ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
「ギース、兄さん!カイナッツォは任せた!」
「了解!」
「ああ!」
セシルの声に、ギースとセオドールが即座に応じる。
二人はカイナッツォへ向かって駆け出し、セシルたちから引き離すように距離を詰めていった。
カイナッツォも二人の動きを察し、水の障壁をまとったまま迎え撃つ。
「ローザ、フースーヤ!僕らが来るまで持ちこたえてくれ!」
「ええ、大丈夫!」
「任された!」
セシルはローザとフースーヤへ声を飛ばす。
二人が力強く頷くのを確認すると、セシルは再びスカルミリョーネへと向き直った。
ローザはバルバリシアの攻撃を受け止めながら、フースーヤとともにその猛攻を凌いでいく。
「頼むリディア、手伝ってくれ!」
「言われなくとも!」
セシルの呼びかけに、リディアがすぐさま応じる。
召喚の力を呼び起こしながら、セシルと並んでスカルミリョーネを見据えた。
四天王を一人ずつ引き離すため、セシルたちはそれぞれの戦場へ散っていく。
ここからは、分断された四天王を一体ずつ倒していくしかない。
「憎たらしい……魔導士どもがいなかったら、貴様は暗黒騎士のままあの山で死んでいた!」
「……ああ、そうだ」
セシルは、スカルミリョーネの言葉を否定しなかった。
試練の山を登り切り、父の声を聞くことができたのは、パロムやポロム、そしてテラが力を貸してくれたからだ。
暗黒騎士だったあの頃の自分一人では、スカルミリョーネに勝つことなどできなかった。
「仲間に助けられて、僕はここにいる」
セシルは剣を構え直し、目の前のスカルミリョーネを真っ直ぐに見据える。
以前の戦いでは、試練の山に潜むアンデッドたちに囲まれ、その姿すらまともに捉えられないまま戦わされた。
だが、今は違う。目の前にいるのは、ただ一体のスカルミリョーネだけだった。
スカルミリョーネが咆哮を上げる。巨大な腕を振り上げ、その爪がセシルめがけて振り下ろされた。
セシルは横へ跳び、一撃をかわす。爪が床を叩きつけた瞬間、轟音とともに床面が大きく砕け、破片が周囲へ飛び散った。
「くっ……“ケアルラ”!」
腕をかすめた傷を、セシルは白魔法で素早く癒す。視線はスカルミリョーネから一瞬たりとも外さない。
「セシル!」
「大丈夫だ!」
リディアの声に答えながら、セシルは一歩前へ出る。
背後にはリディアがいる。ここで自分が下がれば、そのままスカルミリョーネの攻撃が彼女へ向かう。だからこそ、セシルは退かなかった。
スカルミリョーネが再び腕を振り上げる。
「させるか!」
セシルが踏み込む。振り下ろされた爪を剣で受け流し、そのまま身体を滑らせるように懐へ入り込む。
スカルミリョーネが反撃しようと腕を振り回すたび、セシルはその進路へ立ちはだかり、すべての攻撃を自分へ引きつけていく。
爪が肩を掠める。腕を打ちつけられる。重い一撃を剣で受け止めるたび、身体が後ろへ押し込まれる。
それでも、セシルは一歩も退かなかった。
「この私を相手に、一人で耐え続けるつもりかぁ!」
「一人じゃない!」
セシルが叫ぶ。
背後から、リディアの詠唱が聞こえていた。
「リディア、今だ!」
「うん!」
セシルがスカルミリョーネの腕を弾き上げる。
その一瞬に生まれた隙へ、リディアの召喚魔法が放たれた。
「“イフリート”!!」
轟音とともに現れたイフリートが、地獄の業火をまとってスカルミリョーネへと迫る。
今度はそれを遮る水もない。逃げ場を失ったスカルミリョーネの巨体を、燃え盛る炎が一気に包み込んだ。
「ぐおおおおおおっ!!」
炎の中から、スカルミリョーネの苦悶の叫びが響き渡る。
黒い魔力が炎を押し返そうと渦巻くが、イフリートの業火はそれを上回る勢いで燃え広がり、腐り果てた身体を容赦なく焼き尽くしていく。
「ゼムス様ああああああ!!」
スカルミリョーネは燃え盛る身体を引きずりながら、救いを求めるようにゼムスの名を叫ぶ。
だが、その声に応えるものはない。黒い魔力は炎に呑まれ、再び蘇った身体も少しずつ崩れ落ちていく。
「ゼムス……様……」
やがて炎が弱まり、そこに残されたのは黒く焼け焦げたスカルミリョーネの姿だった。
それでも、最後まで倒れまいとするように身体を震わせる。
「……ゴル……ベーザ……様……」
その名を口にした瞬間、スカルミリョーネの声から力が抜ける。
「おそばに……いれず……もうしわけ……」
それが、最期の言葉だった。
黒焦げになった身体が崩れ落ちる。
その身体を包んでいた黒い魔力が静かに霧散し、今度こそスカルミリョーネの姿は完全に消え去った。
「………………」
スカルミリョーネの最期を見届ける。
ふと周りを見ればまだ仲間たちは戦っている。
「リディアはギースたちを助けに行ってくれ、僕はローザの方へ向かう」
「ええ」
セシルはスカルミリョーネが消えたことを確認すると、すぐに周囲を見渡す。
まだ戦いは終わっていない。
ギースとセオドールはカイナッツォと、ローザとフースーヤはバルバリシアと戦っている。どちらも激しい攻防が続いていた。
「リディアはギースたちを助けに行ってくれ。僕はローザの方へ向かう!」
「ええ!」
リディアが頷く。
セシルはローザたちのもとへ、リディアはギースたちのもとへ、それぞれ駆け出した。
◇ ◇ ◇
「この亀ェ!亀のくせに素早いんだよ!!」
ギースとセオドールは、カイナッツォの硬さと異様なまでの素早さに苦戦していた。
二人が繰り出す攻撃を、カイナッツォは巨体に似合わぬ身軽さでかわしていく。かと思えば、水の障壁をまとった身体で真正面から攻撃を受け止め、ほとんど怯む様子を見せない。
「“疾風”!!」
ギースが一瞬で間合いを詰め、居合の一閃を放つ。
鋭い斬撃がカイナッツォを覆う水の障壁を切り裂いた。だが、刃はその先にいるカイナッツォの身体までは届かず、斬り裂かれた水が弾けるように飛び散る。
「“サンダガ”!」
その隙を逃さず、セオドールが魔力を解き放つ。頭上から轟音とともに雷撃が落ち、カイナッツォへと一直線に突き刺さった。
「クカカカカ……なかなかやるじゃねえか」
雷撃を受けたカイナッツォが身体を揺らしながらも、不敵な笑みを浮かべる。
ダメージを受けた様子はあるものの、その目にはまだ戦意がみなぎっていた。
「じゃあこっちもいくぜぇ?」
カイナッツォは低く身を屈めると、巨大な甲羅の中へ身体を引き込んだ。
次の瞬間、甲羅が高速で回転を始める。
そのまま猛烈な勢いで床を滑り、ギースたちへ向かって突進してきた。
「またそれか!」
ギースが叫び、迫り来る甲羅を横へ跳んでかわす。カイナッツォはそのまま通り過ぎるかと思われたが、床を削りながら大きく弧を描き、再びギースたちへと向きを変えた。
バロン城で戦った時は、テラがスロウでカイナッツォの動きを鈍らせ、最後は「大爆発」によってその動きを止めた。だが、今はどちらの手も使えない。
ならば、自分自身の力だけで対処するしかない。
「“岩崩し”!!」
ギースは正面から踏み込み、猛烈な勢いで刀を振り下ろす。
回転する甲羅と刀が真正面から激突した。
ガキィン!!と凄まじい衝撃音が響き、甲羅と刀が激しく競り合う。ギースは両手に力を込め、押し切ろうとするカイナッツォを真正面から受け止めた。
「そんな刀、折れても知らねえぜ!」
「お前は無理さ!こいつは、父さんの無茶苦茶な旅に付き合ってきた刀だぜ!」
カイナッツォは甲羅の回転をさらに速め、刀をへし折ろうと力を込める。
それでも、ギースは一歩も引かなかった。
父の無茶苦茶な旅に付き合い、幾度となく死線をくぐり抜けてきた刀だ。
そんな刀が、こんなところで折れるはずがない。
「うおおおおおおお!!!」
ギースが渾身の力を込める。
拮抗していた刀と甲羅が、わずかに揺らいだ。
「なっ……!?」
次の瞬間、ギースが力任せに甲羅を弾き飛ばす。
カイナッツォの巨体が大きく弾かれ、回転しながら床を滑っていった。
「へっ……どうだ!」
ギースは刀を握ったまま、荒い息を吐きながら笑みを浮かべる。
その刀身には、傷一つついていなかった。
「随分と無茶をしたな。へばってないか?」
「全然!」
セオドールの気遣いに、ギースは即座に答える。
息こそ上がっているものの、まだ戦う力は十分に残っている。むしろ、先ほどの力比べに勝ったことで、ギースの表情には自信さえ浮かんでいた。
「ぐぐぐ……貴様ぁ!」
床に転がっていたカイナッツォが、怒りに身体を震わせながら立ち上がる。
「この俺を……力で押し返しただとぉ……!」
水の障壁が再びカイナッツォの身体を包み込み、その怒気に呼応するように周囲の水が激しく渦巻き始めた。
「今度こそ、まとめて押し流してやるぜぇ!!」
カイナッツォの周囲に集まった大量の水が、一気に膨れ上がる。巨大な水の壁がうねりながらせり上がり、そのままギースとセオドールへ向かって猛烈な勢いで押し寄せた。
「“サンダガ”!」
セオドールが魔力を解き放つ。
次の瞬間、轟音とともに無数の雷撃が降り注ぎ、迫り来る津波へ次々と突き刺さった。水の壁が雷をまとって激しく弾け、走り抜けた電撃がカイナッツォへと襲い掛かる。
「ぐおおっ!?」
カイナッツォが身をよじる。
「“ラムウ”!」
その直後、背後からリディアの声が響いた。
呼び声に応えるように、雷を司る幻獣──ラムウが姿を現す。長い髭を揺らしながら杖を掲げると、その先へ凄まじい雷の力が集まり始めた。
次の瞬間、裁きの雷が轟音とともにカイナッツォへと落ちる。
「ぐおおおおおおっ!!」
凄まじい雷撃が水の障壁を貫き、カイナッツォの身体を激しく打ち据えた。
「リディア!」
ギースが声を上げる。
「待たせたわね!」
「いや、助かった!」
ギースは短く答えると、すぐさまカイナッツォへ向かって駆け出した。
まだカイナッツォの身体には、ラムウの雷が青白い火花となって残っていた。
ギースはその雷が消えきる前に刀を構える。
刀身が残された雷を吸い寄せるように、青白い稲妻が次々と絡みついていく。
「これで、最後だ!!」
雷を纏った刀を握り締め、ギースはカイナッツォへと踏み込む。
「“雷切斬”!!」
青白い稲妻を纏った一閃が、カイナッツォの眉間を切り裂いた。
「ぎゃあああああああ!!?」
雷光が弾け、カイナッツォの身体が大きくのけぞる。
「俺が……また負けるなんてっ!!」
カイナッツォの身体から力が抜ける。水の障壁が音もなく崩れ、巨体がその場に膝をついた。
「なんで……なんで貴様なんだっ……」
崩れ落ちていく身体から、絞り出すような声が漏れる。
あまりにも小さな声だったため、周囲には届かなかった。
ただ、そのすぐそばにいたギースだけが、その言葉を聞いていた。
「……………………」
ギースは何も言わず、崩れ落ちていくカイナッツォを見つめる。
やがて、その身体を包んでいた黒い魔力が静かに霧散していく。
それとともにカイナッツォの姿も薄れていき、最後には何も残さず消え去った。