ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
「なぜおぬしがこの星に!!」
「クルーヤの魔導船にこっそりついていったんだよ。僕は幽霊だったから、クルーヤにも気づかれなかった」
フースーヤは、セシリーの身体を使うロストを、信じられないものを見るような目で見つめる。
「で、幽霊なりにこの星でいろいろ自由に過ごしてたんだけどさ」
ロストはまるで悪戯をしていただけだと言わんばかりに、楽しげな口調で当時のことを語る。
「ひどいんだ。あんなちっちゃいことで目くじら立てて封印されるとは思ってなかった!」
「いったい……何をしたのだ」
「そんな大したことはしてないよ。親に子供を殺させたり、恋人に片方を殺させたり……それで、悲しんでる本人たちに犯人を捜させるの!犯人は自分なのにね!」
ロストは楽しそうに笑う。
そこには、自分のしたことを悪いと思っている様子など微塵もなかった。
誰かの人生を壊したことも、残された者たちの心を弄んだことも、ロストにとってはただの暇つぶしに過ぎない。
むしろ、相手が苦しみ、絶望していく様子を楽しんでいたのだ。
「いやーなかなかにおもろいよ。調べていくうちにどんどん顔色が悪くなっていくんだ。ありえない、そんなわけがないって……そんな風に遊んでたらクルーヤにバレて封印されちゃった」
あっけらかんと、ロストは言った。
まるで自分が何をしたのかなど、何一つ気にしていないように。
「父に封印された貴様がなぜセシリーに憑いている」
「そこは僕の運の勝ち!僕が封印された石をこの子が見つけてくれて、そしてゼムスが僕に気づいた!だから一応僕はゼムスを手伝ってた感じ」
セオドールの問いに、ロストは悪びれる様子もなく答える。
まるで長い間封印されていたことなど忘れてしまったかのように、むしろ幸運を自慢するような口ぶりだった。
自分を封印したクルーヤのことも、封印される原因となった自らの行いも、ロストにとっては今さら気にするようなことではないらしい。
「待て、じゃあ今までゴルベーザがしてきたことは!」
「それはこの子、ゴルベーザがしてきたことだよ。助言はしたけど実際やったのはこの子だ」
エッジの怒声にも、ロストは少しも動じなかった。
自分がセシリーに助言し、その行動を後押ししていたことは認めながらも、実際に手を下したのは彼女だと主張する。
まるで、自分には何の責任もないと言わんばかりだった。
「この子のしたことまで僕のせいにしないでくれる?セシル、君だってゼムスの影響を受けたとしてもゴルベーザが悪いと思ってたんでしょ。じゃあやっぱ僕は悪くないよ」
「………………っ」
ロストの言葉に、セシルは何も言い返せなかった。
確かに、ゼムスの思念を受けたとしてもゴルベーザがやってきたことはセシルにとって到底許せることではなかった。
ロストはそんなセシルの反応を見て、満足そうに口元を歪めた。
その様子を見たギースが、一歩前へ出る。
「ふざけるな……村とバブイルの巨人で俺を刺したのはお前だろ。お前のしたことまでカグヤのせいにするな」
ギースは、怒りを滲ませながらロストを睨みつける。
「お前はさっさとカグヤから出ていけ」
「嫌だよ、なんでお前の言うこと聞かなきゃいけないんだよ」
ロストもまた、ギースを睨み返す。
その表情からは、カグヤの身体から出るつもりなど微塵も感じられなかった。
ギースとロスト。二人の視線が正面からぶつかり合う。
「まあ、この子が僕を追い出そうとすれば、僕は出てくしかないけど。それ無理な話だね……」
「無理だと……?」
「……この子がゴルベーザになって今まで何をしてきたと思ってるの?」
ロストは、セシリーの身体を見下ろすように視線を落とし、薄く笑った。
その言葉に込められた意味を理解した瞬間、ギースたちの表情が強張る。
セシリーがゴルベーザとして積み重ねてきた行い。
奪った命も、傷つけた人々も、壊してしまったものも──決してなかったことにはできない。
「バロンを乗っ取り、セシルにミシディアを襲わせて、ミストも焼かせた」
ロストはセシル、セオドール、リディアへ順に視線を向ける。
「カインを操って、ローザも攫った」
今度はローザへ視線を向ける。
「ダムシアンとファブールとドワーフを赤い翼で襲った」
その言葉に、セシルたちの表情が険しくなる。
それぞれの国で起きた出来事が、否応なく脳裏に蘇っていた。
「エブラーナを焼き、その王や王妃、お世話になった人を魔物に変えた」
ロストはエッジとギースへ視線を向ける。
「ねぇ……そんなことをゴルベーザはしたんだよ」
ロストは一つ一つ、まるで事実を確認するかのように淡々と口にした。
だが、その声音には相手を追い詰めることを楽しむような薄暗い愉悦が滲んでいた。
「こんなことをして自分だけ助かろうなんて、図々しいにもほどがあるよね!」
「貴様っ!!!!」
妹を責めるようなロストの言葉に、セオドールの怒りが爆発する。
その場の感情に任せて、セオドールは咄嗟に魔法を放った。
「セオドール!いかん!」
フースーヤが制止するが、放たれた魔法はすでにロストへと迫っていた。
ロストは迫り来る魔法を前にしても、慌てる様子すらない。
ただ、軽く手を掲げる。
次の瞬間、凄まじい魔力が一気に弾けた。
「ぐあ!?」
ロストへ放たれたはずの魔法が、まるで押し返されるように反転する。
そのままセオドールへと直撃し、身体が大きく吹き飛ばされた。
「兄さん!」
セシルたちが一斉にセオドールへと駆け寄る。
そんな様子を眺めながら、ロストは口元を歪めた。
「さすがに半分には負けないよ」
ロストは肩をすくめる。
まるで今の攻撃など、取るに足らない出来事だったかのようだった。
月の民の血を半分しか受け継いでいないセオドールでは、相手にならない。
その事実を見せつけるように、ロストは余裕の笑みを浮かべていた。
「ロスト……おぬしはいったい何が目的だ?ゼムスを手伝うだけがおぬしの目的ではないだろう」
フースーヤは、ロストを真っ直ぐに見据える。
これまでの言動を思い返せば、ロストがただゼムスに協力しているだけではないことは明らかだった。
ゼムスの思念から解放された今もなお、セシリーの身体を使い続けている。
ならば、そこには別の目的があるはずだった。
フースーヤは警戒を緩めることなく、ロストの答えを待った。
「僕の目的?それは今も昔も変わってないよ。僕は自分の好きなように楽しんで、面白がって好き勝手に行動する!」
ロストは悪びれる様子もなく、楽しげに笑う。
そこには大義も使命感もない。
ただ、自分が面白いと思うことを好きなように楽しむそれだけだった。
「今、僕の興味はこの子だ」
「セシリーが……?」
セシルは思わず、ロストに視線を向ける。
自分の妹の身体を使っているロストが、いったい何を考えているのか。
その言葉の意味を測りかね、セシルは警戒するように表情を曇らせた。
「そう、この子の手によってこの星の生きるものすべてが焼き払われたら!この子はいったいどんな表情をするんだろうね!」
「っ!?」
「ふざけるな!!カグヤを……お前の遊び道具にするな!!」
ギースは怒りに任せて一歩踏み出し、ロストを睨みつける。
「え、なんでお前の指図を受けなきゃいけないんだよ。やっと手に入れた綺麗なお人形。お前なんかには渡さない」
ロストが片手を掲げる。
次の瞬間、凄まじい魔力が周囲一帯へと弾け飛んだ。
「うわっ!!」
「きゃあっ!!」
セシルたちは為す術もなく吹き飛ばされる。
身体が宙へ投げ出され、足場が一瞬で遠ざかっていく。
誰も体勢を立て直すことができないまま、身体はそのまま下へと落ちていった。
◇ ◇ ◇
「みな、無事か?」
「ああ、何とか……」
落下したセシルたちは、巨大な龍の背に受け止められていた。
突然のことに戸惑いながらも、どうにか身体を起こす。
「ありがとうリディア……」
「ううん!?私は誰も喚んでない!!」
リディアが慌てて首を横に振る。
「いったい誰が……?」
その問いに答えるように、龍の背後から一人の男が姿を現した。
「……カイン!」
セシルたちの表情が一斉に強張る。
クリスタルを奪い、かつて自分たちを裏切った男。
そこに立っていたのは、操られていたとはいえ、彼らの前から姿を消したカインだった。
「全員無事なようだな」
「どの面下げてきやがった!!てめーのせいで巨人が現れたも同然だぞ!!」
エッジは現れたカインに対し、怒りを露わにして詰め寄る。
カインが操られたとは聞いてはいたが、エッジの中に残っていた怒りは簡単には消えそうになかった。
「カインを責めないであげて……あの日、あのままじゃカインは呪い殺されるか、みんなを襲うかの二択だった」
「お前!?」
思いがけない声に、エッジが振り返る。
そこには、淡く透けた姿のカグヤが立っていた。
身体の輪郭は薄く、向こう側の景色がぼんやりと見えている。
それでも、その顔は間違いなくカグヤのものだった。
「クリスタルを奪う代わりに、その後はみんなを襲わない。そう取引させたのは私だ」
彼女は静かにそう告げる。
「カグヤ!!」
ギースが弾かれるように駆け寄りその手に触れようと、咄嗟に手を伸ばす。
だが、指先は何の抵抗もなくその身体をすり抜けた。
「……っ!」
「……ごめんね」
その事実に、ギースは苦しげに顔を歪める。
彼女はそんなギースを見つめたあと、申し訳なさそうに顔を伏せた。
その横で、セシルたちを受け止めた黒龍がゆっくりと首を伸ばす。
「グルゥ……」
まるで自分が皆を助けたことを褒めてほしいと訴えるように、黒龍はセシリーへ顔を寄せた。
セシリーはそんな黒龍の気持ちを察すると、優しく微笑む。
そして、その額へ自らの額をそっと重ねた。
「みんなを助けてくれて、ありがとう」
黒龍は嬉しそうに喉を鳴らす。
「君が……助けてくれたのか?それにその声……僕らに話しかけてきたのは君だったのか?」
セシルは、先ほど自分たちを受け止めた黒龍と、その主であるセシリーを交互に見つめる。
そして、四天王との戦いの最中に聞いた謎の声を思い返した。
ルビカンテとの戦いでエッジを導き、バルバリシアとの戦いではローザに助言した声。
それが目の前のセシリーのものだったのだと、ようやく気づく。
「……………………」
セシルは自分と瓜二つの女性を見つめる。
妹だと分かった。死んでいたと思った妹が確かにここにいる。
その妹は、自分が憎んだゴルベーザだった。
セシルはただ、黙ってセシリーを見つめていた。
「おねがい……もう時間がない」
セシリーは震える声でそう告げる。
その表情には、怯えと悲しみが入り混じっていた。
「これ以上、誰かを傷つける前に……私を……殺して」
セシリーは、今にも泣き出しそうな顔で自らの死を懇願した。