ファイナルファンタジーⅣ ~IF~   作:FF4熱再燃中

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バブイルの巨人⑦

 

「これ以上、誰かを傷つける前に……私を……殺して」

 

 セシリーの懇願に、セシルは言葉を失う。

 

「そんな──」

「できるわけないだろ!!」

 

 セシルの言葉を遮るように、ギースが叫んだ。

 抑えていた感情が、一気に溢れ出す。

 

「……ギース」

「アイツが……あの訳の分からないロストって奴が悪いんだろ!!

 

 ギースは目の前の彼女を真っ直ぐに見つめる。

 

「なら奴がお前から出ていけば問題ないはずだ!……お前が、死ぬことはないだろ!!」

 

 今にも泣き出しそうな顔で、ギースは必死に言葉を絞り出した。

 セシリーは、そんなギースを黙って見つめる。

 

「ギース……ルビカンテにエブラーナを襲わせたのは私だよ。ロストじゃない」

「っ!!」

 

 ギースは何も言えず、セシリーを見つめる。

 

「四天王は……私の指示しか聞かなかった。ロストの指示は一度たりとも聞いてない」

「ゴルベーザもお前じゃないだろ!」

「ううん……あれも私、私の弱さが生んだもう一人の私」

 ギースは言葉を失った。

 どれだけ否定したくても、セシリー自身がそれを認めている。

 

「エブラーナだけじゃない、この星のすべてを混乱に陥れた責任は私が取らなきゃいけない」

 

 セシリーの瞳には、もう迷いがなかった。

 

「私だってエブラーナの民。……しでかしたことの落とし前は、ちゃんとつける」

 

 その目には、自分の行いから逃げないという強い決意が宿っていた。

 

「セシル」

「………………」

 

 不意に名前を呼ばれ、セシルは息を詰まらせる。

 何を言えばいいのか分からない。

 目の前にいるのは、自分の片割れの妹だった。

 けれど同時に自分が憎み、戦ってきたゴルベーザでもある。

 そんな二つの存在が重なった彼女を前にして、セシルはただ立ち尽くしていた。

 

「……今までごめんなさい。許してもらえるとは思ってないよ」

 

 セシルに対して、ゴルベーザがしてきたことは簡単に許せることじゃない。

 バロンを乗っ取り、ミシディアを襲わせ、ミストを焼かせ、恋人のローザを攫った。

 その罪から、セシリーは逃げなかった。

 

「だけどセシルが無事でよかった」

 

 セシリーは、ほんの少しだけ笑った。

 その瞬間、セシルの脳裏に、遠い記憶の中の笑顔が浮かんだ。

 幼い自分の隣で笑う、小さな少女。

 その顔は今までぼんやりとしていた。

 けれど、今、目の前にいるセシリーの笑顔と、寸分違わず重なった。

 

「……っ」

 

 胸の奥を、強い既視感が駆け抜ける。

 目の前の少女と、記憶の中の少女。

 二つの姿が一瞬だけ重なり、セシルの中に眠っていた何かを強く揺さぶった。

 

「っ、あ……」

 

 何かを思い出し、セシルは目を見開く。

 そして、呆然とセシリーを見つめた。

 

「早まるなセシリー、まだなにか方法があるはずだ!」

 

 セオドールは必死に言葉をかける。

 どうにかして妹を救う方法を探そうとするように、焦りを滲ませていた。

 

「ごめんね、もう……時間がないんだ。もうどこまで私でいれるか分からないの」

 

 それでも、セシリーの覚悟は揺るがなかった。

 もう迷っている時間はない。

 

「カイン、制御システムまでの道は教えた通りよ」

「ああ」

 

 カインは短く返す。

 すでに事情を聞き、彼女から託された役目も理解している。

 だからこそ、余計な言葉を交わすことなく、ただその指示を胸に刻んでいた。

 

「エッジ……いざとなったらお願いね」

「……おう」

 

 エブラーナで兄貴分として慕ってきたエッジに、セシリーは後を託す。

 エッジもその言葉の意味を理解し、静かに頷いた。

 

「カグヤ!」

「お願い、バブイルの巨人を止めて」

 

 ギースの呼びかけには答えず、セシリーはそれだけを言い残した。

 そして、その姿は静かに消えていった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 セシルたちは、制御システムのある場所へ戻るため、カインの案内で上り始める。

 

「………………」

 

 重い空気が一行の間に沈んでいた。

 皆、何を言えばいいのか分からない。

 誰に、どんな言葉をかければいいのかも分からない。

 ただ黙ったまま、カインの後を追って階段を上っていく。

 

「ちょっと待て」

 

 その沈黙を、エッジの声が破った。

 カインが足を止める。

 それに続いて、セシルたちも立ち止まり、一斉にエッジへ視線を向けた。

 

「……アイツのところに行く前に、はっきりさせなきゃいけねぇことがある」

 

 エッジは足を止めたまま、険しい表情で一行を見回す。

 誰もが分かっている。

 けれど、それを口にすることも、明確に決めることもできずにいた。

 しかし、もう避けては通れない話だった。

 

「はっきりさせなきゃいけないこと?」

「ああ……」

 

 エッジにとっても彼女は妹分のようなものだった。

 だからこそ、この場で誰かが口にしなければならないのなら、自分が言うべきだと思っていた。

 いまだ、俯いて黙り込んでいるギースのためにも。

 

 エッジは一度だけ息を吐き、静かに口を開いた。

 

「アイツを……カグヤをどうするかだ」

「!」

「エッジ!」

 

 ギースは弾かれたようにエッジへ顔を向ける。

 その目には、そんなことを口にするエッジを責めるような色が浮かんでいた。

 

「ギース、ドワーフの城でオレはてめーに言ったな?」

 

 エッジはギースへ視線を向ける。

 

「『てめー自身が、あいつにどうしてほしいのか』を考えろと、その答えは出たか?」

「それ、は……」

 

 ギースは言葉に詰まった。

 エッジの視線を正面から受け止めることができず、目を伏せる。

 何かを言おうと口を開きかけるが、結局言葉にはならない。

 

「オレの考えは今も変わらない。『これ以上、被害が増える前にゴルベーザとして殺してやれ』」

「!?」

「そんなっ!」

「ちょっとエッジ!セシルの妹なのよ!?」

「オレからしてもアイツは大事な妹分だ!」

 

 エッジは声を荒らげる。

 それでも、その言葉を撤回することはなかった。

 彼女を大切に思っているからこそ、これ以上彼女に罪を重ねさせないために、終わらせるべきだと考えていた。

 

「アイツをこのままにしておけねーだろ!」

「でも……!」

「じゃあ、どうするってんだ」

 

 ローザが言い返そうとするが、エッジは逆に問い返す。

 

「このまま、巨人を止めれなかったら苦しむのはアイツだぞ」

 

 その声には怒りだけではなく、カグヤの身を案じる切実さが滲んでいた。

 

「どうにかして、あの子からロストを引きはがすことはできないんですか?」

 

 セオドールはフースーヤへ問いかける。

 

「人を傷つけるたび、あの子の魂は傷ついてきた。その傷ついた魂を埋めるようにロストが取り憑いておった……」

 

 フースーヤは難しい顔で答える。

 

「普通に倒したとてロストはあの子から引きはがせないじゃろう……」

「………………」

 

 誰も、すぐには言葉を返せなかった。

 

「……思い……出したんだ」

 

 沈黙の中、セシルが静かに口を開く。

 

「思い出した?」

「あの日……僕らの村が焼かれた日のこと」

 

 セシルは俯き、拳を握りしめる。

 炎に包まれた村。

 倒れていく村人たち。

 そして、その中で笑っていたセシリー。

 失われていた記憶が、今になってはっきりと蘇っていた。

 

「きっと……何かが違えばあそこにいたのは僕だった」

 

 ほんの些細な違いで、運命は変わっていたのかもしれない。

 何か一つ、ボタンを掛け違えていたら、セシルはそう思わずにはいられなかった。

 

「だから、僕は諦めたくない」

 

 セシルは顔を上げる。

 自分の片割れを諦めることはしない。

 

「セシリーを助けよう」

「引きはがせる保証はねぇぞ」

 

 エッジの言葉に、セシルはまっすぐ彼を見返す。

 その表情に、迷いはなかった。

 

「だとしても、最初からあきらめるのは違う」

「………………」

 

 セシルの言葉に、エッジはしばらく何も言わなかった。

 

「……そうかよ。ギースお前は?」

 

 問いかけられ、ギースはわずかに視線を揺らす。

 

「……俺も、助けたい」

 

 セシルのように言い切ることもできない。

 それでも、絞り出すように口にした。

 

「俺は……アイツに、カグヤに生きてほしいんだ」

 





ちょっと都合がつかないので次の投稿は遅れます。
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