ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
ルビカンテの最期を見届けたエッジは、ゆっくりと刀を下ろした。
それまで張り詰めていた身体から力が抜けていき、エッジはその場に膝をついた。
「エッジ!!」
炎の壁が消えたことで、セシルたちが一斉に駆け寄ってくる。
「この馬鹿!なんて無茶をしやがる!!」
「良い手だっただろ?」
ギースが真っ先にエッジへ詰め寄り、怒鳴る。
エッジは脇腹を押さえながらも、いつもの調子で笑っていた。
「良い手で済むか!そもそも俺たちは聞いてない!!」
何の相談もなく、突然一騎打ちを仕掛けたエッジにギースの怒りは収まらない。
無茶をしたこともそうだが、それ以上に仲間に何も告げず一人でルビカンテに挑んだことが許せなかった。
「二人とも言い合いは後だ。ローザ、エッジを頼む」
「ええ、すぐに癒すわ。“ケアルガ”」
ローザがエッジへ手をかざす。
淡い光が傷ついた身体を包み込み、脇腹に残っていた傷がみるみるうちに癒えていく。
「ありがとなローザ!」
「調子がいいんだから……」
無茶をしたことなど、まるで気にしていないエッジの様子に、リディアは呆れたように呟く。
それでも、その声には無事だったことへの安堵が滲んでいた。
「で、一体なんで急に一騎打ちを始めたんだ?」
エッジの傷が完全に癒えたことを確認すると、ギースが改めて詰め寄る。
「オレの天才的なひらめきだな」
エッジは、一騎打ちを挑む直前に聞いた声のことを話さず、自分で考えついた作戦だったことにして誤魔化す。
「嘘だな」
しかし、エッジの様子からそれがただの誤魔化しだとギースには分かっていた。
「嘘なの?」
「嘘じゃねえって!!証拠でもあんのか!!」
「証拠はない。だが……それでもあの一騎打ちは突然すぎた」
半ば見破られていることに焦ったエッジは、思わず証拠を求める。
対するギースは、エッジをじっと見つめていた。
何かを隠している。それだけは、疑いようがなかった。
「彼女に言われたからじゃないのか?」
「!?」
「彼女?」
セシルの言葉に、エッジの身体がわずかに強張る。
ほんの一瞬だったが、その反応を見逃す者はいなかった。
ギースが怪訝そうに眉を寄せる。
エッジはしまった、と言わんばかりに視線を逸らした。
「四天王と戦っているときに声を聞いたんだ。まともに戦うな、四天王を引き離せって」
セシルは、四天王との戦いの最中に聞こえた謎の声について、仲間たちに話した。
「その時、ルビカンテには当てがあるって言って、そのすぐ後にエッジが一騎打ちを挑んだんだ」
セシルはエッジに視線を向ける。
「だから、エッジも彼女の声を聞いたと思ったんだが……」
「声だと?……エッジどういうことだ?」
「……………………」
エッジは何も答えず、視線を逸らしたまま固く口を閉ざしていた。
その態度を見れば、何かを知っていることは明らかだった。
だが、エッジはそれ以上を語るつもりはないらしい。
「その声なら私も聞いたわ」
「!」
ローザの言葉に、エッジが思わず顔を上げる。
同時に、セシルたちの視線も一斉にローザへ集まった。
「バルバリシアを相手にするのを手伝ってもらったの」
ローザは、声の主から受けた助言について簡潔に話す。
「……お前ら三人だけが聞いたのか?」
ギースは、エッジ、セシル、ローザの三人だけが聞いたという謎の声について、考えを巡らせる。
「バレちまったらしょーがねぇ!そうだよ!その声の言う通りに動いただけだ!」
「急に話したな……」
エッジの突然の告白に、ギースの思考は一度そちらへ引き戻される。
エッジはこれ以上隠し通すのは無理だと腹を括ったように、声の主から受けた指示に従って動いたことだけを明かす。
「よくお前が訳も分からない声の言う通りに動いたな?」
「話を聞いてオレにもメリットがあると思ったからな!実際倒せたからいいだろーが」
エッジは悪びれる様子もなく答える。
結果としてルビカンテを倒せた以上、エッジに後悔している様子はなかった。
「訳の分からねえ声のことはともかく、さっさと先に行こうぜ!この巨人を止めねぇとエブラーナが危ないんだ!」
エッジは謎の声についてこれ以上話すつもりはないらしく、話題を切り上げるように先を促す。
今は声の正体よりも、バブイルの巨人を止めることが先だと皆に告げる。
「……ああ、そうだな。気にはなるが、それは後にしよう」
セシルも謎の声について気に掛けながら、それ以上追及することはなかった。
この星を救うためにも、今は先へ進むしかない。
「制御システムはこの先だ。システムを壊せば巨人は止まる」
セシルたちは、バブイルの巨人を止めるため、制御システムのある場所へ向かって歩き出した。
「……誤魔化されたな」
その後ろで、ギースだけが小さく呟く。
結局、エッジは声の主が何者なのかについて、一言も語らなかった。
それどころか、巨人を止めるという目的を持ち出して、皆の意識をそちらへ向けてしまった。
ギースは小さく息を吐くと、先を行く仲間たちの後を追った。
◇ ◇ ◇
「アレは……」
制御システムの前まで辿り着いたセシルたちだったが、その足がふと止まる。
行く手を塞ぐように、一人の魔人が立っていた。
「ゴルベーザ!」
黒い鎧に身を包んだその姿を見た瞬間、セシルたちの間に緊張が走る。
「見事だ。ここまで来るとは称賛に値する」
ゴルベーザはそう言って、ゆっくりと手を叩く。
その拍手には、ここまで四天王を倒して辿り着いたセシルたちへの純粋な称賛が込められていた。
「しかし、残念だがお前たちの歩みもここで最後だ」
拍手を止めると、ゴルベーザは静かに両腕を広げる。
「さあ、相手をしてやろう」
ゴルベーザを見据え、フースーヤが一歩前へ出る。
「なんだ?お前は……」
「……お主、自分が何者か分かっているのか?」
「何者か……だと?」
フースーヤは、魔導船でセオドールから聞かされていた話を思い返す。
そして今、本人を目の前にして確信する。
間違いない。目の前の人物はゼムスの思念に深く蝕まれている。
「助けられるか……」
フースーヤの脳裏に、一瞬だけ迷いがよぎる。
「……否。助けるのだ!」
フースーヤは杖を強く握り締める。
そして、自らの持てる力すべてを解き放った。
ゼムスの思念に覆われた彼女を、その呪縛から解放するために。
膨大な魔力がフースーヤの身体から一気に流れ出していく。
やがて力を使い果たしたフースーヤは、片膝をついた。
「な、何を!!やめろ!!」
ゴルベーザが必死に叫ぶ。
身体を動かして逃れようとするが、フースーヤから放たれた力に絡め取られたように、その場から動くことができない。
「あああああああああ!!!!」
突如、ゴルベーザが絶叫した。
身体を抱えるようにしてその場に蹲り、全身をガタガタと震わせる。
その身体から黒い魔力が噴き出しては、苦しむように揺らめき、次第に薄れていく。
「私、私……なんてことを!!う、うぅ……」
その声には、先ほどまでのゴルベーザとは明らかに違う響きがあった。
低く威圧的だった声は消え、そこにあったのは若い女性の震える声だった。
まるで長い悪夢から目を覚ましたように、ゴルベーザは自らの手を見つめ、震えている。
「ゴルベーザ……?」
突然様子が変わったゴルベーザに、セシルは戸惑いながら声をかける。
「………………」
しかし、ゴルベーザから返事はない。
ただ蹲ったまま、震える身体を両腕で抱えていた。
「自分を取り戻したか……おぬしの名前は?」
「セシリー……私は、セシリー」
「え……」
その名前を聞いた瞬間、セシルは言葉を失った。
ゴルベーザが名乗ったその名前は、セシルにとって聞き逃すことのできないものだった。
彼女の身体を覆っていた魔力が、ゆっくりと揺らめき始める。
黒い甲冑が光の粒となって崩れ、その下に隠されていた素顔と身体が、少しずつ露わになっていく。
「え!?」
「うそっ……」
甲冑が完全に消え去った瞬間、一同は息を呑んだ。
そこにいたのは、銀色の髪をした一人の女性だった。
その顔立ちはあまりにもセシルによく似ている。まるで鏡に映したかのような、瓜二つの姿だった。
「……僕と、同じ顔……?」
自分と瓜二つの女性。
その存在に、セシルは言葉を失っていた。
そんなはずはない。では、ギースが言っていたことは何だったのだ。
「セシルの妹は、ゴルベーザに殺されたって……」
リディアが呆然としたまま、目の前の女性を見つめる。
「正確には……ゼムスの思念によってゴルベーザへ成り代わらされた」
セオドールが静かに答える。
「兄さんたちが僕に隠していたのは、これなのか?」
セシルはセオドールへ視線を向ける。
これまで何度も感じていた、兄たちが何かを隠しているという違和感。
その答えが、今になって目の前に突きつけられていた。
「すまぬ……」
セオドールは、それ以上何も言えずに目を伏せた。
「おぬしに流れる月の民の血が、奴の思念により強い呪縛を受けていたのだ。兄妹で……争うことになるなど……」
「じーさん!」
すべての力を使い果たしたフースーヤの身体が、大きく揺らぐ。
杖で身体を支えようとするが、もはや力が残っていなかった。
「う……」
そのままフースーヤが崩れ落ちる。
「フースーヤ!」
セシルたちが慌てて駆け寄り、倒れかけた身体を支える。
フースーヤは荒い息を繰り返しながらも、かろうじて意識を保っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……私は、なんてことを!!」
そのすぐそばで、セシリーは蹲ったまま泣き崩れていた。
銀色の髪は乱れ、肩は小刻みに震えている。涙が頬を伝い、何度も謝罪の言葉を繰り返すその姿は、今までのゴルベーザとはあまりにもかけ離れていた。
妹だ。ずっと探し続けていた、大切な妹が目の前にいる。
セオドールは思わず駆け寄ろうとした。
──ギース!!
その声が、ギースの脳裏にだけ響いた。
ギースは咄嗟に腕を伸ばし、セオドールの行く手を遮る。
「……こっちを馬鹿にするのを止めろ」
「……ギース?」
「……………………」
セオドールは突然のギースの行動に戸惑うが、ギースは答えない。
ただ、蹲って泣き続けるセシリーを鋭く見つめていた。
「これ以上、カグヤのふりをするなら切るぞ」
「……ああ、何だ。お前まだ生きてたんだ」
ギースの言葉を聞いた瞬間、セシリーはぱたりと泣くのをやめ、ゆっくりと顔を上げる。
涙に濡れていたその顔が歪む。口元が吊り上がり、先ほどまでの悲痛な表情が嘘だったかのように、醜く笑った。
「やっぱ下等生物はしぶといなぁー」
蹲っていた身体を、セシリーがむくりと起こす。
その顔には、もう悲しみも恐怖もなかった。
そこに浮かんでいたのは、目の前の者たちを嘲笑う悪意に満ちた笑みだった。
「なんだ……てめー誰だよ!あいつはどうした!!」
「ん~あの子はここにいるよ~?この体は彼女のものだもの。今僕が使ってるけど」
突如として豹変したセシリーの姿に、エッジは戸惑いを隠せなかった。
目の前にいるのは確かにセシリーの身体だ。だが、そこにいるのは先ほどまで泣き崩れていた彼女とは明らかに別人だった。
「カグヤは……どうした」
「だ・か・ら、ここにいるって。ちゃんとこの中にいるよ~?」
エッジは改めて問いかけると、『セシリー』は、まるで何でもないことのように自分の身体を指差した。
「貴様は誰だ?」
セオドールは怒りを隠さず、妹の身体を使っている何者かに問いかける。
「ゼムスの思念からは解放できたはず……」
「ああ、そうだよ。フースーヤのせいでゼムスの思念はどっか行っちゃった」
『セシリー』は、まるで他人事のように笑う。
「というわけで、こっからは僕の好きにしていいってことだよね!」
その言葉に、セオドールの表情が険しくなる。
ゼムスの思念は確かに消えた。
ならば今、妹の身体を動かしているこの存在は──いったい何者なのか。
「おぬしは……誰だ?」
フースーヤは、『セシリー』の中に残る何者かを見据え、静かに問いかける。
「え、フースーヤから聞かれるとは思わなかったな……」
意外そうに声を漏らし、『セシリー』はわずかに目を細める。
まるで、フースーヤなら自分の存在に気づいていると思っていたかのような口ぶりだった。
「誰だと思う?ヒント無しっていうのは面白くないから、ちょっとだけヒント!」
『セシリー』は楽しげに笑いながら、フースーヤの反応を窺う。
その口調には、まるで答えを知っている相手に問題を出して楽しんでいるような軽さがあった。
「別にさ……この星を焼き払って、自分たちが住みたいって考えたの。ゼムスだけじゃないよ?」
「……まさか、おぬしは!」
「あ、やっと気づいた?」
その瞬間、フースーヤの表情が変わった。
「なんかさー。さも自分たちは調和のために眠りについたって言って、ゼムスだけが異常者みたいに説明するのは、ちょっと卑怯だと思うなー」
『セシリー』は、どこか楽しそうに笑う。
「僕らはただ、月の民の派閥争いに負けただけだ」
「ロストっ……!」
その名を口にした瞬間、フースーヤの脳裏に遠い過去の光景が蘇る。
ゼムスと共にこの星に存在するものすべてを焼き払い、自分たちの住む場所へと変えようとした月の民。
かつてフースーヤたちが倒したはずの存在。
目の前の『セシリー』──ロストは、その中の一人だった。