ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ミシディアにたどり着いたセシルたちを、長老たちが慌ただしい様子で出迎えた。
「待っておったぞ!祈りの塔へ参られい!」
詳しい事情を聞く間もなく、長老に促される。
セシルたちは顔を見合わせながらも、その後に続いて祈りの塔へと向かった。
祈りの塔へ着くと、そこにはすでに大勢の魔導士たちが集まっていた。
長老が塔の中央へ進み、天を仰ぐ。
「祈るのじゃ、みなの者!伝説が真の光となる時は今をおいて他にない!」
その言葉を合図に、ミシディアの魔導士たちは一斉に祈りを捧げ始めた。
セシルたちもその場に立ち、静かに天へと祈りを捧げる。
やがて──遠くから、低く響く音が聞こえてきた。
すると、海の方から大きな音が聞こえる。
「……なんだ?」
セシルが顔を上げる。
音は次第に大きくなっていく。
その方向へ視線を向けると、ミシディアの海が大きく揺れ始めていた。
「おお……!」
長老が海へ目を向ける。
「みなの者! 我らの祈り……通じたぞ!」
次の瞬間──
海面が大きく盛り上がり、轟音とともに巨大な船が海の中から姿を現した。
大量の水をまといながら、巨大な船体がゆっくりと浮上していく。
そのあまりの大きさに、セシルたちは言葉を失った。
「……あれが……」
誰かが呟く。
長老は、目の前に現れた巨大な船を見つめながら、静かに告げた。
「あれこそまさしく……大いなるまばゆき船……魔導船!」
浮上した魔導船は、そのままミシディアの近くへとゆっくり降りていく。
祈りの塔から見下ろすセシルたちは、ただその巨大な船体を見つめることしかできなかった。
これが何のために現れたのか、どうやって動くものなのかも、今の彼らには分からない。
やがて魔導船が近くに降りると、長老がセシルたちへ向き直った。
「祈りの最中、暖かい声が聞こえた。その声はこう言っていた。月に参れと……月でそなたらを待っている者がいる!」
「でも、どうやって!?」
思わずセシルが尋ねる。
「魔導船は月よりの船。ミシディアの記録によれば、通常飛行のスイッチとは別に『飛翔のクリスタル』なるものがあり、語りかければ月との往き来ができるそうじゃ!」
「やってみます!」
セシルは力強く頷いた。
長老に礼を告げると、セシルたちは祈りの塔を後にする。
そして、目の前に現れた魔導船へ向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
「ここが魔導船の中……」
「変なもんがいっぱいあんな」
「まるでゾットやバブイルみたい……」
見慣れない装置が並ぶ船内を、セシルたちは戸惑いながら見渡していた。
その中央にひときわ目を引くクリスタルがある。
「これが、長老が言っていたクリスタルか?」
セシルはゆっくりとクリスタルへ手を伸ばし、その表面に触れた。
「!!」
その瞬間、船体が大きく揺れた。
何が起こったのか分からないまま、セシルたちは身構える。
次第に足元の感覚が変わり、魔導船はゆっくりと浮かび上がっていく。
窓の外に見えていたミシディアの景色が、少しずつ遠ざかっていった。
魔導船はそのまま高度を上げ、天高くへと昇っていく。
やがて、その進む先に広がっていたのは──月だった。
◇ ◇ ◇
魔導船の窓から見える景色が、次第に変わっていく。
青い海も、大地を覆う緑もない。
そこに広がっていたのは、見渡す限りの荒涼とした大地だった。
「ここが俺たちがよく見てた月……」
ギースが窓の外を眺めながら呟く。
「なんだかとても寂しい場所……」
ローザも静かに月面を見つめる。
魔導船を降りた一行は、見慣れない景色に戸惑いながら周囲を見渡した。
「なんだ、この感じ……」
セシルが胸元に手を当てる。
「見慣れないはずだ……だが」
セオドールもまた、月面を見つめたまま言葉を失っていた。
初めて訪れたはずなのに、なぜか胸の奥に懐かしさがある。
それは記憶とは違う。
もっと曖昧で、遠い昔から知っていたような、不思議な感覚だった。
「あのミシディアのじーさんは、ここにオレたちを呼んでる奴がいるって言ってたが……どこにいんだ?」
「とりあえず、あの見慣れない建物が一際目を引くが……」
エッジは改めて周囲を見渡す。
見渡す限り荒涼とした大地が続いており、人の姿どころか、手掛かりになりそうなものすら見当たらない。
そんな中、ギースが遠くに見える建物へ視線を向けた。
月面にぽつりと佇むその建物は、この広大な景色の中でひときわ異質な存在感を放っていた。
「……間違いない」
「セオドール?」
セオドールは建物を見つめたまま、静かに目を細める。
「あの建物に向かってくれ」
「別にいいと思うが、なんでだ?」
「誰かが……私たちを呼んでいる」
セシルも同じように建物を見つめる。
言葉にするのは難しいが、確かに感じる。
あの建物の奥から、誰かが自分たちを待っている。
一行は二人の感覚を信じ、月面を進んでいく。
やがて、これまで見たことのない造りの建物が目の前に姿を現した。
互いに顔を見合わせ、セシルたちは、その建物の中へと足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
建物の中へ入ったセシルたちは、周囲を見渡す。
外の荒涼とした月面とは違い、内部には見慣れない造りの部屋が広がっていた。
誰かがいる気配を探すように、一行が慎重に辺りを見回していると──
「よくぞ参られた!」
セシルたちの目の前で光が一瞬強く瞬く。
次の瞬間、その場に一人の老人が立っていた。
突然の転移に、セシルたちは思わず身構える。
「あなたは……?」
突然現れた老人を前に、セシルたちは警戒を解かないまま、その姿を見つめる。
老人は穏やかな表情を浮かべていたが、その佇まいにはどこか不思議な威厳があった。
「私は月の民の眠りを守る。フースーヤ……」
「月の民?」
「さよう」
その言葉に、セシルたちは顔を見合わせる。
ここが月であることは分かっていた。だが、「月の民」という言葉が何を意味するのかまでは、誰も知らなかった。
フースーヤは、遠い過去を思い返すように静かに語り始める。
「もう、はるか昔のことだ……火星と木星の間にあった星が絶滅の危機に瀕した。生き残った者たちは船で青き星へと脱出した……」
「青き星……?」
「そなたらの住む大地だ。しかし、まだ進化の途中にあったためその者たちは、もう一つの月を作り出し、そこで永い眠りについたのだ」
「それが月の民か」
「しかり」
フースーヤの語る遠い過去に、セシルたちは静かに耳を傾けていた。
空に浮かんでいた月に、これほど長い歴史があることを知り、一行はそれぞれに驚きの表情を浮かべていた。
「しかし、ある者は眠りを嫌った!青き星に存在するものすべてを焼き払い、そこに自分たちが住めばよいと考えた」
「ひどい……」
「私たちはその者を封じ込めた。しかし、永い眠りの間にその者は思念を強化した!」
青き星に生きる者たちの未来を見守るため、永い眠りを選んだ月の民。
しかし、その中には眠りにつくことを拒み、青き星のすべてを滅ぼして自分たちのものにしようと考えた者がいた。
行動にする前に封じられたが、肉体を封じられてなお、その者の思念は消えることなく、永い年月の中でさらに強大なものとなっていった。
「その思念が、そなたらの星の邪悪な者たちをより悪しきものとし……クリスタルを集めさせたのだ」
「では、ゴルベーザもその者に!?」
フースーヤの言葉に、セシルは息を呑む。
そして、ゴルベーザの正体を知る者たちはその言葉の意味を察した瞬間、揃って顔色を変えた。
「なんて奴だそいつは!?」
エッジが怒りを滲ませながら、フースーヤへ問いかける。
「その者はゼムス……!」
「ゼムス……」
その名を聞いた瞬間、ギースは拳を強く握りしめた。
胸の奥に湧き上がる怒りを押し殺すように、指が掌へ食い込む。
「なぜ、ゼムスはクリスタルをその者たちに集めさせたのです?」
「クリスタルとは、我々のエネルギー源。おそらく、バブイルの塔の次元エレベータを作動させるため、クリスタルを集めさせた」
セオドールの問いに、フースーヤは静かに答える。
その答えを聞いたセシルは、聞き慣れない言葉に眉を寄せた。
「次元、エレベータ?」
意味を理解できず、セシルは思わず聞き返した。
「月とそなたらの星を繋ぐ転移装置だ。この次元エレベータでバブイルの巨人をそなたらの星に降ろし、すべてを焼き払おうとしている……」
「そんな……」
フースーヤの言葉に、セシルたちは息を呑む。
ゼムスがゴルベーザにさせてきたことにはまだ先があった。
バブイルの巨人を月から降ろし、自分たちの星を焼き払うという目的が。
「しかし、多くの月の民はそうではない。青き星の者たちが、我々と対等に話し合えるだけの進化を遂げるのを見守っているのだ。みな……その日を夢見て眠り続けている」
静かな声で語られるその言葉には、長い年月を眠り続ける月の民たちの願いが込められていた。
いつか青き星の者たちと共に生きる日を待ち続けている月の民たちの願いが。
「僕らが乗ってきた魔導船は?」
セシルは、自分たちが乗ってきた魔導船についてフースーヤに尋ねる。
ミシディアの長老は、あの魔導船が月から来たものだと言っていた。
であれば、かつて魔導船で青き星へと降りていった月の民がいるはずだった。
「……遥か昔に私の弟クルーヤが造り、青き星へ降りて行ったものじゃ」
「え……」
「クルーヤ……待ってくださいその名は!」
フースーヤから発せられた思いがけない名前に、セシルは思わず声を漏らした。
その名をよく知るセオドールもまた、驚きに目を見開く。
だが、フースーヤは二人の反応を気にする様子もなく、静かに話を続けた。
「クルーヤは未知のそなたらの星にあこがれておった。デビルロードや飛空艇の技術はその時もたらされたのだ」
フースーヤは、クルーヤが青き星へ渡った際、そこで暮らす人々にもたらしたものについて語る。
デビルロードや飛空艇など、セシルたちが知る技術のいくつかは、遥か昔にクルーヤによって伝えられたものだった。
「そしてクルーヤは青き星の娘と恋に落ち、三人の子供が生まれた。その子供らが……そなたたちだ」
「僕と……」
「私か……」
思いもよらない事実を告げられ、セシルとセオドールは互いに顔を見合わせる。
言葉を失った二人を、フースーヤはしばし黙って見つめていた。
「なるほど……若いころのクルーヤによく似ている」
フースーヤは二人の顔をまじまじと見つめ、懐かしむように呟いた。
「……試練の山にある石碑には、父の遺体があると聞きました。試練の山で聞こえた声は」
「お前の父……クルーヤの魂だ。ゼムスの策略を食い止めるためにクルーヤはその力をそなたに授けたのじゃ」
セシルの問いに、フースーヤは静かに頷いた。
その仕草が、試練の山で聞こえた声がクルーヤの魂であったことを肯定していた。
「ゼムスを止めなければならない!青き星と、そして月の民のために!さあ……エブラーナのバブイルの塔へ急ぐのだ!」
「バブイルの塔!?でも、あそこにはバリアが!」
エッジは、バブイルの塔が強固なバリアによって守られており、容易には中へ入れないことを告げる。
しかし、フースーヤはその言葉を聞いても動じる様子を見せなかった。
「私ならば入れるはず!バブイルの巨人を青き星に降ろしてはならぬ!私も共に行こう!」
ゼムスの目論見を止めるため、セシルたちはフースーヤとともに魔導船へ戻る。
自分たちの故郷である青き星を守るため、再び地上へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
魔導船の中。
仲間たちがそれぞれの場所で休む中、セオドールは一人、フースーヤのもとを訪れていた。
「確認したいことがあります」
「何を?」
「あなたは、ゼムスの思念が、私たちの星の邪悪な者たちを操っていると言いました」
セオドールは一度言葉を切る。
フースーヤの話を聞き、あの日自分が聞いた声の正体に思い至った。
「その、ゼムスの思念を……私は聞いたのです」
「なんと!いったいなぜ!?まさか、おぬしの中に流れる月の民の血が原因か!」
「それだけではないでしょう。あの日……私の中に確かに負の感情があった」
セオドールは、あの声を聞いた日のことを思い返す。
父は殺され、衰弱した母は自分を顧みることなく子を産み落とし、そのまま命を落とした。
母が遺した双子に対して、何も思うところがなかったわけではない。
頭では分かっている。
双子に罪はない。
それでも、その心に邪念がなかったわけではなかった。
「だが、おぬしは今ここにいる」
「はい……あの日、セシルともう一人……セシリーが連れ戻してくれました。だから私はここにいる」
あの時、泣きながら自分を呼び戻してくれた双子がいなければ、セオドールは今ここにはいなかった。
だからこそ、今度は自分が問いたださなければならない。
「今、ゼムスの思念を受け、バブイルの塔を起動したゴルベーザの正体を私は知っています」
フースーヤの表情が変わる。
「まさか……その者は」
「セシリー……私の妹です」
「それを、知っている者は?」
フースーヤは、確かめることさえ躊躇うように、声を絞り出した。
「私とエブラーナの二人だけです。他には……セシルにもまだ伝えていません」
フースーヤはしばらく黙り込んだ。
やがて、その顔に深い苦悩が浮かぶ。
「クルーヤの血を引く子供たちが戦うとは……」
その言葉を聞きながら、セオドールは静かに拳を握る。
そして、最後にどうしても聞かなければならないことを口にした。
「ゼムスの思念から、あの子を解放することはできますか?」
「分からぬ……ゼムスの思念がその者にどう影響されているか。月では見ることはかなわなかった」
フースーヤは、月から青き星で起こっている出来事をある程度把握することができた。
そのため、セシルやセオドールたちの動向を知ることもできていた。
しかし、ゼムスの思念に強く影響された者については、その思念が障壁となり、詳しい様子を見通すことができなかった。
「もし……魂までも作り替えられていた場合は、私でもどうすることはできぬ」
「そう、ですか……」
セオドールは俯き、静かに拳を握りしめる。
それでも、フースーヤは諦めるような言葉を続けなかった。
「だが、必ずだ。その者と相まみえた時は、私が全身全霊でゼムスの呪縛から解き放とう」
その言葉に、セオドールは顔を上げる。
まだセシリーを救えると決まったわけではない。それでも、可能性が残されているのなら、立ち止まる理由はなかった。
「だからまずは……その者に会うためにバブイルの塔へ向かわなければ!」
「はい!」
セオドールは力強く頷く。
わずかに残された可能性を胸に、セシリーを救うため、彼らは青き星へ急ぐ。