ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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バブイルの塔 地上③~ドワーフの城⑤

 

 膝をついたままのギースに、誰もかける言葉が見つからなかった。

 

「わ、るい……情けないところ、見せた……」

 

 ギースは俯いたまま、震える声で呟く。

 エッジは何も言わず、先ほどまでガルドが立っていた場所へ目を向ける。

 そこには、ガルドが最後まで手にしていた刀だけが残されていた。

 エッジはしばらくその刀を見つめると、静かに拾い上げる。

 

「ギース」

「……?」

 

 エッジはギースの前まで歩み寄り、刀を差し出した。

 

「お前が持っとけ。ガルドの忘れもんだ」

 

 ギースは差し出された刀を見つめる。

 それは、つい先ほどまで父が握っていた刀だった。

 

「……ああ」

 

 ギースはゆっくりと手を伸ばし、刀を受け取った。

 その重みが、妙に現実を突きつけてくる。

 もう、この刀を握る父の姿を見ることはない。

 ギースは刀を胸元へ引き寄せるように抱え、静かに目を伏せた。

 誰も、すぐには声をかけられなかった。

 

「クリスタルを回収しよう」

 

 やがてセシルが静かに口を開く。

 ギースを急かすのではなく、皆が前へ進むためのきっかけを作るような声だった。

 セシルたちは部屋に残されたクリスタルへと向かった。

 

「そういや、なんでここに七つもクリスタルがあるんだ?四つだろ、クリスタルは」

 

 エッジは並んだクリスタルを見渡し、素朴な疑問を口にした。

 

「後の三つは、地底の闇のクリスタルなの」

「ちてい~?」

 

 聞き慣れない言葉に、エッジは怪訝そうに眉をひそめる。

 

「地底って……なんだそりゃ?」

「そういえば、話してなかったな……」

 

 ギースはそこで初めて、これまでエッジに地底のことを話していなかったことに気づいた。

 

「今いる地上は表側。そして表とは別に、裏側……地底世界があったんだ」

 

 ギースは簡単に説明しながら、これまで自分たちが辿ってきた道を思い返す。

 

「何ならこのバブイルの塔はその地底からここまで伸びてたらしい」

「まじか!?」

 

 エッジは思わず天井を見上げる。

 今さらながら、この塔がどれほど高いのかを実感したようだった。

 

「まじだ」

「うへー高いとは思ったが、果てしなく長かったんだな」

 

 エッジは呆れ半分に塔を見渡す。

 セシルたちがクリスタルへ手を伸ばす。

 その足元で、床の一部が不自然に沈み込んだ。

 

「な!? 落とし穴!?」

 

 床が大きく開き、セシルたちの身体が一斉に落下する。

 

「っ、悪いエッジ!」

「てめ!?俺を踏み台に!!!」

 

 ギースは咄嗟にエッジの肩を踏み台にして跳び上がり、一人落とし穴から逃れる。

 

「ギースてめえええええ!!」

「悪い!!」

 

 エッジの叫び声が、落下していく仲間たちの声とともに遠ざかっていく。

 やがて静寂が戻ったクリスタルルームに、残されたのはギースと、もう一人だけだった。

 

「ひどいことをする……」

「……クリスタルまで、あと一歩のところで、落とすお前に言われたくはない」

 

 ギースは振り向き、そこに立つ人物と対面する。

 黒い鎧に身を包んだ姿は、これまで何度も見てきたゴルベーザそのものだった。

 

「怪我はいいのか?ゴルベーザ」

「ああ、快調だ……私が自由に動けない間、随分と好き勝手動いてくれたようだな……ルビカンテまで倒すとは……」

 

 ゴルベーザは淡々とそう告げる。

 そこには、配下の一人を失ったことへの悲しみも、怒りも見えなかった。

 ギースはそんなゴルベーザをじっと見つめる。

 

 エブラーナで起きた惨劇が脳裏をよぎる。

 これまでずっと飲み込んできた言葉。それを、ギースは口にする。

 

「なぜ、エブラーナを襲った……」

「なぜ?とは……」

 

 ゴルベーザの声には、問いの意味そのものが理解できないかのような響きがあった。

 ギースは拳を握り締める。

 

「ミシディア、ダムシアン、ファブール、トロイア、ドワーフ……ここはクリスタルがあったから分かる」

 

 ギースは一つ一つの国を思い浮かべながら、言葉を続ける。

 

「バロンはあの飛空艇が欲しかった、ミストは召喚獣を恐れた」

 

 だが、エブラーナにはクリスタルも、ゴルベーザが欲するような特別なものもない。

 

「エブラーナは何のために!!」

「知れたこと……このバブイルの塔を使うのに、邪魔だっただけだ」

「!!」

「だから、ルビカンテにやらせた」

 

 それだけだった。

 そこに特別な意味も、深い理由もない。

 ただ、塔を使ううえで邪魔だったから、排除した。

 エブラーナという国も、そこで暮らしていた人々も──ゴルベーザにとっては、それだけの存在だった。

 

「何か……特別な感情を期待したか?」

「……お前はっお前は!!!」

 

 その一言で、ギースの中に残っていた何かが切れた。

 

「っもういい黙れ!!もう、お前と話すことはない!!」

 

 ギースは刀を握り締める。

 

「ゴルベーザ……いや、“カグヤ”!!俺は、お前を殺す!!ここで……もう終わらせる!」

 

 叫びながら、その名を口にする。

 かつて大切だった彼女の名前を呼ぶことが、こんなにも苦しい。

 それでも、もう止められなかった。

 怒りも、悲しみも、──全部まとめて刀に叩き込むように、ギースは目の前のゴルベーザを睨みつけた。

 

「フン……ギース、お前の顔ももう見飽きた。ここで終わりはこちらのセリフだ」

 

 二人は互いに武器を構え、静かに睨み合う。

 クリスタルルームに、張り詰めた殺気だけが残った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「いってー……!」

「どうやら地底の方まで落とされたらしいな」

 

 セシルたちは、床に開いた落とし穴からかなりの距離を落下していた。

 幸いにも大きな怪我はないようだが、突然のことに誰もが状況を飲み込めずにいる。

 

「あんの馬鹿ギース!!俺を遠慮なく踏み台にしやがって!!」

 

 エッジが頭を押さえながら、落とされた恨みをぶちまける。

 

「ギースは大丈夫だろうか……」

 

 セシルはエッジの怒鳴り声を聞き流し、頭上を見上げる。

 すでに地上は遥か彼方。今から戻ることは、とても叶いそうになかった。

 

「わざわざ人を踏み台にしてまで残ったんだ。アイツなりに、どうにかすんだろ」

「俺たちの方も、やれることをするしかない。ここから脱出するぞ」

「……ああ」

 

 セシルは後ろ髪を引かれる思いを抱えながらも、仲間たちとともに先へ進んだ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「これは!」

 

 バブイルの塔を進んでいくと、一行は広い格納庫へとたどり着いた。

 そこには、一隻の飛空艇が格納されていた。

 

「敵の新型飛空艇?」

「こいつで脱出しよーぜ!」

 

 赤い翼とは違う飛空艇を見て、セシルはゴルベーザが新たに作らせたものだと考えた。

 その飛空艇を前に、エッジは目を輝かせる。

 警戒するよりも、使えるものを見つけた喜びのほうが勝っていた。

 

「でも敵の飛空艇だよ!」

「いーんだよ!オレたちが使った方がこいつにとってもな!」

「罠じゃないかしら……」

「心配いらねーって!オレは気に入ったぜ!」

 

 ローザの懸念もどこ吹く風。

 エッジはすっかりその飛空艇を気に入った様子で、きょろきょろと船内を見渡した後、満足げに頷いた。

 

「よっしゃ、名付けてファルコンってのはどーだ?」

「まったく!」

 

 軽い調子で飛空艇に名前を付けるエッジに、リディアは呆れたように肩をすくめる。

 

「急ごう、脱出だ!」

「おう!ファルコン発進!」

 

 セシルたちはファルコンを発進させ、バブイルの塔から脱出した。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 バブイルの塔を脱出したセシルたちが、まず向かったのはドワーフの城だった。

 無論ファルコンではマグマの海を越えられないという事情もあった。

 だが、そもそもセシルたちはジオット王の作戦に従い、クリスタルを取り戻すためにバブイルの塔へ向かったのだ。

 作戦は失敗に終わったが、その報告をするためにも、一度城へ戻る必要がある。

 それに、治療のため城に残してきたセオドールのことも気がかりだった。

 

「おお、待ちわびたぞ!」

 

 城へ戻ったセシルたちを、ジオット王が出迎えた。

 セシルたちはバブイルの塔での出来事と、クリスタル奪還作戦が失敗に終わったことを報告した。

 

「そうか……」

 

 ジオット王は険しい表情を浮かべる。

 ゴルベーザは最後のクリスタルを手に入れるため、封印の洞窟を強引に開けようとしているという。

 そこでジオット王は、先にクリスタルを確保するようセシルたちに頼む。

 封印の洞窟へ入るには、ルカが持っていた首飾りが必要だった。

 

「これが、洞窟の入り口を開ける鍵なのじゃ」

 

 ジオット王から首飾りを受け取ったセシルは、力強く頷く。

 

「やってみます!」

「我々は敵の主力を食い止める! そなたらは南西の封印の洞窟へ!」

「はい!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 封印の洞窟へ向かう前に、セシルたちはセオドールの様子を確認するため、医務室へ立ち寄った。

 

「なんじゃー、メシか!?まったく、ここの料理はワシの口に……」

 

 聞き覚えのある声に、セシルたちはその場で固まる。

 

「シド……いただいておいて、その言い方は……」

「合わんもんはしょうがないじゃろ!」

 

 食事に文句をつけるシドを、セオドールが呆れたようにたしなめていた。

 

「シド!!」

「おお! おぬしたち、戻ったか!!」

 

 そこにいたのは、セシルたちを逃がすため、爆弾と共に消えたはずのシドだった。

 セシルたちは驚きと喜びを胸に、シドのもとへ駆け寄る。

 

「無事だったのね!」

「あれだけカッコつけといて……」

「ワハハ……!」

 

 シドの元気そうな姿に、ローザは安堵の表情を浮かべ、カインは呆れたように肩をすくめる。

 

「ワハハ……!」

 

 シドはそんな二人の反応を気にする様子もなく、大声で笑った。

 バブイルの塔での戦いを終え、シドの無事が分かったことにより、セシルたちの張り詰めていた気持ちも少しだけ和らいでいく。

 

「なんだ、このじじい?」

「じじいじゃと!?無礼者が!」

「無礼なのはじじいの方だ!」

「誰じゃ、この生意気な奴は?」

 

 エッジにとっては、セシルたちが親しげに話しかける相手が誰なのか、単純に気になっただけだった。

 しかし、いきなり「じじい」と呼ばれたシドが黙っているはずもない。

 こうして二人は、初対面から互いに一歩も引かない言い合いを始めた。

 

「へっへ!オレがエブラーナ王子エッジ様よ!よろしくな、じじい!」

「口は悪いが、確かに王子様らしい。ギースが保証した」

 

 エッジの自信満々な自己紹介に、カインが淡々と補足する。

 

「なんじゃ、ギースの親戚か」

「そのギースは?」

 

 シドは、目の前の不届き者がギースの親戚だと知ると、ようやく納得したように頷く。

 一方、セオドールはギースの姿が見当たらないことに気づき、その行方を尋ねた。

 

「地上のバブイルの塔ではぐれてしまって……」

「そうか……」

 

 セオドールは静かに頷く。

 その表情には、ギースの身を案じる色が浮かんでいた。

 

「まっアイツのことは心配すんな!どうせひょっこり帰ってくるって!このハンサムで腕も立つオレがそれまでやってやるって!」

「おぬしが~?」

 

 そんな空気を吹き飛ばすように、エッジが胸を張るが、シドが半ば呆れたようにエッジを見上げる。

 

「寝込んでるじじいよりは役に立つぜ!」

「なんじゃとぉ!」

 

 再び言い争いが始まりそうになる。

 しかし、シドを挑発するエッジの耳を、リディアがぐいっと引っ張って止めた。

 

「おじちゃんは怪我してるんだからあんまり怒らせないの!」

「いてて!?」

「なんじゃ?リディアの尻に敷かれとんのか?」

「る、るせえー!」

 

 耳を押さえながら、エッジは悔しそうに言い返した。

 

「それよりセシル、ゴルベーザは!?」

「四天王は倒したが、けどクリスタルは最後の一つを残してすべて向こうの手の中だ……」

「最後のクリスタルを取りに行きたいのだけど、エンタープライズは地上」

「敵から奪った飛空艇では溶岩の上を飛行できん」

 

 状況を整理するほど、最後のクリスタルを取りに行く手段がないことがはっきりしてくる。

 セシルたちは、途方に暮れて顔を見合わせた。

 

「フフ……ワシの出番のようじゃの!ワシがいないと何にもできんのかまったく……」

 

 その声とともに、シドがベッドから勢いよく飛び起きた。

 

「シド!あなたはまだ怪我が!!」

「おっさん、寝てなきゃダメー!」

「怪我治るまで待つー!」

 

 まだ本調子ではないシドを、セオドールとドワーフの看護師たちが必死に引き止める。

 

「お前らだっておっさんじゃろが!悠長なこと言っとれんわ!お前らも手伝わんかい!」

「ええー!?」

「強引ー!」

「わ、私もか!?」

 

 シドは看護師たちの制止をものともせず、半ば強引に連れ立って飛空艇へ向かった。

 

「心配なさそうね」

「ああ!」

 

 あまりにもいつも通りなシドの姿に、セシルたちは思わず顔を見合わせる。

 つい先ほどまで、もう二度と会えないと思っていた。それだけに、こうして元気に怒鳴り散らしている姿を見られたことが、何よりも嬉しかった。

 シドが戻ってきたことで、張り詰めていた空気も少しだけ和らいでいる。

 まだやるべきことは残っている。それでも、今はこの頼もしい男が戻ってきたことが心強かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ──飛空艇・ファルコン。

 その甲板では、シドの指示のもと、セオドールやドワーフたちが改修作業に取りかかっていた。

 セシルたちは少し離れたところから、その様子を眺める。

 そのとき、作業の合間にシドがこちらへ気づいた。

 

「……お?」

 

 シドは何を思ったのか、突然エッジの肩をがしっと掴む。

 

「え?」

「手伝え!釘打ちのエッジ!!」

「な、なんでその異名を!?ハッ!ギースか!あいつが言ったな!!」

 

 磁力の洞窟でギースから聞いた話を、シドはしっかり覚えていた。

 そして、ちょうどいい人手を見つけたとばかりに、エッジを改修作業へ巻き込んでいく。

 エッジは嫌そうな顔をしながらも、結局はシドに引っ張られるように作業へ加わることになった。

 

「ちくしょう……帰ってきたら覚えてろよ、ギース!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 改修作業を終えると、シドは再び医務室のベッドへ戻されていた。

 自分の手でファルコンを無事改修でき、満足そうな顔を浮かべている。

 

「これで溶岩だろうと、なんだろうと気にせず飛べるぞい!」

「助かったわ、シド」

「………………」

 

 ローザがお礼を言うが、シドからの返事はない。

 

「シド……?」

 

 セシルは不安そうに呼びかける。

 しかし、シドはぴくりとも動かない。

 

「シド!」

 

 セシルたちの間に、緊張が走った。

 先ほどまであれほど元気に騒いでいたシドが、突然何の反応も示さなくなった。

 まさか──そんな考えが、全員の脳裏をよぎる。

 

「ぐがー……ぐがー……」

 

 しかし、静まり返った医務室に、豪快な寝息が響いた。

 

「…………」

 

 セシルたちは一斉に力が抜ける。

 

「寝てるだけか……」

 

 安堵の息が、あちこちから漏れた。

 

「よっぽど疲れてたのね」

「無理をするから……」

「……口では食事の文句ばっかだったが、シドは何よりもセシルたちを心配していた……」

 

 セオドールが静かに語る。

 

「無理をしたのもあるが、お前たちの姿を見たのと、自分の仕事を果たして安心したからだろう」

 

 その言葉を聞き、セシルたちは眠るシドを見つめる。

 あれだけ無茶をして、それでも自分たちのために飛空艇を改修してくれた。

 最後まで自分たちのことを気にかけてくれていたのだと思うと、胸の奥が温かくなる。

 

「ありがとう……シド」

 

 セシルは眠るシドに、静かに礼を告げる。

 

「では、行くか」

「兄さんは、大丈夫なのか?」

「ああ、十分に休ませてもらった、」

 

 セオドールを加え、最後のクリスタルを守るために、セシルたちはファルコンへ乗り込んだ。

 

 

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