ファイナルファンタジーⅣ ~IF~ 作:FF4熱再燃中
「これ以上、誰かを傷つける前に……私を……殺して」
セシリーの懇願に、セシルは言葉を失う。
「そんな──」
「できるわけないだろ!!」
セシルの言葉を遮るように、ギースが叫んだ。
抑えていた感情が、一気に溢れ出す。
「……ギース」
「アイツが……あの訳の分からないロストって奴が悪いんだろ!!
ギースは目の前の彼女を真っ直ぐに見つめる。
「なら奴がお前から出ていけば問題ないはずだ!……お前が、死ぬことはないだろ!!」
今にも泣き出しそうな顔で、ギースは必死に言葉を絞り出した。
セシリーは、そんなギースを黙って見つめる。
「ギース……ルビカンテにエブラーナを襲わせたのは私だよ。ロストじゃない」
「っ!!」
ギースは何も言えず、セシリーを見つめる。
「四天王は……私の指示しか聞かなかった。ロストの指示は一度たりとも聞いてない」
「ゴルベーザもお前じゃないだろ!」
「ううん……あれも私、私の弱さが生んだもう一人の私」
ギースは言葉を失った。
どれだけ否定したくても、セシリー自身がそれを認めている。
「エブラーナだけじゃない、この星のすべてを混乱に陥れた責任は私が取らなきゃいけない」
セシリーの瞳には、もう迷いがなかった。
「私だってエブラーナの民。……しでかしたことの落とし前は、ちゃんとつける」
その目には、自分の行いから逃げないという強い決意が宿っていた。
「セシル」
「………………」
不意に名前を呼ばれ、セシルは息を詰まらせる。
何を言えばいいのか分からない。
目の前にいるのは、自分の片割れの妹だった。
けれど同時に自分が憎み、戦ってきたゴルベーザでもある。
そんな二つの存在が重なった彼女を前にして、セシルはただ立ち尽くしていた。
「……今までごめんなさい。許してもらえるとは思ってないよ」
セシルに対して、ゴルベーザがしてきたことは簡単に許せることじゃない。
バロンを乗っ取り、ミシディアを襲わせ、ミストを焼かせ、恋人のローザを攫った。
その罪から、セシリーは逃げなかった。
「だけどセシルが無事でよかった」
セシリーは、ほんの少しだけ笑った。
その瞬間、セシルの脳裏に、遠い記憶の中の笑顔が浮かんだ。
幼い自分の隣で笑う、小さな少女。
その顔は今までぼんやりとしていた。
けれど、今、目の前にいるセシリーの笑顔と、寸分違わず重なった。
「……っ」
胸の奥を、強い既視感が駆け抜ける。
目の前の少女と、記憶の中の少女。
二つの姿が一瞬だけ重なり、セシルの中に眠っていた何かを強く揺さぶった。
「っ、あ……」
何かを思い出し、セシルは目を見開く。
そして、呆然とセシリーを見つめた。
「早まるなセシリー、まだなにか方法があるはずだ!」
セオドールは必死に言葉をかける。
どうにかして妹を救う方法を探そうとするように、焦りを滲ませていた。
「ごめんね、もう……時間がないんだ。もうどこまで私でいれるか分からないの」
それでも、セシリーの覚悟は揺るがなかった。
もう迷っている時間はない。
「カイン、制御システムまでの道は教えた通りよ」
「ああ」
カインは短く返す。
すでに事情を聞き、彼女から託された役目も理解している。
だからこそ、余計な言葉を交わすことなく、ただその指示を胸に刻んでいた。
「エッジ……いざとなったらお願いね」
「……おう」
エブラーナで兄貴分として慕ってきたエッジに、セシリーは後を託す。
エッジもその言葉の意味を理解し、静かに頷いた。
「カグヤ!」
「お願い、バブイルの巨人を止めて」
ギースの呼びかけには答えず、セシリーはそれだけを言い残した。
そして、その姿は静かに消えていった。
◇ ◇ ◇
セシルたちは、制御システムのある場所へ戻るため、カインの案内で上り始める。
「………………」
重い空気が一行の間に沈んでいた。
皆、何を言えばいいのか分からない。
誰に、どんな言葉をかければいいのかも分からない。
ただ黙ったまま、カインの後を追って階段を上っていく。
「ちょっと待て」
その沈黙を、エッジの声が破った。
カインが足を止める。
それに続いて、セシルたちも立ち止まり、一斉にエッジへ視線を向けた。
「……アイツのところに行く前に、はっきりさせなきゃいけねぇことがある」
エッジは足を止めたまま、険しい表情で一行を見回す。
誰もが分かっている。
けれど、それを口にすることも、明確に決めることもできずにいた。
しかし、もう避けては通れない話だった。
「はっきりさせなきゃいけないこと?」
「ああ……」
エッジにとっても彼女は妹分のようなものだった。
だからこそ、この場で誰かが口にしなければならないのなら、自分が言うべきだと思っていた。
いまだ、俯いて黙り込んでいるギースのためにも。
エッジは一度だけ息を吐き、静かに口を開いた。
「アイツを……カグヤをどうするかだ」
「!」
「エッジ!」
ギースは弾かれたようにエッジへ顔を向ける。
その目には、そんなことを口にするエッジを責めるような色が浮かんでいた。
「ギース、ドワーフの城でオレはてめーに言ったな?」
エッジはギースへ視線を向ける。
「『てめー自身が、あいつにどうしてほしいのか』を考えろと、その答えは出たか?」
「それ、は……」
ギースは言葉に詰まった。
エッジの視線を正面から受け止めることができず、目を伏せる。
何かを言おうと口を開きかけるが、結局言葉にはならない。
「オレの考えは今も変わらない。『これ以上、被害が増える前にゴルベーザとして殺してやれ』」
「!?」
「そんなっ!」
「ちょっとエッジ!セシルの妹なのよ!?」
「オレからしてもアイツは大事な妹分だ!」
エッジは声を荒らげる。
それでも、その言葉を撤回することはなかった。
彼女を大切に思っているからこそ、これ以上彼女に罪を重ねさせないために、終わらせるべきだと考えていた。
「アイツをこのままにしておけねーだろ!」
「でも……!」
「じゃあ、どうするってんだ」
ローザが言い返そうとするが、エッジは逆に問い返す。
「このまま、巨人を止めれなかったら苦しむのはアイツだぞ」
その声には怒りだけではなく、カグヤの身を案じる切実さが滲んでいた。
「どうにかして、あの子からロストを引きはがすことはできないんですか?」
セオドールはフースーヤへ問いかける。
「人を傷つけるたび、あの子の魂は傷ついてきた。その傷ついた魂を埋めるようにロストが取り憑いておった……」
フースーヤは難しい顔で答える。
「普通に倒したとてロストはあの子から引きはがせないじゃろう……」
「………………」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
「……思い……出したんだ」
沈黙の中、セシルが静かに口を開く。
「思い出した?」
「あの日……僕らの村が焼かれた日のこと」
セシルは俯き、拳を握りしめる。
炎に包まれた村。
倒れていく村人たち。
そして、その中で笑っていたセシリー。
失われていた記憶が、今になってはっきりと蘇っていた。
「きっと……何かが違えばあそこにいたのは僕だった」
ほんの些細な違いで、運命は変わっていたのかもしれない。
何か一つ、ボタンを掛け違えていたら、セシルはそう思わずにはいられなかった。
「だから、僕は諦めたくない」
セシルは顔を上げる。
自分の片割れを諦めることはしない。
「セシリーを助けよう」
「引きはがせる保証はねぇぞ」
エッジの言葉に、セシルはまっすぐ彼を見返す。
その表情に、迷いはなかった。
「だとしても、最初からあきらめるのは違う」
「………………」
セシルの言葉に、エッジはしばらく何も言わなかった。
「……そうかよ。ギースお前は?」
問いかけられ、ギースはわずかに視線を揺らす。
「……俺も、助けたい」
セシルのように言い切ることもできない。
それでも、絞り出すように口にした。
「俺は……アイツに、カグヤに生きてほしいんだ」
ちょっと都合がつかないので次の投稿は遅れます。