルビカンテは傷口を一瞥すると、わずかに口元を緩めた。

 

「ではもう一度だ。“火炎流”!!」

「うわあ!?」

「セシル!」

 

 至近距離から放たれた火炎流が、セシルをまともに捉える。

 凄まじい熱気とともに炎が吹き荒れ、セシルの身体が大きく弾き飛ばされた。

 

「すぐに回復するわ! “ケアルダ”!!」

 

 ローザがすぐさま回復魔法を唱え、セシルを癒す。

 

「くっ……助かった、ローザ」

 

「安心してられる場合かな?“ファイラ”!」

「“ブリザラ”!」

 

 ルビカンテの放った炎と、リディアの氷の魔法が正面からぶつかり合う。

 炎と冷気が激しくせめぎ合い、互いの魔力が拮抗する。

 

「“水遁”!!」

 

 その隙を逃さず、エッジが印を結ぶ。

 放たれた水の魔力が氷の冷気に重なり、二つの魔法がルビカンテへと迫る。

 炎と氷、そして水の魔力がぶつかり合い、周囲の空気まで激しく震わせた。

 

「ぬう……!」

 

 ルビカンテの炎がわずかに押し返される。

 だが、それでも燃え盛る炎が消えることはなかった。

 

「面白い……二人がかりならば、少しは押し込めるか!」

 

 ルビカンテが炎へさらに力を込める。

 その意識がリディアとエッジへ向いた一瞬、別の気配がすぐ近くまで迫っていた。

 

「そっちに気を取られていいのか?」

 

 ギースが懐へ入り込む。

 そのまま刀を振るうのではなく、ルビカンテの身体を覆う赤いマントへ手を伸ばした。

 マントの端を掴み、力任せに引く。

 

「何を!?」

 

 赤い布が大きく引っ張られ、ルビカンテの身体がわずかによろめく。

 だが、マントを完全に奪い取ることはできない。

 それでもギースは、口元に笑みを浮かべた。

 

「はあ!」

「ふっ!」

 

 ギースが作ったわずかな隙を逃さず、セシルとカインが同時に踏み込む。

 左右から繰り出された二人の攻撃が、ルビカンテを捉えた。

 

「なっ……!」

 

 衝撃に身体が揺らぎ、赤いマントが肩から外れる。

 ルビカンテはすぐさまマントを取り戻し、身体を覆おうと手を伸ばす。

 

「“スロウ”!」

 

 その動きを見逃さず、ローザが魔法を放つ。

 淡い光がルビカンテを包み込み、その動きが目に見えて鈍くなった。

 

「くっ……!」

 

 マントへ伸ばした手が、思うように動かない。

 その隙を逃さず、リディアが魔力を一気に解き放つ。

 エッジの放った水遁によって威力を増したブリザラが、凄まじい冷気をまとってルビカンテへと襲いかかった。

 

「グッグアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 凄まじい冷気がルビカンテの身体を包み込み、炎のマントを失ったその身を容赦なく凍てつかせていく。

 やがて炎は完全に消え、ルビカンテの身体から力が抜けていった。

 それでもルビカンテは倒れなかった。

 苦痛に顔を歪めながらも、一行を静かに見つめる。

 

「そうか……その手があったか……弱い者でも力を合わせるという手が……」

 

 その言葉には、悔しさよりもどこか納得したような響きがあった。

 

「見事だ!ゴルベーザ様も手を焼かれたわけだ……お前たちは……立派な……戦士だった!さら……ばだ!」

 

 最後の言葉を残し、ルビカンテの身体が炎に包まれる。

 やがてその姿は炎の中へと燃えるように消え、あとには静寂だけが残った。

 

「………………親父、おふくろ……仇は討ったぜ……!」

「……父さん」

 

 エッジの言葉を聞き、ギースもまた、胸の奥に込み上げるものを感じていた。

 ルビカンテを討ったことで、エブラーナを襲い、父の命を奪った者への仇を果たすことができた。

 それでも、失われた命が戻ってくるわけではない。ギースは静かに目を伏せた。

 

「若ー!ギース様ー!」

 

 そんな時、遠くから慌ただしい足音とともに声が響いてきた。

 

「じい!」

「みんな!」

 

 エッジとギースが振り返る。

 その先から、エブラーナの生き残りたちが駆けつけてきていた。

 

「わしらも戦いますじゃ!ルビカンテはいずこに!?」

「もう済んだぜ!」

「おお、さすがは若たち!」

 

 喜びの声が上がる。

 エッジは照れくさそうに笑いながら、後ろにいるセシルたちへ視線を向けた。

 

「こいつらのおかげさ!」

「そなたたちが!若たちを助けていただきありがとうございますじゃ!」

 

 エブラーナの者たちは、セシルたちへ深々と頭を下げる。

 その姿を見つめながら、エッジは一度だけ小さく頷いた。

 

「さあ、若!城に戻り、エブラーナの再建を!」

「いや、まだ終わってねえ」

「なんですと?」

 

 エッジの言葉に、喜びに包まれていた一同の空気が変わる。

 

「ゴルベーザってヤツが、すべての元凶だ。そいつがルビカンテにエブラーナを襲わせ……カグヤも殺した」

「な、カグヤが!!?」

「………………」

 

 思いがけない名を聞かされ、エブラーナの者たちは言葉を失った。

 カグヤの死を知る者は少なく、その事実はあまりにも突然だった。

 エッジもまた、拳を強く握り締める。

 ルビカンテを討ったことで両親の仇は果たした。だが、それだけでは終われなかった。

 エブラーナを滅ぼすきっかけを作った元凶が、まだ残っている。

 

「オレも、そのゴルベーザとかいう奴をこの手でぶちのめさなきゃ気が済まねえ」

 

 その声には、先ほどまでの軽さはなかった。

 エッジはまっすぐ前を見据え、決意を固めるように拳を握った。

 

「それに、エブラーナだけじゃなくて、世界も危ねーらしいんでな!」

「若……くれぐれもお気をつけて……」

「分かってるって!さあ、こっから先はオレたちに任せな!」

「分かり申した!留守はお任せを!皆さん、若とギース様をお頼み申します!」

 

 エブラーナの者たちはセシルたちへ向き直る。

 二人を託すように深々と頭を下げ、その身を案じる気持ちを込めて言葉を重ねた。

 

「皆の衆! 帰るぞ!」

「若様、ギース様、ご武運を!」

「あいよー!」

「ああ!」

 

 エッジとギースは、去っていくエブラーナの者たちを見送る。

 やがてその姿が見えなくなると、二人はセシルたちへと向き直った。

 

「よっしゃ!ゴルベーザをぶっ倒しに行くか!」

「その前にクリスタルを取り戻すの!」

「分かってるって!さ、行こーぜ!」

 

 相変わらず調子のいいエッジに、リディアは呆れたように頬を膨らませる。

 それでも、その表情には先ほどまでの悲しみだけではない、前へ進もうとする力が戻っていた。

 こうしてエッジは、セシルたちとともに再び歩き始めた。

 

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