ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
「……これが、あの日に起こった全てだ」
「……………………」
ギースはそこで言葉を止めた。
長く口にすることのできなかったあの日の出来事を、ようやくエッジに語り終えた。
エッジは何も言わず、ただ黙ってギースを見つめている。
「その後なんやかんやあって生き延びて、それから俺はずっとゴルベーザを探してた」
ギースは重くなった空気を振り払うように、小さく息を吐く。
「その『なんやかんや』は、私に助けられた時のことを言ってるな?」
「……盗み聞きか」
その声に、ギースとエッジが振り向く。
すると、少し離れた物陰からセオドールが姿を現した。
どうやら二人の会話を、そこで聞いていたらしい。
「……ああそうだ。あの後、大怪我で放置された俺はお前に助けられた」
あの日、死にかけていたギースを救ったのは、他でもないセオドールだった。
「……黙っていて、悪かった」
ギースはセオドールに頭を下げる。
当時はセオドールとカグヤの関係を知らなかったとはいえ、礼もせずに飛び出した。
そして、その関係を知っても伝えることができなかった。
言えなかったのは自分の弱さ。許されるとは思っていない。
セオドールは、そんなギースをしばらく黙って見つめていた。
「私に、お前を責める資格はない」
やがて、セオドールは静かにギースへ告げた。
「な、なんで……俺は何もできなかったのに!」
自分を責めることなく、むしろ責める資格がないと言うセオドールに、ギースは戸惑う。
「そして、私はその場にいなかった」
「!」
その言葉に、ギースは息を呑む。
セオドールは、あの日、自分がすべてが終わった後に駆けつけたことを思い返す。
村が襲われたあの日──セシルとセシリーが行方不明になった日のことを。
大切なものが失われる時、自分はいつもそこにいなかった。
守ることもできず、何が起きたのかを知ることさえ、後になってからだった。
「私はいつも間に合わないのだ」
セオドールは俯く。
その声には、自分自身への悔しさとやり場のない悲しみが滲んでいた。
「セオドール……」
その姿を前に、ギースは何も言えなかった。
「……それで、ギース」
しばらくして、エッジが静かに口を開いた。
「結局、お前はどうするんだ?」
「どうするって……」
「ゴルベーザを……カグヤを殺せるのか?」
「ころ……」
鋭い目で、エッジはギースに答えを求める。
その言葉を聞いた瞬間、ギースの喉が詰まった。
これまで何度も考えてきたはずのことだった。
ゴルベーザを倒す。そのために旅を続け、ここまで追い続けてきた。
それがカグヤの願いだった。自分はそれだけを考えて歩いてきた。
その機会は何度もあった。それでも自分は──
「俺、は……」
「カグヤにどんな事情があるかは全部は分からねえ。だが、“ゴルベーザ”がやってきたことは許されることじゃねえ」
エッジから言われたことはギース自身も分かっていた。
ゴルベーザによって何人もの命が奪われ、国が滅ぼされ、世界そのものが脅かされている。
「それは今まで追ってきたてめーが一番よくわかってるだろ」
「何が言いたい」
「てめーの話を聞いて、ゴルベーザが起こしたことを見て、オレが下せる判断は一つだ」
エッジは、まっすぐにギースを見据える。
「これ以上、被害が増える前にゴルベーザとして殺してやれ」
「っ!!!」
「ギース!」
その言葉を聞いた瞬間、ギースは反射的にエッジの胸倉へ掴みかかった。
「~~~っ!!」
拳を振り上げることもできず、ただ胸倉を掴んだまま、ギースは歯を食いしばる。
その先の言葉が出ない。
「なんだよ。掴むだけか?一発ぐらいは覚悟してたんだがな」
エッジは胸倉を掴まれたまま、冷静に言い放つ。
「これでオレに掴みかかる時点で、てめーがカグヤを殺せるわけねえだろうが!!!」
ギースの手が、わずかに震えた。
「できもしねーことを!やろーとすんじゃねえ!」
「できる……!俺は……できる。俺が悪いんだからやらなきゃならないんだ……!」
ギースは反射的に言い返す。しかし言葉とは裏腹に、その声には力がなかった。
まるで自分自身に言い聞かせるように、ギースは同じ言葉を繰り返す。
「……お前たちは、二人で自分が悪いと言っているんだな」
セオドールは、俯いたままのギースを見つめながら静かに口にした。
「……二人で?」
「オレは何も言ってねーぞ」
ギースが顔を上げ、エッジも怪訝そうにセオドールを見る。
「エッジではない……ギースと……この場では、カグヤといった方がいいだろうか」
「……!」
その言葉に、ギースは息を呑んだ。
セオドールの言う「二人」が、自分とカグヤを指していることに気づく。
「どうしてそんなことを……話したことないだろ」
ギースは困惑したようにセオドールを見る。
セオドールとカグヤが、言葉を交わしたことはない。
それどころか、ゴルベーザはセオドールを傷つけた相手でもある。
それなのに、なぜそんな話になるのかギースには分からなかった。
「夢の話だ。私の願望ととらえられても構わない。夢の中であの子と会った」
セオドールは静かに語る。
それが本当にあの子の意思だったのか、それとも自分の願望が見せた夢だったのか。
セオドール自身にも分からない。
それでも、夢の中で見たあの子の姿だけは、今も鮮明に覚えていた。
「あの子は自分が悪いから、ギースを怒らないでほしいと言った。自分が無理を言ったから……ずっとお前が苦しんでるとも」
「そ、そんなの夢だろ」
ギースは動揺を隠すように視線を逸らす。
セオドールの話を信じたい気持ちと、ただの夢だと片づけたい気持ちが入り混じっていた。
「あと、ギースから告白の返事をもらってないとボヤいてたな」
「はあ!?そんなことまで言ったのかアイツ!?」
思わず声を上げるギースに、エッジは呆れたような視線を向けた。
「てめー……まだ返事してねえのかよ。ヘタレ」
「へ、ヘタレ言うな!!」
エッジの言葉に、ギースは思わず声を荒らげる。
何度か返事をしようとはしたのだ。
しかし、いつもタイミングが合わず、それを果たせなかった。
「ギース」
「今度はなんだよ!?」
「『朽ちた竜の骸より生まれし毒虫』そう、あの子は言ったのだな?」
真剣な表情で、セオドールはギースに確認する。
「そ、そうだ……」
「その言葉を私は知ってる」
「知ってる?」
「正確にはその言葉を言われた人物を、私はよく知っている」
セオドールの表情から、それまでの穏やかさが消えていた。
その言葉が、ただの偶然ではないと確信しているようだった。
「それは誰だ?」
「私だ」
「「!!?」」
セオドールの言葉に二人は驚く。
「その言葉は、父と母を亡くした幼い私に、かつて語りかけられたものと同じだ」
セオドールは、遠い日の記憶を辿るように目を伏せる。
「いったい誰に……」
「私は、あの声を自分の弱さが生んだ幻聴だと思っていた。しかし……そうでなかったのなら──」
一度言葉を切り、ギースを見る。
「あの子も、その声を聞いたのかもしれぬ」
「それがいったい?」
「私があの時、その声に応じていれば……おそらく今、セシルとセシリーの命はなかった」
セオドールは静かに目を伏せる。
あの声が何者だったのか、今も分からない。
だが、もしあの声に従っていたなら自分の手で、大切な二人の命を奪っていたかもしれない。
ただ一つ確かなのは、自分がそれに従わなかったからこそ、セシルとセシリーは生きているということだった。
「あの子があの声に応じた結果がそれなら……」
「声から切り離せば元に戻るのか?」
「0ではない。確証はないがそう思える……まだあの子の意思は残ってる」
セオドールの言葉を聞き、ギースは俯いた。
「……だったら、俺はどうすればいい」
「カグヤを助けたいのか?」
「……分からない」
ギースは答えに詰まる。
これまで、殺すしかないと思っていた。
ゴルベーザはあまりにも多くの罪を犯し、仲間を奪い、故郷を壊した。
だからこそ、自分の手で終わらせる。それだけを考えて、ここまで追い続けてきた。
「なら、まずはそこから考えろ」
エッジが静かに口を開く。
「殺すか、殺さないかじゃねえ──てめー自身が、あいつにどうしてほしいのかを」
ギースは何も答えなかった。
「俺自身か……エッジも母さんと父さんみたいなこと言うんだな……」
「その二人から言われて、オレからも言われるんじゃ……やっぱヘタレだなてめー」
「……そうかもしれないな」
ギースは苦笑するように、わずかに口元を緩めた。
母にも父にも、同じことを言われていた。
自分が何をしたいのか、自分自身で決めろと。
それなのに、カグヤのことになると、いつも「殺すしかない」という答えに逃げていた。
エッジに言われて初めて、そのことを認めることができた気がした。
「じゃ、そこのヘタレは後は自分で考えてもらうことにして」
エッジはそれ以上ギースを追及することなく、意図的に話題を切り替えた。
「セシルはどうする?」
「………………」
「それは……」
エッジの問いに、セオドールはしばし黙り込む。
この事実を、セシルに伝えるべきなのか。
カグヤ……セシリーがゴルベーザであること。そして、そこに別の意思の影響が存在している可能性があること。
「……まだ、伝えるべきではないだろう」
「セオドール、案外あんたがそう考えるんだな」
エッジが少し意外そうに眉を上げる。
セオドールは静かに目を伏せた。
「ゴルベーザは、バロンを踏みにじりすぎた。これを知ったセシルが、冷静でいられるとは思えぬ」
セシルにとって、ゴルベーザはただの敵ではない。
国を奪い、多くの命を奪った存在だ。
その正体がセシリーと知れば、セシルは迷うかもしれない。
だが、その迷いが戦いの場で生じれば、取り返しのつかないことになる。
「……だから、今はまだ伝えない」
セオドールはそう言って、静かに言葉を締めくくった。